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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
ラスボス女王と叛逆

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そして託す。


「……プライド、それを下ろすんだ。」


静かにレオンは言葉を掛ける。

武器を握る手が震え掛けるのを力で抑え、彼女を刺激しないように慎重に。

レオンの言葉に、己が首に剣を当てたままプライドはニタニタという笑みが止まらない。蒼ざめていくレオンの顔色が楽しくて楽しくて堪らず、つい刃をさらに自分の首へと押し付けてしまう。ぷつっ……と刃の隙間から血が更に溢れ出す感覚に痛みを塗り消すほどの興奮を覚える。


「どうして?私を殺したいんでしょう⁇なら良いじゃない。」

「違う、君を止めたいんだ。……助けたい。」

嘘ばっかり、とレオンの言葉に再び笑う。

上機嫌な様子のプライドを見ながら、レオンは考える。今、一瞬の隙を突けばプライドの剣を銃で弾けるかもしれない。ただし、今まで一度も自分の弾はプライドに当たっていない。今度避けられれば今度こそプライドは自分の首を搔き切るだろう。


「私が憎いでしょう?レオン。フリージア王国を危機に陥れたことで、折角軌道に乗ったアネモネ王国までも脅かした私が。」

プライドの、言葉は変わらない。

エンディングが近付いているという興奮と、狂気に蝕まれた頭でただただ純粋に人生を謳歌する。攻略対象者に自分は憎まれ、殺される。その為に彼女はここまでの舞台を作り上げてきたのだから。


そして、役目を果たそうとしないレオンにもう用はない。


「選びなさい?私を殺すか、貴方が殺されるか。……愛しいアネモネ王国に素敵な次期国王を失わせたい?」

語り、嘲り、選択を迫る。

自分を殺せと命じ、レオンの言葉を断じた彼女は剣とは反対の左で銃を構えた。その照準を彼へと向けながら、プライドはその焦燥に満ちる表情をしゃぶるように味わった。最悪の二択を迫られ、唇を引き結んだまま彼女から目を離さないレオンはその指先も俄かに震えさせた。焦燥、絶望、恐怖、混乱と入り混じるその表情に恍惚の笑みを輝かせる。


……嗚呼、素敵。


ハァ……と選択を迫りながらプライドは甘い溜息を吐いた。負の感情に満ちていくレオンを特等席で眺めながら、頬が紅潮していく。

プライドは、わかっている。

この世界はレオンルートではないことを。本来、彼の傍にいる筈のティアラがいないのだから。

プライドは、わかっている。

自分がここで死んだら、折角の幸福な結末も駄目になる。最後がラスボスの自殺などつまらない。命をもってその罪を償わされるからこそ物語は盛り上がる。

プライドは、わかっている。

レオンは自分に自殺などさせられない。何故なら彼は



本当に、自分を止めようとしてくれているのだから。



『ああ、僕も愛しているよ。盟友として、君を心から』

その言葉が、真実だとプライドはわかっている。

盟友として関わってきた彼女だからこそ、理解している。レオンが、盟友として自分を助けようとしてくれていることを。もともと彼女はレオンには殆ど害を与えられなかったのだから。

ゲームのようにアネモネ王国の民を嬲り殺しにすることもできなければ、部屋に閉じ込めることもフリージア王国に縛ることも心的外傷を植え付けることもできていない。一度冷たく突き放し、あとは彼の愛するアネモネ王国の同盟国であるフリージア王国を危機に陥れただけ。そして、ティアラと恋にも落ちていないレオンが、盟友である自分を未だに切り捨てられないのも理解した。その為に自分が操られている、民がまだ自分を諦めていない、まだやり直せるのだという()便()()自分を思い留まらせようとしていることも()()()()()()

心優しいレオンが、盟友だった自分を憎み切れていないのだと。ここまでやって、国中に敵だと見なされている自分をそれでも助けようとしてくれているのだと、止めようとしてくれているのだとわかっている。……だからこそ。


「ねぇ?レオン。素直に言ってみなさいな。本当は憎くて憎くて堪らない私をその手で殺したいのでしょう?」


毒を、吐く。

自分の言葉に、完璧な王子であるレオンが取り乱すのが楽しくて楽しくて堪らない。

瞼を無くし、見開いた目と上擦ったその声で「違う‼︎」と必死に荒げる彼が愛おしくて堪らない。アッハハハハハ‼︎と剣を首に掛けながら笑い声を上げてみせる。天を仰ぎ、目を瞑り笑い過ぎて涙を滲ませれば、レオンがまた短く構えた。

