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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
崩壊少女と学校

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Ⅱ23.崩壊王女は纏める。


「ほんっとに……本当に本当にすんませんでした……‼」


エリック副隊長……‼!と苦しそうに言うアーサーは頭を抱えたまま俯いて歩いていた。

私とステイルも並んで歩きながらアーサーの様子に苦笑いしてしまう。既に校門で一緒だったクラスの男子達とも別れを告げ、今はエリック副隊長の家に向けての帰り道だ。

下校時間から大分遅くなっての帰りだったから、他に帰り道の方向の生徒も今はいない。途中までは一緒の道だった男子も二人いたけれど、さっきの分かれ道で彼らとも別れたところだった。生徒達の前ではなるべく普通に振舞っていたアーサーも、人目がなくなった途端に長く深い溜息を吐いて肩を落とし、項垂れてしまった。


「大丈夫大丈夫。さっきの子達も良い子達だったし。騎士を慕ってくれていて俺も嬉しいよ」

ははっ、と笑いながらエリック副隊長が反対の手を軽く振った。

さっきの男子達の質問責めタイムで、本当にエリック副隊長は突然のイベントにも拘わらず笑顔で対応してくれた。憧れの騎士、しかも隊長格の一人ということに男子の興奮は収まらなかった。「騎士団でいつもはどんなことしてるんですか⁈」「いつ副隊長になったんですか?!」「騎士って何人いるんですか?!」「何処に住んでるんですか⁈」「武器は何が得意ですか⁈」「一番隊ってどんな隊ですか?!」「騎士団長ってどんな人ですか⁈」「フィリップ達の親戚のアラン隊長ってさっき手を振ってた人ですか⁈」「仲は良いんですか⁈」と次々飛ぶ質問にエリック副隊長は一つ一つ丁寧に答えてくれた。

直前にアラン隊長とハリソン副隊長が早々に去ってしまった上、もう一人の騎士であるノーマンの塩対応を目の当たりにしてちょっと引き気味だった彼らの夢を見事に修復してくれた。

改めてステイルから軽く紹介された時点で「一番隊のエリックだ。フィリップ達のことを宜しくな」と声を掛けてくれるエリック副隊長はもう本当に素敵なお兄さんで、彼らにとっても理想的な騎士だったと思う。全員が憧れのスポーツ選手に会えたような目をしていたもの。

そんな憧れの騎士を前にどんな質問も飽きなかったらしく「フィリップ達はいつから家に住んでいるんですか⁈」「俺らもジャック達と一緒にいつか家にお邪魔してもいいですか⁈」「ジャック達は前はどんな暮らしを」と時々それはエリック副隊長ではなく私達に聞いた方が良いんじゃないかという質問までしていた。

しかも声高に「俺も家の手伝いで鍛えてて!」「俺の爺ちゃん家も山奥で!」「俺、この前裏道で子どもが絡まれてるの助けて!」と個人情報から可愛らしい武勇伝まで叫んでいた。これにはエリック副隊長も若干半笑いだったけれど。

男子生徒の方も、私達を待たせているのを気にしてくれているようにちらちらとこっちの方を確認しながら話していて、気配りできる子達だなぁと思って微笑ましかった。話すテンションは小学生みたいな時もあるけれど、やっぱり目上の人への言葉遣いとか態度とか後は周りや身嗜みに気を遣っているところとかはやはり中学生男子の大人びたところもあると思う。今は特に同じ年齢の子達で固まっているから余計に顕著かもしれない。

学校のない環境だと同じ年齢の子とかが周りにいなかった子もいるだろうし、年下の子に合わせるか、大人に合わせて背伸びをするかと微妙な年頃なのだろうなと思う。この国では成人年齢まであと数年だし。


「いや……!それも、それもなンすけどそれだけじゃなくて‼︎あのっ……ノーマンさんが……‼」

エリック副隊長の返答にもまだ重々しく頭を沈めるアーサーが、彼の名前を苦々しく放った。

自分の隊の、しかも直属の部下がエリック副隊長に失礼な態度を取ってしまったことを気にしているのだろう。確かに、目上の副隊長に対してあれは凄まじかった。

頭に指先を食いこませたアーサーはそのまま「フィリップもっ……ジャンヌも申し訳ありませんでしたっ……」と私達にも深々と頭を下げてくれた。気にしてないと一言返せばステイルが「それより前を向け、転ぶぞ」とすぐに頭を上げさせた。頭を上げた後もアーサーの深い溜息は消えない。


「ノーマンは入隊した時からあんな感じだからな。まぁ八番隊じゃ珍しくもないけど」

「え?ノーマンって騎士団全員にあのような態度なのですか⁇」

笑いながらアーサーをフォローするエリック副隊長に、思わず私から首を傾げてしまう。

今まで私が騎士団の中で見てきたノーマンは少なくとも凄い丁寧で謙虚な人だったし、言い方は悪いけれど自分の上司である騎士……たとえば隊長のアーサーとかには同じくらい丁寧な対応なのかなぁと思ったのだけれど。

