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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
第二王位継承者だった王女とケイショウ

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595.継承者は新たにし、


トスッ、トストストスッ。


部屋の的にナイフを打ち込む。

ヴァルにナイフ投げを教えて貰うようになってからもうちょっとで一年。


「……どうして、近距離の方が上手く掴めないのかしら。」

壁に刺さったナイフを抜きながら、私は一人で溜息を吐いてしまう。

遠距離からは上手く的を当てられるようになったけど、近距離だとまだ少し外してしまう。普通は遠距離の方が難しい筈なのに。ヴァルからも「近距離なら余計に的を外したら反撃される」と言われたし、距離関係なく命中精度をあげないと。

そう思いながら私は宝箱を開けた。十本ずつ練習しようと刃に気をつけながらナイフをまた取り出していく。

配達でお城に来る度にヴァルはナイフを買い込んで来てくれた。「一本ずつより感覚忘れる前に投げまくれ」と言われた通り沢山練習を繰り返した。お陰で今は大分投げる感覚も掴めるようになった。


「近距離でもそれだけできれば充分だと思いますが……。最近は壁の穴も数自体は減ってきました。」

溜息混じりに専属侍女のチェルシーが肩を落とす。

代わりに壁の穴が深くなっていくばかりですけれど、と言うとカーラーもそれに頷いてしまう。そのまま近くの壁に貼り付けた本の頁をめくってみせた。

的を外すことが減ってからは、最初の頃に空けてしまった穴にピッタリ命中させることを目標に投げるようになった。人体の急所もヴァルから狙いやすい場所は教えてもらったし、私も本で勉強したけれど、やっぱり人によって体格も違うから狙い通りの場所に打ち込めるのが一番確実だと思った。


「配達人も、……すでにかなりの腕前だと評しておりましたが……。」

「駄目ですっ!ヴァルはもっと上手でしたもの!」

カーラーの言葉に私は首を振る。

専属侍女の二人は私がヴァルにナイフ投げを教えてもらうことが決まってからもお願いして秘密を守ってくれている。今では私がこうして練習する時は扉の前に座って様子を見守ってくれるようにもなった。

最初の頃は救急箱を片手に真っ青な顔をしていたのが嘘みたいに今は落ち着いてくれている。チェルシーは「あの絵本ばかり読んでいたティアラ様が……」と今でも時々肩を落とすけれど。でも、お願いした通りにちゃんと秘密は守ってくれている。


「それに、……変な癖もうっかり出てきてしまっては大変ですからっ。」

私の言葉に今度はカーラーもチェルシーも同時に額に手を当ててしまった。

私がヴァルからナイフ投げを習うようになってから、すぐに変な癖が出た。最初は投げ方から刃が真っ直ぐ的に刺さるかの練習だったけれど、……刺さりはした。けれど何故か刺さる箇所に規則性が出てしまった。

私も違和感があって、試しに人型に投げてみろと言うヴァルの指示どおり人の形に書いた的に向けて投げたら、……毎回どうしてか心臓部に刺さった。

的の人の大きさを変えても毎回何故か心臓部ばかりに命中してしまう。セフェクとケメトは「すごい!」と褒めてくれたけれど、その時はカーラーやチェルシーだけでなくヴァルまで頭を重そうに片手で抱えて若干項垂れていた。


『バケモンの妹はバケモンかよ……。』


そう呟いて。

お姉様はバケモンじゃありませんっ、と言ったけれどそれは無視されてしまった。

ヴァルのお話だと、私は筋はとても良いらしい。普通なら簡単にナイフが命中どころか上手く刺さることもないし、いくら距離を離しても殆ど外さないことも凄いことだと。

時々、私と一緒にヴァルからナイフ投げを教えてもらったケメトも、子どもという理由を抜いても最初は刃を向けて真っ直ぐ投げることすらとても難しそうだった。

セフェクは、……ナイフを実際に刃を向けて持つ時点で手が震えていた。本人は「平気よ!」「慣れてないだけ」と言っていたけれど、すぐにヴァルにナイフを取り上げられてしまった。セフェクはずっと文句を言っていたけれど「テメェは特殊能力の方をまともにしろ」と言われたままそれ以降は本当に教えては貰えなくなったようだった。

私のナイフが心臓部の位置に何故毎回刺さるのかについては「本当に殺してぇ奴はいねぇのか」としか聞かれなかった。彼にもこの癖の正体まではわからないらしい。

ただ、心臓部は防具を付けていない人相手なら良いけれど、そうでなければナイフは届かない。相手が武装した人だったら私は絶対に敵わない。そう説明してくれたヴァルから喉か額を狙えと言われた。そこは防具が届かないことも多く、何より人の急所だからと。

