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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
ラスボス女王と叛逆

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558.王弟は抗う。


「プライドが……拷問塔に…⁈」


騎士から聞いた話にセドリックは思わず聞き返す。

ヴァルと別れた後、セドリックとティアラは、護衛の温度感知の騎士と共に手当たり次第に塔を確認し続けていた。そして今、通信兵をいれて捜索に駆けていた二人の騎士が更に護衛に付いていた。

ヴァルの補助無しに階段の昇り降りを繰り返したティアラは息を切らし、騎士から受け取った水を片手に座り込んだ。

本陣から知らされた戦況の変動を聞いてから、それでも塔を探し続けたティアラだが、二つ塔を昇り降りし終えた直後、塔の外で本陣へ繋いでいた通信兵から最上層部の復帰を聞かされた途端に張り詰めたものが緩み、力が抜けてしまった。通信兵とセドリックの会話に耳を傾けながら、まだそれに加わる気力も出ない。ただ、復帰したローザ達が本陣で指揮系統に加わったこと、プライドの居場所が判明したことに恐ろしく安堵した。

既に九番隊と共にステイルが塔に向かったと聞き、セドリックもほっと息を吐く。そうか……と言いながら拷問塔の方向へと目を向けた。同じ城内だが、馬もない彼らが移動するにはかなり距離がある。


「ならば、俺達も急がねばならんな。ティアラ、まだ歩けるか……?」

「……ッ大丈夫、です。もう……充分休みましたからっ。」

セドリックの投げ掛けにティアラも頷く。

水の入った革袋を騎士に返し、フラリと覚束ない足取りで立ち上がった。パンパンっと服の埃を払った後、結いた髪から解けた数本の柔らかな髪を耳の後ろにかけた。プライドの居場所がわかった、そしてステイルが向かっているならば自分も向かうしかない。再び両足に力を込め、姿勢を正す。護衛の騎士に目を向けたティアラは王女として彼らに命じた。

「お姉様の所にっ……拷問塔までの案内と護衛をお願いします……‼︎早く、お姉様の元にいかないと……!」



「……申し訳ありません、それは出来かねます。」



「…………え?」

予想外の騎士からの返答にティアラは思わず目を丸くする。

驚愕の表情のまま固まり、受け入れられないように放心してしまう。どういうことだ?とティアラに返答した騎士へセドリックも怪訝な顔で向き直る。一拍遅れてからティアラの頭に嫌な予感が過ぎり、身体中が強張った。そしてそれを決定付けるように、騎士達はティアラへ一度だけ重々しく頷き、口を開いた。


「ローザ女王陛下より御命令です。……ティアラ第二王女殿下、並びにセドリック第二王子殿下の護衛。そして直ちに本陣へとお連れするようにと。」

その言葉に、今度こそティアラは血の気が引いた。

今まではステイルより立場の強い第二王女だからこそ許された単独行動だ。もともと護衛代わり同行していたヴァルとも離れた以上、護衛である騎士が自分達を発見次第さらに護衛に付くのはティアラとしても想定の範囲内だった。むしろヴァルが不在の今、セドリックと騎士一人だけよりもそちらの方が遥かに心強い。このままプライドの元まで護衛について貰えればと思っていたが、その前に自分のより上位の人物からの指示が出されてしまった。


最高権力者、女王ローザの命令。


アネモネ王国の援軍は今完全に防衛体制として馴染んでいる。レオンの負傷を抜いても、既に巻き込んでしまっている為ローザ達も今更援軍を拒もうとは思わない。

だが、ティアラとセドリックの単独行動に関しては別だった。

第二王女と王弟が戦場にいる。未だ敵が侵攻していないとはいえ危険過ぎる。通常ならばたった三人ではなく騎士隊での護衛が必要なほどだ。拷問塔へ向かう九番隊。そして王居の護衛を埋める為、各陣から配属される騎士達の移動。騎士の入れ替わりが激しい現状で安易に騎士隊を動かせない今、二人を安全な本陣へ移動させるように命じるのは当然の判断だった。ただでさえティアラはハナズオ連合王国に避難させられていた筈の存在なのだから。

