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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
沈黙王女と終戦

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628.副隊長は呆ける。


「なんだ、ハリソン。まだ全然飲んでいなかったんじゃないか。」


はははっ、と笑いながら副団長のクラークは広間の隅でハリソンのジョッキに酒を注ぐ。

ありがとうございます、とクラークからの酒を畏れ多そうに受けながらハリソンが頭を下げる。ハリソンがアーサーを奇襲してから、すぐに彼を引き剥がして回収したクラークは、敢えて人目につかない位置で酒を楽しんでいた。クラーク自ら「酒に付き合ってくれるか?」と望まれればハリソンが断るわけもなかった。一言で答え、彼もまた共に人目の少ない一角でクラークに酒を注いでは注がれるを繰り返していた。


「まぁ、アーサーは入団した頃からああだからな。大方、騎士達から遠巻きにされたことを怒らせたと勘違いしていたんだろう。」

だからこそ自分が楽しむよりも、少しでも騎士達が酒を楽しめるように雑用に走ってしまった。彼なりに騎士達の輪に入るタイミングを見ていたのだろうとクラークは思う。


「…………隊長格がすることではありません。」

「ああ、そうだな。確かに新兵の仕事だ。……お前もアーサーにちゃんと宴を楽しんで欲しかったのだろう?なら、次は先に口だけで言ってやれ。」

お前は手が早いからな、と言いながら穏やかに笑うクラークにハリソンも一度だけうなずいた。

クラークのペースに合わせるようにジョッキを傾け、目だけで周囲を見回す。するとハリソンが言葉にする前に「ああ大丈夫だ」とクラークが返事をした。


「ロデリックなら今は騎士達からの挨拶で忙しい。私は暇なものだよ。」

騎士団長は宜しいのですか、の一言を問う前に答えられてしまった。先手を取られたことに、ハリソンは口を閉ざす。

騎士団長であるロデリックは、乾杯が始まってからは次々と騎士達につどわれ、並ばれている。今回の奪還戦において各隊を代表して挨拶を告げる隊長、副隊長格だけではない。このような機会がなければ憧れの騎士団長と直接語らう機会が無い本隊騎士が、ロデリックと是非酒を交わしたい、挨拶をしたいと集まることはいつものことだった。

実際は副団長であるクラークも同列に騎士達から支持を集め、挨拶や酒を交わすことも求められている。が、一足先にハリソンを回収して隅に避難したクラークに話しかけようとする者はいない。

あいも変わらずハリソンの言いたいことを全て把握したクラークは、黙したハリソンにまた楽しそうに陽気な笑い声を上げた。


「そういう気遣いができるなら、突然斬りかかるのもそろそろ直せるな? 」

「……今の八番隊には必要です。」

「じゃあそれ以外は我慢するんだな。」

笑いながら返すクラークは、順調に一口一口ではあるが酒を減らしていく。

努力致します、と返しながらハリソンもやはり合わせて飲むが、段々と酔いが回りかけてきてることを自覚し手を止める。

そこで「水も飲め、酔ってまた暴れたくないだろう?」とクラークから促されれば、やっとハリソンは遠慮せず水差しに手をつけられた。ごくごくと喉を鳴らしながら水分を補給するハリソンをのんびりと眺めたクラークは、彼が一息ついたのを確認してから再び口を開く。


「………………枷の鍵。アレは本当に向かう途中で拾ったのか?」


ゴグッ、と。ハリソンは吹き出しかけたのを無理に喉へ通した。

直後にハリソンにしては珍しく噎せ、何度か肩を上下させながら口元を手の甲で押さえた。その姿に、まだ飲み込んでいる途中だったかとクラークが少し申し訳なさそうに笑いながらハリソンの背を軽く摩った。

