610.継承者は動いた。
「アネモネ王国に着いた後はどうする?」
私と同じように鎧に着替えたセドリック王子が、甲板を眺める私の隣に立ちながら尋ねてくる。
彼が知っているのは私に予知能力があることと、何かを予知したことだけ。きっとそれまではフリージア王国に私を返すことだけを考えてくれていた。
「……レオン王子に会いますっ。」
レオン王子……‼︎と、セドリック王子が予想以上に驚いたように声を漏らした。
そんなにレオン王子に会うことがおかしいかしら、……と思ったところで、この人が以前にとても大きく的外れな勘違いをしていたことを思い出す。何故かこの人は私がレオン王子か兄様のことが好きだと思っている。…………本当に、何故か。今までそんな勘違いをされたこともないのに。
気がつくと頬を膨らましそうになって、その前に顔ごと背ける。
「レオン王子なら、きっと隣国であるフリージア王国の状況も少しは把握してくれてると思います。それに、一刻も早くフリージア王国に着く為にはアネモネ王国の城に行かないとっ。」
「?レオン王子に馬車でも借りるのか。」
「もっとすごい人ですっ!」
兄様が言っていた。
アネモネ王国には、ヴァル達がいる。彼なら何よりも速く私達をフリージア王国に運んでくれる。
二度も視てしまった予知。まるでもう時間がないことを示している気がして仕方がない。私の予知の内容では日付まではわからなかった。だけど、…………きっと近付いている。もし予知した未来が近いなら、私がまず最初にするべきことは
予知した未来そのものを、少しでも変えること。
「ッフリージア王国第二王女!ティアラ・ロイヤル・アイビー、そしてハナズオ連合王国の王弟セドリック王子ですっ‼︎どうかレオン第一王子殿下に御目通りを願いますっ‼︎」
アネモネ王国に着いてすぐ、私はカーラー達を連れてセドリック王子と一緒に城へと駆け出した。
門番に名乗れば、私の顔を覚えてくれていた衛兵が血相を変えてレオン王子に報せに行ってくれた。早く、早くと一秒一秒がもどかしくて両手で胸を押さえつけながらひたすら待った。どうか、レオン王子だけでなくヴァル達もまだアネモネ王国を去っていませんように何度も願う。
─ まず、あの場に居た人の他にもお姉様の味方を増やしたい。
「ッ王女‼︎‼︎」
聞き慣れたその声に、嬉しくて息を飲む。
顔を上げればヴァル達がレオン王子と一緒に私の方へ特殊能力で駆けつけてくれていた。
良かった、まだ居てくれたとほっとする。彼に飛び付いて、必死に私はお願いする。
私が見た予知に居なかった人。私達を間違いなく誰よりも早くフリージア王国に連れて行ってくれる人。そして、兄様や母上が反対してもどんな事があっても私の味方で居てくれる人!
「最優先事項ですっ‼︎‼我が国は大変なことになってます!私はお姉様を助けたいんですっ‼︎どうか貴方の力を貸してください!」
ヴァルは、お姉様の命令で私を守る事を最優先にしてくれる。
お姉様が大変なことになっていて、私が国を追い出された。それだけでも間違いなくフリージア王国にとっては〝異常事態〟!そして私が国へ帰るから守って欲しいとお願いすれば、きっとお姉様の命令権からも彼は免れる。
それに兄様やジルベール宰相がもう枷で捕らわれているのなら絶対の絶対に助けてあげたい。捕らわれる前ならまずはそれを防ぎたい!
