引きこもり公爵令嬢。婚約破棄は、一年後
______ソルシエ。
その国の社交界に、深窓の令嬢と呼ばれる有名な公爵令嬢が存在する。その娘は五年程前から引きこもり始めた。
「あと一年、かあ………」
ボーッと、部屋の片隅で、呟いた。
私、ソフィア・シュクリエルは、公爵家の令嬢であり、深窓の令嬢と呼ばれている。又の名を引きこもり令嬢。
何故、私は引きこもるのか?
それは、私の未来に関係がある。
それはまるで、未来が分かる様な口振りであろう。
それは、本当である。
私には未来を視る能力を持っている。
にわかかには信じがたいかもしれないが、私の未来はいつだって最悪なもので、私の婚約者であり、次期王のヴァル・イザイラー。
私の運命は、その人に冤罪と婚約破棄を言い渡され、家からは勘当され、捨てられ飢え死する。
私がその能力に気が付いたのは、五年前。私がまだ、十歳だった頃、夢で視た未来が何度も当たり、この能力に気が付いた。
それから私はその未来を予知し、引きこもることを決めた。
冤罪事さえ無ければ私はきっと婚約破棄されるはず。
そうすれば私はこの孤独から逃げ出せる。
この孤独に気が付いたのは、もう、一年が過ぎていた。
家族からは私の存在などありゃしないような扱い。
それでもなお、ドアを叩いてやって来るのは__________
「ソフィア嬢、いるかい?」
それは________ヴァル。
五年も顔合わせをしていない。
もう、顔すら忘れても良いのに、彼は毎日、一日も欠かさずに来てくれる。
それは私のいつの間にかの生活だった。
ノックがすれば彼だ!と気付くし、本の少し、嬉しく思ってしまうのは、私の幼き頃の恋心が残っているせいだろうか。
でも、その恋心は五年前、引きこもり始めた頃に捨てたはずだ。
「……………」私はとにかく無言を突き通す。
「今日も、返事はくれないんですね…………また、来ます」
コツコツと、音が遠のいていくのが分かる。
心のどこか、名残惜しいのは絶対に認めない。
これは、孤独な私の唯一の交流。
たったそれだけの理由なのに______
もしこんな未来さえ予知していなければどんなに幸せだったことか、と嫌悪が押し寄せる。
どうして私にはこんな不気味な能力を持っているのだろうか。
どうして私はこんなに不幸なの?
自分で決断した事なのに、未来を知ってしまった……?
そうして私は一人、涙を流す。
○●○●○
ヴァルとの婚約は、親同士の政略結婚だった。
「君が、ソフィア嬢?僕は、ヴァル。ヴァル・イザイラー。よろしくね」そのニッコリと微笑んだ笑みに私は恋心を抱いたのかもしれない。
明るく、優しそうなヴァル。
「大丈夫ですか?」
「えっ、と、どういう?」
でも、その日のヴァルはどこか疲れていた。なので私はそれに心配した。
「少々、お疲れの様でしたので……」
「……そう、かな」明らかに目をそらしたのは、私は気になった。
我慢している?
私は、婚約者なのに、頼りにすらされないのか、と思ってしまった。それはどこか悲しかった。
「あの、私が言うのも何ですけれど、もっと、頼ってほしいです!」
「え?」目を丸くしていた。
「何においても皆無な私ですけれど、努力して、ヴァル様のお傍に立てる様、努力しています!