母上がっ……‼︎と言葉を零すティアラが小さく後ずさる。騎士から「申し訳ありません」「御同行を」と頭を下げるが首を横に振る。折角プライドの居場所がわかったのに、ここで王居に連れ戻されたら全てが無駄になる。


「お願いしますっ……どうか、お姉様のところまで……‼︎母上達には私から後でお話しますからっ。」

ティアラが必死に騎士達へ訴えるが当然頷かれない。

女王ローザの命令より強いものなどあり得ない。それにティアラ達を見つけた騎士達の目から判断しても、ティアラとセドリックをこのままにするのは危険過ぎた。アネモネ騎士隊もヴァルによる特殊能力の移動もない今、ティアラとセドリックはあまりに戦場では無防備だった。今は鎮静化しているが、ラジヤ帝国軍に侵攻を狙われている以上、いつ何が起こるかわからない。


「お気持ちはお察し致します。ですが、どうか御理解下さい。」

「我々が必ず本陣まで御守り致します。」

通信兵が本陣へこれからティアラ達を本陣へ誘導すると連絡する中、騎士二人が丁重にティアラとセドリックを促した。お願いします……‼︎とティアラが必死に訴えるがやはり騎士達の答えは変わらない。こちらへ、と騎士に王居の方向へと示されるティアラに


セドリックが、前に出る。


騎士達とティアラの間に無理矢理入るように立ちはだかり、その背中を騎士へと向けた。

セドリック殿下……⁈と騎士が声を漏らすが、構わず彼はティアラへ視線を注ぐ。突然のことに目を丸くするティアラは、あまりの至近距離に再び後ずさろうと一本右足を背後に伸ばしたが、その途端セドリックが手を伸ばし強引に抱き寄せてきた。

きゃっ⁈と思わずティアラから悲鳴が上がり、騎士達も第二王女への不敬とも言える行動に驚き手を伸ばす。セドリックの名を呼び、何を⁈と声を上げる中、ティアラも感想は一緒だった。

こんな時に何を、また馬鹿なことをと怒り、声を上げようかとした瞬間。まるで読まれたかのように、回された手が自分の後頭部をそっと押さえつけた。見上げようとした顔の向きから、強制的にセドリックの身体へ押さえつけられ何も見えなくなる。何をするのです⁈と小さな拳をその胸板にポカリとぶつけた時、……ふと、セドリックの反対の手の動きに気付いた。


「……申し訳ありません。」

軽く騎士達へ顔だけで振り返ったセドリックから、ぼそりと独り言のような低い声が放たれた。

何故、謝罪をしながらも未だにティアラを手放さないのかと騎士達は眉を寄せる。婚約者でもないセドリックがティアラを抱き締めるなど当然許されない。ティアラ様をお離し下さいと騎士が声を掛け、それでも彼が全く動かない為、今度は強引に彼を引き離すべくその身体に触れる。「失礼致します」と強めの声でセドリックの肩を掴んだ時




閃光が、放たれた。




栓を抜かれた直後、ぽいっと手首の動きだけで頭上へ放たれた閃光弾が、騎士達の前で強い光を放った。

ぐあっ⁈これは……⁈セドリック王子殿下なにを‼︎と騎士達がそれぞれ声を上げ、数秒間視界が白に潰された。夜の闇で突然の光線に息まで詰まる。特に至近距離で直視してしまった騎士二人は呻いて目を押さえつけた。もう一人の騎士も片手をセドリックの肩から離さないまま顔だけを大きく背け、一体何のつもりかと考える。

すると今度は「ッそのまま目を閉じていろ‼︎」とセドリックの叫びが放たれた。恐らくティアラに言っているであろうその声に騎士の一人が「逃げるぞ!」と仲間の騎士に呼び掛けた。

その声に合わせるように、騎士達は目を閉じながら代わりに耳を澄ます。殆ど塔以外の遮蔽物がないこの場所ならば、逃げても方向さえわかれば追い付ける。

だが姿を眩まされれば、最悪の場合本当に逃げられてしまう。閃光弾がどれくらい光り続けるのかはわからない。だが、もし近くの塔の中に身を潜めるつもりならばと、視界が回復したらすぐに当たりを付けるべくセドリックとティアラの足音を耳で追