その直後、乾いた音と同時にプライドは笑いを急停止させ、首に当てていた剣を振るう。スパンッ、とレオンから放たれた麻酔弾が二つに割れて中身ごと石畳みに転がった。


「……無駄よ。予知能力で全てお見通しだもの。」

鼻で笑い、再びプライドは自分の首に新たな傷口を作る。

一本の赤い線が二本になり、レオンは息を飲んだ。だが今はプライドが再び自分を傷つけたことよりも、目の前の事実が信じられず目を見張る。


……予知能力……?


未だ、高笑いをあげるプライドの視界に自分が入っていない絶好のタイミングを図り、レオンは撃った。

なのにやはり彼女はすぐに弾を見切ってしまう。それどころか今度は避けるどころか弾をその剣で切り落とした。たとえ正面から受けたとしても、出来るような芸当ではない。まさか彼女は実弾でも同じことが出来るんじゃないだろうかという予感と同時に、先程の言葉からレオンの頭に予感が走る。


「プライド……。君は、まさか予知で全ての弾を見切っていたのかい……?」

「そうよ?アッハハ!今更気付いたの?」

ぞわり、と寒気に似たものがレオンを襲う。

フリージア王国の予知能力者。

それはレオンも理解している。一度はプライドの婚約者にもなった彼は予知能力がどれほどに優れ、稀少な存在かも知っている。

今まで、自分が撃った弾は何発あったか。

それを全て目ではなく、予知で見切っていたのだとすれば納得もいく。だが、自分の攻撃を避ける為にプライドは今日だけで一体〝何回予知を行ったのか〟と。その疑問だけがぐるぐる回る。歴代最高でも週に数回程度だと聞いたこともある、しかも今の言葉が事実とすれば彼女は


「……ッ、……ッッァ、ア、ア‼︎」

「ップライド⁈」


ニチャァ……と、血がトプトプと首から更に溢れ出し、自ら刃を奥へと進ませたプライドから声が漏れた。

直後、レオンの表情が一変したのを確認したプライドは「ハハハ…」と枯れた笑い声も零した。警告を無視したレオンに、彼女は宣言通りその細い首へ刃を更に減り込ませた。薄い皮だけではなく肉まで裂けた感覚にプライドは痛み以上に興奮を隠せない。まだ死ねない、エンディングまで自殺するわけにはいかないと思う自分と、……このまま死んでしまいたいと思う自分が混ざり合う。


「ッもうやめるんだプライド‼︎僕はッ!そんなことを望んでいない‼︎」

レオンにしては珍しい、荒げた声が放たれる。

見れば蒼ざめた顔に続き、翡翠色の瞳が酷く揺れていた。荒げた後も足りずに荒くなり肩で息をするレオンにプライドはうっとりと見惚れてしまう。少しだけ刃を緩め、血がドレスを首元から滴り濡らす感覚に胸が高鳴った。そしてとうとう、決めてた言葉をレオンへ放つ。


「……なら、避けないで見せて?」


チャキ、と銃の金具の音が静かに鳴った。

息を詰まらせ目を見開いたレオンは、動かなかった。左手の銃を掲げたプライドは照準を合わせ、撃ち放つ。パンッ、と乾いた音の直後に正面からレオンの右肩が無抵抗に撃ち抜かれた。剣とは違う、弾が身体を貫く感覚にレオンは鋭い声を上げ、堪える。

その途端、アッハハハハハハハ‼︎‼︎とプライドから笑い声が上がった。両肩が壊れた玩具を銃口で指すようにして笑う。痛みが走る肩を右手でも左手でも押さえつけられずに歯を食い縛り堪えた。


「すごいわぁ!本当に避けないなんてっ!アッハハハハハ!流石清らかな王子様‼︎今なら少〜し信じられそうよ?」

アッハハハ!アッハハハハハハハハハハハハ‼︎と笑い声を繰り返す。

わかっている、心優しいレオンが自分の為に敢えて銃を避けなかったことを。わかった上で、彼女は今の状況を心から楽しんだ。笑い過ぎ、更には痛みと苦痛に耐えながら自分へ眼差しを注ぐレオンの姿に身体が火照る。

