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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
ラスボス女王と叛逆

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662/2210

547.貿易王子は相対する。


タン、タン、タン……


薄暗い通路を歩きながら、レオンは大分前に消えてしまった手の灯りを片手に目を凝らす。

将軍を排し、女王のみが知る隠し通路を辿る彼は気がつけばかなりの距離まで足を進めていた。梯子を降り、地下に近いほどの場所から一本道を歩き続けていた。歩いた距離としてはまだ城内を出てはいない筈だが、時には降りたり、それ以上に登ったりを繰り返し更には途中で何度か曲がり角も多かった為、流石のレオンでも自分が地上で見て何処にいるのかわからなくなっていた。既に手の明かりはないが先程の将軍がやったのか、最低限の明かりだけは等間隔で壁に灯されていた。だが、足元はまだ暗い。途中に横道もあったが、そちらは灯りも灯されていなかった。恐らくこちらは使っていないか別の用途の道だろうと判断し、迷わずレオンは灯りを辿る。


「流石フリージア王国だな……。僕の城のよりずっと長いや。」

抑えた声ではあるものの、思わず独り言を唱えてしまう。

小さな声にも関わらず、狭い通路で足音と共に声も反響した。いくら歩いても先が見えず、流石に少し不安も覚えてくる。歩む足を更に早め、早く外の景色を確認したいと願う。時計がない場所で歩き続ければ流石に時間の感覚も狂ってしまう。タンタンタンタン、と先程よりも更に足を速めながら、レオンは静かに想いを巡らす。


……プライドは。……ちゃんと、無事でいてくれているかな。


元々、レオンがフリージア王国に参じたのはプライド奪還の為ではなかった。

彼もヴァルもティアラも、フリージア王国に着いて初めて、プライドがアダムに操られているのを知ったのだから。そう思い返せば、同時にあの時の感情の乱れを思い出し、思わず一度足を止め掛けた。


……プライドを、狂わせた男……。


許せるわけがない。

心優しい彼女を無理矢理歪め、その手で大事な人を次々と傷つけさせたのだから。

血が凍る感覚と、感情という物体で暗い色ばかりが激しく混ざり合い、濁り、焼け焦げていくのをレオンは確かにあの時自分の中に感じ取った。更には自分だけじゃない、話を聞いたティアラがこれ以上なく身体を震わせ、涙を滲ませていたのも知っている。背後にいたヴァルから尋常ではない殺気が溢れ返っていたのにも気付いていた。そしてまた、自分もそれを抑え切るまでが限界だった。

しかも、ジルベールの話ではもともとアダムはプライドに好意を向けていたという。そして今は、自分を失ったプライドとそのアダムが同じ空間にいる。何かやましい事をされているのではないかと一度疑えば、不安はさらに増すばかりだった。

プライド、プライド、プライド、と心の中で何度も唱え、呼ぶ。彼女を救い出す、彼女の愛するフリージア王国を墜とさせはしない。それが、盟友である自分の役目だと



「アッハハ!全然駄目じゃない!これでよくフリージア王国を堕とせるとか言えたものねぇ?」



足を速めて、また暫く経った頃。

突然聞き覚えのある筈の女性の声が反響して聞こえてきた。肩を上下させて息を止め、片手で口を押さえ足音も消す。さっきまでと変わり、一歩一歩慎重に音を殺し進んだ。


「もう取って置きの特上も一人か二人しか残ってないんじゃない?」


誰かを馬鹿にするような声が一方的に放たれる。本当に役立たずね、と言いながら絶えず笑い声が続く。

特上とは、特殊能力者の奴隷のことだろうかと思いながら、レオンはとうとう曲がり角まで辿り着く。今度は梯子だ。一緒に鉄製の棒も並び、こちらは降りる用だろうかと考える。