ドカッ、と。連続する衝撃音が鳴り響いた。




背中を向けていた騎士達に身体ごと向き直ったセドリックは、光の中で騎士へと躊躇いなく踏み込んだ。

最初に自分の肩を掴んでいた騎士の後頭部に拳を振るい、更には隣に並んだ騎士の首へと手刀を打ち込んだ。騎士二人がほぼ同時に地面に倒れ込めば、セドリックは最後に下がっていた通信兵へと駆け出した。

二つの衝撃音と向かってくる足音に反応した騎士はすぐに身構える。目を閉じたまま剣を構え、セドリックへ制止の声を上げた。しかし言葉の途中でセドリックが騎士の懐へと辿り着き、剣を握るその手を横から掴む。まさか騎士である自分を力尽くで押さえるつもりかと騎士が腕に力を込めれば、


次の瞬間、足を蹴り払われた騎士はふわりと宙に浮かんだ。



蹴り上げられるように両足を払われ、転ばされる前に体勢を立て直そうと思った瞬間、着地するよりも先にセドリックの足が鎧越しの腹へと打ち込まれた。

空中、さらには視界も遮断された中で正面から打ち込まれた騎士は受身を取る間も無く背中を打ち付ける。威力はそこまでない、だが信じられない連打と空中の攻撃で方向感覚がわからなくなる。すぐに起き上がり、セドリックの気配を探ろうとした瞬間、今度は背後から腕で締め上げられた。

息が止まり、慌てて対処しようと身体を捻らせ、反撃か腕から抜けようとするがそれすら読まれたかのように全て阻まれた。ギリギリと首が締まり続け、意識が途絶えかける中、騎士の頭にどうしようもない疑問が過ぎる。


……俺が相手にしているのは、本当に王子か……⁈


動きが、どう考えても王族のものではない。

単なる反撃や護身格闘術とも全く違う。自身も覚えがあるその攻撃はどう考えても王子ではなく、騎士のものだった。

一体何が、どうなって、とそこまで考えたところで意識が途切れた。視界だけでなく、頭の中までも白に塗り潰された。

通信兵である騎士から抵抗がなくなったことを感じ取ったセドリックは、恐る恐る締め上げる腕から力を抜いた。手探りで脈を図り、騎士が生きていることを確認してから息を吐く。

強く瞑り続けたままの目で、騎士を抱えてゆっくり立ち上がる。未だに光が続く中、重い足取りで塔へ騎士を抱えて中へと運ぶ。塔の扉に手を掛けたところでやっと閃光弾の光が和らぎ、消えた。


「ティアラっ、無事か?」

うっすらと目を開けながら、ティアラへ顔ごと振り返る。

目を両手で覆ったままのティアラからもすぐに返事は返された。怖々とした声ではあったが、それでも無事その場に佇んだままのティアラの姿を確認し、セドリックはやっと肩の力が抜けた。もう目を開けても大丈夫だと伝えた後、塔の中へ抱えた騎士を横たえた。そして振り返り、残りの騎士二人も運ぼうと踵を返せばティアラの茫然とした背中が目に入った。


「………………これは……?」


目の前に倒れた騎士二人を穴が空くほど見つめ続けるティアラに、セドリックが眉を垂らす。すまない、と彼女へ謝りながら更にもう一人の騎士を抱え上げた。仕方ない状況だったとはいえ、もともとは味方。フリージア王国の騎士に乱暴をしたことに変わりはない。

「俺がやった。大丈夫だ、全員気を失っているだけだ。塔の中ならば少なくとも目を覚ますまでは安全」


「そ、そ、そっ……そうではなくって、です……⁈」

え?え⁇とセドリックに上擦りかけた声を上げながらティアラは金色の瞳を白黒させる。

戸惑いを露わにすりティアラに、やはり騎士に乱暴は許されなかったかと思いながらセドリックは構わず二人目の騎士も塔の中へ運んだ。

ティアラは運ばれていく騎士とセドリックの背中を見つめながら、まだ続きの言葉が出てこない。胸を両手で押さえ、塔から出てきたセドリックの燃える瞳をただただ真っ直ぐと見つめた。目が合った途端、ティアラからの眼差しに軽蔑の色がない事に首を傾げたセドリックは「どうした?」と尋ねてティアラに並ぶ。最後の一人を塔へ運ぶ前にと彼女の返事を待った。