私からの問いかけに、笑顔が少し苦々しくなるエリック副隊長を見るとどうやら違うようだ。今度はエリック副隊長ではなくアーサーが「はい……」と私の問いに答えるように声を漏らした。


「ノーマンさんは俺にもハリソンさんにも騎士全員にあんな感じです……。流石に騎士団長や副団長にはもう少し改まってくれてますけど。本っっ当に、極力人との関わりを嫌う人で。妹がいるなんてことも俺は今回の申請で初めて知りました……」

申請、というのは騎士団で学校に通う身内の送迎の為の一時離脱申請だ。

八番隊の隊長であるアーサーは、彼からも直接その申請を受け取っていたらしい。まさか自分の隊で学校に送迎に来る騎士がいるとは思っていなかったらしく、最初はなかなか戸惑っていた。お陰でこうして正体を隠す為に髪型も眼鏡も念入りに備えることになった原因だ。

嘆くように絞り出すアーサーにエリック副隊長が明るく笑う。人との関わりを嫌がるのはアーサー以外八番隊全員だ、と断言しながら軽くアーサーの肩を叩いた。その様子に、ステイルが俯けたまま落としてしまいそうなアーサーの銀縁眼鏡の蔓を指で摘まみ、小さく眉をよせる。


「だが気付かれなくて何よりだろう。それに高圧的な態度ではあったが、別に俺達や子ども達が誹謗中傷されたわけじゃない」

「……まァな」

ステイルの言葉にアーサーが少しだけ持ち直す。

確かに。それに、一番の憂いである正体を気付かれるかという点においても全く問題もない様子だった。

まだジャンヌという名前を聞かれてもいないけれど、彼が騎士団に入団したのはギリギリ殲滅戦の後だし、あるとしてもジャンヌとしての名前と私は結び付かないだろう。校門を守る温度感知の特殊能力を持つ騎士も、騎士団長達がそれを配慮して比較的に入団経験の浅い方の騎士を多めに選出してくれているし、彼と同じだ。

ステイルに摘んで支えられた眼鏡を自分で押さえながら顔を上げるアーサーは、垂れた横髪をまとめて後ろに流した。いつもは半端な長さの髪以外は一本に括っているから邪魔なのだろう。

大分ぐったりとした眼差しで前を見ながら「でも……」とまた低い声で丸い肩を落とす。


「アラン隊長のこと自分勝手とか……。……そういう陰口は……流石にへこみます」

「いや。あれセドリック王弟といる時に堂々とアラン隊長にも言ってたから」

マジっすか⁈とアーサーが絶叫に近い声でエリック副隊長に振り向いた。

目を瞼がなくなるまで見開いて、せっかく後ろに流した髪がまた垂れた。顎が外れるほど口を開いたままのアーサーにエリック副隊長は「大丈夫。アラン隊長は怒ってない」と宥めながら肩を竦める。

エリック副隊長の話によると、私達を待っている間に校門前で妹さんを待つノーマンは挨拶だけで最初こそ距離を取ったらしいけれど、そこからアラン隊長がガンガン話しかけてきたらしい。更にはセドリックもノーマンの存在は騎士団演習場で覚えていて、王子と隊長格に話しかけられた結果、仕方なく会話に応じていたらしい。

そして話の流れで自然とアラン隊長からエリック副隊長が自分の親戚の送迎で来ていることを説明した際、はっきりと言い放ったと。王弟であるセドリックが居る、その前で。


『御自身の親戚でしょう?いくら直属の部下とはいえエリック副隊長に任せるのは自分勝手過ぎます。隊長命令では断れるわけがないではありませんか。アラン隊長が王族の警護で送迎が不可能なのは理解しました。しかし、隊長格ともなれば部下に頼まずとも寮に子ども三人を入れる程度の金銭的余裕は充分過ぎるほどあるとお見受けします。それとも部下や部下の家族や親戚の子達よりも御自身の娯楽費や酒代の方が大事だということでしょうか。騎士として以前に人間としてどうかと』


おおおぉっ……まさかの予想を遥かに上回る発言が。

これと比べるとさっき子ども達の前で言った言葉はまだ歯に衣着せていたんだなと思う。ボディブローレベルの発言に思わず私まで肩が強張った。ステイルも「そこまで……」と流石に驚いたように眼鏡の黒縁を押さえる。アーサーに至っては開いた口が塞がらないまま血の気が引いていた。

それを隊長のアラン隊長に直接言ったことも信じられないけれど、王族の目の前、しかも陰口どころか完全に正面からの人格否定だ。

エリック副隊長曰くアラン隊長は平然と笑って「まぁいろいろ家の事情もあってよ」と返したらしいけれど、普通は怒っても良いレベルだ。セドリックもさぞかし生きた心地はしなかっただろう。彼も事情を知っている側の人間なのだから。


