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受容

お医者さまの診断結果は「異常なし」。


恐らく、鳥に追いかけられて命を落としかけた精神的ショックがまだ癒えてないのだろうからあまり刺激のない生活を、とおっしゃって帰っていった。

結果として、家族もメイドたちもますます私を不憫がり、私は一層大切に扱われるようになった。


お医者さまの判断は(おおむ)ね正しい。

7歳の体ではこの精神的ショックの大きさには耐えられなかった。

いや、転生する前の歳でも耐えられたかどうか。

もちろん、その原因は鳥によるものではない。

一度ならず二度までも私の命を狙うあたり、確実に鳥との相性は良くないのだろうけど。


原因は、この世界が私の大好きだった乙女ゲームの世界に酷似していることだった。


『クリスマスソング ~love yourself 』


没落した貴族のヒロインが、寄宿学校に入学して勉強に恋にと一生懸命頑張る王道恋愛ストーリー。

父親を亡くして没落した家の長女、エレインは15歳の可憐な美少女。

彼女は家族の生活の為に、半ば身売り同然の政略結婚を強いられる。

この国では成人となる18歳前での結婚は許されていない。

たとえ婚約者同士であったとしても、その身体に性的な意味で触れることがあればどんなに高い身分であろうとも重罪に問われる。

同棲などという疑われる行為はもっての(ほか)である。

その為、エレインは婚約者の計らいで貴族の子弟のみが通う名門高校に入学することになる。

そこで出会うヒーロー達と恋に落ち、高校三年生のクリスマスまでに婚約の解消と家の復興を目指すという話だ。


そのお相手、メインヒーローこそ、今回お生まれになった王子、ギルバート様だ。

そして私ことクラウディア・エズラ・グレゴリーはその婚約者であり、恋人関係になる2人の障害となる邪魔者。

積極的に2人の邪魔をして仲を引き裂こうとする、それ以外の役割を与えられていない悪役令嬢だ。


話がうますぎるとは思ったのだ。

天涯孤独だった私が、生まれ変わった先ではお金持ちの貴族のお嬢様、優しい両親もしっかり者の兄もいて、多くのメイドや従僕達に(かしず)かれて何不自由なく暮らしているなんて。

どこかに落とし穴があるはずだとは思ったけど、まさかの悪役令嬢とは…。



最初は私の頭がおかしくなっただけかもしれないと思った。

転生なんて、生まれ変わりなんて、そんな漫画みたいなことあってたまるものか、と。

何度も、こんなの事故の後遺症に違いない、全ては夢で、目が覚めれば忘れてしまえるだろうと目をぎゅうとつぶった。


けれど、日増しにはっきりしてくる日本での記憶は、目を開けと言うのだ。

目をつぶっても耳を塞いでも、いくら泣いても逃れられない。

眠ろうとしても寝付けないし、寝られたとしても夢に出てくる。

誰かに自分の名前を呼ばれるたびに動悸が激しくなる。


気分転換に窓の外を見ようと、ベッドの上から降りて床に足をつけた。


「…………痛い…。」


じんわりした鈍い痛みが、これは夢ではないのだと私に教える。


受け入れるしかなかった。

これは現実だ。



ここが本当に『クリスマスソング ~love yourself 』の世界の中で、私とギルバート様が本当に婚約するとしたら。

私と生まれたばかりのギルバート様には7歳の差がある。

年の差から考えて恋愛結婚ではなさそうだ。どうせ政略婚約だろう。


ゲーム内でのクラウディアは派手で、わがままで、金遣いが荒くて、他の男に色目ばかり使って、と、良いところはほぼ思い出せない。

一つあるとすれば、美人でスタイルがいいという設定だったことだろうか。

王子が「どんな男でもたぶらかして歩けるほどの美貌だ」と言っていた気がする。

ゲームでヒロインになりきっていた私はその言葉に軽く嫉妬したものだ。

それだけ、誰もが認めざるを得ない容貌だったのかもしれない。


しかしそれ以外の要素が悪すぎる。


ギルバート様狙いのルートに限らず、どのルートを通ったとしても終盤には公衆の面前でこっぴどく振られる。

しかもそれだけでは終わらない。

各ルートでクラウディアは悪あがきをして目も当てられない最後を迎えるのだ。

もちろんスチルも含め、ディズニー映画の悪役よろしく徹頭徹尾、悪役らしさを貫いていて感心するほどだった。


これから自分の身に起きるであろう全てを知っている自分が、家族の愛情を裏切ってまでそんな馬鹿な女に落ちぶれてしまうなんて信じられないが、これから何か人生を揺るがすようなきっかけがあって私自身が変わってしまうのかもしれない。

もしくはゲーム補正で私が自分の行動をコントロールできなくなってしまうとか。

変わり果てた私を見て悲しむであろう家族やメイド達の顔を思い浮かべて、私は少し涙ぐんだ。


「人生って…うまくいかないものね…」

「クラウディア様…。」


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