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そして評する。


「アネモネ王国第一王子レオン・アドニス・コロナリア殿下。そしてハナズオ連合王国王弟セドリック・シルバ・ローウェル殿下です。」


蒼い髪に透き通った中性的な顔立ちのレオンも、金色の髪を靡かせ男性的に整った顔立ちのセドリックも遠目からでも恐ろしく容姿が光を放つほどに目立つ。

セドリックもレオンもフリージア王国の式典で名のある貴族達には顔が知られている。特にレオンの場合はもともと定期的にフリージア王国に訪問を重ねプライド達と城下に降りていた。更には隣国の王子である彼は、自国の城下に頻繁に降りることが多い為、商売や旅行で訪れたフリージア王国の民に姿を目にされることも多かった。

その二人の王子が並び、謁見台の上で佇む姿は女性達には太陽よりも眩しく写った。

ローザが静まるように合図を上げるまで、一際高い女性の悲鳴は彼らの耳にもよく届いた。静粛の合図の後、彼らが今夜の祝勝会にも参じると伝えられれば、二人が一度その場から引く前に歓迎を示す喝采が送られる。


「そして最後にもう一名紹介しましょう。」

ローザの言葉に、プライドの横に並ぶようにして下がったレオンとセドリックは、未だ奥に控える存在へと静かに目を向けた。

プライドも二人に合わせるように顔ごと向ければ、彼の緊張が移るように今度は両肩が強張ってしまう。

ローザから王子二人と同じ時のように誘われ、その存在が開けられた中央へと踏み出し姿を現わす。張り詰めたほどに伸びた背筋と一際目立つ高身長と長い髪。何より身に纏う白の団服が、彼が何者であるかを一目で物語った。



「我がフリージア王国騎士団八番隊隊長、アーサー・ベレスフォード。第一王女プライドの近衛騎士であり、彼女をラジヤ帝国の手より救い出した騎士です。」



おおおぉぉぉぉおおおおおおおぉおおお‼︎‼︎と、再び地鳴りのような歓声と喝采が響く。

異国の王子二人が紹介された後に、プライドを救い出した張本人が自国の騎士であるという事実。民にとってこの上ない結末でもあった。

アーサー‼︎騎士様!アーサー騎士隊長‼︎といくつも彼の名を呼び声が上がる中、騎士であるアーサーは手を振る代わりに各方向へ身体を向け、軽く肩の上まで手を上げて応えた。

騎士であるアーサーの顔は殆どの民には知られていない。式典に呼ばれる貴族達は彼の顔を見たことこそあるが、注視したことなど殆どない。

そんな中、顔も知らない無名だった騎士に多くの民が目を輝かせた。憧憬や尊敬の眼差しを惜しむことなく注ぎ、それを受けたアーサーは始終出来る限り全方位へ身体を向けながら




真っ青な顔でそれに応えていた。




遠目から見る民衆や貴族達には堂々とした振る舞いに見えたアーサーだが、間近でそれを見守っているローザやプライド達。そして護衛に付いた騎士団長のロデリックを含めた騎士達、謁見台の奥で怖気付く彼の背中を押しやったステイルと見送ったティアラには彼の蒼白も強張る身体と表情も力の入り過ぎた動作一つひとつもはっきりとわかった。騎士であるアーサーはレオン達と違い、公衆の場など全く慣れてはいないのだから。


……ンで、こうなってンだ……⁈


額を湿らせる汗が僅かに目に入った。

身体を向ける方向全てに視界を埋め尽くすほどの民がいる。その目が全て自分に注がれているという状況だけでアーサーは喉が干上がった。

今日のことも、公衆前の挨拶も、そこでどのように紹介されるかも全て事前に騎士団長であるロデリックから知らされてはいた。だが、実際に味わえばあまりにも自分と縁の遠過ぎる世界に放り込まれている。

笑顔どころか一文字に結んだ唇から顔の全部品が〝動揺〟そのものを叫んでいた。

アーサーにとって、今この場に立っている事自体わけが分からない。自分は決して褒められるべきことはしていない。国の為どころか完全にプライドの為だけに彼は反逆行為すら犯した。しかもプライドを救うどころか何度も打ちのめしている。

何より、たとえ真相が明らかにならなくても彼のやることは全く変わらなかった。プライドが悪しき行動に移す度に殴ってでも剣を向けてでも力尽くで止め、最悪の場合は騎士団とすら最期まで対峙する覚悟だったのだから。

それが全て解決してみれば、事件の真相全てを民に語れない代わりにプライドを救い出した功績が丸ごと全部自分の手柄になっている。

自分は奪還戦当日に最後の最後にしか間に合わず、一度プライドを止めただけ。その間にプライドの居場所を突き止め追い込んだのは騎士団、それを先導して持ち堪えたのはステイル、プライドを止めたのはティアラ、そして彼女をそこまで連れて来たのはセドリックだというのにと。考えれば考えるほどアーサーは胃に穴が空く思いだった。これでは自分が彼ら全員の功績を奪ったようなものだと本気で思う。

