剣士、二人
『翠さんが危ない』
そんなラインがグループチャットに入ったのは、私が昼食を食べている時のことだった。
発信者はアラタだ。
私は慌てて病衣を脱ぎ、私服とマントに着替え、病院を駆け出た。
脳裏に浮かぶのは、エミリーの姿だ。
私のために泣いてくれたエミリー。
弟のために必死なエミリー。
彼女を止めたい。その思いに突き動かされて、私は走った。
傷口の痛みなんて、忘れていた。
+++
アラタは相手の行動を見て、一種の感動を覚えていた。
警官達が銃を構え、発砲する。
すると、彼は手すりの外に身を乗り出し、戻ってくる反動もそのままに警官を数人切り伏せたのだ。
まるで、曲芸。しかし、熟練の剣士の成せる技。
アラタはそこで、警官達を下がらせることにした。
「俺は超越者だ。怪我人を運んで下がってくれ。そいつは、俺がやる」
人々が二階へと降りていく。
しかし、爆風が巻き起こり、二階と三階の間で身動きが取れなくなっていた。
(あっちには恭司さんとかが行くから大丈夫だろ……)
アラタは冷静にそう判断する。
「フォルムチェンジ」
アラタは姿を変えた。フルフェイスのヘルメットに、白いスーツ。戦隊モノのヒーローのようだ。
手には、長剣があった。
「一手、ご教授願いたい」
「アラタくんとは君のことか。スーツを破るのは中々苦労がいりそうだ」
そう言って苦笑すると、敵は剣を構えた。
突進は同時。
二人の間で、剣と剣がぶつかりあった。
+++
翠は絶え間ない銃撃を受けていた。
(ヤバイなあ……)
そう思う。
バリアの耐久値が切れかけてきている。
ロケットランチャーを連射してくるとは思わなかった。
(歩美、なんとかならない?)
「あなたの中の力のリソースが全部バリアに割り振られてるから無理ね」
浮遊霊、歩美は申し訳なさげにそう言った。
バリアがなくなれば、どうなるか。それは、愉快な想像ではなかった。
そして、ある時、相手が背後に向けてロケットランチャーを撃った。
(隙あり!)
そう思い、ナイフを召喚して、投げる。
相手はロケットランチャーでそれを弾くと、再び射撃を開始した。
これはもう打つ手なしという奴だ。
最強だなんだと持ち上げられても、数の暴力には敵わなかったか。
そう、溜息混じりに翠は思う。
しかし、逃げることは許されない。
ここには、両親がいるのだ。
鬼の力で駆ければ、距離を詰めれるかもしれない。
大怪我するかもしれないけど、多分治癒でなんとかなる。
かもしれない。多分。そんな曖昧な見立てが自分で嫌になる。
そして、翠は、その時を待った。
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激しい剣戟が繰り広げられている。
「ははっ」
アラタは思わず笑っていた。
「なにがおかしいのかな?」
男は剣を振りながら戸惑うように訊く。
「俺と互角の人間がいて、嬉しい! まだまだ世界は広いぜ!」
「酔狂な人だな、君は」
剣と剣がぶつかりあい、鍔迫り合いになる。
「決めた、俺は世界を旅する。きっとあんたみたいな猛者が沢山いるんだろうな」
「なにを言ってるんだい」
呆れたように男が言う。
「君に、明日はないよ」
そう言った瞬間に、男の突きがアラタの脇を掠めていた。
(なんだ、今のは……?)
アラタは戸惑いのままに考える。
一瞬だけ、剣の動きが異様に速かった。
辛うじて避けたが、危ないところだった。
アラタは、数歩下がって距離を取る。
「私は剣術道場にいてね。強い人、弱い人、色々見てきた」
「へえ。じゃあ俺はどれぐらいの強さだ?」
「そうだね。人外一歩手前といった感じかな」
「一歩、手前……?」
「きたまえ。人外の技というのを見せてあげるよ」
そう言って、男は構えを取った。
正眼の構え。隙はない。
なんのためのスーツだ。飛び込んで無理やり隙を作る以外に道はない。
アラタは、飛び込んでいた。
「次元突」
男が呟いた。
アラタの右肩は、スーツごと貫かれていた。
「織り込み済みよ!」
アラタの一撃が、男に襲いかかる。
男は胸を斬り裂かれ、内蔵に傷を負う一歩手前で避けていた。
まさに、紙一重という奴だ。
「評価を間違っていたらい」
男は楽しげに笑う。
「自らの傷すら戦いの材料として扱う。君は、人外だ」
「……だろ?」
アラタは数歩引いた。
剣士二人の戦いは、続く。
その時のことだった。
「いてて、やっと回復が終わったぜ」
そう言って、背後の鬼が立ち上がる。
「二対一か。さて、君は窮地を乗り越えられるかな?」
男は余裕の表情で言う。
(まだかよ、恭司さん、大輝……)
ただでさえ一人は精鋭だ。そこに身体能力面で敵わない化物が増えるとなると、流石に敗色濃厚となる。
アラタは祈った。援軍を。
第十一話 完
次回『全て、無駄です』