「あとでアラン隊長にもお詫びしねぇと……‼!っつーか、ノーマンさんにも俺から」

「いや、今回のことだけお前が知って注意したらそれこそ怪しまれるから止めとけ」

「いえですけど‼……?ちょっと待って下さい。〝今回のことだけ〟って、やっぱあの人今までもンな失礼な事言ってたンすか⁈」

俺の知らないところで⁈とアーサーがパニックになりかけながら二度目の絶叫をする。

元々八番隊の騎士は他の騎士とも関わり自体を避けるけど、一言話しかけると百倍の敵意で返してくるノーマン系の騎士もわりといるらしい。騎士団でも八番隊の騎士からはそういう態度は珍しくないから、基本的に八番隊からは何を言われてもあまり気にしないと。

ノーマンだけでなく、八番隊ではわりとそういう言葉での攻撃的なタイプもいるということが驚きだ。前にアラン隊長やカラム隊長からも聞いていたけれど、本当にアーサーとは別のタイプの人達ばかりなんだなと思う。

衝撃の事実に再び頭を抱えて落ち込むアーサーは「帰ったらアラン隊長に詫びねぇと……!」と嘆きだした。これには私もステイルも全面的に同意して頷いてしまう。

実際は全部私達の身分を隠す為の嘘だし、アラン隊長は全くの無実なのに。本当はそういう人じゃないのにアラン隊長が誤解されて誹謗中傷されるのは私達にも責任がある。私も絶対謝らないとと思えばステイルが「再検討しましょう」と結論を呟いてから、改めて私達に聞こえるように言い直した。


「ひと月の視察が終わり次第、今回の特別任務については騎士団にはっきりと公表しましょう。……プライド第一王女の近衛騎士がそのように言われるのは僕にとっても本意ではありませんから」

帰ったら母上に許可を。と言い放ったステイルは途中から大分黒い覇気を放っていた。

それがなくても、低めた声と漆黒の目の色が大分お怒りなのだなと一目でわかる。アーサーもステイルが怒ったことには一瞬だけ肩を揺らしたけど、アラン隊長の濡れ衣が晴れることの方が大事らしく拳を握って「頼む‼」と返していた。

私もアラン隊長の誤解を晴らしたいから賛成だけれど、ステイルがこういう風にティアラやアーサー以外のことでもムキになってくれることに少し嬉しくなってしまう。私の為みたいにも言ってくれているしそれも本意なのだろうけれど、やっぱりアラン隊長が悪く言われたことも嫌だと思ったのだろう。

そうね、とステイルに答えながら呑気に胸が温かくなると、眼鏡の黒縁を押さえたままのステイルがぐるんっと勢いよく私に顔を向け、……黒く笑った。


「なので。……ジャンヌも、後のことをよぉぉく考えての行動をお願い致します。公表できなくなるような惨事を巻き起こしたら、どうなるかは言うまでもないと思います」

ぶわり、とステイルの背中からの黒い気配が濃くなる。

肩を思い切り上下させ、腰を低くして頷く。多分、さっきの階段で殴られそうになるまで詰め寄ったことを指しているのだろう。もしくは、私一人じゃ支えきれない状況にも関わらず道連れになる勢いであの子のお姉様に階段から飛び込もうとしたことか。いや両方だろう。

ごめんなさい……と私からも謝ると、ステイルは「距離感を大切に」と釘を刺すように言った後に「いやでも……あれは、気のせいか……」と一人で考えるようにぶつぶつ呟いていた。

どうしたのだろう。でもエリック副隊長もステイルの言葉に無言でうんうんと唇を絞ったまま頷いていた。エリック副隊長の前でまで私は何かやらかしただろうか。するとアーサーがふと「あ」と思い出したように再び顔を上げた。また何かあったのかと思えば、丸くした蒼い目を真っすぐに顔ごと私の方に向けてくる。


「それであのクロイって奴。何かあったンすか??」


……。ほんっっとに、濃い一日だった。

「まさか予知の……?」と合わせるように私を覗き込んでくるステイルと、アーサーの言葉に私は顔を引き攣らせながら笑って返す。

今は私達だけとはいえまだ城下。帰ったら話すわ、と後回しにしながら何も知らないエリック副隊長にも目を合わせて返した。エリック副隊長の御実家まであと少し。そこから城に帰るまでにちゃんと説明する言葉を考えて対策も練っておかないと。

今年で十七になるパウエルとの邂逅。ステイルも知る第二作目主人公のアムレット。寮に住む妹の様子を見に来る我が国の騎士ノーマン。そして、階段で出会ったファーナム姉弟。

特に彼らに関してはジルベール宰相の時と同じように差し迫っているか、もしくは手遅れの可能性もある。まだ何もなければ良いけれど、これ以上悲劇を起こさない為にも今は彼らのことを第一優先に考えよう。

アムレットにとってはクラスも違うしゲームのような接点もない。ここは私が止めないと。せめて彼らが


……消えてしまう、その前に。


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― 新着の感想 ―
[一言] 階段で飛び込んでも、瞬間予知と身体能力だけで安全に着地できると思うんだけど 完全にお母さん 不穏ですね。
[良い点] ノーマンのような塩対応できるキャラは貴重
[一言] 八番隊は偏屈者の集まり。ちぃ覚えた!
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