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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
ラスボス女王と叛逆

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550.ラスボス女王は待つ。


「ええ?なに言ってるの?」


塔の中、敢えて低めた声でせせら嗤う。

無様に私へ懇願するその顔へ馬鹿なの?と意味を込めて言葉で舐め、涎のように滴らせてる。

ヴァルに逃げられ、数分で砂の拘束は解けた。……ヴァルが一定距離以上離れたか、死んだか意識が途絶えたかのどれかだろう。

鈍間のアダムに急かされるように塔の中へ戻れば、内部もなかなかの状態だった。ヴァルの特殊能力の影響で、天井は塞がれているのに反して床には人一人分の大穴が空いていたのだから。

私は自分の定位置にもなった覗き穴のある壁にもたれ掛かり、足を放り出す。剣を腰に雑に仕舞えばカチャン、と硬い音が響いた。


「ですからッ……今すぐこの場から離れるべきだと‼︎あの役立たずが戻り次第すぐに」

「い、や、よ。折角この為に準備もさせたんだもの。ここ以外はあり得ないわ。」

最後まで聞かずにアダムの言葉を両断する。その途端理解できないようにアダムの目が白に近くなるほど見開かれた。何故、と声もなくその口だけが空っぽに上下する。

アダムの判断は、間違っていない。居場所を知られ、更には突き止めたレオンと助けに来たヴァルを逃したのだから。二人がいつフリージア王国軍と合流し、自分達の居場所を知らせてしまうかもわからない。将軍も帰ってこないし、どうせレオンにでも返り討ちにあったのだろう。たった三人か二人の戦力でフリージア王国騎士団を相手にするなら、向こうの体制が整う前に逃亡するべきだ。

「今しかないのです‼︎我が軍と今すぐ合流を‼︎ッそうすれば少なくとも騎士団にこの塔ごと包囲される心配は」


「ぷっ‼︎‼︎……はははッ……、アッハハハハハ‼︎アハハハハハハハハハハハハハハハッ‼︎」


必死なアダムの形相に、耐え切れず吹き出してしまう。

突然私が笑い出したことに驚いたのか、アダムが遮られた口のまま固まった。私に捲したてるように訴えていた彼の顔は首まで汗を滴らせて濡れ、細目の奥の赤が僅かに動揺に揺れている。身体が固まると同時に息を吸うことも思い出したように彼の胸が大きく膨らみ、縮む。最初の優位を気取った姿とかけ離れ過ぎて、やはり所詮は小ボスだなと思ってしまう。一頻り気が済むまで笑い続けた後、やっと彼へ言葉を吐きつける。


「必死じゃないアダム‼︎アッハハ……そうよねぇ?困るわよねぇ⁈アッハハハ‼︎兵は来ない将軍はいないローブちゃんはいない!とうとう貴方と私だけ‼︎‼︎あんなに勝てるだ余裕だ言っていた癖に‼︎」

アッハハハハハ‼︎アハハハハハハハ‼︎ハッハハハハハハハハハハハッ‼︎と一回叫んでまた笑う。

もう場所も知られてしまうと思えば、外に聞かれることも気にせず声を上げてしまう。お腹を抱え、背中を丸めて笑い続ける。笑い過ぎて目元が涙で滲んだままアダムへ目を向ければ、ぽかんと何とも間抜けな顔だった。次第に細目が開かれて屈辱か羞恥で顔が赤らんでいく。きっと皇子の彼はこんなに馬鹿にされたことなんて今までなかったのだろう。

恥に汚れる彼が愛しくなり、もっともっと笑って笑って汚し続ける。「情けない」「口ばかり」「それでも侵略国家⁇」となじれば、彼の手が震えるまま握られた。このまま私に殺しに来るならそれでも良い、返り討ちにするだけだ。どうせもう彼も私と一緒で助かる道なんて一つもない。


