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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
支配少女とキョウダイ

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Ⅱ67.支配少女は不意打ちされる。


「では、今から僕が言う言葉を筆記して下さい。最初は簡単な言葉から始めますから」


紙とペンは僕らのを使って下さい、とステイルが自分とアーサーのペンをファーナム兄弟に貸す。

まさか人に貸すとは思っていなかった紙とペンはどちらも新品同用だったから、二人ともおっかなびっくりに受け取っていた。「使って良いの?」「後で請求とかしないよね……?」と若干疑いの色もある。

特に紙は消耗品ではあっても全くの安物ではないから躊躇うのはわかる。こちらとしても山育ち三人が大盤振る舞いはできないけれど、こうしないと字を書く練習もできない。

流石に休み時間の度に外に出て地面にガリガリ書くわけにもいかない。湯水のように使えた前世と今世は違う。それでも製紙業が回っている時代なことがせめてもの救いだ。写本製本や印刷技術とかも最低限あってくれたのは、やはり流石乙女ゲーム世界といったところだろうか。

我が国の場合は、特殊能力者がやってくれている場合もあるから比較的に産業も早いうちに回ったけれど。……前世での製紙だの製本だのの歴史はどうだったのだろう。

こうしてこの世界で生きていると、紙の束があんなに格安とか信じられない。こっちの世界では、流通はしてるし高価とまではいかないけれど決して庶民が無意味に掃いて捨てられるほど安物でもない。


「ご心配なく。紙は父さん達の仕事関係で貰えるので」

さらり、と新たな設定を盛り込むステイルに思わず私は顔が強張る。

アラン隊長の御家族が雪だるま式に設定更新中で申し訳ない。だけど確かにお金持ちだと思われずに紙を提供するにはそれが一番わかりやすいかもしれない。後でアラン隊長に製紙業の仕事人がご兄弟に増えましたと報告しないと。

瞬きを忘れたままぎこちなく頷く彼らに、私からも念を押す。


「ただし、提供するのは今日から三日間だけです。紙は私達も節約してますし、それ以降からは自分達で買って下さい」

安ものではない、あくまで今回限り、と。

そう意味を込めて告げれば、今度は大きく頷いてくれた。ディオスもクロイもサラリとした紙の質感を確かめるように何度も表面に指を滑らせては撫でている。試験の時だって問題用紙も答案用紙も紙だったし、珍しくはない筈なのに。

ステイルが「では早速」と簡単な言葉から口頭出題しても、文字のわかるわからない関係なくペンで最初の一刀が下りないようだった。それでもステイルが「書かないならその度に一枚没収します」と容赦なく言ったら慌てて同時に書き出した。やっぱり授業で習った文字や単語はちゃんと覚えてる。

そう考えながらステイル先生と双子生徒の授業風景を眺めていると、今度は私の正面から「あのっ……」とか細い声がかけられた。振り向けばぱっちりとした灰色の目と視線がぶつかる。しまった、彼女を置いたままだった。


「ジャンヌちゃん、私は何を書けば良いかしら……?」

「!ご、めんなさい。先ずは今日まで学んだ項目内容をお願いします……」

わかったわ、とファーナムお姉様が慌てる私に優しく笑みを返してくれた。


昼休みになり、私達は高等部にいる彼らのお姉様の教室に来ていた。

ディオスとクロイも連れて。お姉様は身体が弱いからあまり移動教室もさせたくはないとのことで、私達が全員お姉様の教室にお邪魔することになった。

ディオスとクロイも中等部の生徒が高等部に乗り込むのは気が引けるとかで躊躇っていたけれど、私達が行くと行ったらすんなり同行してくれた。やっぱり男の子のステイル、そして体格も良いアーサーが居て心強いお陰かなと思う。……セドリックの特別教室と比べたら気楽だと思うのだけれど、まぁあちらは王弟が味方だから堂々とできたのだろう。

お姉様の教室は、思った以上に昼休みはガラガラだった。全員外に食べに出ている、というのもあるけれど話によるとセドリック効果で殆どが食堂に集まっているらしい。やっぱり年齢が近いからか、セドリックへの興味も男女関係なく大きいようだ。

……まさか彼女の弟達が王弟と毎回食事をしているなどとは、クラスの人達も思いもしないだろう。ディオスとクロイは基本的にお姉様と朝一番に登校して、帰りもお姉様を迎えに行く為に他の高等部生徒より後に帰っているから鉢合わせることは殆どない。

何はともあれ、高等部の生徒が少ないのはありがたかった。突然中等部の生徒が来たら目立ってしまう。今朝もファーナム兄弟のクラスに突撃したせいか、一限と二限の間にも彼らのクラスに行ったら凄い注目を浴びてしまった。そりゃあ生徒が生徒に教えていたらそうなるだろう。しかも、二限目が男女別の選択授業だったから、私一人での突入。ステイルとアーサーには心配かけたけど、移動とはいっても同じ学年のクラスだし、何より一分一秒も無駄にはしたくなかった。