それからはどんな体勢でも確実に狙った標的を射れるように練習した。寝る前には必ず床に転んだりしゃがんだりして、無意識でも心臓ではなく喉を狙うように意識した。

人を殺したいわけじゃない。だけど、本当にこれが必要になるのは、きっと一瞬の判断が全てを決めてしまうような時だから。


コンコンッ


ちょうど七本目を投げようと振り被った時だった。

部屋の外の衛兵から扉を叩かれる。チェルシーがいつものように扉を小さく開けて、部屋の中を見られないように注意しながら衛兵の話を聞いてくれる。

私とカーラーも背中でナイフと的を隠しながら待てば、すぐに扉は閉められた。私に向き直ったチェルシーが姿勢を正して報告してくれる。


「ティアラ様。先ほど、プライド様とステイル様がアネモネ王国から帰国されたとのことです。このまま玉座の間まで向かわれると。」

どうされますか、と尋ねられる。

お姉様達が無事に帰ってきてくれたことにほっとしながら、その問いに少しだけ悩む。今から急げば、お姉様と兄様達が玉座の間に着く前に一目くらいなら会える。早くお姉様にも兄様にもアーサーにも会いたい。……だけど。


「…………まだ途中ですからっ。お姉様には母上達とのお話が終わってからお会いします!」

そう言って私は再び的へとナイフを放る。

トスッ!と至近距離から少し力を込めたナイフは深く元の穴の上に刺さってしまった。「そう仰ると思いました」と返してくれるチェルシーに言葉を返しながら、私は九本目のナイフを飛び上がって投げ放つ。

お姉様と兄様とはなるべく一緒に居たい。だってあと二年しかないんだもの。だから、一緒に居られない時は一分一秒だって無駄にすることも手を抜くこともしたくなかった。

ナイフ五本と決めたら五本。十本と決めたら十本ちゃんと連続して的に当てられるまでは部屋から出ない。お姉様と兄様との時間が大切なら、一本すら外せない。


……今回も、私はお姉様と一緒には行けなかった。


しょうがない。だって今回は極秘訪問だもの。

王族である私が同行すれば、護衛も増やさないといけなくなる。

第一王子とはいえ、お姉様の補佐である兄様と第二王女の私は違う。少人数行動の為には仕方がなかった。私がたとえ強くても今回はきっと置いていかれてしまった。……だけど。


「ッ…………次こそは。」

トスッ。と床に転がったままナイフが刺さった。

壁の穴に深く刺さった八本目のナイフ〝の持ち手に刺さった九本目のナイフのさらに持ち手へ垂直に。〟

綺麗にナイフが三本縦に刺さった光景にカーラーが感嘆の声と一緒に小さく拍手をしてくれた。

十本全て狙い通りに的中できた私は、急ぎナイフを壁から抜いた。チェルシーも手伝ってくれて、カーラーがナイフが抜けたところから本の頁で上貼るように再び塞いでくれる。宝箱にナイフを全部しまった私は鍵を閉め、最後に部屋をぐるりと確認する。ナイフが落ちても刺さってもいない、開けた穴も全部埋まっている。

それからやっと私は二人と一緒に部屋を出た。母上達とお話が終わったお姉様達を一番にお迎えする為に。


……もし、この練習が最後まで無駄になればそれでも良い。


それは、お姉様も周りの人達も皆が危険に晒されなかったということなのだから。

だけど、〝あるかも〟と思って怯えて暮らすより〝なかったわ〟と思って晴れ晴れしく内緒を抱いたままこの国を去りたいから。


「お姉様っ!兄様っ‼︎おかえりなさいっ‼︎」


玉座の間の前でお姉様達が出てくるのを待っていた私は、扉が内側から開いてすぐにお姉様の胸へ飛び込んだ。

私を受け止めてくれたお姉様と頭を撫でてくれる兄様が「ただいま、ティアラ」「ちゃんと良い子にしていたか?」と言葉をくれる。このひと時が、今も昔も大大大好き。

残り二年、絶対この幸せを守り通したいと何度でも思えるから。


「ええ、ちゃんと()()()()()()()()してたもの。……何かご褒美は?」


兄様に似てると知ってる笑い方で笑顔を返す。

兄様が意地悪なことを隠す時と同じように笑顔でずるく隠しちゃう。嘘のつき方だって兄様からちゃんと学んでる。

兄様から「言うようになったな」と言わんばかりの笑顔で返された。でも大丈夫、気付かれてはいない。


「ごめんなさい、ティアラ。本当はもっと早く会いたかったのだけど、先に母上に報告しなければならなかったから。」

「いいえ!私こそ、一番にお迎え出来なくてごめんなさい。お部屋で()()に夢中になってしまって。」

ナイフ投げの練習中だったなんて絶対言えない。

私はお姉様の手を握りながら「早く色々お話が聞きたいですっ!」とお姉様の部屋まで引っ張った。やっとお姉様と兄様が帰ってきてくれたのだもの。ちゃんとお話を聞いて、何がどうなったのかも聞きたかった。