「ねぇ?アダム。……嗚呼ッ、……その顔もっと見せてちょうだい。」


笑うのに疲れて、今度は私が息を乱す。

ハァハァと乱れた息と上がった熱のまま、彼の襟元を軽く掴み取る。顔を近付け、細い目を直接覗けば彼の息が止まった。語り掛けようとする途中で、絶望と混乱の混ざった顔が色褪せ、とても綺麗で思わず甘く息を吐いてしまう。強張る彼の頬に手を添え、軽く爪で引っ掻く。小ボスとはいえ、ヴァルと同様に絵師のお陰で整った顔に描かれていた彼は近くで見れば汚しがいがある。馴れ馴れしく私に触れられて、怒りか屈辱かで更に彼の顔が赤らんだ。荒くなる息を味わうようにその唇を撫でれば、指先が軽く湿る。

彼の怒りをもっと絶望に変えたくて、再び彼へ毒を注ぎ込む。


「……ねぇ、喜びなさいよ?私の為に死ねるのだから。」


息を引く。

そのまま呼吸が止まった彼に、両手で挟むように頬を撫で回す。火照った顔の温度を味わい、耳から顎、そして首へと私の冷えた手で侵してあげる。

本気でフリージア王国を手に入れられると思い込んだ皇子様。私の事も上手く利用できていると、操れていると傲った皇太子。馬鹿で愚かで……傲慢なラスボス女王の踏み台に相応しい小ボスちゃん。

生きているのか確かめるように首から彼の胸へ服越しに手を当てればビクリと身体を震わした。上目で私より背の高い彼を覗いて笑んでみせれば、目の奥の赤とぶつかった。


「どうせローブちゃんが居てももう無駄よ。城外に出る前に温度感知の特殊能力者に見つかるわ。貴方の特殊能力も触れた相手しか壊せないのでしょう?……なら、銃で撃たれればおしまいよ。」

本当は逃げる方法もある。地下にはここともう一つ、長い長い抜け道も存在する。そこを辿れば城下にも逃げられる。……ただ、それを知るのは私だけ。そしてアダムに教えようとも思わない。

絶望に染まる彼を目と肌で味わいながら嘲笑う。もう無駄だと、どうせ死ぬのだと思わせる。ゲームでは死ぬか私を見捨てて逃げる裏切り者。きっと今も、私を捨てて逃げたくて逃げたくて堪らないのだろう。それができないのは、まだフリージア王国を手に入れられるとでも思っているか。それとも戦力や身代わりとして私が欲しいのか。


でも、逃がさない。


「アッハハ!ご愁傷様。もう無駄、もう駄目。貴方と私に助けは来ない。もう間に合わない。……それともこのまま逃げる背中を撃たれたい?」

どうせなら、死んで貰おう。ゲーム通り、私へ辿り着くまでの盾として。

さっきレオンに止められたのが惜しかったと思うくらい素敵に無残に殺しちゃおう。絶望の中で足掻き苦しむ彼が見たい。

敗北を笑い続ける私に、アダムもやっと陥れられたのがわかったのか顔から一度赤が引いて白になる。吐かれ出す息が細切れに震えた。信じられないと言わんばかりに動揺を表に出すアダムに、背後から首へ手を回して引き寄せる。彼の色が絶望になるごとに、胸が高鳴った。愚かで可愛い彼をこのまま舐めて溶かしてしまいたい。


「命令よ、アダム。貴方は私の代わりに外へ上がりなさい。策をあげる。上手くいけばちゃあんと助けてあげるわ。上手くいかなくても、……どうせ死ぬなら、私の役に立って死ぬ方がずぅっと有意義でしょう?」

そう言って、彼にそっと策を囁く。これしかないと彼に思い知らせる。

正直言えば、クライマックスに相応しい満月まで時間を稼げた今、彼にも秘密道具にも用はない。ゲーム通り逃しても殺しても全く問題はない。レオンが来なければとっくに遊び切っていた筈の玩具なのだから。……だけど。


「上手くいけば貴方は助かるかもね?だぁって貴方しか我が国の最上層部は治せないのでしょう?なら、運が良ければ助かるわ。」

自分でも醜い笑みを浮かべていると理解しながら口端を最高まで引き上げる。

嘘ではない、ただし一度助かったところで最上層部が治れば待つのは処刑。どうせ死ぬしか彼には無い。

交渉の仕方にもよるだろうけれど、よっぽどのことがない限り生きたまま解放されるのは不可能だ。それでも唯一の希望のように謳ってみせる。私の為に死ぬか、それとも敵と相対して捕まるか。……どちらにしても、私の指示通りに外へ上がるしかない。