「あっ……貴方、一人で、……⁈か、彼らは騎士ですよ……⁈あのっ、……我が国の騎士団で、つまりっ」

「ああ、国際問題にされても仕方がない。だが、こうでもしなければ逃げるのは難しい。彼らは確実に俺達よりも足が速い。」

ッそうではなくって……‼︎とティアラは声に上げたくなったが、混乱し過ぎて唇を震わす以外何も出来なくなる。

意思疎通ができていないことを歯痒く思いながら目で訴えるが、セドリックはまた謝罪をし、再び早足で騎士を塔へ運び始めてしまった。最後の騎士を抱えて塔の中へ一度消えるセドリックに、ティアラは小さく細い足で地団駄踏んだ。

当然、セドリックの行為が不敬以上のものであることも、許されない暴力行為と騎士への執行妨害。むしろ女王への反逆行為にも取られかねないことはティアラもわかっている。セドリックがそこまでしてくれたことにもかなり驚いてはいるが、一番の衝撃はそこではない。セドリックが倒した相手はフリージア王国の騎士。


兵士ではない、鍛え抜かれた精鋭である本隊騎士だ。


衛兵や兵士が負けたのならばティアラもそこまで驚かなかった。

セドリックの実力は彼女も一度目の当たりにしている。だが、フリージア王国の騎士では話が別だ。騎士一人と勝つ事すら難しいのにそれを三人も相手にして勝ったのだから驚かない方が難しい。

どうやって勝てたのですか、とやっとティアラが辿々しくも言葉に出来たのは、塔から出てきたセドリックが扉を閉めた後だった。


「?見ていただろう、閃光弾を使った。レオン王子から頂いた武器だ。」

こんな形で役立つとは思わなかったが、と呟いたセドリックは自身の上着を開き、他にも金属の塊を複数示してみせた。

ティアラもセドリックに抱き寄せられた時、彼が懐からそれを出すのは見えた。だからこそセドリックはティアラにだけ閃光弾の存在が見えるように彼女を抱き寄せ、光を見ないようにと顔を伏せさせたのだから。


「目が眩んでいる間に不意を突かせて貰った。流石に騎士相手に意識を奪うのはこうでもしなければ難しい。目を瞑っていても距離感や急所は掴める。」

絶対的な記憶能力を持つセドリックは、一度でも振り返って確認すれば騎士の配置も距離感も頭に入った。目を閉じていても記憶と声がした方向からどの辺りにいるのか、更には騎士の頭や首の位置も容易に推測できた。彼の頭には自分の攻撃に対して騎士がどのような体勢で応じ、構えるかもある程度の予想ができた。何故なら彼は


「とはいっても、プライドの近衛騎士相手であれば敵わなかっただろうが。」


優秀な騎士の隊長格と何度も戦闘を繰り返したのだから。

セドリックの言葉を聞いたティアラは思わず口が引き攣った。「あの四人と比べないであげて下さい……」という言葉が喉まで出かかった。プライドの近衛騎士は全員、騎士団の中でも選りすぐりの優秀な騎士達なのだから。

それに隊長格でなくとも、騎士はたかが目潰し程度で勝てる相手ではない。セドリックの最初の不意打ちでさえ、普通ならば常人が同じ手で一撃を与えることができたとしても、単に後頭部や首を打ったところで意識を奪うまでには至らない。


〝確かな技術〟がなければ、とても。


しかし、セドリックはその特別優秀な騎士から技術を与えられていた。

更には騎士団演習場へ視察に行ったことのあるセドリックは、戦闘での様々な騎士達の対応パターンすら頭に入っていた。総合力や経験、腕力や速度こそ騎士達の足元にも及ばない彼だが、近衛騎士達から教わった戦闘技術は完全に身に宿してしまっていた。


「罰は全てが終えたら纏めて受ける!行くぞ、プライドの元へ急がねばならんのだろう⁈」

そう言ってまだ茫然としているティアラに手差し出した。

疲れているなら手を引こうとするセドリックに、ティアラは首を振って断った後「はい……‼︎」と叫び、自分の足で駆け出した。そして数メートル走ったところで大事なことを思い出す。


