そして連帯する。
「ならば、私も現状についての説明に加わらせて頂けますでしょうか。」
「……何を話すつもりですか、ジルベール宰相。」
ジルベールの言葉にステイルがジトリと先に睨むように目を向けながら身体ごと振り返る。言葉こそ整えてはいるが「余計なことを言うつもりじゃないだろうな」とその目が明実に物語っていた。
ジルベールはそれに片手を顔の前に上げて見せながら、動作だけで「とんでもない」と答える。
「単なる現状整理です。国門がこれ以上の侵攻の恐れがなくなった今、適材適所こそが鍵ですから。ステイル様の策を早速ティアラ様にもお伝えし、ご協力を得られたらと思いまして。」
ティアラ様も後ほど連絡すると仰って下さいましたし、と続けるジルベールにステイルは絶対零度の眼差しだけで応え、最後に目を逸らした。
ティアラと口論をしたままの自分では、話を聞いたところでどうしても彼女を今からでも避難しろと誘導するか、問い質すことになってしまうことは自覚していた。自分よりもジルベールが話を聞いた方が円滑に進む、何より彼が誰よりも人を上手く思い通りに動かすことに長けていることも理解していた。
ありがとうございます、とジルベールはステイルの反応を肯定と受け取って先に頭を下げる。それを受けた騎士団長のロデリックは通信兵にすぐティアラとの連絡をと命じ、彼女のいる座標へと通信兵に映像を繋げさせた。ジルベールが呼び掛けて暫くしない内に、ティアラの映像が映し出された。
『ジルベール宰相……‼︎騎士の方々の話は本当なのですかっ⁈母上達がっ……それに、アーサーまで……!』
かなり動揺した様子のティアラの声が飛び出し、こちらからの視点から外れた位置で腕を組んでいたステイルは思わず強く目を瞑った。
母親であるローザ達の意識不明。更にはアーサーの負傷も彼女は今初めて知ってしまった。身近な人間の不幸に心優しいティアラが動揺しないわけがないとステイルは嫌でもわかっていた。
『母上達は今も……⁈アーサーの怪我はどうなっているんですか⁈動けないなんてっ……そんなに酷い』
「どうか落ち着いて下さい、ティアラ様。……大丈夫です。陛下方は眠ってこそおられますが、こちらの私の部屋を本陣とし、騎士団長と副団長にも守られております。アーサー隊長も意識は既に戻っております。……大丈夫ですよ。」
言葉で詰め寄るティアラに落ち着いた言葉で返すジルベールにやっとティアラが肩から力を抜く。
最後の一言で優しく繰り返せば、彼女は少し影を落としながらも「良かった……」と安心するように小さく呟いた。
いきなりごめんなさい、と謝るティアラに「いえ」と優しく返すジルベールは柔らかく笑んで見せる。そのまま騎士にどこまで説明を受けたかと促せば、まだ現状の迎撃状況を語り終えたまでと騎士が説明した。つい今しがたもティアラからの問いに、アーサーが重傷を負って騎士団の救護棟にいると騎士が伝え終えた直後だった。
『あの、ジルベール宰相。……兄様は。』
「勿論こちらに居られます。………今もティアラ様のことをとても心配しておられますよ。」
視点から外れたステイルを探すように目だけを映像へ彷徨わすティアラが、しゅんと肩を落とす。
ジルベールの言葉に金色の瞳を揺らしながら下唇を僅かに噛んだ。その姿を映像で眺めるステイルもまた、妹の姿から逸らすように視線を落とす。少しの沈黙の後、ジルベールは再び撫でるようにティアラへ言葉を掛けた。
「ティアラ様。残りの事情は私が全て責任持ってお答えしましょう。ですからどうかこちらからのアネモネ王国の援軍と配達人の彼らへの依頼もお引き受け願えませんでしょうか。……我が国と、プライド様の為に。」
静かに語り掛けるジルベールの言葉にティアラはレオンとヴァルへと振り返った。
二人の意思を確認しようとするティアラにレオンは頷き、ヴァルは答えるよりも先に「で?」と先に声を出す。
「本当に主はフリージアの乗っ取りなんざしてやがんのか。」
直接的なヴァルの問いに周囲の騎士達はおろか、映像から話を聞いていたロデリック達も僅かに眉を顰めた。
プライドが悪人のような物言いに、ステイルが勢いよく俯き気味だった顔を上げる。どうせ騎士から中途半端に話を聞いたんだろうがと思いながら映像のヴァルを睨めば、ティアラまでもが顔を青褪めさせていた。「ヴァっ……ヴァル‼︎」と声を上げるティアラと共にセドリックも「ヴァル殿、そのような物言いは……‼︎」と声を上げるが、ヴァル本人は全く噤む気はない。