命令に適する条件がそれでも足りないなら、彼にだけならもっと予知を話しても構わない!ナイフ投げを教えてくれた時のように、今度は私の〝立場〟を守る為に秘密を守ってと言えばきっと誰にも内緒にしてくれる。
無理やり命令するはつもりはない。彼にだってセフェクとケメトという大事な人がいる。だけど、きっと彼ならお姉様の為に手を貸してくれると思えたから。
「仰せのままに!……王女サマ。」
彼と、そしてレオン王子。
私の予知した未来には居なかった二人。彼らが居てくれれば、それだけでも未来は変わるかもしれない。
私は絶対にお姉様の元へ行かないと〝いけない〟から。なら、逆に増やせば良い。お姉様を助けてくれる人。お姉様が今まで助けた分、力になってくれる人。
協力の意思を示してくれた彼に、レオン王子に話す。ラジヤ帝国が我が国を狙っていること。そして予知とは言わず口止めだけをして、お姉様がアダム皇太子と一緒に兄様やジルベール宰相に何か恐ろしいことをしようとしていると。
レオン王子はすぐに、アネモネ王国で察知していたラジヤ帝国の侵攻を教えてくれた。「まさかラジヤもプライドが……⁈」とレオン王子も私達も、お互いの情報を結びつけるのに時間はかからなかった。
私達の知る大好きなお姉様ならあり得ない。だけど、……今のお姉様なら。
助けなきゃ。そして止めなくちゃ。
「第二王女、ティアラ・ロイヤル・アイビーですっ‼︎騎士の方々ですよね⁈お願いします、姿を現して下さいっ!」
手を伸ばすと決めたら躊躇わない、それはお姉様が教えてくれたこと。
アネモネ王国でレオン王子からラジヤ帝国の侵攻、そしてフリージア王国に着いてから騎士達からも事情を聞いてやっぱり三日前に見た予知が現実になってしまったのだと理解した。
「絶対に嫌‼︎わかっていないのは兄様の方よっ!そんなだからお姉様に手枷までつけられちゃったんじゃないっ‼︎」
兄様とジルベール宰相が無事で本当に良かった。
だけど、フリージア王国の危機なら私達だってもう遠慮はしない。
私が正式にアネモネ王国に依頼すれば、レオン王子もアネモネ王国軍も正面から戦える。
『おい王女‼︎……良いんだな?』
私を守る為に。そう言えば、私が許可すればヴァルも戦える。
私が危険な場所にいる限り、彼は私を守る為にこの場を〝安全な場所〟にする為に自由に動ける。
兄様達が周りを巻き込みたくないのだってわかる。だけど、〝巻き込んで貰えない〟ことだって凄く辛いことなのだということを忘れてる。
私にとってもセドリック王子にとってもヴァル達にとってもレオン王子やアネモネ王国にとってもお姉様もフリージア王国も凄く凄く大事なのだからっ!
私は第二王位継承者、ティアラ・ロイヤル・アイビー。
今度こそこの手を届かせる為にこの国に戻ってきた。
「塔を調べますっ!城内全ての塔を回って下さいっ‼︎」
予知では塔の上にお姉様は居た。なら、きっと塔の上か中に隠れている。
そう思ってレオン王子と別れた後にヴァルにお願いすれば「アァ⁈」と意味がわからないように凄まれた。だけど「お願いしますっ‼︎」ともう一度お願いしたら舌打ちの後に一番近くの塔から早速向かってくれた。
大丈夫、絶対絶対に届かせてみせる。
ジルベール宰相から聞いた現状では、予知した未来でも知れなかった事実がたくさんわかった。何よりも、お姉様がアダム皇太子に操られているという事実。
その瞬間、全部が全部繋がった。
予知した未来で、あの人がお姉様の傍にいた理由も、そして塔の上でお姉様の死を大勢の人が嘆き悲しんでいた理由も、全部。
やっぱり、あの二回見た予知は今日の未来だった。しかも、ジルベール宰相と兄様が枷をされたのも私が予知をした夜の翌日。きっと二回目の予知も、今日が運命の日だと教えてくれたのだと今度こそ確信する。
……同時に、少し予知した未来と現実が変わっているのにも気が付いた。予知では塔の上にいたアーサーは、既に重傷を負って救護棟で絶対安静。そして倒れた母上達の代わりに指揮をする為に兄様も、本陣から動けない。
それに今思い返せば塔の上にいた兄様は枷もつけてはいなかった。きっと良くも悪くも未来が変わり始めているのだとそう思う。なら、お姉様のあの未来も既に変わってるかもしれないと僅かな希望を抱く。
……だけど、二回目の同じ予知を見たのは兄様とジルベール宰相が枷をつけられた予知の後だった。
ふと、その事実が頭を掠めたけれど今は考えない。
予知の順番だっておかしくなっただけかもしれない。それに最初に私が塔の上の予知を見たのは三年前。枷の夢よりずっとずっと前なのだからと自分に言い聞かせる。
大丈夫、絶対に大丈夫。アーサーのことは心配だけど、今はレオン王子がいる。ヴァルもセフェクもケメトもセドリック王子もいる。予知したような未来には絶対にならない!今も未来は絶対変わっている。今度こそ絶対にお姉様を助け
「いっ……あ、あ、ああァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ‼︎‼︎‼︎」
……未来はまだ、変わってはいなかった。