再び銃で今度はレオンの足を狙う。照準を合わせ、躊躇いなく撃ち放……てない。弾が切れ、カン、カンと金属の空音しか聞こえなかった。その事実に、折角上機嫌だったプライドの顔が不機嫌に冷め出した。弾薬や武器はここにはない、在庫は全てアダム達がいるあの階に収納されている。つまらなそうにプライドは銃を放り捨て、……気が付いた。目の前に武器の山が居るということを。


「ねぇ?レオン。もう銃がなくなっちゃった。……貴方の銃を貰っていいわよね?」

「…………。」

レオンは答えない。

銃を渡せば自分が更に嬲り殺されるのはわかっている。だが、自分には抗う術など殆ど残されていない。腕と手首だけ使えばまだ銃は使えるが、プライドには通用しないことは既にわかってしまった。

レオンは考える、今この状況で最善は何か。何を利用し、どう対応すれば人質でもあるプライドを死なせず、止める事ができるのか。傷付ける覚悟はできている。ただ、彼女を取り戻す為にできることはと。

思考を高速で回したレオンは、決める。

左手に握られていた最後の麻酔銃を肘関節だけ動かし、胸の前まで持ち上げて見せた。引き上がった笑みのまま「そこから投げて」とプライドが左手を彼に伸ばす。レオンはそれを構える手から持ち手だけを掴み、投げ易くする。そして、手首だけの力を使って高々と



塔の外へと投げ捨てた。



自分の背後に向かい、軽やかに。

その放物線を壁の向こうに消えるまで目で辿ったプライドは、腹立たしそうに歯を剥いた。自分に手渡すくらいならば捨てるという意思表示だと理解する。だが、想像していなかったわけではない。


「……ちょうど良いわ。麻酔銃じゃ物足りなかったもの。……まだ、服の中にあるでしょう?そっちをちょうだい。」

「悪いけど、君のお陰でもう取れない。僕を撃てない身体にしたのは君だろう?」

レオンの言葉に、それもそうねとプライドは笑う。

肩が上がらないレオンは、腕を動かせる範囲の武器しかとれない。だからこそ最初に手の中の武器を捨てたのだから。

困ったね、と滑らかな笑みを向けて見せるレオンにプライドは顔を強張らせた。

今の自分の手段はそれしかない。大丈夫、レオンの肩は確かに自分が潰したのだからと頭の中で唱えながら彼に歩み寄る。剣を自分の首に滑らせながら、ゆっくり一歩一歩レオンに歩み寄る。もし、レオンが隙を見て自分を取り抑えに来たら力でも体重差でもプライドは抗えない。それは、ラスボス女王である自分の唯一の弱点でもあるのだから。


「……プライド。僕は君を愛してる。本当に、君を今も助けたいと思っているよ。」

「嘘ばっかり。清廉潔白な王子様がそんなに嘘ばかりついて良いのかしら?」

カン、カン、と一歩ずつプライドが近付く中、レオンは言葉以外は微動だにしなかった。

激痛に息を荒くし、腕をぶら下げながらプライドを見つめ続ける。彼女に何度跳ね除けられようと、届くまで言葉を与え続ける。


「だから、もう剣をしまってくれ。自分を傷付けないでくれ。」

「あら?私を傷付けるという覚悟はどこに行ったの?」

レオンの言葉をせせら嗤う。

彼の言葉が本心だと、嘘偽りは無いと理解しながら届いてないように嘲った。

とうとうレオンの目の前まで近付くプライドは、彼の肩から溢れる血が本物であることを目で確かめながらまた一歩進む。またその長い足で蹴られるのではないかと、自分の首に突きつけた剣を握る手に力を込めたが、そのそぶりすらレオンは見せなかった。むしろ手のひらをプライドに開くように見せ、自分は何もする気はないと示す。

プライドはゆっくりとレオンの団服に手を掛けた。摘んだだけでもそれには上等な布以上の重みがあった。少しめくって覗くだけでも、全身武装という言葉が相応しいほどの夥しい数の武器だ。


「プライド。……本当は君を傷付けるのだって嫌なんだ。」

「そのわりには素敵な武器の量じゃない?」

今からこれを貴方で試してあげる、と擽るような声でプライドは唱える。だが、レオンは動じない。それどころかどの銃を使おうかとレオンの団服の内側を覗く彼女に「旧型のは襟元だよ」と優しく囁くほどの余裕まであった。

