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Nothing But Requiem  作者: Nothing But Requiem
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第六話 『世界の欠片』

最愛の人を失い、絶望と怒りの中で少女は悪魔と出会う。

悪魔は魔銃『ブルトガング』を渡し、「望むなら叶えなきゃ」と囁いた。

少女は全てを失い、代わりに絶対的な暴力を手に入れた──。

暴力と理不尽が溢れ返る世界で、少女は今日も銃声をかき鳴らす。

愛する人と再び出会う為に。

第六話 『世界の欠片』



 レイラが窓を開けると、強い日差しと潮の香りが飛び込んできた。

 アリオとセーレはすでに起床し、身支度を整えている。

「よく眠れた?」

「ええ。よく眠れたわ……ありがとう」

「ボクもグッスリだよ!」

 レイラが朝食を用意すると、三人での食事が始まった。

「昨日は歌まで聴かせてもらって……楽しかったわ」

「わたしこそ、聴いてくれてありがとう」

 レイラはそう言ってアリオに微笑みかけた。

 そんなレイラの表情は束縛から解放されたかの様で爽やかだった。

 束の間でも、自分の音楽を理解し、語りえる友人ができた……。アリオと時間を共にしたのは一日に満たないが、レイラには長年の友人の様に思える。

 自分の曲を理解してくれる知音の仲……レイラにとってアリオは初めての存在だった。

「ねえ、アリオ……食事が終わったら三人で海岸に行かない? ヴィネアで海を見なかったら損だよ」

「それは名案ね。素敵なアイディアだわ」

「ボクも賛成!!」

 食事が終わると、アリオたちは海岸へと向かった。


×   ×   ×


 ポンッ!!

 浪打際で背中を押されたアリオは危なく自慢のブーツを海水で濡らす所だった。

「ちょっとセーレ!!」

 振り向くとセーレが悪戯っぽい笑みを浮かべていた。

「ふざけないで! この悪魔!」

「悪魔だもーん」

 舌を出してからかうセーレをアリオが追いかける。

「レイラお姉ちゃん、助けて」

 セーレはレイラの背に隠れた。

「許してあげなよアリオ」

 真剣にセーレを追いかけるアリオにレイラは笑いながら言った。

 アリオとセーレを見ていると、何故か一抹の寂しさが胸をよぎる。

 ──仲の良い姉弟なのね……。もう少し一緒に……。

 レイラはアリオとセーレにもう少し留まって欲しかった。

 部屋なら幾つも余っているし、ここならドン・ニコラの部下もやってこない。しかし、心の中でそう思っていても、口には出せない。

 想いを内に秘め、とりとめのない会話をしている内に時は流れた。

「楽しかったわ、ありがとう。そろそろ行くわね」

 ひとしきり遊び、話し終えると、アリオが切り出した。

「そっか……。わたしも楽しかった」

 レイラは寂しさを打消し、悟らせまいと笑顔を作る。

「街に戻らないで、この道をまっすぐ進めば、半里程行った所に駅馬車の停留所があるから。そこまで行けば……大陸の中央部へと向かう馬車に乗れる」

「何から何までありがとう……」

 そう言うと、アリオは右手を差し出した。レイラはその手を握りながらアリオを見た。

 太陽に輝く栗色の髪と榛色の瞳。アリオの全てが気高く、美しく見える。

 レイラは『行かないで欲しい』と言う事が、とても恥ずかしい事の様に思えた。

 ──この姉弟の旅を邪魔しちゃダメだ……。

 レイラの口が動いた。

「楽しかったよアリオ。またどこかで……じゃあ、笑ってサヨナラしよう」

「そうね……それが素敵だと思うわ。レイラ、あなたもDJ頑張って」

 アリオの体温を感じながらレイラは別れを告げた。

 セーレも「またね!」と、大きく手を振りアリオに続く。

 レイラは二人の背を見えなくなるまで眺めていた。


×   ×   ×


 アリオとセーレの居なくなった家はいつもより広く、静かに感じる。

 ──あれ?