「テメェらの言う〝主の為〟ってのはどういうことだ。全部揉み消す気か?それとも王女の言うように」
「ッそれ以上喋らないで下さいっ‼︎‼︎」
ズカズカと言葉を選ばないで口を動かし続けるヴァルをティアラが封じる。
命令で不自然に口を閉じたヴァルは不服そうにティアラを睨んだが、既に彼女はヴァルを見ていなかった。小さな肩で息をしながらも「ヴァルがごめんなさいっ!」とヴァルの代わりに慌てて謝った。
ジルベールはその光景を眺めながら、硬い表情で口を開く。
「……ティアラ様。……私の考え通りということで宜しいでしょうか。」
ジルベールの言葉に、ピッと小動物のように身体を跳ねさせたティアラは口を結んだまま目を伏した。
それを見たステイルが尋ねるように無言でジルベールに視線を送れば「いえ……」と一度言葉を切る。それからゆっくりと「つまり、まだティアラ様は状況を全ては存じておられないのですね」と紡いだ。
それにティアラが無言でコクコクと頷くと今度は背後に控えていたセドリックが流れに入る。失礼します、と一言断りながら彼は疑問を投げ掛けた。
『ラジヤ帝国が攻め入ったということは、やはりアダム皇太子が絡んでいるということでしょうか。……畏れながら私はまだ、ラジヤ帝国がプライド第一王女殿下に何かしたのではないかと疑っております。』
そのプライドが何故ラジヤと、と顔を険しくさせるセドリックにジルベールは深々と頭を下げた。
結果として、彼は正しかった。セドリックが訴え続けたようにアダムがプライドを襲い、変貌させ、操っているのだから。まさかアダムが特殊能力者であることまでは彼の予想の範囲外だっただろうと思いながら、ジルベールはゆっくり頭を上げる。
映像に再び目を移せば、ジルベールの返答を待たずに映像のレオンが一歩進んでティアラに並び、セドリックに続くように訴えた。
「僕からもお願いします、ジルベール宰相。プライドが何故こんな……。そして、フリージア王国は彼女をどうするおつもりなのでしょうか。」
不安げな表情に翡翠色の瞳が揺れた。プライドが反乱を起こしたことしかしらないレオンには、変わり果てた彼女がどうなってしまうのか、フリージア王国がプライドの敵なのか味方なのか確かめる必要があった。
レオンの言葉にジルベールは確認するようにステイルへ目配し、呼吸を整えた。ステイルの意思を確認し、「畏まりました」と短く返すと真っ直ぐ映像のティアラ達に切れ長な目を向けた。
「恐らく、信じられない部分も多いと存じます。ですが、全てが真実であるとどうかお受け止め下さい。」
ジルベールの言葉に、ティアラは小さく喉を鳴らす。
ヴァルも機嫌を悪そうに顔を歪めながら目は映像のジルベールから離さなかった。レオンとセドリックが「御約束します」とそれぞれ答えたのを皮切りにとうとうジルベールは語り出す。
プライドの、真実を。
その語りに、ティアラ達の誰もが言葉を無くす。
ある者は限界まで目を見開いて表情を硬直させたまま歯を食い縛り、ある者は鎧越しの胸を手で鷲掴み息を飲み、ある者は怒りのままに燃える瞳を激しく揺らしながら拳を震わせ、またある者はお姉様っ……と声にも出ないまま動かすだけの唇を両手で覆い涙を滲ませた。セフェクとケメトも口を開けたまま瞬きも忘れる中で、ジルベールは最後まで話を続ける。
アダムの特殊能力、ティペットの存在。
プライドが操られていることも、そのプライドが今はアダム達と共に行方不明であることも事細かに説明した。
プライドを元に戻す為には、現段階でアダムの力が必要であること。その為には生け捕りが望ましく、また今のプライドが自分を殺させることを目的にしているという推測まで説明し終えた。言葉も出ずに茫然とする彼女らに、ジルベールは流れるようにこれからの采配について語り出す。
「ですからどうか、皆様のお力をお借りしたいのです。……プライド様を救い、我が国の全てを取り戻す。その為に。」
異議を唱える者はいなかった。
誰もが無言のままジルベールの采配の指示が語られるのを待つ。
目的は全員同じなのだと、それを確認した彼らはとうとう一丸となって動き出す。ラジヤ帝国を掃いのけ、城内をしらみ潰しにしてでも探し出し、アダムを捕らえ、プライドを止めるその為に。
全てを奪還する、その為に。