銃であれば何でも扱える自信のあるプライドだったが、これから自分を嬲る為の武器の場所まで提供するレオンを鼻で笑いながら、プライドは右手を団服の内側からなぞるように伸ばした。襟元、と言われて確かにそこには小さな銃があった。持ち易そうなそれを取ろうと彼の襟元を掴めば


「いっそ、全部あげようか。」


するり、と。

襟元を掴んだプライドの手すら利用して、レオンは自ら団服を器用に脱ぎ払った。重い団服から抜け出た彼は、プライドへ向かうことなくその場から横に駆け出した。「え」と襟元を掴んだままの団服を片手にプライドは思わずレオンを目で追った。プチン、と糸が切れるような音と武器の塊となっていた団服が重さのあまりプライドに襟だけ掴まれたまま石畳みへと垂れ落ちた。ゴトゴトと重そうな音を立て、プライドは何のつもりかとレオンを目で追


ドガンッ、と低い爆音と共に激しい閃光が彼女を包んだ。


キャアッ‼︎と悲鳴が上がり、プライドがその場から避けるべく光に包まれたまま必至に後退る。

爆弾の衝撃自体は大したものではなかった。小爆弾程度の破裂に怪我もない、ただ直後に放たれた閃光の凄まじい光量に今から大規模な爆破が起こるのかとプライドは身構えた。背後に下がり続け、塔から飛び降りようと壁を探せば途中で背中がぶつかった。壁だと思い、振り返った瞬間


「大丈夫。爆破はしないよ。」


背後に回っていたレオンが、のし掛かるようにその場で彼女を押し倒した。

どさっ、と肩が上がらない代わりに体重と腕の力だけでプライドを押さえつけた彼は、鼻先が触れ合うほどの距離で彼女の顔を覗く。

嵌められた、とプライドが理解した時には遅かった。自分の首に構えていた剣は爆破から逃げようとした時に下ろしたまま、今はレオンに掴まえられている。完全にレオンに身体全てで潰された自分は身動きが取れない。踠き、暴れるが力では男性であるレオンに勝てない事は自分が誰よりも知っている。


「武器を悪用されたら困るからね。正しく脱がないと軽い自爆と閃光弾が着く仕組みになっていたんだ。……本当は隙を見て逃げる為の仕掛けなんだけど。」

こんな体勢でごめん。と呟きながらレオンは押し倒したままプライドを覗く。

嵌められた怒りと憎しみに光る彼女を覗き、血を滴らせる痛々しい彼女の傷に顔を顰めた。


「閃光弾は、……無駄だろう。ここがどこかはわからないけれど、今アネモネ騎士は城内と城下だし気付かない。」

少なくとも城下の国門付近からは高い塔などは見当たらなかった。閃光弾を使っているのはアネモネ王国のみ。フリージア王国がまだそれを実用使していないこともレオンは知っている。だからこそ、最初に塔に登った時も現在地がわかるまではと閃光弾を使わなかった。現在地さえわかれば、味方が居そうな場所に遠投して気づかせることもできたが、今この状況で空に放っても無駄遣いになることは本人が一番よくわかっていた。


「だけど、手掛かりは残した。……悪いけど、誰かが来るまでこのままとどめさせて貰うよ」

レオンがプライドを押し倒したのは自分達が入ってきた隠し扉の上。

二人分の体重を下から女性であるティペットとアダム二人では持ち上げられるわけがない。そんなことができるのは、自分達のところへ駆け付けてくる騎士達ぐらいだと考える。

それまで不恰好であろうともプライドを封じて保護すれば良い。あとは騎士団さえ来ればどうにでもなる。そう思い、レオンは剣を握ったままの彼女の右手を掴み直



パァンッ!



「……アッハ?」

カハッ⁈と、レオンの掠れた声が吐かれた直後、プライドの笑い声がこぼれた。

何故、どうしてと脇腹に痛みを感じながらプライドを見る。先程の怒りと憎しみの混じった表情と違い、興奮に輝いた笑みがそこにあった。

プライド……?と呟こうとしたら声が出ない。鎧の隙間から撃ち込まれたそれを確認しようとレオンは震える腕に力を込める。僅かに身体を起こし、覗けばプライドの右手には小さな銃が握られていた。さっきまで自分の団服の襟元に備えられていた銃だ。離れる直前、その銃だけをプライドは回収していたのだとレオンは理解した。