私なんて、役には立ちませんが、せめて、私に出来る事、倒れない程度に、無理をしないでほしいです!」
頼りないかもしれないけど………と思ったけど、彼は優しく微笑んでくれた。
徐々に恋心が大きくなったのは、花壇で一緒に散歩をした時だった。
「痛っ」
「大丈夫!?」
「あ、はい。ありがとうございます」私がバラの棘が刺さり、軽く血が出てしまった。
「直ぐに手当てを」
「このくらいへっちゃらです!私はヴァル様の婚約者なんですから!もっと立派にならなくては!」
胸を張って言った言葉に、ヴァルはしかめた。
「我慢しなくて良いから、少しは頼って?婚約者だとかと言う理由じゃなくて、僕は、ソフィアに頼ってほしい。無理は、しないでほしい」
「その、言葉………」私がヴァルに言った言葉だった。
「ソフィアの言葉で、カッコ悪いけどね」
その真っ直ぐで私を気にかけてくれる言葉に私は恋に落ちた。それからも、彼の気遣いや、優しさに私は彼の傍に立てるよう、沢山努力した。
努力して、努力した頃、私は予知能力に目覚めた。
それからは全て同じ。
そして………今に至る。
○●○●○
ソフィアの部屋に通いつめてもう五年経つ。
そんなに経っても通いつめているのは、ソフィアに惚れ込んでいるからだと思う。
惚れ込んでいるからと、五年経ってもなお、通いつめているのは、この国には珍しいであろう。
僕は、ヴァル・イザイラー。
この国の第一王子で、幼い頃から時期王の仕事を任される程の、才能を持っていた。
毎日、毎日、同じことばかりで退屈に思っていた日々に、突如、その婚約は訪れた。
最初、親同士の政略結婚で対面した時、無言の顔で見つめた彼女は、どこか儚げだった。
名は、ソフィア・シュクリエル。
公爵家の令嬢である、長女であった。最初こそ、印象はなかったが後日、僕は彼女に恋に落ちる事となった。
いつも通り、花壇で散歩をしていた。その日は書類に追われ少し疲れていた。
『もっと、頼ってほしいです!』その短い言葉に僕は、あっさりと恋に落ちた。
どこまでも一生懸命なのは、知っていた。
その努力家な性格に少し、好感を持っていた。
でも、その言葉が心の底から嬉しかった。
頼りにはされていた。
だが、そんな風に優しい言葉を掛けられたのは、初めてだった。
そしてその一年後、十歳になった頃、彼女は変わった。
僕とも会うことが無くし、引きこもり、深窓の令嬢と呼ばれる様になった。
その変わりようは今でも信じがたいが、僕の行動に偽りは無い。
心の底から愛するソフィアに僕はいつかもう一度、その優しい笑顔を見られるように、傍に居られるように………と思った。
その思いは五年経った今でも、これからも、変わらない。
明日は彼女は会ってくれるだろうか?
そんな思いが交差しながらも、僕は明日が楽しみだった。
たとえ会ってくれなくとも、僕は諦めない。
この婚約も、続けられる様、彼女がいつか会ってくれるその日まで、僕は何度でも彼女に会いに行く。
○●○●○
今日はどうしても参加しなければならない、パーティーだった。
「お嬢様、お綺麗ですよ」ニッコリと微笑む彼女はメイ。
度々顔合わせをしていた為、凄く久しぶりとは言えない私の側近である。
「ありがとう、メイ。でも御世辞は要りませんよ」私は微笑む。
久しぶりに見せるその笑みは私の今までの孤独を癒してくれる。
「御世辞ではございません。ですが、お嬢様は何年経っても変わりませんね」
「私だって変わった所があるわ!」むっすぅ~と、膨れていると、ノックが聞こえた。
「ソフィア嬢、今日はパーティーに参加する予定は……あるかな?」
胸が押し寄せてくるように、ドキッとした。
それは淡い恋心のせいではない、別のなにか。
「メイ。私は行かないと伝えておいて頂戴」俯きながら言った言葉に、
「………かしこまりました」メイは一瞬、悲しそうな顔をした。
そして、いつも聞こえる足音が遠のいていくのが分かる。
パーティーでは、外に居ましょう。誰にも見つからないように、ひっそりと。
