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初対面

私は目を細めて微笑みかける。

というのはあくまでもフリで、目が眩んだから細めただけなのだが。



もはや忘れてしまうことも多いのだが、この世界は私が前世で楽しんでいた乙女ゲーム『クリスマスソング〜love yourself〜』の中である、と思う。

実は私の頭がおかしくなっただけなのかもしれないし、前世なんて本当はなくて、そんなものは全て私の妄想なのかもしれない。しかし、それにしてはこの世界はあまりにも私の知っている名前やキャラクターや設定と酷似している。だから、きっと私はゲーム内に転生してしまったに違いないと思っている。

そのせいか、登場人物はモブに至るまで、私を除いたほぼ全員が揃いも揃って美形である。ナディアもオリバーも孤児院の子供たちも、元の世界では画面の中でしかお目にかかれなかったレベルの造形美だ。熊系と言われているゴットロープだって体が大きくて分厚いというだけでハリウッド俳優並みに渋くてかっこいい。

その中でも、うちの家族はずば抜けて美形揃いだと自負している。生まれた時からそんな人達に囲まれて毎日生活しているのだ。私の目は相当肥えてしまった。それが良いことなのかどうかはわからないが、もはや並みの美形ではドキドキもしない。


しかし、さすがメイン攻略キャラだというべきか。


目の前に座っているギルバート様は、今まで見た方々の中でも段違いで綺麗な方だった。もちろん今はまだ幼さゆえの可愛らしさが優っているものの、この歳で既にどこか凛々しく格好いい。もう少し成長されればますますその魅力は増していくであろう、と今から確信できてしまうほど完成されている。

姿形の美しさだけではない。キラキラキラキラ、なんといえばいいのか、後光がさしているような、内側から発光しているような。これがオーラというものなのかもしれない。


4歳の時点でコレなら、ゲーム内、18歳時点のギルバート様の設定にも納得である。

高校ではその格好よさと優秀さからファンクラブが存在しており、いつも多くの女の子たちに囲まれていたし、友人も多かった。学校だけではなく国中の人気者で、優秀な成績や誠実な人柄から将来の王として大きな期待をされていた。ゲームプレイ時には『そんな完璧人間、逆に魅力を感じないのでは?』などと失礼なことを思っていたが、いざ目の前にいると感動を覚えるものである。


髪の色は明るいハチミツブロンド。さらりと揺れる柔らかく曲線を描く髪がなんとも羨ましい。

瞳の色はグリーン…いや、イエロー?オリーブ?

ああ、…そうか、キラキラしてるのは瞳なんだわ。光が当たるとキラキラして色が変わって見える。

きっと、天使がいるとしたらこんな感じ…。



不意に、ぷいっと顔をそらされてしまう。

それで私は、話もせずにまじまじとギルバート様を見つめ続けていたことにやっと気づいた。

いくら綺麗すぎて目を離せなかったからといって、お茶にも手をつけないまま初対面の方をじろじろと不躾に正面から見続けるなんて、なんて失礼なことをしてしまったのか…。第一印象はおそらく最悪である。熱心に指導してくださったコンスタンチェ先生に申し訳ない。


早速の失敗に目を伏せつつこっそりくよくよしていたものの、視線を感じる。恐る恐る目をあげるとまたギルバート様と目が合う。

このまま黙っているのもおかしいとは思うが、こんな時に限って頭が全く働かない。今ならば無難に天気の話やお茶の話をすればいいのだと分かるが、その時は恐ろしいほどに何も話題が出てこなかった。私の方が王子よりも7歳も年上なのに、情けないことこの上ない。

仕方なく、私は微笑みかけてその場を場を乗り切ろうとする。

その瞬間、またもやぷいっと顔をそらされてしまった。しかも今度は眉間の皺付きだ。


ひょっとしたら、だ。私がギルバート様を見て見惚れていたように、ギルバート様は私を見てがっかりされたのかもしれない。

容姿に関してはもう悩まないと決めたのに、嫌な考えがまた私の中で息を吹き返し始める。それでなくとも気の利いた会話ひとつできないというのに…。

悔やむ私の耳に、王宮付きの侍女たちのくすくすという笑い声が届き、ますます私は身を縮こめた。


「王子、あれを…。」

「…ああ…。」


笑った顔のままの侍女に促されて、ギルバート様が椅子を降りて奥の机の上にあった小さな包みを私の目の前に置いて、また自分の席に座る。


「これは…?」

「『どうぞ』。」


それは明らかに練習したような、あまり感情のこもっていない『どうぞ』だった。

けれど、思いがけないプレゼントに私は驚く。


「開けてもよろしいですか?」

「うん。」


高級そうな金と白の包みを開けると、その中には綺麗なガラス細工の真っ赤な薔薇の髪飾りが入っていた。繊細そうで一目で高級だとわかるそれは、私には過ぎたもののような気がしたけれど、少なくとも歓迎されていないというわけではないことが嬉しかった。

一からギルバート様が計画なさったことではないのかもしれない。周囲の方にプレゼントを贈ると良い、などとアドバイスされた可能性もある。

けれど、だとしても、それを聞き入れてこうやって気遣ってくださる方となら夫婦としてうまくやっていけるかもしれない。悪役令嬢などにならずに、ずっと幸せに過ごせるのかもしれない。


そんな希望を持ったものだから、満面の笑顔をギルバート様に向ける。

けれど。


「ありがとうございます!大事にいたしますね。」


ギルバート様の眉間には、また皺が寄った。

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