「ねぇ?いつまで女王の上に乗ってるつもりかし……らぁ⁈」

どんっ。

レオンが浮かした身体から右手を素早く滑り出したプライドは、躊躇いなく傷を負ったレオンの肩を銃身で殴るようにして突き飛ばした。「ぐあッ‼︎」とあまりの激痛に声を上げるレオンは、プライドの上から崩れるようにして横に転がった。

アッハハハ!と無様に転がる王子をプライドが嘲笑う。レオンの下から這い出し真紅の髪を搔きあげ、立ち上がらず膝をついたまま弾数を確認し、溢れる血と激痛に背中を丸めて耐えるレオンへ躊躇いなく二発を撃ち込んだ。ぐあっ‼︎アァ‼︎と悲鳴を上げるレオンに嘲りを浴びせ、苦しむ彼の顔を見ようとまた怪我した肩を敢えて掴み、仰向けに倒す。

激しく息を切らし、口から血を垂らすレオンを見てプライドの笑顔が輝いた。肌を紅潮さえ、唇を裂くように広げ、必死に呼吸を取り戻そうとするレオンの頬を撫でる。


「嗚呼っ……素敵な顔。……ねぇ?もっともっと苦しむ貴方が見たいわ。」

苦痛にこれ以上ないほど顔を歪め、目すら開かないレオンに向かい、うっとりと語り掛ける。

両肩を、脇腹を、他にも二箇所から血を溢れ出させるレオンはこのままだと視界が消えかねないと思いながらも、痛みに耐えるのに必死で身体が上手く動かない。


「死んじゃうの⁇ねえ?愛するアネモネ王国を残して⁇アッハハ!無責任な王子様!」

言葉でなじる。

大丈夫、あの小銃にそこまでの威力はない、最後の三発では死なない、だけど血が、と。プライドの言葉が聞こえないようにレオンは頭を整理する。

いま自分が生き残る方法を。彼女に自分を〝殺させない方法〟を必死に模索する。

その間にもプライドは止まらない。剣を持ち直し、レオンの鎧を上体正面だけ剥ぎ取った。時間を掛けて金具に手間取りながら彼女が自分の鎧を剥がすのを眺めながら、次は肩まで防護した取り外せない鎧を探さないとと場違いなことを考える。集中力が削れてきているのだと、……自覚する。

カラァンッ!と乱暴に鎧を放り捨てられたレオンにその身を守るものはない。最後に鎧下も剥がし、刃で切り捨てれば白い肌を外気に晒させる。筋肉質な上体から心臓がある場所をプライドは楽しそうな笑みで一度だけするりと撫でる。無抵抗なレオンに膝をつき、馬乗りになるとその剣を彼にも見えるように掲げて見せた。空を仰ぐ状態のレオンは、空に浮かぶ小さな星とプライドの姿が同時に視界に入った。


「〝心臓を抉り出しなさい〟……は、誰のルートだったかしら?」

独り言のようにそう呟き、残酷な笑みを浮かべて見せる。

彼女の言葉と、その剣でこれから何をするつもりなのかわかったレオンは、言葉にもならずに顔を歪めた。


─ ……嗚呼、……僕はまた……彼女に傷を作ってしまう。


自分のことよりもプライドを想い、胸が痛む。

更には自分が死んだ後に遺されるアネモネ王国の民ことを想い、今度は引き絞られる。

突然の婚約解消。それによって、その名に傷を負ったプライドは一度も自分を責めなかった。むしろ盟友として心からレオンを愛し、親しく関わった。

だからこそレオンは思う。もうプライドに自分の所為で傷付いて欲しくなかったとひたすらに。


「………………ッら……イド……。」

「なぁに?レオン。」


掠れた声で、飛びそうな意識の中で絞り出すレオンに、プライドは嬉々として返事を返す。最後の言葉を聞いてあげると言わんばかりに絶対的優位を笑みに宿した。

これからプライドが何をしようとしているかは、わかっている。命乞いなどをする気はない。止めても聞いてくれないのはわかっている。

死にたいとは思わない。自分の命は愛するプライドのものですらなく、自国の民の為のものなのだから。ただ、それでも今彼が言葉にして遺したい、伝えたいことは。


─ ……ありがとう……。


『この私が必ず貴方を幸せにしてみせます‼︎』

─ 本当に、ありがとう。

全てを失い、この世で最も愛しい存在とつき離された。

本当の本当に地の底へ落ちるような瞬間に自分を引き上げてくれた。

自分が付けた傷を、気にしないとずっと笑ってくれた。自分が幸せであることに嬉しそうに笑い、そして彼女もまた自分無しでも幸せでいてくれた。全てを自分に与え、取り戻してくれた彼女だからこそ。ちゃんと言葉にして伝えたいとそう願う。