最初にそれを知らされてからステイルに会った時には「隠蔽の為とはいっても、無い手柄貰うのは気が引ける」と零してしまったほどだった。


そしてその直後。ステイルに殴られた理由をアーサーは未だ理解していない。


プライドを直接助けたのが誰であれ、何人であれアーサーの功績は変わらない。

実際、アーサーだけの手柄ではないことは確かだ。しかし暴走するプライドを止め続け、彼女の手や経歴が取り返しのつかなくなることを防ぎ、身を呈してアダムの正体を突き止め生きて持ち帰ったのは他ならないアーサーだ。しかも、ローザすら知らない事実も合わせれば最上層部と衛兵達を正気に戻したのも彼である。

そして騎士団も彼の功績を全ては知らずとも、アーサーが()()()()()()()()暴走するプライドを単身で止め続け、名誉の重傷を負ったことは知っている。プライドの暴走を公にできない王族が、その代案として出した功績は誰もが認めるものだった。むしろそれくらいでなければ騎士達の中で不満も残りかねない。

プライドのことも、アダムの正体も王族の卒倒も、その全てを王族が隠すことを決めたのには全面的に騎士も賛成だった。その為に騎士の表向きの評価や表彰が左右されること自体も何とも思わない。しかし、騎士の称号と右腕まで引き換えにし瀕死の重態にまで見舞われたアーサーが報われて欲しいと思うのは騎士達全員の総意でもあった。


「これから彼の表彰と勲章授与を行います。どうぞ来賓はこのまま謁見の間までお通り下さい。」


詳細は終わり次第国中に伝えられると。そう続けて告げたローザの言葉に、民は更に湧き上がった。おおおぉぉぉおおおおおおぉおおおお‼︎!と唸りを上げ、一人の騎士を表彰より先にその場で歓声と喝采で讃えた。

ローザに促されるまま共に謁見台を後にするアーサーは、一つひとつを身が縮む想いで聞き届けた。背中を向けた後も変わらず歓声が彼の背を押す。アーサー、騎士様、プライド様、女王陛下万歳と、様々な歓声に自分の名前が入っていることが擽ったくも感じられた。

ローザ達と共に謁見の間へ向かうべく、建物内の階段を降りるアーサーは、次第に顔色が後からじわじわと白から赤に染まっていった。自分の名が呼ばれただけでもこんなに恥ずかしくて嬉しいのに、この後に待ち兼ねているものを考えれば余計に身体が強張り熱が上がった。プライドやステイルが振り返っては笑い掛けてくる中、アーサーの緊張は強まるばかりだった。更にはローザ達の護衛の為に先頭を歩くロデリックまで階段の下から自分を見上げ、小さく笑っているのが目に入った。自分が緊張しているのを笑われたのだと思い、悔しさでアーサーは無言で拳を握った。


「アーサー。」


ふと、階段を降りるところで前方から声を掛けられた。

息を止めて顔を上げれば、先に階段を降り切ったプライドが建物の外に出たところで待っていた。ステイルとティアラ、四人の近衛騎士達と並び、自分に笑い掛けている。緊張で額も湿り、顔色が悪いことも自覚していたアーサーは言葉に詰まった。格好悪いところをプライドにも見られてしまったと思えばまだ目も回ったままだった。お疲れ様、この後も頑張ってねと言われて肩の力が幾分抜けたが、それでも心臓の音が止まらない。

アーサーの顔色が優れないことにステイルは少し不満そうに眉を寄せた。そこは胸を張るところだろうと人前でなければ説教をしたくなる。カラム達に背中や肩を叩かれてやっと息を吸い上げ吐き出したアーサーに、ティアラも少し心配そうに顔を覗き込んだ。プライドも共に覗き込もうとすれば、彼女の顔が視界に近づいただけでアーサーは逆に背中を反らし伸ばした。まだガチガチなアーサーに、プライドは落ち着かせるように笑い掛け、それから眉を垂らして口を開く。


「アーサー。ごめんなさい、本当は母上達もちゃんと本当の貴方の功績で讃えたいと思ってくれていたのだけれど。」

いえ!そんなンじゃ……‼︎と思わずアーサーは声を上げる。

本当の功績も何も、とそう言いたい気持ちを押さえて周りに目を配る。全員城内関係者だが、ここでそれを口にするわけにもいかない。

口を再び噤み、顔の筋肉全てに力を入れるアーサーにプライドはそっと緊張で震える右手を両手で包んだ。その瞬間、電流でも走ったかのようにアーサーの肩が上下する。

プライドからすれば、アーサーが本来の功績ではない内容で讃えられて複雑になるのも、謙虚な彼が素直にその栄誉を飲み込めないのもわかる。だがそれでもと、真っ赤に染まっていく彼の顔を見上げながら口を開いた。


「だけど。……これだけはお願いだから受け入れて欲しいの。」


懇願するように紫色の瞳を揺らし、微笑む彼女に。

そして続けられた言葉に、アーサーは発作を起こしかねないほどに拍動を速めた。


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[良い点] 死因心臓発作とかいうしゃれにならなさそうなアーサーw
[一言] プライドの隣に並ぶ未来への練習だよアーサー君
[一言] 本人からしたら命令違反に軍からの脱走、勝手に暴走した挙げ句、王族を殴り倒した訳だからなあ。 そりゃ居心地も悪かろうw
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