背中を丸め、抑えようとすればするほどに小刻みな咳が続くハリソンにクラークは喉を鳴らして笑った。


「大丈夫だ、ロデリックは気付いていない。ステイル様や上層部からも指摘はないということは、今回は大目に見て頂いたということなのだろう。」

いや、ステイル様や上層部はもうご存知か⁇と適当にあてを投げてみればハリソンから一筋の冷や汗が流れた。

少なくとも当事者だったジルベールやステイルがその可能性を考えないとは思えない。更に言えば、ハリソンが枷の鍵を拾ったという報告自体、もっと詳細に確認を受けても良い筈だった。偶然途中で鍵を拾ったなどと、下手に疑られればハリソンが実は敵と内通していたと考えられても不思議ではない。しかし実際は、ハリソンが鍵を拾ったことに関しては上層部からすんなりと受け入れられたままだった。


「やはり将軍を発見した時に回収したのか?ステイル様達の鍵の件と、鍵を回収したこと。忘れていたのはどっちだ?」

「………………両方です。」

ハハハハッ!と、クラークがハリソンの重々しい返答に腹を抱えて笑う。

申し訳ありませんでした、と謝罪するハリソンに頷いて返しながらも暫くは笑いが止まらない。ハリソンを相手にここまで笑う相手もクラークくらいだった。ジョッキを傾ける手を止めたまま、頭を下げたハリソンは長い黒髪で殆ど顔が隠れていた。しかしクラークは「そうかそうか」と笑い声を止めると同時にそう続けると、改めてハリソンを正面から見直した。


「だがまぁ、将軍を見つけたのもお前の手柄だ。次からは回収物は速やかに隊長か私達に報告するように。」

「承知致しました。」

よしよし、と笑いながらクラークはハリソンの肩に手を置く。

その途端、ハリソンが顔を上げて見ればクラークは再びグビグビと喉を鳴らしてジョッキを空にしていた。飲み切ってすぐに空になったジョッキに酒を自ら注ごうとするクラークに「私が」とハリソンが酒瓶に手を伸ばす。素直にそれを受けたクラークは、ハリソンに向けてジョッキを傾けた。酒瓶から酒が注がれ、溢す前にピタリと止められる。再び一口一口酒を味わうクラークは、自分から自粛するように酒にも水にも手を付けないハリソンに肩を竦ませた。

自分とロデリックに故意で報告を怠ったことを省みているのだと理解しながら、せっかくの祝いの席で指摘してしまったことを少し悪く思う。ハリソンが自分の言葉を誰よりも重く受け止めることも、そして逆らわないこともクラークはちゃんとわかっている。

当時、プライドが狂気に犯されてその急変について戒厳令が敷かれた時も、誰に対しても口を噤み続けたハリソンがクラークの問いには躊躇いなく何があったか証言したのだから。


「プライド様。……あれからお元気だったか?」


さっきの穏やかな声色とも違う、優しい問い掛けにハリソンは顔を上げた。

はい、と一言返せばクラークは静かに笑んだ。クラークもロデリックもプライドとはこの一ヵ月直接顔を合わせてはいなかった。プライドが顔を見せるだけで騎士の殆どが平静ではいられなくなるとロデリックが面会謝絶を望んだ為、プライドはそれから一度も騎士団演習場に訪れてはいなかった。


「ちゃんと、笑っておられたか?」

「はい。変わらぬ笑みです。」

淡々と答えるハリソンに、そうか良かったとクラークは相槌を打つ。

返答をしながらハリソンも、その時を思い出したように紫色の目が光を戻した。他の近衛騎士と比べ、護衛に付くことは少ないハリソンだが、それでも時々見る度にプライドの笑みは明るく以前と同じ花のように柔らかな笑みだった。