 レイラは長机の上に見慣れぬ麻袋を見つけた。

 手に取って見るとずしりと重い。

 慌てて中身を確認すると、国王の肖像が刻印された大金貨が10枚入っている。貧民街ではまず見かける事の無い大金だった。それに、麻袋には手紙も入っていた。

『もてなしに感謝を。宿代とコンサート料よ』

 短い一文を読むと、レイラは手紙を握りしめ、家を飛び出した。

 このまま、アリオとセーレを追いかけてヴィネアを出たら……。という考えが脳裏をよぎる。

 しかし……数歩も進まない内にレイラは思い直した。

 ──きっと、すぐにドン・ニコラが追いかけてくる……それに貧民街の皆も犠牲に……。

 レイラは自分自身を納得させ、家へと戻った。

 セーレが言っていた様に、レイラは自分で考える事を放棄していた。


×   ×   ×


「で? どうするの?」

 木製のベンチに腰掛け、足をバタつかせながらセーレが聞いた。

 停留所に駅馬車の来る気配は無い。運行表も無ければ時刻表も無いのだ。

「うるさいわね……少し黙って」

「……ボクはどっちでも良いよ。でも……今を逃したら再び世界の欠片を手に入れる機会は……」

「黙ってって言ってるでしょ?」

 アリオの目は殺気立ち、セーレを射竦めた。

 セーレは一瞬、驚いたかに見えたが、やがて嗤いを押し殺すそぶりになった。

「やっぱりそうだよね? たとえお友達になったレイラが居ても、目的の邪魔になるなら躊躇しない。……それが、ボクの知っているアリオだよ。優しさと残虐の狭間で苦しむ姿こそ、アリオにふさわしい! それでこそ、絶望を象徴する魔銃『ブルトガング Blutgang』の持ち主!!」

 パチン! と、セーレは指を鳴らした。

 すると、突然。

 カタカタと車輪が回る音と共に、何処からともなく馬車が現れた。

 御者は体格が良く、夏だというのに重々しいレインコートを羽織っている。

 シルクハットを目深にかぶり、表情を窺い知ることは出来ない。

「やあ、アガレス」

 セーレは親しげに声をかけた。

「これは、これは、セーレの若君。ご機嫌麗しゅう……」

 アガレスは帽子を取って恭しく挨拶をした。アガレスは彫りの深い顔に皺が刻み込まれた初老の男性だった。

「それが、例の人間ですか?」

「そうだよ!」

 答えながらセーレはアリオに向き直った。

 その表情は嬉々としており、それこそ悪魔的な笑みを浮かべている。

「さあ、アリオ! 世界の欠片を手に入れるか……それとも、諦めてこの馬車に乗るか……決断して!」

 悪魔とは『契約』という決断を人間に迫る存在だ。

 無邪気に笑っているが、今のセーレは悪魔そのものだった。

「決まってるでしょ……」

 静かに言ったかと思うと、アリオは勢い良く立ち上がった。

 その手には何処から取り出したのか、銃が握られている。

「ほう……人間の癖に異空間から銃を取り出せるのか。……興味深い」

 銃を向けられてもアガレスに動じる気配は無い。それ所か、感嘆の声を上げた。

「やめてよアリオ。乱暴だなぁ……」

 言いながらセーレが銃に触れると、アリオの手から銃は掻き消えた。

「まあ、アガレス、そういう事だからさ……。呼び出しといて悪いんだけど、帰ってくれる?」

 悪びれる様子も無くセーレは言った。

「何を仰いますか、若君。若君の壮健なお姿を拝見できて、アガレスは嬉しゅう御座います」

「ありがとう、アガレス。お父様とお母様に宜しく伝えておいてよ」

「畏まりました」

 そう言うと車上のアガレスは鞭を振るい、馬の嘶きと共に馬車が動き始めた。

 馬車は遠ざかるにつれて蜃気楼の様に存在が不確かになり、揺らめきながら消えた。

 セーレはアリオに向かうと、声高に宣言した。

「さあ、アリオ。今度こそネオ・カサブランに向かうよ!!」

 

×   ×   ×


 ヴィネアの音楽祭最終日の夜……。

 イベントを控えたレイラがネオ・カサブランへ入ると、そこにいつもの喧騒は無く、客も一人も居なかった。

 かわりに……。

 クラブの中にはレイラの知らない護衛たちが多数、控えている。

「今日のイベントは何もかもが中止ですぜ……」

 声に振り向くと、そこには顔中を包帯でぐるぐる巻きにしたゼブが立っていた。

「どういう事?」

「へへ……ドン・ニコラが『特別な客』をもてなすんで、今日は貸切でさぁ。あの護衛たちは大陸の東から来たアサシンと呼ばれる連中で、ドン・ニコラが新しく雇ったんです……。わっちは商売があるんでこれでお暇しますが……」

 ゼブはレイラを品定めでもするかの様にジロジロと見た。

「あんた……キレイだなぁ……それに強い」

「用件があるなら早く言って!」

 纏わりつく視線を嫌い、レイラの口調が強くなった。

「ヒヒ。お強いレイラさん……ドン・ニコラが部屋でお待ちですよ」

 ゼブは言い終わると、足早にその場を立ち去った。

 ──『特別な客』?