「それとも私を騎士団に売ってみる⁇アッハハ‼︎どっちりしろ同じだけどねぇ⁈今更抵抗しようと投降しようと貴方は私の共犯だもの!」

ラジヤ帝国軍が攻め込み、母上達を狂わしたのが私達だと知られている以上、逃げ場などない。

私に嵌められたと言い張っても罪が軽くなるわけがない。

彼自身、それを分かっているかのように動かない。私に視線だけが釘付けのままこうして首から引き寄せても無抵抗なままだ。未だ目の前のことが信じられないような表情で変わらない。現実を飲み込んで怒り狂うか崩れ落ちるのかと楽しみにしながら「どうする?」と視線で舐めながら待っていると、次第にゆっくり彼の口が動き、舌が波立った。


「貴方はっ……、……フリージア王国の破滅を望まれている筈では……?」

まるで、何かを確かめるような言葉だった。

今更何を、と思いながら首を傾げてみせる。私の望みは変わらない。最高の幸福な結末を彩る為にここまでやってきた。沢山の人に憎まれて、呪われて、倒すべき敵となって討たれる。それだけだ。

私はアダムの顔を覗きながら口を引き上げて見せる。もうここまで追い詰めてしまえば、本来の目的を語ったところで問題ない。最悪、このまま彼が逆上して私に殺しに来ても返り討ちにできる自信もある。

片手をアダムの首からそっと腰の剣へ置く。これから変わり行くであろう彼の表情の機微も見落とさないように彼の目から顔全体を見渡せるようにと少し顔を離してから私は唇を躍らせる。そうよ?と肯定するように口遊み、そのまま嗤う。


「その為に母上達や城下を貴方達に襲わせたのだから。あとは彼らに〝幸福な結末を迎えさせること〟が私の望み。……素敵でしょう?」

幸福な……結末……⁈と、アダムが訳がわからないように言葉を返す。

期待通りに驚愕へと彼の顔が歪んでいく。細かった目が開かれ、口が呟いた最後の言葉の形のまま止まった。愉しくて引き上げた口端をだらしなく緩めながら、うっとりと彼を眺める。今ここで彼に〝証〟を残したらどれ程に怒り狂って憎悪に塗れるだろう。それを見れるならいっそこのまま最終局面前に彼と座興で殺し合いするのも楽しいかもしれない。

そう思うと、この態勢も危ないかなとふと気づく。小ボスの彼の特殊能力なんてラスボスの私に効くわけないとは思うけど、もし万が一にも効いたら彼に触れられただけで私も母上達の二の舞だ。

気付いた瞬間、ドンと彼を突き飛ばす。勢いよく両手で押した所為で、私も反動で壁に背中がぶつかった。無抵抗に突き飛ばされたアダムは蹌踉めきながら一メートルほど遠退いた。視線が私に刺さったままの彼へ、焦ったことを気付かれないように嘲りを向ける。


「私が憎い⁇……殺したい⁇ローブちゃん無しで私を殺してみる⁇」

騎士団に会うより先に死ぬかもしれないけれど。と、続けながら呆けた彼に剣を抜く。

彼の秘密道具は、まだ帰って来ない。たぶんまだヴァルに落とされたままなのだろう。彼が空けた大穴は、私のいる部屋から更に下層まで続いていた。窓もないこの部屋では大穴の底まで見渡せず、一つ下の階か、それとも地下かは暗くてわからなかった。アダムの話では突然穴が空いた時に下でかなりの落下音が響いたらしいから、秘密道具が落下したのは確実だ。生きてるか死んでるかもわからないけど、屋上からここに戻ってきて一度もアダムの呼びかけに応じていない。

まだアダムにはヴァルがレオンを連れて逃げたことは話しても、秘密道具の落下については教えていない。二人を分断できるならその方が私も都合が良かった。


確実に彼を敗北へ突き落とす為に。


「良いわよ?いらっしゃいな。……私に殺されるか、私の為に死ぬか。貴方の運命は最初からどちらかしかなかったのだから。」

そう言ってゆっくり抜いた剣をアダムへ向ける。

アダムの首に剣先の照準を合わせれば、まるでもう刃が届いたかのように大きく喉を鳴らした。狐のような細目が痙攣するのに反して、その口端が歪むように吊り上がる。僅かに開いた口の隙間から涎が光った。……やはり彼も私との殺し合いを望




