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Nothing But Requiem  作者: Nothing But Requiem
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第五話 『ドン・ニコラ』

最愛の人を失い、絶望と怒りの中で少女は悪魔と出会う。

悪魔は魔銃『ブルトガング』を渡し、「望むなら叶えなきゃ」と囁いた。

少女は全てを失い、代わりに絶対的な暴力を手に入れた──。

暴力と理不尽が溢れ返る世界で、少女は今日も銃声をかき鳴らす。

愛する人と再び出会う為に。

第五話 『ドン・ニコラ』

 


 歪んだ人間は二種類に分けられる。

 元々、歪んだ性格の持ち主だった場合と、環境によって歪められた場合だ。

 ドン・ニコラは後者だった。

 ドン・ニコラは商業都市として栄えるヴィネアとは程遠い寒村で生まれた。両親は厳格であり、特に父親は村の役人を務め、清廉潔白な人柄で村中から慕われていた。厳しくとも温かい家庭で育ったドン・ニコラは良く笑う少年だった。

 幼少期のドン・ニコラは友人たちから『ニコ』という愛称で呼ばれた。それは、ドン・ニコラという名前が由来ではなく、ドン・ニコラがいつもニコニコと笑っているからだった。思いやりがあり、優しい少年……それがドン・ニコラの評判だった。

 貧しくとも、何一つ不満の無い生活……それが、ある日一変する。

 冬が迫ったある日、寒村を王都の役人が訪れた。役人は父親の上役であり、歓待の席で当然の様に賄賂を求めたのだ。

 大陸の寒村では王都から視察にやって来る役人に対して、税金や軍役で便宜をはかって貰う為に賄賂を渡す事が通例となっていた。しかし、ドン・ニコラの父親はその性格から、要求をつっぱねたのだ。そもそも、冬を控えた寒村に王都の役人を満足させるだけの金銭など、用意出来る筈も無い。

 上役は激怒し、王都へ戻るとドン・ニコラの父親が『村人を虐げ、搾取している』と王府で上奏した。

 瞬く間に王都から軍隊がやって来ると、父親を捕まえ、裁判無しに吊るした。

 遺体は見せしめの為、埋葬されず、そのままにされた。

 腐り、鳥につつかれる父親の姿を、ドン・ニコラは母親や村人の制止を振り切って毎日眺めた。いつしか……父親の遺骸をニコニコと眺めるドン・ニコラを不気味がって、誰も声を掛けなくなった。

