592.継承者は知った。
「え……?」
それを知ったのは、九歳になった頃。
教師のデズ先生から教わったそれに、私はぽっかり口を開けたまま固まってしまった。
王族として勉強をたくさんして、終わったらお姉様のところに行って兄様と三人で一緒に御本を読んだり、庭園で日向ぼっこしたり、とても幸せな日々だった。第二王女としての勉強は難しいこともあったけれど、新しく知れることがたくさんあって楽しかった。
だけど、……それだけは知りたくもなかった。
王族の婚姻。
近親婚、国内婚制度が撤廃された現在、第一王位継承者が決まったら他の王女は基本的には他国へ嫁ぐ。第一王位継承者の立場を脅かさない為、そして外交を広げる為に。
第一王位継承者は予知能力を覚醒されたお姉様。だから私は十六歳になったら婚約して、そして国を出ないといけない。初めてそれを知った時は、ショックで後の授業が頭に入ってこなかった。
ずっと、ずっと三人で居られると思ったのに。大好きなお姉様と兄様の三人で。
お姉様が第一王位継承者なのは問題じゃない、もし私が第一王位継承者になってもお姉様が他国に行ってしまえば同じ。ずっと兄弟姉妹三人一緒には居られない。
それだけは、誰が王位継承者になっても変わらない王族の決まりだから。
「この法が締結されてから、王族でも義兄弟姉妹の婚姻は珍しくなくなったみたい。」
「つまり…私と兄様や、お姉様と兄様も結婚ができるということですか?」
……それを聞いた時、兄様と結婚したいと思った。
兄様と結婚すればずっとずっと三人でいられるかもとそう思った。恋とかはわからない。だけど三人でいられるなら、大好きなお姉様と兄様と居られるならそんな人生も素敵だなと思った。……だけど。
ガンッッ‼︎
「す、ステイル⁈どどどうしたの⁈大丈夫⁈」
「兄様!いま、すっごくテーブルに頭っ……‼︎」
お姉様が私の言葉に返してくれるよりも、兄様が頭をテーブルにぶつけた方が先だった。
打ち付けた頭よりも口を片手で押さえつけた兄様は、顔が真っ赤で「す、すみません……‼︎」と返したままお姉様に目も合わせられないようだった。
照れたお兄様がとても可愛らしくて、いつも無表情だったり落ち着いて笑う兄様のそんな姿が大好きだった。そして何よりも
誰かに愛されるお姉様を見るのが、大好きだった。
侍女や衛兵や父上やヴェスト叔父様や兄様に。お姉様が愛されるのを見る度、お姉様が嬉しそうに笑う度とても胸が温かくなった。
ずっとその光景を見ていたくなるほどに幸せで、そして必ず最後は視線に気付いたお姉様が私にも笑い掛けてくれる。手招きしてくれて、頭を撫でてくれて、手を繋いでくれる。そんな毎日がずっと私の宝物だった。
もし、兄様と私が結婚したら優しい兄様は私を一番に大事にしてくれる。兄様は昔からお勉強も頑張っていて、とてもとても真面目な人だもの。
だけどやっぱり、大好きな人は大好きな人のことを一番に大切にして欲しいから。
「お姉様。もっともっと色々なことを教えて下さい!私、お姉様のお話が大好きです。」
法律書を開くお姉様の手を掴みながら、そうお願いする。
嬉しそうに笑ったお姉様が「勿論よ」と言って私の頭を撫でてくれた。その間に兄様がお姉様に見えないところで一生懸命自分の頬をペチペチ叩いて火照りを落ち着かせていた。その姿がまたとてもとても可愛いくて笑ってしまう。
お別れは、寂しい。
だけどその分たくさんお姉様と兄様との日々を大切にしていこうと決めた。
その為にお勉強も頑張って、お姉様が教えてくれるお話もたくさん聞いて覚えて、お姉様や兄様ほど優秀ではなくても、第二王女として精一杯頑張ろう。こうしてたくさん素敵な暮らしをさせて貰っているのだから、その分ちゃんと私も王女として立派に民に返したい。
大好きなお姉様と兄様、父上や母上に恥じない王女に私もなろうとそう思った。
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