「貴方の為に死にましょう……‼︎‼︎」




……不意に、予想外の答えが返された。

一瞬、私の油断を誘う為かと思って警戒を高めたけれど、どうやら違う。顔を歪めることなく、寧ろ嬉々として細めの奥から小さく瞳をギラつかせた。

白くなっていた筈の顔を興奮したように顔を再び赤らめ、息まで上がり出す。殺し合いする気満々で仁王立ちする私に反し、彼は無造作に歩み寄る。「最高だ」と独り言のように何度もぶつぶつ繰り返しながら、私の剣が届く距離まで詰め、跪ぬ。ギラギラと細く目を更に光らせながらとうとう「素晴らしい……‼︎」と唄い出す。


「私を‼︎私の、望みを〝上回る〟など‼︎‼︎初めから私の欲すら貴方に支配されていた……‼︎()()()()()()()欲を求めるとは‼︎嗚呼ッ……貴方は、本当の本当の本当に美しき狂女だっ……‼︎‼︎」

勝てると思わず服従で諦めたのか、またかなり世辞が強過ぎる上に独特だ。褒められている私も意味がわからない。

それでもアダムは興奮が抑え切れないかのように息を荒げ求めるように手を伸ばしてきた。罠かと思いながら剣を握り、反対の手を差し出せばまた私の手首に口付けを落としてくる。僅かに歯を立て吸い付くように証を残す彼は、まるで酔ったかのような溶けた眼差しで私を目でも舐め返した。どうせ命欲しさの嘘の証だと思えば思うほど何とも思わない。最後にちゅばっ、と汚い音を立てて唇を離すと、彼はにやついた口のまま私へ語る。


「良いでしょう。貴方の狂気の為に死に、()()()()()()()()貴方の玩具として使い果たされる……‼︎‼︎それこそが私の幸福だ……‼︎」

狂ったような満面の笑みで私を見上げる。

口端が上がりすぎて涎が伝って床を汚した。爛々と光る目に合わすように紅潮した顔も輝いた。どうやら彼はどこまでもラスボスである私に服従するようにできている。ゲームのように生死の選択寸前までは私に付いてくるらしい。……なんて都合の良い男。

あらそう、と言いながら、笑みを引き上げ続ける彼へ剣の代わりに足を出す。受け取ろうとした彼の手を爪先で蹴飛ばし、その肩に掛けるように踏み付けた。

皇太子が踏み台なんて屈辱だろうに彼は揺るがない。むしろ笑んだまま私に頭まで垂らしてきた。これは頭も踏んで良いという意味かしらも思いながらアダムの旋毛を眺め、口を開く。


「良い覚悟ね。アダム・ボルネオ・ネペンテス。……その姿勢を賞して一つ機会をあげる。」

御褒美、欲しいでしょう?と。甘く語れば踏み台にした彼の肩が震えた。

フリージア王国を支配できればという約束。それはもう叶わない今、彼の眼前に再び餌を吊るす。せっかくなら最期の最後まで……ゲーム通りに動かすその為に。もう私が彼に好意があると偽る必要もない。既にもう互いの化けの皮は剥がれているのだから。だから、今度こそ彼が欲しがる別の餌を。


「我が弟、ステイル・ロイヤル・アイビー。宰相、ジルベール・バトラー。アネモネ王国第一王子、レオン・アドニス・コロナリア。ハナズオ連合王国王弟、セドリック・シルバ・ローウェル。もし、彼らの内誰かを殺せたら……」

恐らく、実際現れるのはステイルかジルベール宰相ぐらいだろう。

セドリックはハナズオ連合王国だし、レオンはもう戦闘不能。アーサーも死んだ今、気がつけばこんなにルートも絞られた。

私の言葉に一字一句聞き逃さないように息すら止めて聞き入るアダムへ鼻で嗤う。そんなに褒美が欲しいのかと、負けを認めて服従するしか出来ない情けない皇子様を踏む足へ力を込め、安い餌を軽く掲げる。