 レイラの疑問はすぐに解けた。

 VIPルームを訪れたレイラにドン・ニコラがアリオたちの映像を見せたからだ。

 戦うアリオの姿を見て愕然とするレイラにドン・ニコラは語りかけた。

「レイラさん、この少女を消して下さい」

「え!? でも……」

 返答に困ったレイラをドン・ニコラは見逃さなかった。

「どうしました? レイラさんはこの少女をご存知なのですか?」 

「……いえ。知りません」

「うん、うん。レイラさんはイベントで忙しくて大変でしたからね……。裏稼業の仕事は全部ダヴィデに任せていたのですが……この通りです」

「……」

「レイラさん、わたしの為に働いてくれますね?」

「……はい」

「それは良かった。レイラさん、貧民街の事……お忘れなく……」

 言い終わると、ドン・ニコラはネオ・カサブランのフロアを見た。

 フロアではちょうどアリオが乗り込んで来た所だった

「来ましたよ……しっかり戦って下さいね」

 ドン・ニコラは立ち上がると、レイラの耳元で囁いた。


×   ×   ×


 ドカッ!!

「うぅ……」

 真紅のドレスが舞う度に、アサシンたちは吹き飛ばされ、苦悶の呻き声を上げる。

 華奢な身体つきからは想像も出来ない、重い拳撃と蹴撃。

 その姿は悪魔を引き連れた死神そのものだった。

 アサシンたちは己の武器を披露する事さえ出来なかった。

 アリオに蹴散らされたアサシンたちは身体を引き摺りながら出口へと逃げ出す。

「ちょっと! あんたも手伝いなさいよ!」

「なんで? ボクはただの傍観者……一緒に居るだけでもありがたく思って欲しいな」

 涼しく言ってのけると、セーレはフロアの中心に立った。

「ここが不穏なオーラの源流、ネオ・カサブラン。きっと、元凶のドン・ニコラは世界の欠片を持ってるよ」

 セーレは顔を上げ、意地悪そうな笑みを浮かべた。

「さあ、アリオ。願いを叶えるために戦わなきゃ!!」

 そう言うとセーレはアリオの目前から掻き消えた。

「!? ちょっとセーレ!! ……ッ!?」

 セーレの名を呼びながら、アリオはその場を飛び退いた。

 バシュッ!!

 アリオの立っていた場所に斬撃が加えられ、床が切り裂かれている。

 斬撃を躱したアリオは斬撃の飛んできた二階席の方を見た。

 そこにはレイラが立っている。

「レイラ?」

「……」

 レイラは聴音器具を耳に当て、音楽を聴いている。

 そして……レイラの手には引き抜かれた魔導武装のダガーが握りしめられていた。

「仲良くサヨナラしたでしょ……どうして大人しく去ってくれなかったの……?」

 独り言の様に呟くと、レイラはダガーを構えた。

 魔導武装は精神エネルギーを動力として威力を発揮する。

 感受性が豊かなレイラには音楽の才能に加えて、魔導武装を扱う才能もあった。

 レイラがダガーを一振りすれば空間に真空を創り出し、距離のある相手に斬撃を加える事が出来る。それがレイラの扱う魔導武装『ツムジカゼ』の能力だった。

「せめて痛みを感じずに終わらせてあげる……」

 ダッ!!

 レイラは地を蹴り、二階席から飛び降りると同時に斬撃を放った。

 しかし……。

 レイラの斬撃はどれもアリオを捉えなかった。斬撃はどれも正確だったが、それらにアリオの俊敏な動きが勝ったのだ。

 斬撃はアリオを傷つける所か、ドレスを切り裂く事も出来ない。

「なんで?」

 レイラは不測の事態に目を見張った。

 ここまで自分の攻撃を躱した存在は、ドン・ニコラを除いて存在しない。

 顔に焦りの色を浮かべ、レイラは執拗に斬撃を繰り出した。しかし、その斬撃もことごとく躱される……。

 やがて。

「わかったわ……」

 アリオは深いため息をつくと、異空間から銃を取り出し、構えた。

 引き金に指をかけたアリオの脳裏に、歌うレイラの姿が浮かんだ。


×   ×   ×


 その強力な魔法陣を見て、レイラは目を見張った。

 自身も魔導武装の手練れであるレイラは痛い程良くわかった。

 アリオの銃に施された魔導力学……それはレイラのダガーとは比べものにならない程、強力で無慈悲な破壊力を秘めている。

 圧倒的な暴力を目の前にして、レイラの美しい顔が絶望に歪む。

「教えてあげるわ……わたしの使う銃は魔銃『ブルトガング Blutgang』。かつての英雄が所持した剣を熔解させて創り出したもの……この魔銃に施された魔導力学は精神では無く、命そのものを動力源とするの……」