ハリソン副隊長、とそう呼ばれる度に胸が高鳴り、何より取り戻せたという事実が誇らしく心臓を熱くさせた。


「奪還戦ではお前の活躍も大きい。プライド様の笑顔を取り戻せたのはお前の手柄でもあるぞ、ハリソン。」

ゆっくりと、聞き逃さないようにと語りかけられたその言葉にハリソンの目が見る見るうちに見開いた。

唇を結んだまま、紫色に光る目だけがキラリと輝き出す。不意に与えられた言葉に、確認するようにクラークを見つめ続けた。


「将軍を捕らえたのも、鍵を見つけたのも届けたのもお前だ。城門でもまた大活躍だったそうじゃないか。拷問塔でも多くの騎士を救出したと聞いたぞ。」

ちゃんとわかってる。そう言わんばかりに奪還戦でのハリソンの功績を並び立てれば、彼の丸くなりかけていたその背が伸びた。

熱くなる胸を鷲掴んだ手が疼き、先程まで陰鬱としていた気持ちが嘘のように晴れる。熱い視線を注ぐハリソンの表情は明るく、血色まで良く見えた。クラークとロデリック以外の人間が見たら一瞬別人とさえ思ってしまうほどに光が差した。喉を鳴らし、クラークからの次の言葉を期待してしまえば、鼓動まで速まった。そして


「よくやったな、ハリソン。お前とアーサーあっての八番隊だ。これからも頼りにしているぞ。」


そう言って肩を強めに叩けば、ハリソンの身体が連動して揺れた。

褒められた、認められた、期待されたと。その事実が一度にハリソンへ襲い掛かり、身を強張らせた。見開かれた目だけがキラキラと光り、彼の歓喜を示していた。

やっとその言葉を受け止め切れた途端、結んでいた口元が僅かに緩んだハリソンは、照れたとも柔らかな笑みともいえる表情だった。アーサーやプライドすら見たことのないその反応にも、慣れたようにクラークが「お前はこういう時は素直だな」と笑う。

自分やロデリック以外にもそんな顔を見せればもっと多くの騎士達とも交流を取れるのにとも思ってしまう。だが、そこまでは口にしなかった。ハリソンの態度や問題行動はさておき、彼のそういう性格自体はクラークも嫌いではない。

眼差しから鋭さが解け、口元が緩み、覇気も殺気も消え、喜びのあまり頬がうっすらと紅潮するハリソンは酔っていると勘違いされてもおかしくない。だが、クラークはそれに「大分落ち着いたな」と言うと、飲み切ったハリソンのジョッキへ再び酒を注いだ。

さっきまで水を勧めていたにも関わらず、何故また酒をと。ハリソンが少しだけ不思議に思いながら、ありがとうございますとクラークに礼を伝える。そのまま、また一口飲もうとしたところで「ああ、まだだ」と言葉で止められた。注がれたならばすぐ飲むべきだと思っていたハリソンは、動きを止めた後に眉を寄せて疑問を露わにした。

するとクラークは、くっくっと喉を鳴らして笑いながら不意にハリソンの背後へと手を振った。背後に誰が、とハリソンもすぐに反応して振り返る。それと同時にクラークは手を振った先へと明るい声で呼び掛けた。


「ロデリック。もう労いは良いのか?」


騎士団長として騎士達との労いと挨拶を交わしていたロデリックが、眉間に皺を寄せたまま歩み寄ってきていた。

お疲れ様です、とハリソンが畏れ多そうに頭を下げてから姿勢を正す。それに視線と片手で応えたロデリックは、並々と注がれたジョッキの水面を揺らしながら口を開く。


「クラーク。私ばかりではなく、お前も騎士達を労ってやれ。」

「ああ、すまない。私よりお前との乾杯の方が騎士達も喜ぶと思ってね。」

お前はこういう場でしか騎士達と密接に関わらないから、と軽く言うクラークにロデリックは眉間の皺を更に深くした。

お前も充分騎士達の支持があるだろう、と言いたかったが、それを言えば確実に「私は普段も褒めてるさ」と言われることが目に見えた。

重厚な覇気を纏うロデリックと違い、クラークはもともと騎士達に気さくに話しかけ、労い、語り合うことも多い。クラークと違い、自分は機会がなければ充分に言葉を尽くせないことを些か不甲斐ないとロデリックは静かに息を吐いた。


