599.継承者は嫌った。
「私もっ…お姉様と共にハナズオ連合王国へ同行してもよろしいでしょうか…⁈」
とても、とても大変なことが起こってしまった。
ハナズオ連合王国の危機。
ラジヤ帝国による侵略。
そしてお姉様は母上の代理として戦場へ向かう事になった。……セドリック王子もいる、ハナズオ連合王国に。
ハナズオ連合王国を見捨てられないことも、助けなきゃいけないこともわかる。だけど、お姉様が向かうだなんて。
そこまで思った時、夢の中のお姉様が鎧を着ていたことを思い出す。あの日見た夢に向かって現実が進んでいるような感覚がして身体中が冷たくなった。
だから私も母上にお姉様との同行を願い出た。あの夢を知っているのは私だけだから、私にしかお姉様を守れない。
「お姉様、約束します。絶対にお姉様達の邪魔はしません。第二王女として、必ずお姉様に従います。ただ、運命を共にすることだけを許して下さい。」
お姉様を助けなきゃ。
「遊びに行くんじゃないんだぞ。」
「だって、チャイネンシス王国にあのセドリック第二王子も行くのでしょう⁈」
お姉様を守らなきゃ。
「プライド第一王女殿下、ステイル第一王子殿下が行くならば俺にも、行かせて欲しい。城までの道案内も俺がしよう。…俺の口から兄さん…ヨアン国王とも、話がしたい。」
「ッなら、わ…私も行きます‼︎」
絶対に悪夢みたいにはさせない。
「じゃあ行ってくるわね。また着いたら連絡するから。」
味方になったなんて思わない。
お姉様が許してくれても私は絶対に許してあげない。
「私はっ…大嫌いですから‼︎」
そうよ、大嫌い。だって貴方はたくさんたくさんお姉様に意地悪ばかりした。酷いことばかりして、お姉様もお姉様の大事な人の気持ちも傷付けた!
「待ってくれ!俺がお前っ…貴方に何をしたと言うのです⁈」
「しま…ッたくさん、しました‼︎」
…………一瞬、「します」と言いかけた。
本当に一瞬で、追いかけてくるセドリック王子に私はすぐに言い直す。
違う、あれは未来なんかじゃない。
防衛戦の為にチャイネンシス王国へ向かわれたお姉様と兄様を見送った直後。
お姉様と違ってセドリック王子はサーシス王国に残ると聞いてとてもほっとした。でも、……二人きりになった途端、とうとう私は彼にずっと我慢していた言葉を言ってしまった。正面から向き直り力いっぱい彼を睨み付ける。
「お姉様はっ…プライド第一王女は、私にとっても兄様にとっても騎士の方々や我が国の民にとっても、すごくすごく大切な御方なんですっ!私にとっても大事なお姉様で、私にとって大事な人達にとっても大事な方なんですっ!なのにっ…‼︎」
この人が嫌い。大嫌い。
お姉様に酷いことをたくさんして、泣かせて傷付けて、なのに何度も何度も助けて貰って、その途端に甘え出す。弱くて何もできないのに、お姉様にばっかり甘えて泣いて。
彼はきっともうお姉様なら助けてくれるとわかってる。お姉様なら何とかしてくれるとわかってる。
一人じゃ何もできないくせに!
一人じゃ見てることしかできないくせにっ!
ただ甘えて助けてくれるのを待ってる。お姉様が何とかしてくれるのばっかり待ってる。まるで、まるでっ……
「ばかっ‼︎甘えん坊‼︎」
こんな悪い口で言うのも叫ぶのも生まれて初めてで。
両手で口を押さえた私は、慌てて今度こそ彼から逃げ出した。