 銃口の魔法陣が更に強い光を放つ。

「ひっ……」

 レイラは小さな悲鳴を上げると、むやみやたらとダガーを振り回した。

 繰り出される斬撃。

 それは、今まで正確だった斬撃とは異なり、アリオを捉えはしない。

「……レイラ。そのダガーを向ける相手……間違ってるわ」

 呟くと、アリオは引き金を引いた。

 銃口の魔法陣から放たれた閃光が一直線にレイラを貫く。

 閃光に胸を貫かれたレイラはその場に舞い、そして落ちた。

 アリオはレイラの遺体に歩み寄ると、もう歌う事のないその姿を見下ろした。

 パチパチパチ。

 響き渡る拍手に顔を上げると、二階席からドン・ニコラが下りて来るところだった。

「同情しているのですか?」

 拍手をしながら、ドン・ニコラはアリオに尋ねた。

「いいえ、同情なんてしてないわ……レイラはあなたに抗うべきだったのよ。それを誰かのせいにして……しなかった……」

「なるほど……確かにレイラは抗う意思すら放棄した脆弱な存在でした。同情の余地などありませんね……」

 ドン・ニコラはどこか納得した様子でアリオに同調する。それがアリオの癇に障った。

「でも……レイラの音楽は大好きだったわ」

 ガチャッ!!

 アリオはブルトガングを構えた。

 ──おや? という表情でドン・ニコラはアリオを見た。

「お嬢さんは一人だと聞いていましたが……もう一人……素敵なお嬢さんが居ますね」

 ドン・ニコラはアリアの姿も視界に捉えていた。

「へぇ~。アリアお姉さまが見えるのね。じゃあ……あなたが世界の欠片の持ち主で間違いないわね!!」

「良い表情ですね……ゾクゾクします! あなたもわたしの『財産』に加えるとしましょう!」

 ドン・ニコラは自身の耳からジェイド・スカルを取り、握りしめた。

 ジェイド・スカルが眩い光を放つと、ドン・ニコラは魔法陣で構築された甲冑を纏っている。

「これは魔鎧『イージス Aegis』と魔斧『ラブリュス Labrys』……あなたが『絶望を象徴する世界の欠片』の持ち主なら、わたしは『強欲を象徴する世界の欠片』の持ち主です」

 ドン・ニコラは両手を広げ、アリオへ攻撃を促した。

「さあ、命の削り合いをしましょう!!」

 言われるまでも無く、アリオはドン・ニコラへと向かって閃光による銃撃を放つ。

 しかし、その閃光は魔鎧イージスに阻まれてしまう。

「無駄ですねぇ……!」

 ニコニコと嗤いながらドン・ニコラは魔斧ラブリュスを振るった。

 巨大な火炎球がアリオを襲う。

 ドッ!!

