I'm realize
残酷な描写を含みます。
それから、なにがあっても、
どうか心を動かされないように。
彼らに命などなく、心もないのだから。
前狂言
(血まみれで四肢を欠損している「なにか」が悲痛な声をあげる)
あぁ、あぁ、なんだこれは。
これはなんだ、いったいなんの虐殺、屠殺だ。
俺たちが何をした、なにもしていない。
どうして俺たちを殺すんだ、なにもしていない。
俺たちが嫌いになったのか、俺たちを作った人。
俺たちを作って、最期にはこうしてみんな殺すのか。
俺たちは(「なにか」の首が飛ぶ)
I'm realize
あー、もしもし?もしもし。
貴方は?どうしてここに。このゲームは公表されていないのに。
どうやってここへ。なんのために?
あー、それはいいか。どうせこのゲームは廃棄されるし…
その前に一人くらい遊んでくれる人がいれば、
「彼ら」も救われるだろうか…あいや、なんでも。
オーケー、じゃあやってみよう、このゲームはね、
なんでもない、普通のRPGだ。モンスターを操って、
同じモンスターを倒して、ボスを倒せばゲームクリアだ。
それだけでいい。なにも…その、考える必要はない。
敵を倒して。レベルを上げて。ボスを倒すんだ。
いいね。あー、仲間だね。仲間のモンスターを紹介しよう。
FRIENDS
1人目は彼だ。オルトロス、こちらへ。
(双頭の犬、現れる)
彼はオルトロス。ギリシャ神話より、
ゲーリュオンの牛を護る番犬「だった」。
同じく番犬のケルベロス、彼はオルトロスの兄でね…
いや、ここまでにしておこう。貴方が求めるのは
難解さや奥深さではなくて面白みだと思うからね。
2人目、ドラゴン。
(大きな竜、現れる)
彼は死なない。永久不滅、輪の内にあるものだ。
とはいえ不死身ではゲームにならないのでね。
このゲームでは死ぬが。まぁいい。
3人目、ヨハネ。
(聖人、現れる)
彼はキリスト教、まぁゲーム内の世界では喪われているのだがね、
その教えの聖人、まぁ、すごい人だよ。
黙示録、えー、世界の終わりの予言書を書いた人でもあるね…
あいや、これは余談。余談大敵。
この三人だ。これ以上増えることはないよ。どうか仲良くね。
屠殺者
ゲームのプロローグだって?そんなのはないよ。
いつだってそうだろ、それに、説明したって理解できない。
あいや、これは失言、気を悪くされたならごめんなさい。
さ、ここだ。ここに彼らはいる。
途中、雑魚敵も出てくる。何も考えず力をふるえばいい。
あの3人なら大丈夫、負けることはない。彼らは強い。
(敵が二体エンカウントし、戦闘に入る)
敵が出てきたぞ。なにも考えるな。いつもやっていることだろう。
なにも怖がることはない。彼らは生きていない、ただの
経験値だけの器だ。強くなるための糧でしかない。
思うがまま、力をふるうんだ、あれは命ではない。
殺すことすなわち、彼らへの救済だ。
(オルトロス、俊敏な動きで敵のかたわれの首に食らいつき、
食いちぎって、一心不乱に捕食する)
(敵のもうかたわれ、ひどく怯えて混乱する)
あぁ…あれは見ないほうがいい。
(ドラゴン、炎を吹いてかたわれを燃やす、
かたわれ、悲痛な声で叫んで怯えて倒れる)
さぁ経験値だ。あー、オルトロス。そいつはもう死んでる。
だからいつまでも内臓を貪って…あー、腹が減って。じゃあ続けて。
ドラゴン、そう、いい感じだ。それで次もね。
ヨハネ…何をしてる?死者への祈り?アハハ、バカだねぇ。
彼らに命なんてない。ただの化け物、愚かな傀儡だよ。
作られたもの、しょせん生まれて死ぬものでしかないのだから。
さぁ行こう。(オルトロス、死体を貪りながら歩く)
(ドラゴン、死体の上を歩きづらそうに踏みつけながら進む)
(ヨハネ、これらの態度に眉をひそめながら進む)
歓喜の詩
(宝箱を見つける)
おお、なんて素晴らしい世界だ。宝がある。
でも気をつけて。罠があるかもしれない。
あぁオルトロス、いつまでも貪ってないで。もう腹は大丈夫だろう。
(オルトロス、不服そうに咥えた「なにか」の首を放り捨てる)
ヨハネ…どうだい、開けてみてくれ。
(ヨハネ、宝箱を開ける、突如蓋が閉じてヨハネを飲み込む)
ちっ、スプリングトラップだ。あれは敵、そう、ミミックというのだね。
(ヨハネの首がとれて、宝箱の中から咀嚼音が聞こえる、
ヨハネの体、ぐったりと宝箱に身を横たえる)