長い梯子の先から甲高い声が降り注いでいた。天井の大穴から伸びた梯子の先はどうなっているかもわからない。音を立てないように息も殺して慎重に登れば、途中数メートルだけ登ったところで広めの空間に出た。笑い声はまだ頭上だが、一度途中の階らしきそこに足をつけて降り、見回してみれば扉が二つある。鼻につく慣れた臭いにレオンは一つは倉庫か武器庫かなとあたりをつけた。ならばもう一つは食糧庫かと。

そこまで判断し、補充も必要ないレオンは再び梯子に足を掛けた。そしてまた降り注ぐ笑い声に向かい登っていく。反響こそするものの、意外にかなり距離があった。ひたすら登り、登り、登り続ければ手に汗もかいてきた。道標だった笑い声もやみ、ここで見つかったら不利だと考えれば緊張も増してくる。音を殺しながらも出来る限り足を早めれば、やっと再びさっきと同じような開けた空間に出た。

今度は扉が三つ。

その一つからは扉が中途半端に開き、足元の隙間のみならず開いた隙間からも明かりが漏れていた。明かりが漏れている部屋からは物音が聞こえ、一度そこで足を止める。爪先一つ、髪一本扉の隙間からも見えないように細心の注意を払った。向こうの気配を探って見計らえっていれば、また声が聞こえ出す。今までの反響と違い、扉一枚向こうからの生声だ。


「将軍も戻ってこないし、もうそこまで捕まっちゃっているかもね?」

「ッッ構いませんとも‼︎‼︎あんな塵は最初から戦力外‼︎フリージアがいくら化け物揃いでも、我が国の軍と援軍にいずれ力尽きるのは時間の問題です‼︎‼︎」

嘲笑うような声に被せるような男性の怒鳴り声が、今までとは比べ物にならないほどの声量で放たれる。

まるでヤケを起こしているような叫びは反響し、近くまできていたレオンは顔を顰め、片手で耳を塞いだ。キィィンッと耳の中で更に響き、本当に隠れているつもりがあるのだろうかと疑問に思う。するとその直後、何やら倒れるような音が聞こえたと思えば男の声も直後にピタリと止んだ。何が起こったのかと思い、耳を潜めれば今度は霞むほどに小さな声が放たれる。


「ねぇ……?静かにして、って……もう忘れちゃった?」

擽るような、まるで愛を囁くような甘い声色でありながら、それは明らかに狂気を帯びていた。

その声が誰のものか見当をつけていたレオンは思わず耳を疑う。これが本当に彼女なのかと。以前、ヴァルが城に瞬間移動された時にプライドを『主の皮被ったバケモン』と語っていたことを思い出す。


「そうよねぇ?将軍なんて最初から要らないわ。あんなモブ以下が誰に勝てるわけないもの。そして当然…………貴方もね?アダム。」

アッハ!と興奮するような笑い声が漏れる。

直後に刃を抜くような金属音と「ァ……、ッカ……ァ……‼︎」とアダムらしき掠れた声が続いた。

その一連の声と音に、レオンの心臓がバクバクと鳴り出す。反響してプライド達にも聞こえてしまうのではないかと思うほどの拍動に、口を押さえていた手を鎧の心臓部に押し付けた。脈まで早く、一体この奥で何が行われているのか想像するのも嫌だった。


「嗚呼……良い表情。……もう貴方達は用済みで良いかしら?時間稼ぎご苦労様。ここまで頑張ったご褒美よ。……最後にたっぷり遊んであげる。」

ハハハハハッ!と信じられないほどに楽しそうな声がレオンの耳を侵す。

直後にはアダムの息を飲む音や短い絶叫が響いた。ァ……カァ、ア、ア‼︎と首を絞めた鶏のような叫びとプライドの笑い声が入り混じり、レオンは発作のように息を短く切らした。


……恐らくは仲違い。このまま彼が無力化されるならそれまで待てば良い。彼女が一人になり、隙を見せた時に捕らえる方が僕にも有利だ。


思考が混ざり、冷静な判断が難しい中で必死に自分へ言い聞かす。

プライドに手を出した時点で遅かれ早かれアダムの運命は決まっている。被害者であるプライドが責められることはない。まだ死なす訳にはいかないが、半殺し程度までこのまま見ていれば良い。今、自分は一人で圧倒的に不利な立場にいる。使えるものは全て使い、その上で最善を尽くすべきだと。頭で何度も考え、言い聞かす。……しかし。


