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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第三章 私達で、終わらせよう

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厄日

 銃で撃たれた片足を引きずりながら、厄日だ、と少女は思った。

 マントを千切って包帯にしたので血が自分の進んだ後に転々と落ちているなんてことはない。

 しかし、走っている相手の足を正確に射抜くなんて、どんな滅茶苦茶な射撃能力なのだろう。


 世界は広い。

 その中には、なかなか手ごわい敵もいる。

 わかっていることだった。

 それでも、やると決めたのだ。

 やらなければならない。


 少女は少し離れた場所に置いたスクーターにまたがると、キーを挿して回し、エンジンをかけた。

 そして、走り出す。


 幸いなことに、この場所はある場所に近い。そこで難を凌げばいいだろう。

 三十分ほど走って、辿り着いたのは廃墟だった。


 そこの右最奥の床をノックする。

 すぐに床の一部が持ち上げられて地下への道が開かれた。

 そこから顔を覗かせた男は、少女の姿を見て、全てを察したように降りていった。


 少女は傷ついた左足を使わないように、慎重に階段を降りていく。

 中に入るに連れて、濃厚な煙草の臭いが漂い始めた。


「おーい、先生。早く卓に戻ってくれよ」


 ワイシャツをまくり上げた男が、ビールを飲みながら言う。

 麻雀卓には、三人の男が座っていた。

 観客も十人近くいる。

 男が返事をする。


「すまん、急患だ。誰か代打ちしてくれ」


「じゃ、俺の出番だな」


「おいおい、お前の方がつえーじゃねえか」


 麻雀卓の周りは賑やかだ。

 そこから離れて、少女は男の肩を借りながら隣の部屋に入った。

 そこは、手術室だった。

 少女はマントを脱ぎ、地面に下ろす。体が軽くなったような気分になる。

 防弾チョッキを縫い付けた特別性のマントだ。

 これで体のかなりの範囲は守れる。けど、それでは不十分だったようだ。


 少女は手術台に横たわる。

 男が傷口を見て、顔をしかめる。


「銃による傷だな? なにをした」


「異能者殺しを」


「馬鹿なことを……」


 そう言って、男は頭を抱える。


「お前のお父さんはそんなことは望んでいないよ」


「けど、こういう時に頼れるあなたとの縁を残してくれたのは父です。父はこういう日を予想していたのかもしれない」


「ふう……聞く耳は持たないようだな」


「ええ。私は全ての超越者を殺すつもりですからね」


「女、子供もか?」


「女を刺してきたとこですよ。仲間がきてトドメはさせませんでしたけどね」


「それは、その女の仲間に感謝するんだな」


 男は溜息を吐いた。

 そして、麻酔の注射を打って治療を開始した。


「弾は貫通している。治るにはそうかからないだろう」


「ねえ、おじさんのツテで、治癒能力者とか紹介して貰えないんですか」


 男は、呆れたように少女を見た。


「したら、お前は超越者殺しにすっ飛んでいくだろう。誰がそんな愚を犯す。多勢に無勢がすぎる。今までお前が乗り切ってこれたのは、不意打ちだったからだ。ここからは数十人対一人の正面きった戦いだ」


「面白いじゃない」


 少女は目を閉じて、微笑む。

 その顔が、痛みに歪んだ。


「ちょっと。今わざと痛くしたでしょ」


「ふう……悪いところばかり父に似ている」


 そう言って、男は溜息を吐いた。


「だから、死んだというのに」


 少女のダガーナイフが、男の喉元に突きつけられていた。


「父さんの悪口は許さない。絶対にだ」


「なら、もう少し良い子になりな」


 男は、動じた様子もなかった。

 人の良い中年男性といった外見の彼だが、これでも修羅場はくぐっているのだ。


 少女は拗ねたように唇を尖らせ、ダガーナイフを地面に落とす。


「超越者は生きてちゃいけないんだよ……わかるでしょ?」


「さて、どうだろうな。巴」


 男はもう、話を聞いていないようだった。

 久々に名前を呼ばれた気がする。少女、巴は目を閉じて、男の治療に文句を言わぬことにした。



+++



 葵は突然の授業プログラムの変更に戸惑った。

 月曜日の朝一から血液検査をするという。


「やったな。授業潰れた」


 そう言ってはしゃぐ友人達と共に、保健室に向かう。


(これも、超越者殺し絡みかなあ……)


 そんなことを、思う。

 銃はホルダーで制服の下につけてある。

 それが、安堵感を葵に与えてくれた。


 看護師は淡々と注射で血を抜いていく。

 葵も血を抜かれ、その後は教室で自由に同級生とふざけ合った。

 漠然とした不安に襲われる。

 世界に、超越者を狙って殺す人間がいるだなんて、嘘みたいだった。



+++



「調査の結果だが」


 本部長と、机を挟んで楓は向かい合っていた。

 本部長は席に座り、楓は直立不動で立っている。


「超越者キラーとの血液が一致する生徒はいなかった」


「いませんでしたか」


「それは見事に」


 楓は頬をかく。


「すいません。無理聞いてもらったのに」


「一般人に銃を持たせるって話の時点で相当無茶だがな。お前にはいつも苦労させられるよ」


 そう言って、溜息を吐く。


「けど、これで犯人像は絞り込めます。犯人は学校に通っていない百七十センチ程度の少女。超越者に恨みを持っている可能性が高い。そして……」


 楓はしたり顔になる。


「銃が効く」


「ソウルキャッチャーもそうだったがな」


 ぼやくように本部長は言う。


「まあ、捜査員一同真剣に探している。そのうち、また新しい情報が出るだろう」


「呑気ですね」


「短気だったら今頃胃を壊しているよ」


 そう言って、本部長は頬杖をついた。

 超越者キラー事件も進展が見えてきたのだった。



第五話 完

次回『残る怨恨』

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