もし、正気に戻った時に自分が彼女を呪って死んだと思われない為に。


「あ」と枯れた声が漏れる。


馬鹿にするようにレオンを覗きながら「あ?」とプライドが聞き返す。

それだけじゃわからないわ、と笑いながら、彼女は必死に言葉を紡ごうとするレオンを楽しそうに眺める。剣先を彼の心臓に当て、このまま体重を乗せればいつでも殺せるように構えた。

あ……、と。また声が出た。

それはさっき聞いたわ、と切り捨てるプライドに一度カハッ……と血を吐いたレオンは今度こそひと息に声を搾り出した。
















「あ……ぃ、し……てる………。」














─ 君を、心から。


あらそう、と。プライドからの答えは平坦だった。

既に何度も投げられた言葉を、今更最後に放たれたところで何とも思わない。既に、レオンが自分に投げた言葉が本心でいてくれるのを彼女はわかっている。そして、その上で彼女はこう返す。


「嘘ばっかり。」


敢えて、届かない振りをする。

レオンの優しさも善意も、友愛も全てをわざと踏み躙る。

心臓に突きつけた剣を高々と振り上げる。爛々と苛虐に輝いたプライドのその笑みに、自分の死よりも最後まで言葉が届かなかったことに涙が伝った。

深紅の髪が鮮やかに揺れ、星空を覆い隠す。ゆっくりと振り下ろされるように見えたその光景に、レオンはこれが最期だと悟る。……だからこそ。


─ ……良いよ、持って行ってくれ。


言葉にしきる前に胸へ到達するであろう剣先を見て、そう思う。

後悔も、嘆きも、いくらでもある。まだ死にたくもない。自分の命はプライドには捧げられない。自分の身も心も魂も全ては自国とその民のものなのだから。


─ 愛しきアネモネに、全て捧げると誓った僕だから。

君に、生涯捧げないと誓った僕だから。


死んだ後なら構わない。

いつか焼かれて灰になるだけのこの身からならば、いくらでも。


─ 高鳴りも、愛しい痛みも愛も。全てを教え、多くを与えてくれた君だから。この心臓は君にー……
















捧げよう。


















キィンッッ‼︎


「ッ⁈…………えっ……⁈」

プライドの声が、漏れた。

目を閉じることなく、その光景を見つめていたレオンも見開き、驚く。振り下ろした筈の彼女の剣が突然飛んできた何かに横から弾かれた。

レオンの胸に到達する間もなく、弾かれた剣と共に石畳みへ転がったのはナイフだった。それが弾いたのだと気付いた瞬間、プライドはレオンの上から振り返る。直後にプライドの動きが奪われ、自分の横に彼女が転がるまでは一瞬だった。仰向けのまま、その光景をただただ目の当たりにするしかできないレオンはぼんやりと考える。


─ ……ああ、そうだ。…………まだあった。


プライドが怒鳴るように声を上げ、身動きを奪われたまま暴れ出す。

隠し持っていた銃は、とレオンは思ったが顔を横に向けて確かめればそれも彼女の手から零れ落ちた後だった。


─ プライド。……君がくれたもの。


かん高い声で自分の名前を呼びながら、駆け寄ってきた人物が細い腕でレオンを抱き起こす。そのまま膝を彼の頭にそっと貸せば、女性らしい長い髪が覗き込んだ拍子に彼の顔に垂れた。

声を出ず、なんとか笑みだけで感謝を伝えれば今度はその隣に並んだ別の人物が「血がっ……」と声を上げ、何か縛れるものはと周囲を見回した。二人の男女が自分の前に膝をついて並ぶ様子を眺めながら、レオンの身体から力が抜ける。


─ 君のお陰で出会えた人達。


瞬く間の内に身体が縛られ、止血をされる。

溢れ続けた血が止まった感覚にレオンは安堵した。力が抜けたせいで薄れゆく意識に身を任せ、目を閉じてしまえば女性が心配するように声を上げた。大丈夫、と返したかったが声が出ない。すると、自分の代わりにまた別の声が彼女へと放たれた。



「……あー?死んじゃいねぇ、そのまま寝かせとけ。セフェク、ケメト。」



─ 僕の、……友人。


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[一言] ここでヴァルが来るの凄くいい
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