古城跡地攻防戦2
「よーい、ドン!」
そう言って、三人は駆け出す。
鬼の力を吸収している三人だ。尋常な速度ではない。
そのうちの一人、春香は、銃声を聞いて足を止めた。
見ると、自分の心臓が撃ちぬかれている。血が勢いよく流れ出て、意識が薄れる。
「本当に来たわね。あいつの予知は正しいってことか」
銃を構えた小柄な女性が、男に抱えられて空から降りてくる。
春香は傷口に手を当てて、治癒を開始した。
「ヘッドショットなら回復もできないでしょう」
そう言って、小柄な女性は銃の狙いを春香の頭に定めた。
炎の壁を作る。
鉄をも溶かす炎だ。
治癒は遅くなるが、失血死する前にはなんとかなるだろう。
そう思っていた時に、春香の前に立つ人物がいた。
「なんでか知らないけど、作戦漏れてたみたいだね。もう警察の連中があちこちにいる」
それは、仲間の一人、花月。
「私が時間を稼ぐ。治療を完了させちまいな。そしたら、こっちの勝ちだ」
「……わかった」
炎の壁を排除し、治癒に専念する。
しかし、敵は姿を消していた。
「どこ?」
花月が戸惑うように言う。
「上!」
春香は叫んだ。
銃弾の雨嵐が飛んでくる。
花月の膨らませたフーセンガムが、割れた。
頭上に数十センチの面を持つ氷が現れる。
それは、銃弾を見事に受け止めた。
「まったくうろちょろうろちょろ……虫みたいに」
花月はそう言うと、氷の塊をそのまま相手に投げつけた。
追撃の槍を投擲する。
槍は空中で狙撃され、軌道を変えて地面へと落下していった。
花月が感嘆の口笛を吹く。
「やっるう。サツにしてるのが惜しいところだわ」
対戦が始まっていた。
+++
翠は恭司を抱えて空を飛んでいた。
上空から見るに、戦闘は既に始まっている。
一人は戦闘不能、二人は戦闘中。
その二人の中でも、片方は圧倒的な突破力を持っていた。
警官達が次々に倒されていく。
「援護に行くわよ!」
「わかった!」
飛んで、突破力を持った一人の前に降り立つ。
「あんた、斎藤翠?」
ソウルイーターは、調子が狂う呑気な質問をする。
「なら、どうする?」
恭司を下ろして、翠は強気に問い返す。
「本当は、三人であんたを倒そうって予定だったんだけど……こんな美味しそうな魂、三等分したら勿体無いや」
そう言って、ソウルイーターは手を前に突き出す。
「死んで」
彼女が呟くと、その掌から光が放たれた。
恭司の撫壁がそれを阻む。
その体は、徐々に後ろに押されていった。
その時、翠は悪寒を覚えた。
なにか悪いものが近づいてきた。そんな予感があった。
「もーらった」
いつの間にか背後に回っていた敵の、二本の光の手が、翠と恭司のハートを掴む。
助けるのはどっちか?
迷いが手遅れを呼ぶ。
永遠にも思える一瞬。
刃のブーメランが光の手を二本両断していった。
ブーメランは空を舞い、持ち主の手に戻る。
「いて、ちょっと切った」
そう言ったのは、見たことがないサングラスの青年だ。
「翠さん、援護に来ました!」
水月が言う。それと一緒に来たということは、彼は噂の神埼青葉か。
そこまで考えて、翠の思考は停止した。
彼、神埼青葉の胸には、生命がある者には等しく存在しているハートが存在していなかった。
まるで、死人のように。
ソウルイーターもそれに気づいたらしい。唖然としている。
「超えろ超えろ! ゼロを超えてマイナスを貫け!」
青葉が詠唱する。
ソウルイーターは我に返ったように跳躍した。
突如現れた円形の氷は、その足首を見事に捕まえていた。
「ちっ」
ソウルイーターは自分の足ごと氷を爆破した。
破れた靴を投げ捨てながら、ソウルイーターは跳躍して移動していく。
「味方と合流する気ね」
翠は一時、青葉の妙な状態のことを忘れることにした。
今はソウルイーター退治のほうが優先だ。
+++
春香と花月は、別行動をしていた月葉と合流した。
「ソウルキャッチャー、来るよ」
月葉は手短にそう言う。
場に緊張が走った。
刑事二人も処理できていないというのに更に敵が増えるのか。
「それに、変な奴もいた」
「変な奴?」
春香は戸惑うようにいう。
「そいつには、ハートがなかった」
「死体かよ」
「いや、動いてた」
「ちょっと。私、敵の攻撃を防いでるんですけど」
バリアを張っている花月が不服げに言う。
「そうだね。こいつらを片付けて、ここは一旦撤退しようか」
そう言うと、月葉は手を掲げた。
狙いは、空を飛ぶ刑事。
眩い光が放たれた。それは、花月のバリアをも破って敵を襲った。
敵は逃げていく。
これでいい。
「そろそろ、ソウルキャッチャーが近づいてくる」
「治療は終わった?」
「なんとかね」
「じゃあ」
後の言葉はいらなかった。
三人は一目散にその場を離れ始めた。
+++
アラタはフォルムチェンジし、剣を杖のようにして立っていた。
相手には響を酷い目にあわせられた恨みがある。
リベンジの機会があるならそれにこしたことはない。
そうして、持ち場を守り始めて、十数分が経った。
無情にも、トランシーバーで告げられたのは撤収の二文字だった。
「くそ。ソウルイーターなんて目の前にいたら真っ二つにしてやるのに」
思わず、ぼやく。
「ほう。ソウルイーターをお求めだったか」
それは、過去に聞いた声。
共に旅をした仲間の声。
思わず、振り返る。
「お前……!」
ソウルイーター、大輝がそこには立っていた。
「いやな。貰った鬼の力の断片から繋がりができたのか、妹が瀕死になったような夢を見てな。気になって見に来た次第だ」
「なにしてたんだよ」
「黒幕の居場所探し」
そう言って、大輝は肩を竦める。
「まあ警察でもない俺だけでは上手くいかんがね。で、妹は瀕死になったのか? 誰がやった?」
大輝の目が赤く輝き始める。
これはまずい状況に立ち会ってしまったかな。そんなことをアラタは思う。
第五話 完
次回『疑惑』




