555.騎士は息を吐き、
「………っ。……ここなら……平気だよな……?」
王居から飛び出した後、物陰に背中を預けて潜みながら息を整える。
緊張が解けた途端、息が荒くなりかけた。走り続けたことよりも緊張で冷や汗が酷く滴った。周囲を見回せば誰の視線もない。安心して長い息を一気に吐き出した後、……急いでヴァルから借りた上着を脱ぐ。
上等に見える上着だし勿体ねぇ気はしたけど、このまま抱えて持ってたらどっちにしろバレちまう。一応できるだけ丁寧に丸めた後に物陰の奥へ隠す。
……すっっげぇ、危なかった…。
背中に体重を預けて空を仰ぐ。
騎士を掻い潜るのはかなりやばかった。救護棟を守っていた騎士の人達も皆本気だし、衛兵が目を覚ましてからは大分攻撃の気は削いでくれたけどそれでも追ってくるし。
王居に近づけば近づくほど騎士の数も尋常じゃなかった。ハリソンさんに見つからなかったのは運が良かったけど、……八番隊の騎士には何回か見つかるし。今は緊急事態だから全員持ち場がはっきりしている分、王居からは深追いもしてこなかったけれどそれでも移動に特化した騎士から逃げるのもひと苦労だった。逃げるのに集中したから何とかなったけど、真面目に戦闘したら確実に捕まるか袋叩きにされてた。本当は救護棟の衛兵だけ治して済めば良かったけど、……ンなわけにもいかねぇし。
ケメトから聞いた、最上層部のいる本陣。
ヴァル達と別れる直前に何とかケメトから聞けた最上層部の居場所は〝ジルベール宰相の部屋〟だった。プライド様の近衛騎士の任務中、何回か行ったことはあるから場所もわかったけど。やっぱり王宮内が本陣なのは変わらず、ステイルも瞬間移動が封じられてる今は俺が直接向かうしかなかった。
「ほんっっっ……と……怖ぇし……‼︎‼︎」
すげぇ怖かった‼︎マジで逃げた‼︎‼︎マジで殺られるかと思った‼︎
王居入ってから騎士の殺気もすげぇし‼︎本陣の近くにもすげぇ数の騎士いるし‼︎‼︎しかも父上とクラークまでいるし‼︎‼︎
父上は最初の打ち合いでわかってくれたみたいだけど、そうじゃなかったらあのまま戦闘だった。クラークもいるし、あの二人に同時に来られたら勝てる気もしない。っつーか父上とクラークから初めて殺気向けられたけど、…………ほんっとにマジで怖過ぎた。
指笛でステイルが気付いてくれて、……止めてくれて助かった。折角治ったのによりによって騎士に殺されるなんて死んでも死に切れない。
「…………っ……行くか。」
息を整え終わり、団服を押さえ掴み前を向く。
もうこれで姿を隠す必要も無くなった、この格好ならもう騎士達に狙われることもない。……多分。王居から何とか出れたし、城内なら元々救護棟にいた俺が現れたところでそこまでおかしくはない。
右手を掴んでは開くを繰り返し、確かめる。本当に嘘みたいに違和感がない。走ってもどこも痛くねぇし、剣も今まで通り普通に振るえた。……右腕の感覚なかったのがただの悪夢だったみてぇだ。
物陰から飛び出して、取り敢えず走り出す。ステイルがプライド様の居場所も教えてくれた。なら後は向かうだけだ。プライド様を止めて、アダムを取っ捕まえて、この戦争を止めれば全部収まる。もう騎士達は向かってンのか、状況もケメトから聞いた分しかわからねぇ。
戦況とかの情報ももっと聞きたかったけどヴァル に無理矢理中断されたし、とにかく衛兵や最上層部を早く起こしたかった。国を守り切る為にも、勝つ為にも、プライド様の為にも。そうすりゃあもっと多くの騎士が動けるし、…………ステイルも、動ける。
走り続ければ、途中で騎士とも何度かすれ違う。
その度に「ッアーサー⁈」「ッッおいアレ……‼︎」とか叫ばれたけど、今は聞こえない振りをする。今は何より向かわねぇといけねぇし。その為にも、先ずは
「……拷問塔って……どっちだ?」
……話、聞ける人。
俺が話聞いても任務の邪魔になんねぇくらいに人員がいて、できれば通信兵もいて、城内にも詳しい……ンで、そんな人達が確実に居る場所は。