そう、心にの中で誓った。
○●○●○
馬車を出ると、久しぶりに出た外の風景に見惚れていた。
ずっと引きこもっていると、少し怖い。
誰かと話したり会ったりしなければ、孤独が生まれるのは当然だ。
「……ねえ、メイ」
「はい、何でしょう」
「私、入っても大丈夫かしら?」
一瞬、言葉を失ったように立ち竦むメイに、私は俯く。
「入っても、大丈夫かと」
「………本当に?」
「はい、きっと。何かあれば、助けてくれるでしょうし」その言葉は、少し理解できなかった。
「?」
煌びやかな王宮で、豪華な燭台と、豪華な服を着た男女がいる。
私はポツンと、隅っこで佇んでいた。
躍りが始まると、私はそそくさと会場を出た。
ただ何と無く、風に当たりたかった。外は真っ暗。
でも、明かり一つ、灯っている。
私は今日、予知した。
婚約者である、ヴァルがこの王宮に勤める侍女と出会い、恋に落ちる風景を。
頬を赤らめ、手を取り、庭で踊る姿。どこか神秘的で、私には羨ましかった。
その侍女は、前々から夢に出ていた。名は確か、マリア。
金髪碧眼の愛らしい少女。
この人とヴァルは結ばれる運命にある。
今頃ヴァルは楽しそうに踊ってるのかなぁ……。
もし、この運命を変えられるのなら、私は自分から罰せられに行く。だって、運命を変えることは、この国の禁忌だから。
それでも、抗えるのなら、私は____
『月明かりの番が綺麗ですね、姫』そう、優しく微笑みかけるヴァルの姿。
「今日は、月明かりの番が綺麗ですね、姫」
「え_____」夢の言葉だ。
マリアに言った、ヴァルの言葉。
誰?いや、知っている。
この声は、ヴァルだ。
何で?窓を閉めて、バレないようにしていたのに。
もしかして、まだ私ではないと思ってる?それなら大丈夫、きっと。
私はすぐに逃げたす。
一礼してから私は_____
突然、腕を掴まれる。
痛くはない、ただ、優しい手。
「今日は、ソフィア嬢は来ないとお聞きしていたのですが………」
優しい笑みに私は目をそらす。
飾られた紳士服。
十歳の頃と変わった顔立ち。
これじゃ、お似合いの美男美女だわ。私なんかと、どうして婚約を…………
でも、五年経った今でも、何故、私だと………。
「………お、お久し振りです、ヴァル、様……」顔は合わせない。
怖いから。何と言う顔をしているんだろう。嫌悪?それとも邪険?きっと、怒ってる。
少しだけ、顔を向けた。
映っていたのは、穏やかで、前と変わらない、優しい笑み。
どう、して…………
どうして、そんな優しい顔を……
どうして、そんな穏やかな顔を……
浮かんでくるのは、そんなことばこり。
小さい頃、しまったはずの恋心がまた、目覚めてしまったような感覚。でも、結局、結ばれない。
私に来る運命は、いつだって、破滅のみ。運命が変わった!そう思えば、私の破滅が大きくなる。
私の冤罪は、そもそもマリアの策略で、私はその罠に嵌まる。
怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。
頭に浮かぶのは、その一言。
息が詰まる。
息ができない。
息が……苦しい。
少し、寂しそうな顔をして……
「無理はしなくて良い。急に現れて、すまなかった」あのときと、同じ言葉をかけてくれる。
私は首を振り、答える。
「いえ」たった短い一言。
恥ずかしいわ/////(赤面)
「すぐ、離れるよ」そう言って、離れようとする姿はいつも、ノックして、遠のいていく足音と同じだ。
嫌!
強く思ったあと、私は気付いたら、ヴァルの裾を掴んでいた。
行動してしまった物は、仕方がない。
「あ……の………もう、少し、傍に、居て、ほしい、です」
恥ずかしい。
心臓がドクドクしてる。
怖い。何て言うんだろう。
振り払う?わからない。
「なら、ソフィア嬢が望む限り、傍に居よう」綺麗な顔が私の目の前にある。
青い瞳が光に照らされて、とても綺麗。
でも!これじゃまるで、プロポーズにみたいだわ!!