……っ、……ごめん、プライド。


視界が白く染まりそうな目を強く瞑り、整った歯を食い縛る。

武器の場所を手だけで確認し、再び耳を澄ませた。


「ずぅっっと昔から気になっていたの。舌を噛み切って死ぬ、って……どれくらい切り落としたら人って死ぬと思う?」

アッハハハハハハハハハハハ!と潜めながらも高らかな女性の笑い声にレオンは全身が逆立った。

ぞわぞわぞわっっ‼︎と悪寒が走り、歯を食い縛る顎に力を込める。直後、アダムの踠くような呻き声が


パァンッ‼︎


……響く、前に。レオンが天井へ銃を放ち、全てが止まった。

プライドの笑い声もアダムの呻き声も、全て。まるでテープを一時停止したかのようにプチリと途切れたままだった。

レオンはその沈黙を合図に飛び出し、長い足で扉を蹴破った。バンッ!と勢い良く扉を開けば、すぐに一人の女性と目が合った。豪奢なドレスの皺も気にせずに床に座り片手に剣を掲げた彼女は、顔だけで振り返ったまま怪しい笑みをレオンに向けた。ニタァァァアアアッ……と口端が引き攣るような異常な笑みだ。


「あらぁ?……いらっしゃいレオン。」


早かったのね。と笑うプライドは、一人だった。

恐らくは近くに透明の特殊能力者とアダムがいるのだろうと、背中を壁につけながらレオンはプライドを見つめ返す。


「……やぁ、プライド。……君に、とても会いたかったよ。」

「私もよぉ、レオン。愛しい愛しい完璧な王子様。」

待ってたの。とまるで本当に約束を交わしていた相手が来たかのようにプライドは目だけを穏やかにして笑んだ。剣を片手にゆっくりと立ち上がり、「場所を変えましょうか」とある一点を指し示す。


「…………プライド。君は今なにをしていたんだい?」

「何も?ちょっとした暇潰しよ。貴方が来なくて退屈だったんだもの。」

ニタニタと怪しく笑むプライドに、レオンは険しい表情で周囲に注意を払う。

自分はジルベールのように潜めた気配までは辿ることは出来ない。しかも、内の一人はアーサーすら気配を辿れなかった相手だ。レオンはプライドと距離を保ったまま、銃を変えた。少し形状の変わった銃にプライドは楽しげに笑む。何のつもりかしら?と小首を傾げ、唇を横に広げるように笑むプライドに構わず銃を構える。そして気配を辿れない代わりに彼は


パァンッ!パンッパンッ!


数回、まるで威嚇射撃のようにして銃を放った。

最初の一発目をプライドに放ったが、彼女は当然のように身体ごと避けてしまう。それも構わずレオンは残りをプライドとは関係のない、部屋の至る所へ撃ち続けると、最後の一発で「ッガ……‼︎」と小さく呻く声が漏れた。そこか、と小さく呟いたレオンはそのまま、あたりを付けるように声のした方へ撃ち放つ。乾いた音が更に四度響き、姿の見えないままにドサッ、と床に倒れたような音がした。


「大丈夫、毒じゃないよ。暫く動かないでくれれば充分だから。……まだ、君に死なれたら困るからね。」

気配が辿れずとも、密閉された空間で敵が潜むならどこか。安全の確保とそしてあの一瞬でプライドから離れ、自分を殺すならどこから襲うか。その条件に当てはまる位置ならばレオンにも想像がついた。

王子として、数度は顔を合わせたこともあるアダムの身長や体格もわかれば、狙う高さも見当がつく。

実際、レオンに撃たれたアダムは足と腹が数ヶ所命中していた。銃弾ではなかった為、出血はなかったが代わりに身体の自由が効かない。痺れたように部分だけが感覚を失っていくのに声を殺しながらアダムは床の上でレオンを睨む。すると姿は見えていない筈なのにまるで翡翠の瞳と目が合ったような感覚にアダムの方が喉が干上がった。


