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出足

春、新しい王妃様が第二皇子を出産された。

久しぶりの、一点の曇りもないお祝いごとに国中は喜び浮かれる。

毎日鼓笛隊による楽し気な音楽が奏でられ、隣国から贈られたお祝いの酒を飲み、町中に花を飾り、人々は朝から晩まで踊り明かした。


その時の彼はいったいどんな気持ちだったのだろう。




薄情にもそんなことには全く思い至りもせずに、私は緊張しながら孤児院の扉の前に立っていた。

ゆっくりと顔を上げ、小さく深呼吸する。

今更こんなに不安になるとは自分でも思わなかった。


相手方にとっては定期的な慰問なんて本当は迷惑だったのではないだろうか。

そもそも『子供たちに何かをしてあげたい』だなどとひどく傲慢な考え方だったのではないだろうか。

本当に私が慰問をすることで子供たちのために何かをできるのだろうか。

私なんかが…。


「…クラウディア様?」


右隣から案内役兼荷物持ちとして来てくれたオリバーの声がすぐ右隣から降ってきて、私は思考の渦から抜け出す。


オリバーはあれからもずっと私の孤児院への慰問に反対していた。

それが彼の優しさゆえであることは分かっている。

わざわざ住む世界が違う者達と近づいて嫌な思いをする必要はない、と兄にさえ進言したらしいから。

けれど、その忠告を突っぱねてまでここにきたのに。


「…かわいらしいお顔が怖くなってますよ。」


どこか困ったような声は優しくて、私の緊張で硬くなった心はほんの少し和らぐ。 

けれども頬は強張ったまま、どうしても笑顔が作れない。

ただ口の端をぴくぴくと動かすだけで精一杯だ。


「…前にも申しましたとおり、クラウディア様のことは私がお守りいたします。」

「…そうね。でも…。」


こぶしをぎゅうと握る。

元々自分の勝手で慰問を決めたというのに、今更になって迷惑だったのでは、などと、なんと甘えた考えなのか。

少し深く考えればわかることであろうに、私はいつもこうなのだ。

我ながら自分の駄目さに嫌気がさす。


「大丈夫です。もし意地悪されたらさっさと逃げてしまいましょう。」


思いがけない言葉に私はきょとんとしてオリバーを見上げた。

彼はいたずらっ子のような顔をして私に笑いかける。

その顔を見て、私の頬は少し緩む。


「意地悪はされないと思うわ。」

「わかりませんよ。私はねじくれ曲がった小生意気な子供でしたから。

かわいらしい女の子には素直になれず意地悪してしまったものです。」

「そうなの?」

「今はもう成長いたしましたが、当時の私のような子供がいるかもしれません。」

「なら仲良くしたいわ。」

「いいえ、私のような子ならば、きっとお嬢様のような子が来たら相手にしてほしくて、間違いなく意地悪するでしょうね。」

「そうしたらオリバーが一緒に逃げてくれるの?」

「ええ。

敗走ではなく勇気ある撤退というやつです。

このオリバー、いざとなればお嬢様を抱えて屋敷まで走りましょう。

私の逃げ足は一級品でございますので、どうかご安心ください。」


そう言って足をポンとたたくオリバーに私はくすくすと笑った。

気づけば先ほどまでがちがちだった肩からは力が抜け、握りしめていたこぶしも柔らかくほぐれた。


きっとオリバーは今でも孤児院慰問には反対なのだろう。

自分の生まれ育った孤児院を前にして思うところもあるのかもしれない。

けれど、結局こうして私の力になってくれるのだ。

私のくだらない逡巡で彼の気持ちを無駄にするのはそれこそ傲慢に違いない。

強くならなければ。


私は改めて扉をまっすぐ見据えた。


「…では、参りましょうか。」

「ええ。」



今回少々短めになりますが、次回からもう少し長めになるかと思います。

また、いつまでたっても王子がちゃんと出てこずにすみません…。

少しずつ出てくる予定ですので、もう少しお待ちくださいませ。

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