「私をあげる。」



今や価値なんて塵以下の、この私を。

だけど、彼はきっと口から手が出る程欲しいだろう。攻略対象者の内。たった一人でも殺せれば彼は私を殺すことも、嬲ることも嘲ることも何だって復讐できるのだから。


当然、守るつもりなんてないけれど。


私の命は小ボスではなく、主人公か攻略対象者が奪ってくれるのだから。そうじゃないと最高の幸福な結末にはならない。小ボスに負けて終わりなんて絶対につまらない。

どうせ彼は攻略対象者に勝てない、果たせるわけもない。そして万が一誰かを殺せたとしても騎士団が攻め込んで来ていたら約束を果たす間もなく彼と私は断罪される。せいぜい騎士ではなく攻略対象者までは持ち堪えるようにと餌だけ吊るす。

予想通り、アダムは笑みが酷く輝いた。引き上げたまま口を涎まみれに開け、身震いまで始めた。最後の最後の復讐への切符。彼はきっと死に物狂いで掴みに来るだろう。

良いでしょう……‼︎と高々と声を上げるアダムが唇を私の足へと伸ばした。触れられるその前に足を引っ込め、今度こそ頭をヒールで蹴り上げる。

まだ許してなくってよ、と断ってもそれでも彼の笑みは途切れながった。約束に喜び、私への復讐心を露わにしながら好意と服従を演じる。何とも面倒な男だと思いながら私は顎で梯子を指して策を授けると共に彼を外へと促した。深々と頭を下げたままの彼は、一度部屋から出たあとに装備を揃えて戻ってきた。そのまま表情筋が壊れたように引き上がった笑みのまま梯子を駆け上がる彼に私も笑いが込み上げる。昔のセドリックよりもずっと馬鹿で愚かな彼に。

パタン、とアダムが上から屋上への扉を閉めた後、やっと本当に静かになった部屋で息を吐く。直後、ぷふっ……と最初はアダムの馬鹿っぷりに吹き出し、お腹を抱えた。アッハハハハハ‼︎‼︎と何度も何度も声に上げ、……そして、冷める。


「…………ほんと、馬鹿な男。」


自分でも驚くほど、うんざりした低い声だった。

壁に背中を預けて座り込み、覗き穴をみればまだ今のところは誰もいない。……まぁ、透明の特殊能力を使っている可能性も充分あるけれど。

アダムはアレで私に好意を演じられているつもりなのだろうか。大袈裟な言葉で褒めたり、証を残すぐらい程度、やろうとすれば誰にだって



『あ……ぃ、し……てる………』

『……戻ったら。…………そん時はまた、テメェの奴隷だ』



「…………。」

急に、さっきの二人の言葉が連続して蘇る。

……レオンのバッドエンドルートは、ティアラを人質に取られたまま、何も出来ずにプライドに殺される。

弟達の仇も打てず、私に嘲笑われながら駆け寄ったティアラの腕の中で死んでいった。「……愛……してる……」と最期にティアラに口付けをして力尽きたシーンは完全な悲恋ものだった。

……そう思うと、もしかしてさっきのレオンの言葉も私ではなく最期にティアラを想っての言葉なのだろうか。ずっと心の底でティアラを想っていて、ティアラの為に姉である私も助けたかったとか。運良く助かったのだし、ゲームクリア後にでも今度は直接ティアラに言えるだろう。まぁ、ティアラはどうせ他のルート相手と結ばれた後だろうけれど。


「……良かったわね。」

アーサーと違い、レオンはちゃんと生きてティアラに会えるのだから。

殺しかけた私の影にまたゲームのように怯えるか、もしくは優しい彼は私が死んだことを気に病むかもしれないけれど、それもティアラなら癒してくれる。それに何より彼には愛するアネモネ王国がある。……大丈夫、傷は癒える。

何故か、さっきまで殺せなかったことが悔しかった筈なのに今は不思議とほっとする。彼なら大丈夫、また幸せになってくれるだろうと思えば、口元が柔らかく緩んだ。きっと私が作る幸福な結末を、明るく彩る方の要因が増えたからだろう。