……アダム皇太子に死なれたら困る。彼だけが唯一、プライドを取り戻す鍵なのだから。


レオンが撃ち放ったのは、極少量の部分麻酔だった。

犬でも三、四発は撃たれても死にはしない量。即効性はあるが、人間であれば数発撃たれたところで一時間もしない内に解けてしまうほど持続性も薄いものだ。

傍にいたティペットには当たったのかまではわからない。だが、アダムの部下である彼女が動けなくなった彼からいま離れることもできない。今そんなことをすればアダムの姿も敵に晒すことになるのだから。

そこでやっとレオンは注意をプライドのみに注ぐ。ティペットがアダムから離れれば彼の姿が現れてすぐにわかる。その時はアダムを人質にでもすれば良いと思いながら、銃の残弾を補充した。再びそれを真っ直ぐプライドへと向ければ、ずっと笑みを浮かべていた彼女から機嫌の良さそうな笑い声がこぼれ出した。


「流石ねぇレオン。やっぱりあんなのじゃ敵うわけもないわぁ、アッハハ!……さ、行きましょう?」


味方だった筈のアダムを笑い飛ばし、寧ろレオンを賞賛する。

そしてプライドはくるりとレオンに背中を向けた。部屋にある、また別の梯子に手を掛け、警戒する様子もなく登り出す。

レオンは彼女の後を追うように梯子の下から再び麻酔銃を放ったが、全てを器用に躱された。パンッパンッと乾いた音の直後、外れて梯子にぶつかる弾にプライドがキャハハ!と背中を見せたまま無邪気ともとれる笑い声を上げた。隙を見てプライドの動きをここで止め、落下する彼女を受け止めて保護できればと思ったが、レオンの腕でも彼女に当たらない。


……さっきのも、偶然避けられたわけじゃないみたいだ。


さっきの一発目とも違う。

銃口を確認するどころか、背中を見せたまま一体どうやって避けたのか。プライドの戦闘姿を見たことのないレオンは、静かに考えを巡らした。プライドが梯子を伝い、更に上へ上へと登り切った後「どうしたの?いらっしゃい!」と楽しげな呼ぶ声に、とうとうレオンも梯子に足を掛けた。

片手で梯子を掴み、もう片手でアダムがいるであろう位置に今度は本物の銃を構え続ける。攻撃すれば撃つ、とその意志を示しながら彼は梯子を登る。


……本当はあの場でプライドにアダムが消耗され、いっそ無力化されるのを待つべきだった。


あの場で出ればすぐにティペットがアダムを、もしくはプライドとアダム両方の姿を透明化させる可能性はレオンもわかっていた。

むしろプライド一人だけ姿を消していなかったことが意外だったほどに。そうでなくとも、銃声で知らせたりなどせずにそのまま強行突破してから麻酔弾を撃てば良かった。そうすれば隙を突いてティペットに姿を消される前に二人の動きを封じられたかもしれない。


……だけど、そしたらティペットに僕が殺されていた。


守るべき相手が先にやられれば、ティペットは確実にアダムの保護ではなく自分の排除に動いたのだから。

だからこそ、あそこはやはり待つべきだった。折角、味方同士で潰し合ってくれる絶好の機会だったのだから。アダムを無力化された後に乗り込めば、荷物となった彼をティペットが守り、すぐにはその場から動けなくなる。そうすれば突入してすぐ不意をついてプライドにも麻酔を当て、更にはアダムの消えた直後の位置から見当をつけてティペットも無力化できた。だが、それでもレオンは。


「………………………………ごめんよ。」


……もっと、確実に君を取り戻す機会だったのに。

そう思いながらレオンは、口の中だけでプライドへ懺悔した。掛けた足と片手を使い、一歩一歩確かめながら上へと登る。

十メートル程度の梯子の先は、屋外だった。頭上からビュウビュウと風の音が掠め、やっと外の空気に触れられることにほっとする。頭を出した瞬間に攻撃されないかと警戒しながら、ゆっくりと外へレオンは顔を覗かせた。


