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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第三章 私達で、終わらせよう

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超越者キラー

「どう思う?」


 相馬の質問に、楓は鼻を抑えながら答える。その瞳には、憐憫の色が宿る。


「生半可な敵に殺される手合ではなかった。私が言えるのはそれだけ」


 二人はある一室にいた。

 血まみれの部屋。倒れている死体。

 そう、殺人現場だった。


 殺されたのは五十嵐大地。飛行能力を持つ超越者だった。

 まだ、若い。

 それを思うと、楓の胸は苦しくなる。

 玄関のチャイムが鳴った。


「はーい」


 相馬が答える。


「葵です。来ました」


「おう、よく来てくれた。部屋に触るなよ。指紋がつく。この部屋に、痕跡はあるか?」


 葵は部屋に入ってきて、血まみれの部屋に顔をしかめる。

 そして、ある一点に目を止めて、そこに手を近づけた。

 サイコメトラー。物の記憶を読み取る超越者。それがこの葵という少年なのだ。


「薄暗くてよく見えない……いや、シルエットからするに少女だ」


 相馬も、楓も、目を丸くした。

 この惨状を、一人の少女が作り出したというのだろうか。


「大地さんは無防備に寝転がっている。気が向いたら帰れよ、なんて言ってる」


 葵は口元を抑えた。


「背後から少女が不意打ちした。形状から察するにダガーナイフだ。首を一瞬で掻っ切っている。手慣れた動作だ」


 葵はそう言って、口元から手を離した。


「見えるのは、以上です」


「十分だ。よくやってくれた。後は鑑識を入れよう」


「そうね。本来は鑑識が最初に入るべき現場だし」


 そう言って、三人は部屋の外に出る。


「去年からここんとこ、呪われてんのかと思うぜ。ソウルイーター事件も解決していないしな」


 相馬はぼやく。


「そういえば、翠が休暇で戻ってきてるところね。飲みにでも誘おうかしら」


「恭司といちゃついてるとこだろ。邪魔してやんなよ」


「それもそうね」


 楓はしばらく黙り込んで、嫌味っぽく微笑む。


「あんたにも気を使うって機能が備わってたのね」


「一般論だ」


「まあまあ」


 葵が、間に入る。

 鑑識班が到着した。荷物を持って、部屋の中に入っていく。


「少女、かぁ……」


 楓は、呟くようにそう言った。


「せめて顔がわかればなあ」


「そうですねえ」


「まあ、贅沢は言えないか。よくやったよ、葵」


「皆さんには友人を救ってもらった恩があるんで」


「友人? 恋人だろ」


「またそんなガキみたいなからかい方をする……」


 相馬の一言に、楓は呆れ混じりに言う。

 葵は赤くなって、俯いてしまった。

 微笑ましい少年だな、と楓は思う。


 県下で起こった超越者殺害事件はこれで三件目。

 連続殺人事件であることは明白だった。



+++



 夕闇の空の下を、恭司は歩く。

 今日は、翠が帰ってくる日だ。

 恭司の家に泊まって、一緒に食事をとる約束をしている。


 そうやって歩いていると、ふと、目の前にマントのフードを目深にかぶった不審者がいることに気がついた。

 背格好から、年齢は測れない。背丈は女性にしては高く、男性にしては普通だ。

 以前にも、こんな奴がいた。

 フードを目深にかぶって暴れていたあいつ。

 ソウルイーター。

 嫌な連想だった。


 相手は顔を上げる。

 夕闇の中で、目に青い光が輝いていた。


「あなた、超越者ね」


 少女の声だった。

 恭司は黙り込む。

 恭司が超越者であることを知っているのは、警察だけのはずだ。


「沈黙は返事と受け取った」


 そう言って、少女はダガーナイフを両手に構える。


「佇め、撫壁!」


 恭司の前にカイトシールドが現れる。

 それは、絶対的な防御を誇る恭司の切り札だ。

 それを破った人間は、未だいない。


 しかし、あの少女の青い目はなんだったのだろう。

 命がけの実戦だ。不安は尽きない。


 少女の駆ける音がした。

 そして、ダガーナイフが振るわれた。

 撫壁が真っ二つに割れる。


 恭司は驚愕に目を見開いていた。

 信じられなかった。

 ありえないと思った。

 ソウルイーターでさえ、鬼でさえ、翠でさえ、壊せなかった撫壁。

 それを、この少女は豆腐を切るように斬り裂いたのだ。


 もう一本のダガーナイフが、恭司に襲いかかる。

 恭司は撫壁の残った部分を持ち上げた。

 横の攻撃は防げなかった。

 突きは止めれるかもしれない。

 なにより、カイトシールドを持ち上げることによって相手は狙いを絞りづらくなる。


 破壊音がした。

 撫壁が粉々に砕け散った音だ。

 少女のダガーナイフは、真っ直ぐに伸び、恭司の腹部を深々と貫いた。


 悲鳴が上がった。


「警察呼んで、警察!」


「おい、あんた、なにしてんだ!」


 周囲の人々が異変に気がついて叫び声を上げる。

 少女は周囲を見回し、少し迷ったようだが、そのままその場を後にした。


「なんだよ……一体……」


 ダガーナイフが抜かれた腹から血液がどんどん溢れてくる。

 通りすがりの人が服を使って抑えてくれたが、駄目だ。

 あっという間にその服は血まみれになった。


(あれ? 俺、死ぬの? こんなところで……)


 恭司は、漠然とそう思いながら、空を眺めた。

 月と太陽が、離れた位置で強い存在感を放っていた。



+++



「それが遅刻した理由?」


 病室で事情を説明した翠の反応が、それだった。


「悪かったと思ってるよ」


「三時間待った」


 翠は恨みがましげに言う。

 そして、表情を緩めた。


「私を呼んでくれればすぐ治療できたのに。なんでそうしなかったの?」


「いやー、騒動でスマホ落としちまってな。それは後日警官が届けてくれたんだけど」


「けど、まともにやって恭司に勝てるわけがないわ。撫壁はソウルイーターの吸魂でさえ弾いた。絶対的な壁だった」


「豆腐みたいにすぱっと斬られたよ」


「うーん」


 翠は考え込んでいるようだった。


「超越者連続殺人事件と関係しているのかしら。今回の子」


「だとしたら、どうする?」


「私が捕まえる」


 強い決意が篭った目で、翠は言う。


「俺との休暇は?」


「恭司を刺したんだよ? 許せないよ。被害者が増えるのも一般人として放置しておけない」


 一般人。

 よく言ったもんだと思う。


「治療は終わったわ」


 そう言って、翠は恭司の腹部から手を離す。


「んじゃ、私は楓さんと合流して捜査に行ってくるから」


 そう言って片手を上げると、翠は去っていった。


「友達から、かぁ」


 恭司は、病室に入ってきてからの翠の態度を振り返る。


「先は、長いなあ……」


 思わず、溜息が漏れた。

 そして、不安になる。

 あの、青い光を放つ目。

 あの少女と戦って、翠が勝つ保証はあるだろうか。

 恭司は、勝てると思って挑んだ。けど、勝てなかった。

 考えれば考えるほど不安になったが、考え直す。


「楓さんと相馬さんがいるから滅多なことにはならないよな……」


 自分を誤魔化すように、恭司はそう呟いた。



第二話 完

次回『平穏の中で』

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