そう自分を納得させながら髪を耳へかきあげ、首へと流せば、……ふと指先が熱かった部分に触れた。さっき拘束されながら〝執着〟の証を残された箇所だ。私の命を狙い続けると、彼の恨みの象徴でもある。

ヴァルは、ゲームでは少ししか出番もない。私との接点のある場面なんて無かったし、それ以前に私が断罪される前に攻略対象者に負けて土壁のドームに引きこもって終了だ。彼がハッピーエンドの後にどんな人生を歩んだかなんてわからない。多分、私に対しても上客程度しか関心もなかっただろうし。

そんな彼が、この世界では証を残すほど私を憎んで去った。秘密道具が付けた傷は貫通して見えたけど、かなり危うい場所だったし死んだ可能性の方が高い。証も無駄に、あっけなく死ぬなんてモブキャラの彼に相応しい最期だ。

逃げられたのは死ぬ程悔しいけれど、きっとたかがモブキャラ相手に私が手を下す必要もなかったのだろうと自分に言い聞かす。うんうんと一人で頷きながら思い出しかけた苛立ちを鎮める。ヴァルが死んでケメトとセフェクは泣くだろう、と思ったらワクワクと胸が高鳴る。

あの子達が嘆く姿も見て見たかった。きっと泣き腫らした後には憎しみに燃えた目を私に向けてくれただろう。気の強いセフェクや、優しいケメトに憎まれるなんて一体どんな表情か、考えるだけで楽しくなる。勝手に口端が引き上がったままフフッ……とまた笑いが漏れる。そのまま彼らの絶望と憎しみに汚れる姿を想像したところで


……ヴァルが、そんな二人を望むかと思ったら。何故かチクリとだけ痛んだ。


意味が分からず、胸を押さえたけど別に傷はない。

服の下から覗いても擦り傷一つないし服に針も刺さっていなかった。……私が断罪された、幸福な結末の世界で。幸福じゃない人間が二人いるのが困る、きっとそれだけだ。

そう思いながら意識的にまた一人頷いた。大丈夫、ヴァルの仇である私は死ぬし、二人と仲の良いティアラが慰めてくれる。レオンが生きてるなら二人の生活も取り計らってくれるだろう。

大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせながら、まるで混ぜた筈のものが気持ち悪く分離したような感覚に吐き気がする。舌を打ち、うえっ……と声を漏らしながら俯いた。


フリージア王国に破滅を。

そして、我が身へ断罪を。……幸福な、結末を。


私の目的を言い聞かせるように確かめる。大丈夫、ちゃんと私は役目をわかってる。何も、何も変わらない。奴隷生産国に堕とすことも上手く阻まれた。あとは私が死ねば……、…………あれ。奴隷生産国にしてないのに良いの⁇……いや、良い。その前に国を崩壊させたことが大事なのだから。奴隷生産国にした後に私が死んでも幸福な結末にはならない。それじゃあ意味がない。だって私は……、…………私、は……、…………?


駄目だ、思考が止まる。気持ち悪い。


八つ当たりに剣を抜き、力任せに突き立てた。ザクンッ、と硬い音と共に剣身の半分以上が勢いあまって石畳に貫き刺さった。

この国に破滅を。幸福な結末を。

大丈夫、私は目的通りに動いてる。大丈夫、大丈夫、大丈夫大丈夫大丈夫……。

剣に体重を掛け、額を柄に当てながら俯く。こうなったのも全部、まだ私を倒しに来ないティアラと攻略対象者の所為だ。早く彼らが来れば、全部、全部が綺麗に終わってこんなに頭が痛くならずに済むのに。


─ 早く、早く来て。


そう思っていると、妙に手が震え出す。

寒くもないし、吐くほどでもないのに何故か。まさか自分の死が今更になって怖くなったのか、それとも武者震いか。ぐるぐると目を閉じたまま考えていると、今度は勝手に口が言葉を吐いた。自分でも意外なくらい、か細い声で。










「……っ。…………早く、…誰か私を殺してっ……っ。」









私の目的は変 わ  ら   な    い


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― 新着の感想 ―
[良い点] もうちょっとーーーー!プライドさんはよ!はよ!正気に!!
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