 それからの生活は悲惨を極めた。

 寒村で男手を失った母親は、生き抜く為に身を粉にして働いた。昼は農作業や畜産業に従事し、夜は娼婦となって金銭を得る。

 幼いドン・ニコラも従僕として働きに出た。

 薄気味の悪い笑みを浮かべながら、ドン・ニコラは重労働に堪えた。

 来る日も来る日も……。

 しかし、そんな努力も虚しく、幾つかの季節が過ぎた頃には、母親の身体はすっかり病魔に侵されていた。

 自身の最期が近いと悟ると、母親はドン・ニコラを病床の枕元へと呼んだ。

 震える手でドン・ニコラの頭を撫でると、母親は小さな宝石箱を取り出した。

「これが……今の全財産よ……ニコ。これでこの村を出て、好きに生きなさい」

 息子と共に、爪に火を灯す思いで貯めた財産。それを使い、愛する息子にこの村を出て、自由に生きて欲しい……それが母親の願いだった。

「ニコ……全てを手に入れなさい。あなたが望むもの、全てを……」

 それが辛酸を嘗め尽くした母親の最期の言葉だった。

 ドン・ニコラは無言になった母を見下ろし眺めていた。

 骨と皮だけになった遺骸。そこにかつての母の面影は無い。

 やがて、ドン・ニコラは宝石箱を手に取り、中を見た。

 当然ながら大した物など入ってはいない。

 母親とドン・ニコラの稼ぎなんてたかが知れている。この村を出て行くなど到底、無理だった。

 数枚の硬貨に、まがい物のペンダント……それらに混じって、ドン・ニコラは翡翠で出来た髑髏のピアスを見つけた。

 どういった経緯で母親がこのピアスを手に入れたのかは解らない。

 ただ……。

 ドン・ニコラはこのピアスに強く惹かれた。

 手に取ってみると、ピアスはドン・ニコラに語りかけてきた。

 言葉で語りかけて来る訳では無い。

 髑髏のピアスはドン・ニコラの心の奥底へ直接語りかけてきた。

 どういった代物なのか。

 どう扱えば良いのか。

 そして、得る力の対価として何を差し出せば良いのかを髑髏のピアスは教えてくれた……。

 ドン・ニコラが手にした髑髏のピアスは『世界の欠片』と呼ばれる。

 世界の欠片は魔導武装の中でも特別な存在であり、何かを渇望する者の前に必然的に現れて強大な力を与えるのだ。

 それらは等しく翡翠の髑髏が装着されている事から、『ジェイド・スカル』とも呼ばれていた。

 ドン・ニコラは全てを理解すると、ジェイド・スカルのピアスを握りしめた。

 ジェイド・スカルはドン・ニコラの掌中で鮮烈な輝きを放った。

 次の瞬間には輝く魔法陣がドン・ニコラの身体を覆うように展開される。

 魔法陣はまるで甲冑の様に変形し、ドン・ニコラを覆った。そして、ドン・ニコラの手には両刃の斧が握られていた。両刃斧の刃の部分では炎が燃え盛っている。

 魔鎧『イージス Aegis』

 魔斧『ラブリュス Labrys』

 それが、ドン・ニコラの得た強欲を象徴する世界の欠片の能力だった。

 魔鎧『イージス Aegis』はどの様な攻撃も飲み込み、魔斧『ラブリュス Labrys』は敵を紅蓮の炎の中に屠る。

 忘れていた高揚感がドン・ニコラを支配した。

 ドン・ニコラは外へ出ると、母が眠る家屋に向かってラブリュスを一閃させた。

 突然、炎が立ち上り、瞬く間に家屋を包んだ。

 ドン・ニコラはその光景をニコニコといつもの表情で眺めた。

 しばらくすると、異変に気付いた村人たちが出てきた。

「早く消せ!! 母親はどうした!?」

「ニコ!! 付け火は重罪だぞ!!」

 怒声が飛び交い、ドン・ニコラは強く肩を掴まれた。

 ドン・ニコラは振り返ると不思議そうに村人を見た。

 そこには父を見殺しにし、母から春を買った連中が居る。

 村人たちは一様に敵意を秘めた眼差しでドン・ニコラを睨みつけていた。

「あははははは!!」

 突然、ドン・ニコラは嗤った。

 可笑しくて、可笑しくて、仕方がない。

 ──父も、母も、こんな村に縛られて死んだのか……。

 ドン・ニコラは魔斧を振り上げた……この哀れな村を両親との思い出ごと焼き尽くす為に。


×   ×   ×


 村を焼き尽くすと、ドン・ニコラはその足で王都へと向かい、家族を破滅へと導いた父の上役を探し出した。

 上役は王府の高級官僚へと出世しており、閑静な住宅街に豪邸を構えていた。

 ドン・ニコラは一家団欒のタイミングを見計らって衛兵を殺し、乱入した。

 衛兵の中には魔導武装を扱える者も居たが、世界の欠片を扱うドン・ニコラにとって、敵では無かった。

 広いリビングに高級官僚とその家族を集めると、まず子弟を殺し、次に泣き喚く妻を殺した。

「何故……こんな事を……政治に不満があるのなら、王府に……」

 この期に及んでも、高級官僚は自身に起きた災厄の理由に思い当たらない様子だった。当然だろう……小さな寒村の家族を破滅に追い込んだという自覚なんて無いのだから。

「……対価を受け取りに来ました」

 感情のこもらない声で言うと、ドン・ニコラはラブリュスを一閃させた。

 驚いた顔の生首が転がり、主を失った胴体が鮮血を噴き出しながらその場に倒れた。


×   ×   ×

 

 そして、今……。

 ドン・ニコラはネオ・カサブランのVIPルームで変わり果てたダヴィデと対峙していた。

 いつもの様にソファーに深く腰掛けたドン・ニコラの目の前……テーブルの上にはアリオたちを襲撃したダヴィデの生首が置いてあった。

 ガタ……。

 ドン・ニコラは立ち上がると、ダヴィデの髪を掴み持ち上げた。そして、人差し指と中指をダヴィデの右目に突き立てると、眼球を抉り抜いた。

 眼球を持ったドン・ニコラは部屋の片隅に置かれた古めかしい映写機のもとにやって来ると、試験管の様な部品のなかへその眼球を入れた。映写機の起動スイッチを押すと、ドン・ニコラはハンカチで指を拭き、ソファーに座りなおした。

 カタカタ。

 輪転機が回り始めると、薄暗い部屋が仄かに明るくなる。

 やがて、映写機は壁に掛けられたガラス盤に映像を映し始めた。

 そこには真紅のドレスを纏い、銃を向けるアリオの姿が映っていた。


第六話 『世界の欠片』

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