そして女王は夢を見た。
「ッ何故そのような道を選ばれるのですか!!」
それは、絶叫だった。
全身から苦痛と嘆きのみを吐き出すかのような声は、酷く聞き覚えがあった。嘆き、叫び、騒ぎ、噎ぶ声がいくつも混ざり合い、悲劇を凝縮したような光景で世界は崩れきり、地に倒れ込むあの子は血に染まっていた。ステイルが抱き起こす中で、多くの騎士達が救命処置をと彼女を囲む。
─ これは……?
『どういうことだ?!何故っ……』
アルバートの、声がする。
通信兵の映像から、彼と騎士団長。そして、……私が嘆いている。プライド、プライドと呼び、情けなく両手で顔を伏せている。何故私は、あの子のことを何度も間違えてしまうのだろう。
私の代わりに王配である彼が騎士に問う。なのに、騎士は肝心な言葉を言い噤む。「それはっ……」とそれ以上を今この場で報告することを躊躇い、視線を別方向へと逸らした。
「────が最期まで守り抜いた命ですよ⁈なのに何故!!どうしてっ……」
酷使した喉と、涙で濁りきった声が無理矢理張り上げられ、そして萎れていく。
歯を食い縛り、顔をこれ以上無く歪め、涙を流しすぎたステイルは、最後は力なく項垂れた。あの子を腕に抱き締めたまま、まるで彼の方が先に事切れてしまったかのようだった。
─ 何故、何が、それだけでも……
別の聞き覚えのある声が大きく張り上げられる。「ぁ、ぁ……ああぁぁあぁぁぁアァアアアアアアァッッ……」という、か細い悲鳴は、……もう一人の私の愛しい娘のものだった。
肩を支えられる中でティアラはまるで聞こえないように両手を頭で抱え、目に見えて震えていた。絹を裂いたような声が続いた後、擦れた声がぽつりぽつりと零された。
─ ティアラっ……一体、何故貴方まで……?!
「わたっ……私の、私、私の所為でっ……お、……姉様っ、お姉様っ……わた、私、お姉様っ……」
泣き続けるティアラは壊れたかのようだった。
歯をカチカチと震わせ、揺らめく金色の髪を頭ごと掻き毟り、直後には耐えられないように喉を裂くような強い悲鳴を響かせた。
プライドが目の前で息絶えることにだけではない。……それ以上の絶望が、きっとあの子を襲っている。
─ どういうこと……?
「死なないで下さい……!!お願いですからっ……ッ俺を、置いて行かないで下さいっ……‼︎」
騎士の治療を受けるプライドに、弱々しい声でステイルが訴える。
もうあの傷では助からない。騎士の治療で生命維持を寸前で引き留められ、僅かにだけ引き延ばされているあの子は……もう生きようとはしていない。
─駄目、まだこの未来を変える為の、何かきっかけをせめて
「……っ……め、ね……」
息と、同じ擦れた声は、ティアラの壊れた悲鳴に殆どが塗りつぶされた。
瓦礫を、安全を、怪我治療の特殊能力者を、遺体をと多くの声が錯綜し、一番聞き届けなければならないあの子の声が聞こえない。ただ、震えながら痙攣する唇で紡ぎ、力無く微かに微笑むプライドの表情はどう見ても─……
「………………わ……ぃの……」
悲鳴と嘆きと錯綜する場で、あの子の最期の言葉は誰にも届かなかった。
………
……
…
「我らが第一王女を、奪還します……‼︎‼︎」
─ あの子を、今度こそ。




