そして目を閉じる。
「ア……‼︎しっ……ろアラ……ッ‼︎‼︎七……が……」
………やべぇ。これ……絶対死ぬよな。
喉から大量の鉄の味が込み上げる。
飲み込みきれずに吐き出せば、全部が全部真っ赤だった。痛くて寒くて熱くて息ができない。喉がカラカラに乾いたみてぇに息を吸って吐くだけで喉の奥が空気に引っかかられて、酸素を取り込んでいる感じが全くしねぇ。
視界がぼやけて、霞む。たぶんカラムだろうと思うけど、目の前にいる筈のカラムの声がすげぇ遠くて。……ああ良かった、死んでねぇなとだけ頭の隅で思う。
悪い。アイツ、剣も溶かしちまうんだ。
説明しきれなかった俺もわりぃけどさ。ほら、言う暇とかなかっただろ?
でも、良かったよ。お前が無事で。
話そうとすれば、声の代わりに血が出た。
すげえ苦しくて、一気に体力根刮ぎ奪われちまう感覚にぞっとする。こりゃあ内臓はもう駄目かもなぁ、と人ごとみてぇに思う。
………………死ぬんだな、とまた思う。
「ッお……せ………した‼︎……ッ……ま、治………‼︎」
奪還戦、これで一つ失敗しちまった。
誰も死なせずプライド様を取り戻すのが任務だったってのに。いっそこのまま俺が死んだこと隠し通してくれねぇかな、と無理なことを思う。
……プライド様。
またあの人を泣かせちまうのかと思うと、傷以上に胸が痛んだ。
守るって決めたのに。たとえあの人にどう思われようと、嫌われようと泣かれようと絶対にカラムと一緒に護り続けると決めたのに。
俺一人になっても、絶対にあの人の傍に……味方で在り続けると決めたのに。最後まで、傍にすら居られなかった。
アダム皇太子に操られて正気を奪われたあの人の心を、絶対に取り戻すと決めたのに。アーサーみたいに手足失っても絶対に生き延びて、生きて、絶対に元に戻ったプライド様に会うって決めたのに。
……最期に、あの人に会いたかった。
好きだった、あの人のことが。
七年前から憧れて、小さい身体から想像もつかねぇような大立ち回りを目にしたあの時から。その強さに戦士として憧れ、焦がれた。
守られる側じゃなく、守り救う側に立ったあの人に。
『…カラム隊長を置いていくなんて、…っ。…身を斬られるより辛かった筈なのにっ…‼︎』
そして、とうとう心を奪われた。
俺の傷に触れてくれたあの時から。
騎士としての俺を求め、賞賛の証を与えてくれたあの日から。
もう、この人の為だけに死んでも良いと思えるくらい本当の本気で好きになっちまった。
憧れじゃないと、はっきりわかった。今までの感情が嘘みたいに色を変えて、全部が全部あの人のことが好きなんだと叫び続けた。
好きで、好きで、あの人の傍にもっといたくて、笑って欲しくて、あの人の表情も仕草も声も言葉も全部が全部好き過ぎて。………目の前で、笑っていてくれるだけで死ぬほど幸せで満たされた。
……ああ嫌だな。あの人が俺のことなんかで泣いちまうのは。
絶対に嫌だ。
俺のことで泣くくらいなら、いっそ俺の存在全部忘れちまってカラム達と心から笑い合っていて欲しい。
…………いや。やっぱり、俺のことで泣いても嘆いても怒っても侮蔑しても良いや。忘れてくれても良いし、一生記憶に爪跡を残しちまって、ただの辛い記憶になっても構わない。だから、だからどうかプライド様、どうか、どうかどうか……
戻ってきて下さい
辛いと、思います。
俺だけじゃない、陛下達やアーサーの腕のことでも貴方は絶対自分を責めるから。
苦しいと、思います。
どんな形であれ貴方の手で民を傷付け、愛した国を危機に追いやった事実は変わらないから。
それでも、どうか戻ってきて下さい。本当の貴方のままで、生き続けて下さい。
貴方が辛くても苦しくて自分を責め続けても、頼れる相手も、慰めてくれる相手も守ってくれる奴も支えてくれる人も、愛してくれる人も必ず居ます。
貴方はそれくらい、多くを愛し続けてくれたから。
……貴方を、もっと護り続けたかった。
貴方を護りたかった。
貴方を取り戻したかった。
貴方を救いたかった。
貴方のもっとたくさんの表情が見たかった。