ステイルがファーナム兄弟の勉強を見てくれている間、私は彼らのお姉様の勉強を見ていた。本当なら啖呵を切った私がディオス達に勉強を教えるべきだったのだけれど、ステイル曰く「俺が高等部内容を教えられるのはおかしいので」と二人の教師役を買って出てくれた。確かに彼は私と違って答案用紙で中等部以上の問題は解かなかったし、それを解いてしまった私の方がお姉様の面倒を見ることが自然だ。


「本当にフィリップもジャンヌも頭良いんだな。俺は全然わかんなかった」

もぐ、とステイルと交換したサンドイッチを囓りながらパウエルが呟いた。

昼休みにパウエルと待ち合わせをしていた私達だけど、ファーナム姉弟に勉強を教える為にお昼は高等部の教室でとお断りしたら、そのままついてきてくれた。「どうせ俺の教室だし」とわざわざそのまま教室までとんぼ返りしてくれた彼は本当に優しい。

パウエルは、最初から特待生は諦めるつもりらしい。文字の読み書きや簡単な計算はできるけれど、まだ高等部の授業にはついていけないと言っていた。本人的には今の生活に不満もないからあまり差し迫ってもいないらしい。ただ授業は理解したいとのことで、今もご飯を食べながら中等部範囲のステイルの授業と私の高等部授業をアーサーと一緒に観覧している。

ファーナムお姉様と同じクラスだから授業範囲をパウエルからも詳しく聞けるし、こちらとしては大助かりだ。……至近距離にパウエルがいると、何とも落ち着かないけれど。

もうゲームとは人生も違う別人とわかっていてもパウエルはパウエルなんだもの。憧れの第三作目の登場人物様だ。

パウエルの言葉に「そんなことないわよ」と笑って返しながら、ファーナムお姉様の授業項目内容に視線を落とす。するとパウエルもお姉様の書いた授業内容に視線を落としながら「ああ、それもあったな」「あと昨日は……」と補足をしてくれた。お姉様も授業は真面目に聞いているから殆ど穴はないようだ。

項目内容を見れば、高等部も中等部と同じで基礎的な内容ばかりだった。年齢に於いてある程度の知識差はあるけれど、それでも学校や教師に教わってこなかった子達だから中等部とも授業範囲は変わらないという判断だ。これなら試験内容すら中等部と高等部は同一の可能性も、……実力試験みたいにまた両範囲の可能性もある。取り敢えず授業内容の理解を深めたら、実力試験の内容も講習してあげたい。

そう考えているとファーナムお姉様はペンを走らせながら「それにしても」と少し可笑しそうな声を出して笑った。


「まさかクロイちゃんのお友達とパウエルがお知り合いとは知らなかったわ。すごい偶然ね」

ふふっ、と笑うお姉様は一度だけ弟達に目を向けた。

まだディオスがこっそり学校に通っていたことを知らないお姉様からすれば、私達は学校で知り合ったクロイと友達になったと思っているのだろう。お姉様の言葉にパウエルがきょとんと顔を上げた。サンドイッチの最後の一口を飲み込んだ彼は、一言言おうとして口を開く。けれどそれを話すより先に、ツンとした声でディオスがステイルの口頭出題を書き出しながら言葉を返した。


「違うよ。クロイ()()()()()()()()友達だっただけ。……大体なんでその人までくっついてるんだよ。いつもは昼休みは姉さんを放ってるくせに」

むすっ、と不貞腐れるように低い声を出すディオスを、次にはクロイが肘で突く。

誤魔化すように「僕がディオスにそう話したんだ」と言いながら、やっぱりディオスと同じように眉を寄せてパウエルを睨んだ。どうやら二人もお姉様とパウエルが授業以外一緒にいることは聞いているらしい。……取り敢えず昼休みにお姉様とパウエルが一緒にいないのは私達の所為だし、本来彼にその義務は全くないのだけれど。

ディオスもクロイも、パウエルに会った時から態度がなかなか悪い。……正確にはパウエルが二人に名乗ってから、だろうか。ディオスは明らかに敵意満々で野良猫みたいに睨んでいたし、クロイも冷ややかな眼差しで見上げていた。

二人の相変わらずな反応にパウエルは最初と同じように首を捻る。お姉様も困ったように肩を竦めながらパウエルに謝っていた。「いや良いけど」と一言返したパウエルが、まじまじと改めて紙に視線を落とす二人を凝視する。

「なぁ俺、お前らに何かしたか?」



「「してないし、今後も何もしないで良いから」」



ここで声合わせちゃうか‼︎‼︎

まさかの台詞が重なるのがここで‼︎完全に二人の総意ということなのだろうけれど、パウエルも言葉よりも声が綺麗に重なったことに目を丸くしていた。

それにしてもほぼ初対面且つお姉様を色々助けてくれたパウエルにその態度は、と思わず私からも「ディオス!クロイ!」と声を上げれば殆ど同時にお姉様からも「二人とも失礼よ」とお咎めが入った。