『当日は、その…何もなかったら…何も、無く済むと思うから。迷惑たくさんかけると思うけど、…宜しくお願いします』

お姉様は昔から同じ。

私達に辛いと思うことも大変だと思うことも隠しちゃう。私達はいつだってお姉様の辛いことも大変なことも一緒に抱えていきたいのに。……だから、言葉にした。きっとそれは兄様やアーサーにできないことだから。


『…お姉様、訪問では一体何をしに行かれるのですか?』

兄様もアーサーもお姉様の幸せを一番に想ってる。

お姉様のことが大好きだから、だからレオン王子との間に踏み込めなかった。お姉様の言葉を信じて、ただ背中を押すことで心に蓋をしてしまった。

だけど、二人の本当の願いは絶対違うから。


『お姉様。私は未だ弱くてお力にはなれません。今回の訪問にもご一緒は叶いません。でも、…お姉様の心に寄り添うことはできます』

〝未だ〟……絶対に、次こそは強くなってちゃんと力になってみせるから。

だからあのひと時だけは、力のない私がただお姉様の心に寄り添うことだけを許して欲しかった。寄り添うだけなんて、誰かを救う為には絶対足りない。

だけど、「貴方は一人じゃない」と、誰かを信じて前を向く勇気をほんの少しだけでもお姉様にあげたかった。一人で抱えていつか潰れてしまうその前に。



〝止メナクチャ〟



……あんな怖い夢みたいに、この人がたった一人で遠い世界に行ってしまう前に。


『だめですよ、お姉様。一人で全部抱えようとしては。』

ちゃんと気付いて欲しかった。

この先、何が起こっても絶対にお姉様が一人にならないように。この先、…………私がいなくなった、後も。


『お姉様が一人で動いて一人で解決しても、……それでお姉様一人が苦しんだら、辛いのは私だけではないのですから 』

一緒に背負いたい、一緒に苦しんで一緒に泣きたい。

私だけじゃない。お姉様とそうなりたいと思ってくれる人は大勢いるから。皆、お姉様の心をとても大切にしてくれる人達だから。……お姉様の心が死んでしまえば、きっととても悲しんでくれる人達だから。


お姉様とレオン王子がどうなったかはまだわからない。

ちゃんと目的通りレオン王子が城下に降りるのを止められたのなら、問題なくレオン王子はお姉様の婚約者のまま。

ただあの人が、お姉様を誰よりも大切にしてくれるかはまだわからない。お城でお姉様と一緒にいた時も、ずっとずっと哀しそうに笑っていた人だから。

残りの二年間、お姉様とずっとは一緒に居られないことはとてもとても悲しい。だけどせめてレオン王子がその分お姉様を幸せにしてくれるなら





「ええっ⁈お姉様、婚約者解消してしまったのですか⁇」




思わず叫んでしまう中、お姉様は苦笑いで私に返した。

悲しいとか残念とかはなくって、ほっとしているみたいに。

レオン王子が国王になる。一体どうしてそうなったのかはわからない。お姉様達が教えてくれないということはきっとあまり知ってはいけないということ。だけど、これだけは絶対にわかる。


きっと、お姉様はレオン王子のことも助けてあげた。


「…さて、とっ!それでは、私はそろそろお部屋に戻りますねっ!」

やっぱり、もっと練習しよう。

そう思って私はその場から立ち上がる。本当はずっとこのままお姉様と居たかった。庭園に行って、お膝を貸してあげて、兄様と三人でお昼寝をしたかった。

だけど、結局またお姉様は望んでレオン王子の為に一人だけ傷を負ってしまった。短期間で婚約解消した王女、その経歴はずっと残ってしまうのに。

それでもお姉様はきっと、レオン王子の幸せの方を願ってあげた。


「お姉様も兄様も帰ったばかりでお疲れだと思いますし、それに…」

次こそは絶対もっとお姉様達の力になってみせるから。

お姉様一人が傷つかないように

お姉様一人が泣かないように

お姉様一人が犠牲になんてならないように

お姉様の傍に、今度こそ私も居られるように


「今日ずっと独占しなくても、またお姉様は〝私達の〟お姉様ですからっ。」


レオン王子の分、これからも私達がお姉様を守るから。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ティアラにナイフタコは出来ないのだろうか [一言] お姉様の手を握ったら ナイフ使いであることバレそうだよね
[一言] プライドは槍に持ち替えただけでだいぶ弱くなったけど、どれぐらい剣から離れるとラスボス補正が通用しなくなるのか気になるなー。木刀とかはどうなんじゃろ? ティアラもブーメランみたいな投擲用の棍…
[一言] 才能あるのにメッチャスパルタやん。プロバスケ選手レベルの練習やん
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