「!ま、待って下さいっ!拷問塔がどこにあるのか騎士の方々に聞いてませんっ‼︎」

「心配ない!俺が覚えてる‼︎」

この先だ!と叫ぶセドリックにまたティアラが目を見開いた。

城に住んでるティアラすら把握していない塔を、何故セドリックが知っているのか。すると今度こそティアラの疑問を正しく読み取ったセドリックは顔を進行方向に向けたまま「城に滞在中に覚えた」と短く答えた。


「貴方はっ……何故そこまでのことができるのですかっ……⁈」

セドリックの吸収力の一端に触れているティアラだが、神子のことは知らない。

そんな彼女にとって、スラスラと予想外のことをやってのけてしまうセドリックが驚きを通り越して若干怖くなってきた。セドリックに続いて走りながら、思わず正直な疑問から口から溢れ落ちてしまった。

するとセドリックは顔だけで振り向き、きょとんとした表情をティアラに向ける。ティアラより足の速いセドリックは彼女を置いていかないようにと僅かに足を緩める。丸く開かれた燃える瞳が闇夜の中でティアラ一人をじっと灯した。「何故……?」と小さく呟いたセドリックは、その意味を考える。そして、彼なりの答えを彼女に返す。











「お前達の為ならば何でもするに決まっている。」











「何故」を〝どうやって〟ではなく〝どうして〟という意味で受け取ったセドリックの答えだった。

その答えにティアラはぽかりと空いた口が塞がらない。自分の意図と異なる返答をされたことよりも、当然と言わんばかりに言い切ったセドリックの返答に唖然としてしまう。

恥ずかしげもなく放たれた発言に、プライドだけでなく自分まで含まれていることに顔が熱くなりかける。それを堪えるようにティアラは唇を強く絞り、振り続ける拳をぎゅっと握った。

それにも全く気付かずセドリックは「どうした?」と心配そうに返事のないティアラを見返した。やはりまだ走るのは辛いか、と尋ねて「違います‼︎」と顔を背けられれば眉の間を狭めながら彼女の隣へと並走し、その顔を小さく覗き込んだ。


「……もしや、先ほど抱き寄せたことを怒っているのか……?」

「ッばか‼︎」


不安げに顔を歪めたセドリックに、ティアラが赤い顔で怒鳴る。

むしろそのことは全く気にしていなかったのにと、顔が熱くなるのを堪えようとするティアラにセドリックは「すまない、不敬なのはわかっていた。だがああしなければお前まで閃光の巻き添えに……」と懇切丁寧に謝罪を始めてしまう。


「ッ気にしていませんからっ‼︎それよりも早くお姉様の元へ急ぎましょう!騎士の方々に見つかったら大変ですっ!」

振り払うように目を瞑り大声を上げるティアラに、やっとセドリックが「!そうだな」と気を取り直す。それから再びティアラへ先行するように足を速めると、再び彼女へ手を差し伸べた。

意図を理解して伸ばされた手の平を黙し、ただ見つめるティアラに今度はセドリックが言葉を掛ける。


「俺の手では不快だろうが、手を引かれた方がお前も幾分かは楽に走れる筈だ。」


真っ直ぐ燃える瞳を向けるセドリックに、ティアラは眉を寄せて口を噤む。

そして怒ったような表情のまま少し当たるように、パシンっと音を立ててセドリックの手を掴み取った。ティアラの手を握り返し、セドリックはティアラが付いて来れる程度に加減をしながら足を速める。

駆ける自分の足と地面に視線を落としたティアラは、顔を俯かせたままもう何も言わなかった。結局セドリックが何故騎士を倒せたのか、何故城内の建物を全て把握できているのかもわからないまま。


握った手の湿り気を帯びた熱さが、どちらのものかもわからないままに。


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― 新着の感想 ―
私はこの二人が好きです!結構殺伐としたこの作品の中の癒される部分として応援したくなります。
[一言] セドリックとティアラが苦手だというコメントが多くてびっくりしてます。ティアラ視点で真相を明かされるまではティアラがワガママに見えてしまいますね…確かに。 ティアラがプライドのために奮闘してい…
命令破ったことは駄目だけど、予想以上に2人のこと嫌いな人が多くてビックリ!!私は、好きですね!というか、セドリックに対してもう少し優しく対応してあげてほしい(笑)
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