「二人にも話したでしょう?パウエルは見ず知らずだったお姉ちゃんに親切にしてくれた人なの。本当に本当に凄く良い人なのに」

「どうせ姉さんに気でもあるんだ」

「単刀直入に聞きますけど、姉さんのこと好きなんですか?本当にただの親切心って言えます?」

お姉様のお咎めにディオスの爆弾発言、クロイの一刀が間髪入れずに続く。

それどっちも本人に言っちゃいけないやつ‼︎‼︎しかもお姉様の前でとかどれだけ容赦ないの‼︎

口が悪いのは子どもっぽいディオスの方だと思ったけど、クロイもクロイでなかなかだ。もしこれでパウエルがお姉様を本当に好きになっていたら、なかなか困る質問だろう。お姉様も流石に驚いたのか「な、何言ってるの‼︎」と初めて聞く大きさで叫んだ。

とうとうペンを走らせる手が三人でとまってしまう。お願いだからそれだけは止めないで欲しい。どうして勉強会ってどこの世界も雑談会か恋バナになるのだろう。

じろっ、と四つの若葉色の眼差しがパウエルに向けられる。するとそれを受けた彼は一度だけ口を結んだ後に



「?いや、俺もっと大事な人いるし。親切も何も女は守られるべき存在なんだから助けるのは当然だろ?」



⁈⁈‼︎‼︎‼︎‼︎

さらっと。二人からの攻撃なんて可愛いと思えるダイナマイト発言に数秒間全員が沈黙する。……えっ、いま何て。

ぐわわわわわわっ‼︎と一拍遅れて自分の顔が一気に熱くなる。まるでキャンプファイヤーみたいにつむじの先まで熱くて、心臓がどきどきする。ステイルも驚いたのか、口を手で覆ったまま「ゴホッ⁈」と顔を背けて咽せていたし、アーサー達も驚いて口が開いたままだ。ついさっきまで勉強に集中しなさいと言おうとした私まで勉強どころじゃなくなる。

えっ、パウエル大事な人って……えっ!そこ詳しく‼︎‼︎いやパウエルだってもうお年頃だし格好良いし男前だし恋人がいても不思議じゃないけれどどうしようすごく恋バナ聞きたい‼︎取り敢えず大事な人ができたのはおめでとうございますだけど‼︎‼︎いったいどんな女性なのか是非とも詳しく‼︎‼︎

パウエルは全く気にしない様子で頰杖つきながら「そんなこと心配してたのか?」と逆に質問を返していた。

ここはファーナム兄弟が深掘りするかなと、少し悪い期待をしてしまい目を向けてみたけれど二人は二人で開いたままの口で僅かに顔が赤い。そりゃそうだ。

的外れだった上に、パウエルからこんな男前な台詞を聞いたらそうなる。ッというか前も同じようなこと言ってたけど、何なのその男前台詞‼︎ゲームではそんな台詞一回もなかった‼︎

パウエルが格好良過ぎるのと、好きな人がいる発言で私の中で血圧が上がりまくる。嬉しいイベント二個もいきなり投げないで‼︎‼︎

耐えきれずに熱い顔を両手で覆いながらお姉様の前に突っ伏してしまう。じゅわわわわっと熱いおでこに冷たい机が気持ち良い。人前じゃなかったら足もバタつかせていた。


「取り敢えず今はその人のことの方が大事だし、お前らの姉ちゃんには全くその気はねぇから」

安心しろ、と。あまりにも落ち着いた声にちょこっと顔をあげると、パンをパクリと嚙りながら言いのけるパウエルにディオスとクロイの方が真っ赤になって俯いていた。

すごい恥ずかしい誤解していたことに今気が付いたのだろう。揃ってペンを握る手が震えている。むしろそれに対して「姉想いなんだな」と余裕の微笑みを向ける大人っぷりだ。駄目だどうしよう格好良い‼︎‼︎

「大丈夫っすか⁈」と心配してくれたアーサーが私を覗き込む。気分でも?と言われたから、顔が暑いまますぐ上げて自分で顔を扇いだ。大丈夫と返しながらもまだ火照りも心臓ばくばくも消えない。

机にいきなり突っ伏しちゃったことを謝ろうとお姉様に目を向ければ、お姉様はお姉様で「あらあらあら……」と微笑みながら、パウエルに向けてぽわっとした頬で目をきらきらさせていた。

やっぱり女の子は、恋の話が好きらしい。


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― 新着の感想 ―
[一言] パウエルがプライドにのぼせなかった理由はこれかー それと一番の推しに大切な人がいた事で嫉妬とかしなかったプライドにとってはやはり憧れの方の推しなんだな
[一言] 恥ずかしげもなくサラッと言ってしまうパウエル どことなくセドリックを思い浮かべてしまった 信念があるから言える台詞なんですね~
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