恥ずかし過ぎるわ!!
バルコニーにあるソファに二人で座る。
流石は王宮だわ!
ソファが大きくて柔らかい!
変なところに感心する私がいた。
「気に入って頂けて何よりです」
私の思いを見透かした様に微笑う。
昔の私の恋心も見透かしてるかしら!?
あっという間に恥ずかしくなる。
「どうして、分かったの、ですか?」
「ソフィア嬢は、昔から顔に出やすい質ですから」
ええ!私ってそんなに分かりやすい?何だか複雑だわ。
「………その、どうして、婚約破棄をしてくださらないんですか?」
口が滑った、と言うべきだろうか。それでも、私の言ったことは、ずっと気になっていた。
「………ソフィア嬢は、婚約破棄を望んでいるのですか?」
え?私?私はただ、破滅をしたくないが為で、望んでいるとか、そんな事じゃない。
それは、私自身の事だから、望んで、いる、はず、よ、ね?
これは、私の気持ち…………?
押し寄せる不安と、恐怖。
私にはもう、なにも残ってない。
それに気が付いたのは、今頃だった。
溢れてくる涙。
なにも残ってない。
それは、確かに五年前、私が捨てた。予知能力目覚めた私は窮地に追い込まれる。
そして、引きこもる。
それは、決まっていた運命?
でも、あの予知能力は確かに当たった。
もしかして、私は引きこもり、起こる運命だったの?
私の視る予知夢の時間軸は様々だ。引きこもる設定は夢には出ていなかった。
そりゃそうよね。
だってもう、引きこもっているんだもの。
自分で未来を変えた結果?
未来を変えてしまった代償は、大きかった?
家族からは存在が無いように扱われ、唯一傍にいてくれたのは、メイとヴァル。
私には何も残ってない。
どんどん溢れる。
涙を出す私に、ヴァルは優しく寄り添ってくれた。
「もし、僕に出きることなら、悩んでいることを言ってほしいのだが」予知能力の事を話す?
でも、それで運命がまた変わり、その代償に私が_______
目を疑ったような光景。
はは。
……っ……滑稽な話。
私は、運命に縛られ、破滅する?
そんな運命、こっちから願い下げよ!
私だけ予知能力な目覚めたお陰で不幸になって、自分から引きこもる事を望んで、、、これ以上、なにが残ると言うの?
私はもう、深窓の令嬢と呼ばれる引きこもる公爵令嬢何かじゃない!運命に縛られない、シュクリエル公爵令嬢!
私は、ソフィア・シュクリエルだもの!
もう、予知に何て縛られない私が決めた運命を行く。
だって私は、一人の人間なのだから。
信じてくれるか何てわからない。
でも、ヴァルにだけは、打ち明けても言いと、思った瞬間。
「私には、予知能力があります」
目を大きく見開いたのが分かる。
「にわかには信じがたい事です。だけど、私の運命は、いつだって、破滅のみだった………ヴァル様は、この話を、信じてくださいますか?」
怖い思いを必死に握り潰す。
必死に押し込めて、必死に発する。それが私にできた、唯一の事。
「信じるよ」
「え……………」信じて、くれる?
「自分で言ったのに、その顔はないでしょ」え?!また顔に出てた?恥ずかしいわ………。
「信じるよ、ソフィアが言うことは、絶対に」心の底から向けてくれる優しい声と顔。
名前もそうだけど、
嬉しかった。
私は、たった一人と言う味方が欲しかったかもしれない。
誰でも良いから、傍に居て、一緒に話してくれて、一緒に笑って、一緒に泣いて……っ……一緒に……
過ごして………
「五年間、よく頑張ったね」まるで母親の様な言葉で、私は、もう一度………
「絶対に、守って見せるよ、この手で」強く抱き締められたその手は暖かい。
私はもう一度、貴方への恋心を、思い出しました。