 火炎球はアリオを飲み込み、そのまま建物を貫通した。

 ネオ・カサブランから飛び出た火炎球はヴィネア中心部の広場で火柱へと変わった。

 崩れる建物。

 火だるまになる人々。

 音楽祭で賑わう広場は途端に阿鼻叫喚に包まれた。

 そして、人々はさらに驚愕した……火柱の中から二人の少女が出てきたからだ。


×   ×   ×


 アリオを守る存在……アリアは魔法陣の防御壁を築き、アリオを炎から守っていた。

 ただ、衝撃は凄まじく、壁や地面に叩き付けられ、アリオはダメージを負っていた。

「やってくれるわね……」

 アリオは辺りを見回した。

 混乱し、逃げ惑う人々で溢れかえっている。

 世界の欠片どうしの戦いを続ければ、犠牲はもっと増えるだろう。

 その時。

「アリオってさ、本当に優しいよね。他人なんて気にする必要ないのに」

 頭上からセーレの声がした。

 仰ぎ見ると、上空で美少年の悪魔が翼をはためかせ、笑っている。

「でも、そんなアリオが大好きだよ」

 パチンッ! と、セーレは指を鳴らした。

 黄昏の世界が広がり、人々は消えうせた。

 この黄昏の世界でアリオと対峙する存在はただ一人……。

 アリオはネオ・カサブランを見た。ちょうど、その出入口からドン・ニコラが出てくる所だった。

 ドン・ニコラはセーレの姿を認めると、再び不敵な笑みを浮かべた。

「黄昏の世界とは、お洒落ですね!!」

 ドン・ニコラは今度は火炎球を放つと同時に、矢の様な速さで地を滑り、アリオとの距離を詰めた。

 火炎球が着弾するのと同時に、アリアに向けて斧を振り下ろす。

「お姉さま!!」

 アリオの叫びが黄昏の世界に響く。

 アリオを守る為に魔法壁を構築していたアリアは、無防備に見えた。

 しかし……。

 アリアはドン・ニコラの攻撃を舞でも舞うかの様にひらりと躱した。

 ズサッ!!

 魔斧ラブリュスは勢い余り、地面へとめり込んだ。

「どうやって躱した!!?」

 勝利を確信していたドン・ニコラは目を見開いた。

 そして、ドン・ニコラが慌てて態勢を立て直そうとした時、背後からアリオの声がした。

「アリアお姉さまにやいばを向けてんじゃねーよ」

 吐き捨てる様に呟くと、アリオは右手でブルトガングを構えた。

 アリオの右隣にはアリアもまた、左手に銃を構え、立っている。

 アリアの銃は色を違えたブルトガングだ。

「お姉さま、感謝いたしますわ」

 二つの銃口が並んでドン・ニコラを捉える。

 アリオとアリアの前に今までとは比べものにならない、巨大な魔法陣が現れた。

「バイバイ」

 アリオが呟き、引き金を引くと、同時にアリアも引き金を引く。

 アリオとアリアの放った閃光は混じり合い螺旋状となって、ドン・ニコラを鎧ごと貫いた。魔法陣には亀裂が生じ、魔鎧イージスは程なく霧散し、魔斧ラブリュスもまた、消え去った。

 後には瀕死のドン・ニコラが横たわっている。

 胸にはぽっかりと孔が開き、血が噴き出していた。

 口からも鮮血を溢れさせてなお、ドン・ニコラは嗤っていた。

 死にきれない様子のドン・ニコラをアリオは見下ろした。

「母の言った通り……全てを手に入れ、思うが儘、純粋に生きた。今さら何も後悔は……」

「……去ね」

 ドン!

 ドン!

 ドン!

 末期の言葉を銃声が掻き消す。

 ドン・ニコラの頭部は原型を留めていなかった。


×   ×   ×


 翌日。

 広場の爆発騒ぎと、ドン・ニコラの死でヴィネアの話題は持ちきりだった。

 ただ、人々が最も惜しんだのは、DJレイラの死だ。

 今も、カフェテラスでは若いカップルがレイラの死を悼み、献花に向かおうと相談している。

 アリオはカップルを横目に、ティーカップを口へ運んだ。

「元気ないね」

 悪魔はふいに現れる。

 セーレは突然、アリオの視界に現れ、目の前の席に座った。そして、テーブルにドン・ニコラが付けていたジェイド・スカルのピアスを置いた。

「これで後七つ……。世界の欠片がすべて揃ったら、再び時計は動き出すけど……本当にそれで良いの?」

 いつになく真剣な声色でセーレが聞いた。

「構わないわ」

 アリオは答えると店員を呼び止め、セーレの為にアップルパイとアップルティーを頼んだ。

「やったー!! アリオ大好き!!」

「昨日のお礼よ」

「お礼?」

「黄昏の世界の事よ……。おかげでアリアお姉さまと戦えたわ……」

 アリオは隣に座るアリアを見た。

「……お姉さま、海を見たくありませんこと?」

 そう言うと、アリアは立ち上がった。


×   ×   ×


 アリオはレイラと遊んだ砂浜を歩いた。

 道すがらすれ違う貧民街の住人たちに元気が無いのはきっとレイラが亡くなったからだろう。

 日傘を差し、花束を持ったアリオとアリアの横を子供たちが駆け抜けて行く。

 子供たちの甲高い声が過ぎ去ると、静寂の中でさざ波の音だけが聞こえてくる。

「絶望に花束を……」

 そう呟くと、アリオは海へと向かって花束を投げた。

 花束は波間に漂い、やがて遠くなる。

 見つめていたアリオは振り返った。

「さあ、お姉さま。行きましょう!」

 太陽を背負い、満面の笑みで言うと、アリオはアリアの手を引いて歩き始めた。


エピローグ 『セーラー服と少女』

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