第9話 元S級ハンター、獲物を仕留める
すみません。第9話と第10話が逆になっていました。
今現在(2021/03/12 21:29)修正しましたので、
改めてご確認下さい。失礼しました!
依頼を受ける――。
俺がそう言うと、安堵の息が漏れた。
拍手が送られ、「待ってました」とばかりに指笛が響く。よほどギルドとしても、この依頼を達成しておきたいのだろう。
何せ600万グラの仕事だ。
ギルドとしても大口客の仕事に違いない。
にも関わらず、依頼を受ける食材提供者はなし。余程困っていたのだろう。
「ありがとうございます、ゼレットさん」
「ふふん……。男ねぇ、ゼレットくぅん」
オリヴィアは頭を下げ、ギルドマスターは「ふふっ」と片目を瞑った。
「ハラハラさせないでよ、ゼレット。でも、ありがと」
パメラは俺の背中を遠慮なしに叩く。
「正直に言うとね。ゼレットは受けてくれないんじゃないかなって思ってたんだけど……。さすがのゼレットも、お金の魔力には勝てなかったみたいね」
「何を言っているのかわからんな、パメラ。俺はただ単に、お前の顔を潰したくなかっただけだ」
「ゼレット……。そんな! 私の事、そこまで考えて――」
パメラはイヤイヤとまた金髪のポニーテールを揺らして、首を振る。
何故か顔を真っ赤にしていた。
ん? どうして照れてるんだ。
単にこの三つ首ワイバーンを狩らないと、明後日のアパートメントの賃貸料が払えないってだけの意味なんだが。
10年近くの付き合いがあるが、こいつの思考が読めない時が多々ある。
「早速、三つ首ワイバーンの目撃情報を集めますね」
「そうなのよね~。ゼレットくぅんが依頼を受けてくれたのは嬉しいけど、問題はその三つ首ワイバーンの居所なのよねぇ。と~ても神出鬼没だしぃ。かと思えば、突然市街の上空に現れて、荒らし回ることもあるし。はあ……。気むずかしい男は嫌いよ!」
ギルドマスターは「キィィイイイイ!」とハンカチを噛む。
ギルド所内がにわかに騒がしくなる
グバガラの樹を片付ける前に、三つ首ワイバーンの目撃情報を集めるため、職員たちが動き始めた。
「必要ない。お前たちは、グバガラの樹の片付けでもしていろ。放置しておくと、それこそ魔物の襲撃を受けることになるぞ」
「え? でも――――」
ゴトン……。
そのゴツい音に周囲のギルド職員たちは驚いていた。
俺は構わずローブの中から、細長い鉄の筒を取り出す。
ただの鉄筒じゃない。これは武器だ。
鉄筒の前後に備えられた柄。肩で押さえるためにつけられたストック。 遠くの敵を射貫くための単眼の遠眼鏡。発射時の冷却と反動抑制のために付けられた機工。さらに二脚の鉄足が、筒から伸びていた。
「ゼレットくぅん! それって“砲剣”??」
ギルドマスターが反応する。
俺は無視して作業を続けた。弾倉に弾を込め、ギルマスが砲剣と呼んだ武器の下にセットする。
横についたレバーを後方へと引いた。
『ワァウ!』
「リルが呼んでいる。早速、獲物を見つけたらしい」
「え? 見つけた? 獲物ってどういうことですか?」
オリヴィアの質問を無視し、俺は砲剣を担いだまま外に出る。
リルが西の方を向いて、頻りに鼻をひくひくと動かしていた。
その反応を見ながら、今度はプリムに指示を出す。
「プリム! 西の空だ」
「え? 何があるんですか?」
「分厚い雲しか見えないけど」
パメラとオリヴィアも出てきて、空を見上げる。
そこにあるのは、黒い雲だ。どうやら雷雲らしい。
ゴロゴロと音を立て、街の北を東から西へ横断しようとしている。かすかに湿り気を帯びた風が、通りを抜けていった。
「東から風か……。やや修正が必要だな」
「見えたよー、師匠」
「どこだ?」
「あっち?」
プリムは脳天気な声を上げて、指を差す。
「この辺かな?」
スドォォォォオオオオオオンンンン!!
巨大な炸裂音が天地を貫く。
俺は重い砲剣を持ち上げ、引き金を引いた。
その瞬間、砲身から火塊が撃ち出される。
弾道はやや放物線を描きながら、先ほどプリムが示した雲の向こうに消えた。
「び、びっくした!」
「す、すごい音ですぅ……。耳がクラクラしますぅ」
オリヴィアは尻餅を付いて、目を回す。その後ろで、ギルドマスターが割れた顎を撫でながら、感心していた。
「は~じめて見たわ。そう……。砲術と魔法を掛け合わせた武器を操るハンターがいるって聞いてたけど、ゼレットくぅんのことだったのね~」
砲剣は、魔法剣士と呼ばれる俺専用武器だ。
魔法の力を使って、魔力を込められた専用の弾丸を撃ち出す武器である。圧縮した魔力が充填された弾は、通常の魔法よりも倍以上の威力を持ち、弓矢よりも遥かに長い射程距離と、ほぼ回避不可の弾速を実現する。
これ以上殺傷能力が高い武器の形態はないと言われ、最強の武器と推す者も少なくない。
「勿論、普通の人には扱えない武器よ。砲剣もあくまで武器。戦技を必要とするわぁ。だけど、魔法の力を持っていなければ、ただの鉄筒……」
「魔法剣士であるゼレットだからこそ、扱いが可能なんですね。もう――いきなり何だと思ったわよ。自慢の武器を見せたいなら、先に言ってちょうだい。これから三つ首ワイバーンのところにでも行くのかと思ったわ」
「何を言っているんだ、パメラ?」
「え?」
「三つ首ワイバーンなら……」
たった今、仕留めたところだ。
先ほど火塊が消えた雲が紅蓮に染まる。
直後、雲から轟音を響かせながら、何かが落ちてきた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
「ちょ、なに? なに?」
「はわわわわわわわわわわわ……」
「まさか――――」
ボッと雲の中から何かが出てくる。
白い水蒸気を纏い最初に現れたのは、竜の頭だ。
それも1つだけではない。
3つ。
長い首を持つ竜の頭と、さらに飛竜の大きな特徴である巨大な翼。
「「「三つ首ワイバーン!!!」」」
3人の声が揃う。その目は驚愕に見開かれていた。
一方、竜の目はというと、完全に瞳孔が開き、生気はない。
空から落ちていっているというのに、身じろぎもしなかった。
「ぎゃああああああああああ!!」
「三つ首ワイバーンが落ちてくるぅぅぅうぅうううう!!」
ドォォォオオオォォォォォオオォオオオォォオオオオンンン!!
それはもう火山の爆発にも似ていた。
事実、本当に巨大な白煙が上がる。
濛々と立ち上る煙を見ながら、俺は銃把から手を離し、そして砲身を下ろした。
「三つ首ワイバーン……。依頼通り、仕留めてやったぞ」
俺は砲剣を下ろし、ギルドの方に振り返るのだった。
小説家になろうに投稿を始めて5年。
初めて日間総合1位を取ることができました。
引き続き、週間1位、月間1位をとるべく更新してまいりますので、
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