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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第四章 必ず君を生き延びさせてみせる

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ゲームの始まり

「アラター、明日用事ある?」


 リビングで寝っ転がっていたアラタは、響の声に上半身を起こした。


「いや、特にないけど?」


「そっか。私、友達とショッピングモールに行くから」


「雪の中でよーやるな」


「だって、皆部活で休日が重なるのは貴重なんだから。じゃあ、部屋で服見繕ってくる」


 そう言って、響は去っていった。

 アラタは再び寝転がり、テレビのスイッチを入れる。

 そして、忙しなくチャンネルを変えていたが、そのうち飽きて、リモコンを放り出した。

 ニュース番組のアナウンサーの声がリビングに響き始めた。


「二人ででかけへんの?」


 四つん這いで近づいてきた妹の顔が視界に広がった。


「いいんだ。俺とあいつはこれで」


「愛想つかされへんの?」


「もう熟年夫婦みたいなもんだからな。お互い良いところも悪いところも把握してるよ」


「ふーん」


 妹は面白くなさ気にそう言うと、立ち上がった。


「浮気だったりして」


「はっはっは」


 アラタは笑う。


「まさか。旅で得た絆は硬い」


「けど、その旅も数ヶ月前だよね。お兄達は数ヶ月しか付き合ってないんだよ」


 思わず、黙り込む。

 嫌なイメージが頭の中に次々に現れる。


 まさか、と思う。

 そんなはずがあるわけがない。


 しかし、一度わいた嫌なイメージというのは中々頭から出ていってくれない。


「なにをさせたいんだ、お前は。お前は俺に、なにを望んでいる」


「簡単なことだよワトソンくん」


 そう言って、妹は悪戯っぽく微笑んだ。



+++



 アラタとその妹は、変装してショッピングモールに来ていた。

 椅子に座っている響を横目で見ながら少し離れた席に座る。


「……こうはなりたくないもんだ」


 アラタは、思わずぼやく。


「槇原の歌であったねこういうシチュエーション」


 帽子を目深にかぶった妹が楽しげに言う。


「あったっけ?」


「あったよ。スパイ」


「古い曲知ってんだなあ」


「新しい曲を知らないんだよ」


「で、その曲はどうなるんだ?」


「浮気されてましたって曲だよ」


「駄目じゃん」


 深々と溜息を吐く。


「つーかお前、同性としてそれでいいの? 女の子は一途だから信じてあげなよぐらい言えないの?」


「お兄ちゃんの嫁になるかもしれない人やからねえ。慎重にもなるよ」


「おかげで俺は四時起きだ」


「だって同じバスは避けなきゃでしょ」


 平然とした調子で妹は言う。

 まさか自転車で移動して先回りしているとは響も思うまい。


「まあなあ……響に限ってないと思うんだけどなあ」


「まあ、本音を言えば私も信じてるよ。響さんを」


「じゃあ、なんでだ?」


「お兄ちゃんの危機感のなさを思い知らせようと思って。最近、デートもしてないでしょ?」


 図星を指されて、アラタは思わず数秒口ごもる。


「俺は冒険の中で輝くタイプなんだよ」


「はいはい。あ、友達来たみたいだよ」


 アラタは慌てて響に視線を向ける。

 女性だけの四人グループのようだ。


「なんだ。やっぱただ友達と会うだけじゃん」


 いつの間にか緊張で強張っていた肩を下ろす。


「まあ、後をつけてみましょうか」


 そう言って、妹は楽しげに立ち上がった。

 こいつの感情はいまいちよめないな、とアラタは思う。



+++



 響はショッピングモールで服を選んでいた。

 友達がこっちの服が似合うんじゃない? と勧めてくる。

 確かにいい服だったが、値札を見て諦めた。


「響ー、お小遣いもらってる? バイトしてる?」


「お小遣いもらってるよ」


「居候だからって遠慮してるんじゃないかって皆心配してるんだよ」


 周囲の友達が、心配そうな視線を向けてくる。


「大丈夫。きちんともらってるよ。私がケチなだけ」


 もしも友達とショッピングモールに行くと言えば、アラタの両親は金を出してくれただろう。

 けど、それは流石に申し訳なかった。

 以前活動費として貰った金は母に送金してそれきりだ。