貴方にもう一度会いたかった。
貴方の声が聞きたかった。
貴方を二度と泣かせたくはなかった。
貴方の恩に報いたかった。
貴方とダンスを踊りたかった。
貴方の、………幸せになる瞬間を見届けたかった。
ああ…、……まずいな。
死にたくねぇ理由、全部あの人だ。
死にたくねぇ。
当然だ、まだプライド様を救えても会えてもいねぇんだから。
あの人を泣かすのが、置いていくのが。……すげぇ、怖ぇ。
……だけど。
「……ぬ……!……な……死……!………な……死……‼︎」
…………カラム。
ぼやけた視界で、うっすらとだけどカラムの顔が見える。
必死に何か叫んでるけど聞こえねぇ。……本当、無事で良かった。また、俺のせいで死なれたら耐えられねぇし。プライド様を守りきれなかったのは死ぬより悔しいけど、お前を最期の最後にちゃんと助けられて良かった。なぁ、……なあカラム。
騎士、一緒に残ってくれてありがとうな。
泥、被ってくれてありがとう。
すげぇ救われた。本当にあの時、プライド様を守るのがお前とで良かった。
騎士に残って、本当に良かったと思う。たとえ今日死ぬってわかっても、絶対に俺は同じことを望んだ。死ぬ理由がお前で、……それで良かった。
騎士として、ちゃんと死ねた。
騎士になることが夢で、入団逃した時は死ぬほど悔しくて。
新兵になれた時は何度も飛び上がるほど嬉しくて、本隊に上がれた時は嬉しすぎて死ぬと思えたくらいに嬉しかった。
どんなに身体痛くてもしんどくても鍛練は欠かしたくなかった。努力しねぇと、強くもなれねぇから。
騎士団長みたいな最高の騎士に会えて、最高の仲間に会えて、エリックみたいな優秀な騎士が俺の横についてくれた。戦って戦って戦って。強くなって、失って、それでも立ち上がって。……やっと騎士隊長までこれた。
騎士になって、騎士として戦って、騎士として死ぬ。ガキの頃からのそんな夢はちゃんと叶ったんだ。
「ぬ……!……死……な……、……し………!」
カラムの顔が、ぼやけるだけじゃなくプツリプツリと黒く途切れてきた。
目は開いたままなのに、……ああ……色まで褪せてきた。いま、生きてるのかもう死んでいるのかも分からなくなる。
……そろそろ、……だめだな。
ごめんな。カラム、エリック、アーサー。
本当に、ごめん。
………カラム、頼むから長くは気にすんな。
お前の所為じゃねぇし、……これはあの時からずっと俺が心に決めてたことだから。お前に庇われちまったあの時から、絶対一回くらいは命懸けてでもお前を今度は俺が助け返すと決めていた。
『…すまない』
もう、謝るなよ。
俺はもうやり返したんだから。
お前があの時生きててくれて本当に良かったし、プライド様を助けてくれたことも感謝してるんだ。だから、……だからこれはお前の責任とかじゃなく本当にただの
〝し〟〝か〟〝え〟〝し〟だ。
笑いながら、なんとか口を動かせた。
もう、ぼやけて見えねぇ筈なのにカラムがいつもの顔で怒っている気がした。伝わったんだな、と思った途端、力が抜ける。
騎士として、護りたい人の為に戦えた。
騎士として、守りたいヤツを守って死ねた。
騎士として、後を任せられる奴らに恵まれた。
騎士として、最期まで誇りを胸に終われた。
……なんだ、良かった。
死にたくねぇ理由が全部プライド様なら、俺が今この場で笑って死ねる理由は全部
騎士団だ。
……最期に、カラムの声が聞こえた気がした。
……
…
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ⁈‼︎‼︎」
─ …………………………………………………ジェイ……ル……?
「ッ言うんじゃねぇぞ……‼︎」
─ ……………この、声……。
「⁈アランッ……‼︎アラン‼︎アラン⁈」
─ ……………………あれ?いま……俺……。
「……………カラム……?」
……信じられないくらい簡単に、声が出た。
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