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友人

「はぁ~…。」


私は大きくため息をついて空を見上げた。

それは数か月前までの空とは同じようでどこか違う。なんだかよそよそしい色をしている。

もちろんそんなものは気のせいで、そう感じるのは私の気持ちのせいだと分かっている。


俯けば、目に入るのはプリーツの折り目もくっきりした真新しい制服と金属でできている無機質なベンチ、完璧に整えられた庭園。

野の花一つ生えていない。ここでは野の花は雑草だとみなされて抜かれてしまうのかもしれない。

私のように。


私はもう一つ、大きなため息をついた。



元より学園生活に大きな期待は寄せてはいなかった。

それよりもギルバート様にも孤児院や屋敷の皆にもなかなか会えなくなる寂しさの方がよほど大きかったのだ。期待がない分、不安になることさえなかった。

そのおかげか入学式の入学生代表挨拶もすんなりこなせたし、勉強についても今のところ問題なく良い点数が取れている。これも皇太子妃教育のたまものであろう。教えてくださっている先生方には感謝しかない。


ただ、人間関係についてはもうお手上げ状態だ。


驚いたことに、入学したときにはすでにいくつかの友人グループが出来上がっていた。それもそのはず、私と同じ年頃の貴族の子女というものは定期的にお茶会を開き、そこで親交を深めていくものであったらしい。

7歳で記憶を取り戻してからというもの、なんとか破滅を避けるべく引きこもったり勉学に励んだり孤児院に通いつめたり、その後皇太子妃教育に追われていたりした私の脳には、そんな発想が出る余裕はなかった。

よくよく思い出せば何度かお茶会の招待状のようなものが届いているとナディアが言っていたような気がしないでもないが、当時はそれどころではなかったのだ。


これが言い訳であることも、まあ分かっている。

どなたがどのような立場の方で、なんというお名前なのか、その方の裏側までを知るのも貴族としては大事なことであるのに、私はそちら方面の勉強を疎かにしすぎていた。


とはいえ、私だって入学後ずっとひとりぼっちだったわけではない。

入学当初は何人かのクラスメイトから話しかけられ、和やかに会話を交わしていたのだ。中でも気さくに話しかけてくれるマージョリー嬢とは仲良くなれるのでは、と。友人になれるのではないかと期待していた。


ただ、あの日。




クラスメイトの中に赤い髪の少女がいたことには気づいていた。

第一王子の婚約者という立場上、彼女に気づいた時にすぐに声をかけておくべきだったのだ。けれど私はそれを怠った。

ただただ受け身で過ごしていたのだ。

それを今更後悔しても遅いことも痛いほどに分かっている。



あの日。

マージョリー嬢と次の教室に移動していた時だった。


「やだ、触っちゃった!」


そんなに大きい声ではなかった。それに、言葉だけを追えばそこまで強い違和感を持つようなものではない。

けれどその声に含まれる嘲りのようなものや、くすくすと聞こえる小さな笑い声がどこか不快で、私はそちらを見る。

少し遠くてあまりよくは見えないが、ひとりの少女を3,4人の少女が囲んで笑いながら何かを話しているようだった。囲まれている少女は赤毛の、隣国からの留学生だ。角度を変えて見てみるが、私のところからは彼女の表情は見えない。


「今までお話でしか見たことがなかったけれど…本当に血のような色をしていますのね。」

「ご家族みんなそうですの?」

「もしそうなら家族が集まったらにんじん畑みたいに見えるのかしら。」


友人同士の楽しいおしゃべり、と言うにはどうも言葉に棘を感じる。

立ち止まってその様子を見ている私にマージョリー嬢が気づく。私がマージョリー嬢に彼女たちはどこのご令嬢か聞くと、戸惑いながら答えた。  


「ええと…カークランド家のキンバリー様とビリンガム家のヘザー様かしら…。あとは…スクート家の…確かデメトリア様かと。」

「ありがとうございます。…あともうお一方、真ん中にいるご令嬢のお名前、ご存知ですか?」

「あちらはカミル家のハンナマリ様ですわ。」

「そうですの…。」


なおも立ち止まったままの私の手を、マージョリー嬢がそっと引く。


「クラウディア様、休み時間が無くなってしまいますわ。参りましょう。」

「…ええ。」


妙な雰囲気ではあったが、外部の人間が口を出すには決定的な言葉が足りなかった。赤毛の少女の表情が見えないのも声をかけられない原因の一つだ。

そもそもこの世界に生まれ変わってからというもの「純粋なお友達」というものを持ったことのない私には分からない「お友達とのお付き合いの流儀」的なものがあるのかもしれない。そんな、私の人生経験の無さも手伝って、私は彼女たちから顔を背け、歩き出した。


その時。


「そのお肌は病気なんですの?」


ぴたと足が止まる。


黒子(ほくろ)?にしては薄いですけれど…数えきれないほどありますのね。隣国の方はみんなそんなお肌をされてますの?」

「触ったらうつったりします?私、さっきハンナマリ様の髪に触れてしまいましたわ!」


キンバリーとかいう令嬢が、大変!と言いながらわざとらしく手を振って赤毛のハンナマリ様からのけぞるようにして離れた。キンバリー嬢の隣の令嬢、ヘザーとかいったか、が、嬉しそうに笑いながらキンバリー嬢の手を逃れようとする。


「大変!キンバリー様、手を洗った方が良いのではなくて?菌がうつって…。」


そこで彼女の言葉は止まった。


私が彼女たちのすぐそばにいることに気づいたのだ。

読んでくださってありがとうございます!


土曜日に間に合いませんでした…。

次回こそは土曜日に…。


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