 フードコードで四人でハンバーガーを頼み、席につくと一個だけ選んだポテトを広げる。

 平穏な日常が、そこにはあった。

 その時、視線を感じて響は振り向いた。

 誰もいない。気のせいだろうか。

 旅に出て以来、警戒することが習慣になっているのかもしれない。


「響ー、どうしたの?」


「いや、ちょっと虫が見えただけ」


 そう言って、響はポテトを一つ口に入れた。



+++



 アラタ達は本屋に来ていた。

 それぞれ、気になっている本を立ち読みする。


「だからなんもなかったろー?」


 二つ隣の棚で立ち読みをする妹に言う。


「なんもなかったねえ」


 妹は、愉快げに言う。


「なんだよ、楽しそうに」


「私はお兄ちゃんが危機感を持ってくれればと思っただけやからね」


「ふうん」


 その時、背筋を氷で撫でられたような悪寒を覚えた。

 この感情は、恐怖だ。

 味方にした時は感じなかった。心強いとしか思っていなかった。

 しかし、敵に回した時のこの存在感。

 圧倒的過ぎるプレッシャー。

 ここは、危険だ。


「おい、すぐに建物の外に出ろ」


「は? なんで?」


 妹は不服そうな顔になる。


「ここは戦場になる」


 妹は、目を丸くして息を飲んだようだった。


「……本一冊買ってからでいい?」


「ああ。さっさと出るんだぞ。フォルムチェンジ」


 アラタが唱えると、その顔にフルフェイスのヘルメットが、体がスーツに包まれる。

 そして、アラタは駆け始めた。

 さっき感じた気配。それは、多く魂を吸ったソウルイーターのものに他ならなかった。



+++



 響は悪寒を覚えていた。

 複数の気配が、響に近づいてくる。


(狙いは、私か……)


 そう思い、立ち上がる。


「ごめん、ちょっと先行ってて。私、呼び出しくらった」


「呼び出し?」


「スマホも鳴ってなかったけど?」


「ちょっとね。色々あるんだ」


 そう言って、響は駆けて行く。

 狙いは自分。ならば、人気のないところに行くのが上策。

 無関係な人間を巻き込むわけにはいかない。


 そして、人気のないところなんてないことに気がついた。

 体内に僅かに残った鬼の力を駆使し、二階の吹き抜けから一階に飛び降りる。

 そして、外へと駆け始めたところで、追いつかれた。


 前に一人。後ろに二人。

 息を呑む。

 全員、ソウルイーターだ。


「お父様へ連絡を取らず、それどころか傷つけた。お前は報復を受けねばならない」


 前の一人が言う。


「力を与えられたのに恩を仇で返した。お前は大罪人だ」


「はっ」


 響は笑う。


「人を殺してスキルを奪うのが正しい行い? そんなの、馬鹿げてるわ!」


「そうか。改心する気はないか……」


 そう言って、前の一人が手を響に向ける。

 後ろの二人も、手を響に向けていた。


 昔の自分なら跳躍して逃げることができた。

 それができないのがもどかしい。


 そして、響は貫かれた。

 数本の氷の槍が、響の腹に突き刺さる。

 そのまま、響はオブジェのように持ち上げられた。

 熱い血が冷えていく。

 体が寒い。

 死が見える。


「ごめんね、アラタ……」


 最後に呟いたのは、最愛の人の名。

 その次の瞬間、響は落下していた。

 氷の槍が断たれたのだ。

 そして、フォルムチェンジしたアラタに響は抱きかかえられていた。


「ああ……アラタ、アラタ……」


「言っただろ。お前のためならヒーローにでもダークヒーローにでもなってやるって」


 そして、アラタは響を下ろした。

 響の鞄からスマートフォンを取り出し、勝手に操作する。


「楓さんですか? 響が襲われました。敵はソウルイーターが三人。郊外のショッピングモールです」


 そして、アラタは電話を切ると、響に握らせた。

 アラタの手には長剣がある。

 それを持って、彼は歩き始めた。


「アラタ。鎧の適正が高い人間。我々の攻撃は通用しない」


「どうする?」


「退くしかないだろう」


 ソウルイーター達が話し合う。

 そして、一人のソウルイーターが手を天に掲げ、炎の龍を呼び出した。

 それはアラタに向かって一直線に放たれる。


 アラタは長剣でそれを真っ二つに斬った。


 そして、三人のソウルイーターは、最初からそこにいなかったように、いなくなっていた。



第一話 完

次回『椎名水月の奇妙な出会い』

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