「適材適所だ、気にするな。それより良い機会だ、お前にも自慢させてくれ。」

またロデリックの頭の中を覗いたようにクラークが言葉を掛ける。

そのまま手を伸ばし、無造作に傍にいるハリソンの肩を抱き寄せた。クラークに掴まれ引き寄せられ、更には目の前にロデリックという状況に流石のハリソンも肩が上がったまま強張る。クラークの言葉に、再びロデリックが目を向ける。騎士団長を前に目は逸らせないと顔を上げるハリソンと蒼色の目がぶつかった。


「どうだ?ロデリック。今回もハリソンはよくやっただろう。やはりお前と私の目に狂いはなかったな。」

ははっ、とわざと胸を張って笑うクラークに、ハリソンは顔を向ける余裕もなかった。

騎士団でも多くに恐れられるハリソンが、二人の前でまったく頭が上がらない。明らかな力関係が遠目から三人へ目を向ける騎士にも見て取れた。クラークの言葉にロデリックは眉間の皺を指で押さえると、長い溜息を漏らした。まったく……と呟いてから低い声でそれに返す。


「私、ではなくハリソンの能力を最初に見出したのはお前だろうクラーク。……だが、そうだな。」

軽くクラークを睨んだ後に、ハリソンへと目を向ける。

瞬きを忘れたハリソンへ向けて並々注がれたジョッキを力強い笑みと共に差し出した。その意図を理解すれば、ハリソンもゆっくりと自身のジョッキを胸の位置まで上げていく。クラークも手の中のジョッキを握り直して二人に合わせた。三人のジョッキが同じ位置に合わさり並び、次の瞬間ぶつかり合い高らかな硝子音を響かせた。


「よくぞ期待に応えてくれた、ハリソン。これからも引き続き頼むぞ。」

乾杯の振動とその音にハリソンの視界も、弾けた。

はい……‼︎と言葉を返せば、クラークが回した肩とは逆側に手を置いたロデリックが強く笑んだ。その場でジョッキの酒をひと息で空にするロデリックにクラークも合わせて飲み切った。ハリソンも一瞬だけ遅れてジョッキを仰ぐが、二人の方が圧倒的に飲み切るのが速かった。

行くぞ、とロデリックがクラークを呼びながら最後にハリソンの背を力強く叩き、空になったジョッキを片手に背中を向けた。更にクラークも返事をしながら去り際にハリソンの肩を二度叩く。くっくっ、とハリソンの表情を見て楽しそうに笑うクラークはそのままロデリックに並び、広間の中央へと歩んでいった。

騎士達が密集しているそこへ踏み入れば「騎士団長!」「クラーク副団長!」と騎士達が口々に呼びかけ、道を開け、背中に続き、そして集まり出す。ゆっくり歩いているだけで二人の空いてるジョッキに次々と酒が騎士達によって注がれていった。

瞬く間の内に二人の背中どころか影すら見えなくなった後も、ハリソンは茫然と二人の方向に視線を注ぎ続けた。

クラークに褒められただけでなく、ロデリックの前で〝自慢〟と言われ、喜ばれた。更にはロデリックからまでも褒められ、三人での乾杯を許された。



酒程度では到底味わえない高揚感と幸福感を、一人で噛み締めた。


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― 新着の感想 ―
ハリソン本当に可愛くて愛おしい ハリソンが八番隊でアーサーと出会ってくれてすごく嬉しい
[一言] 二人にかかればしつけられてる大型犬のようだ、ハリソンw
[良い点] 空気など読まないうっかり副隊長ハリソンさんですが、いち読者としては、件の鳥遣いの特殊能力のお嬢さんの、お尻に敷かれるような事態になる展開などを希望したりしなかったり。
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