「さぁ、レオン!ここならだぁれも見ていないわ。二人だけのお楽しみを始めましょう?」

アッハハ‼︎と楽しげな笑い声を上げ、銃と剣を両手に掲げる王女は石造りの壁に寄りかかる。

楽しそうなプライドに注意を向けながら目だけで見回せば、周囲は石造りの壁に丸く囲われていた。外を確認しようにも自分の背丈以上はある高さの壁が邪魔で見えない。少なくとも壁を越えて見えるような建造物は見当たらなかった。風が吹き抜けていることと、空への遮蔽物がないことから大分高い場所であることだけをレオンは理解する。

更には自分が登って来た入り口すらも隠し扉だった。パタリ、と閉じればつなぎ目から綺麗に埋まり、何の変哲もない石畳みの床へと変わった。あそこが開けばそれはアダムに命じられたティペットか、もしくは麻酔が解けたアダムが現れた合図だ。そう思い、レオンは今から意識の一つをあの位置から外さないようにと固定する。その時は迷わず銃を撃ち込むその為に。

空が暗く、うっすら星が見えた。大分時間が経っていたようだとそこで把握する。登ったり降りたりしている内にこんな高さまで来ていたのかとレオンは少しだけ感心した。石造りの壁にはそれぞれフリージア王国の紋章型の穴もあり、そこから風も吹き抜けていた。細やかで細い穴から、これでは自分達の存在に気づいてもらうのは無理だろうと考える。

最後にプライドへ正面を向ければ、彼女の寄りかかる壁の傍には奥へと渡る為の橋が見えた。地下を通らなくても、あの向こうが城内のどこかに繋がっているのだろうかと辺りをつける。


「……プライド。このまま投降してくれる気はないかい?」

「ないわ。選ばれし女王である私が何故投降なんてしないといけないの?」

アッハ!と真剣な表情のレオンを笑い飛ばす。

その言葉に「まだ君は女王代理だろう?」とレオンからも投げかけたが、それへの返事はなかった。ニヤニヤと淑女とは思えない笑みを浮かべながら、プライドは銃を持った手で髪をサラリと掻き上げる。

プライドがもう、力尽く以外では言うことを聞く気がないことを……戦闘以外を望んでいないのだとレオンはすぐにわかった。

武器を構えられるのを待ち侘びるように自分から攻撃をしてこないプライドに、レオンは「そうか……」と小さく呟くと、銃を再び持ち替えた。先ほどアダムに使ったのと同じ、麻酔銃を左手に握るレオンをプライドは馬鹿にするようにせせら嗤う。「そんなので私は殺せないわよ?」と投げかける。当然、レオンにプライドを殺す気はない、が。


「大丈夫。……もう、君を傷付ける覚悟はできているよ。」

キラリ、と真っ直ぐ剣先が彼女へと向けられた。

麻酔銃と違い、間違いない殺傷能力を持つ兇器を右手に構える。その刃の鋭さと、妖艶に光るレオンの眼差しにプライドは恍惚と薄く笑みを光らせた。

アネモネ王国を飛び出したその時から、レオンもプライドに刃を向ける覚悟は出来ていた。それより遥かに優先すべき目的の為ならば、躊躇いなく彼女の身体に傷を作る覚悟を。だからこそ彼は敢えてアダムを助けるような真似までしたのだから。折角の機会を失ってでも、それでも彼がプライドを止めることを選んだのは


─ ……やっぱり僕は、君にもう誰も傷つけて欲しくはないんだ。


己が、快楽などの為に。

その想いを喉の奥で飲み込み、レオンは改めて左手の銃口を彼女に向けた。もう彼女に誰も傷付けさせない為に。もう彼女を苦しめない為に。彼は今



「さぁ、レオン。……始めましょう?」



女王へ、挑む。


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