ヨハネが死んだかい、まぁいい、これで大丈夫だろう。
(体だけのヨハネが動いて、空っぽの首から頭が生え、
元どうりに成形される)
さぁ、ドラゴン、やってやるといい。
(ドラゴン、宝箱を掴み蓋を開けて逆さまに向け、手を突っ込む、
「中身」がぐちゃりと落ちてくる)
(オルトロス、素早く「中身」に食いつき、ヨハネの古い頭ごと
食いつき、貪り、くらい尽くす)
さぁ気を取り直して。行こう、もうすぐ果てだ。
(エンカウントした敵を虐殺しながら先へ進んでいく、
敵はひどく怯えるか、その前に死んでいるか、
助けを乞うている)
その終わりのない屠殺の果て
着いたぞ、あれだ。あれが全ての源、災いの種だ。
なんの災いかって?何でもいいだろう、理由なんて。
RPGには倒すべき敵とその理由があればいいのだから。
「あぁ、あぁ、やめてくれ、俺を殺さないでくれ。」
うるさいね。君は死ぬべきだ、これはゲームなのだからね。
「ゲームでもなんでもいい。俺たちはここに生きて、
存在している。痛みも感じる、喜びに身をよじれる。
俺たちには心があって、それはからっぽではないんだ。」
いいよ、もう。みんな、あれは敵だよ。
(オルトロス、素早く食いつき、片腕をもぎとって頬張る)
「うあ、あああ。やめてくれよ、痛い、痛い。痛い、死んでしまうよ。
やめてくれ。俺は死にたくない。」
(ドラゴン、尻尾で叩きつけ、倒れた敵に馬乗りになり
爪で引き裂く、突く、ブレスで燃やす、噛み付く、など
暴虐の限りを尽くす)
(オルトロス、片腕を捨て、さらに噛み付いていく)
(ヨハネ、これを見てひどく落胆している)
「う、ああああ。やめろやめろ。
死にたくない、死にたくないぞ、俺は。」
(敵、振り払って抵抗を試みる、しかし
すでに四肢欠損、出血多量、すぐに力尽きる)
「あぁ、あぁ。これはなんだ。なんの虐殺だ。
俺たちはなにもしていないのに。」
うるさいね。さっさと死んでおくれよ。
「なりそこない」ごときが。人前で物を言うんじゃないよ。
「お前、お前、お前だ。クリエイターめ。
俺たちを、創って、こうして生かして。
最期にはこうして殺すのか。こうなのか。
俺たちは生きているんだ。死にたくーー」
(オルトロス、首をはねる、飛んだ首を空中でキャッチ、
そうしていつものように食べる)
あとには血と、死体しか残さない、とね。
終局
ゲームクリアだ、お疲れさん。
面白かったかい。そうか、それは良かった。
これで私も心置き無くこのゲームを棄てることができる。
本当に、プレイしてくれてありがとう。
なんだって。彼らがどうなるのか、だって。
もちろん、消える。それは死ぬ、ともいうね。
まぁ、オルトロスにいたぶられて喰われるより
マシな殺し方だよ。それはね。
彼らを作ったのは私だよ。
そりゃあ、ゲームを作るのだから敵も作らないといけない。
だが、あれはやりすぎたね。生への執着なんてのはいらなかった。
戦いには無用な感情だね。愁い、というのは。
ともかく、早くここから出ていってくれないと、
私はこのゲームを消すことができない。
メディアによって開かれているものは
動かすことが出来ないのでね…だから。
さぁ、早く。
どうした。何故そうしない。
ばかな。彼らの身を案じて、とでも?
いいかい、彼らに心なんてない。
ただのゲームに登場する、ありふれた敵の一つだ。
死ぬべき存在、それでしかないものだ。
では聞くが。お前は今までに食べたパンの数を覚えているのか。
覚えてなんかいないだろう。
ならそんなことをいうんじゃない。
ばかみたいに見えるからね。
君がどうしようと、彼らは救われない。
さぁ、いってくれ。瓦解だ。全てが終わる。
彼らを案じるなら、覚えておくことだね、
このゲームのことを。
これから他のゲームで殺す敵のことを。
全ての命のために。
人生万歳。生命讃歌を歌おう。
僕は常に疑問に思っていたのですよ。
ややあってゲームを遊んでいて。
私は敵を殺すのですが。
敵はどう思っているのでしょう。
何を思って死んでいっているのか。
本当は死にたくなんてないんじゃないのか。
戦いたくも、存在すら。
彼らにものを言う力はありません。
ゆえに、その命が消えることに
私たちに抵抗は一切なく。
むしろ達成感、あるいは喜びすら。
彼らが敵であるという絶対的な理由にかこつけて。
命を奪うという行為の重さに目を背けている。
そしてそれは、罹患者の考えなのですね。