533.一番隊は報告を受ける。
「ッ一気に……減ったな!」
敵兵の血飛沫を正面から浴びながら、アランは隣に並ぶエリックへ聞こえるように投げ掛けた。
そうですね!と敵の懐に剣を突き刺しながらエリックも言葉を返す。揺れが収まってから、完全に敵兵が国門方向から雪崩れ込むことがなくなった。遠目からでは国外に何が起こったかまではわからないが、ただ開いているはずの国門がまるで閉ざされているかのように何かで塞がれていることはアランの目には見て取れた。
「やっぱさっきの報告が関係あると思うか?ティアラ様が、……ってよ!」
ティアラ、そして彼女がレオンやアネモネ騎士、セドリックを援軍としてフリージア王国に連れてきたことはアラン達も通信兵からの報告で聞いた。
そう言いながらアランは背後を狙ってくる敵兵を振り向くまでもなく肘で打ち、目の前の敵兵を横一閃に斬り伏せる。更に続く兵士を両足で蹴り飛ばし勢いをつけたまま、くるりと回転して背後にいる敵の首を裂くアランはかなり余裕を取り戻していた。
未だ城下前は地震が起こる前に国門を抜けた大量の敵兵が雪崩れ込んだ後だ。今も一二番隊の視界を埋め尽くすほどの敵兵が城下に、城に向かおうと侵攻を試みている。更には特殊能力者の奴隷を数人捕らえたまま、彼らを敵兵の波から守らなくてもならない彼らは余計に負担が増していた。……しかし。
「恐らく。……ティアラ様がどうやってあの大軍を〝これだけ〟に留めたのかはわかりませんが。ただ、先程の地震は……少し覚えが。」
あ、やっぱり?とエリックの言葉に軽い調子で返すアランは剣を大きく横振りする。
敵兵がそれに身体を仰け反らせた瞬間に隙を突いて今度こそ喉を斬り裂いた。エリックもそれに応じるように敵兵の顎を脚で下から蹴り上げると、よろけたところで鎧の隙間を貫いた。引き抜き、その背後に続く敵兵に向かい右足で蹴り飛ばす。
彼らは、雑談の余裕が出来るほどに身軽になっていた。
既に横に広げていた形態を解き、再び槍で貫き挟み込むような陣形に戻った騎士達は次々と敵兵を掃討していた。いくら敵兵で地平線が埋まり散らばろうとも、これ以上増えないのならば彼らにとっては目の前の大群も掃討可能範囲だった。
「やっぱあの配達人かなぁ……っと!でもなんでティアラ様と居るんだ?」
「それよりも何故我々に手を貸したのかがわかりません。プライド様からの願いなら未だしも、あの男は我々の為に動く人間ではありません。」
確かになぁ〜、と言いながらアランがしゃがみ、エリックも続く。その途端、背後に控えた騎士達が特殊能力で火を放った。
パァンッとエリックが火の手から逃れた敵兵を素早く撃ち抜き倒す。そこで全弾撃ち尽くした彼は急ぎ弾を補充しようと服の中を探った。しかしもう全て撃ち尽くしてしまっている。新兵からの補給まで少し時間ができてしまったと思えば、アランが捨てるような軽さでエリックに補充の弾が入った包みを投げ渡した。「俺よりお前の方が無駄撃ちしねぇし」と言うと、エリックの返事も待たずにまた前方へと駆け出してしまう。アラン隊長⁈と言いながら弾を補充するエリックは、アランを追い掛ける前にと背後の通信兵へ声を上げた。
「本陣から報告は⁈国外の様子はどうなっている⁈」
エリックからの呼び声に覇気のある声で「たった今……!」と本陣や国門からの報告を受け終えた騎士が、拡張させた声で報告を言い放つ。
「ティアラ王女殿下の同行者により国門先のラジヤ帝国軍は完全に沈黙致しました‼︎現段階ではこれ以上の侵攻は無いとのことです!」
沈黙⁈と騎士達がそれぞれ信じられずに声を上げた。アランとエリックまでもその報告に手が止まりかける。自分達は目の当たりにしていないが、少なくともまだ倍近い人数の兵士が雪崩れ込んでくる筈だった。それをあの短時間で一網打尽にしたのかと思えば疑わない方が難しい。一体何が起こっているんだと騎士の一人が思わず声を荒げたが、通信を受けた騎士もその問いには答えきれないまま報告を重ねた。
「ステイル様より御報告です‼︎奴隷にされていた特殊能力者は我が国の民として出来る限り保護をせよと‼︎」
騎士の拡張された声の報告にアラン達も今度は頷いた。
やはり、と思いながら今も拘束したまま騎士に守られている奴隷に目を向ける。今は敵だが、元はと言えば奴隷被害者。彼らがこれからどうなるにせよ、騎士である自分達は守ることこそが使命だと誰もが思った。
そ〜こなくっちゃな!とアランが明るく声を上げた。続けてエリックが「城下に入った奴隷は何人だ⁈」と通信兵に確認を取れば残り六人だと返答が返ってきた。半数以上は一二番隊が既に取り押さえたが、先程の地震の所為もあり、取り逃がしも出ている。追いかけるにもまだ城下前には大勢の敵軍が押し寄せている為、少なくとも彼らを全員掃討するまでは難しいだろうとアランは考える。
「二時間……といったところでしょうか。」
「ま、三時間はかからねぇだろ?」
エリックの言葉にアランが返す。そのまま「なぁ⁈」と二番隊騎士隊長、副隊長にも声を掛ければ同意が返ってきた。敵の掃討は当然。できる限り早く終わらせて城前を守るカラム達の援護と追討、捕縛。恐らくこの後の本陣からの指示もそうされるだろうと思いながら彼らは剣を振るった。もともと終日城下前で戦闘を続ける覚悟があった彼らにとって、たった三時間未満はかなりの負担の軽減だった。
「日が昇ってる内には捜索へ移るぞ‼︎‼︎」
アランの覇気ある叫び声に、騎士達が一言で地を震わせた。
通常の騎士や兵団ならば半日でも足りない敵軍を前に、フリージア王国騎士団は笑う。確かな終わりが見えて来たことでその動きに激しさが増した。二時間以内には殲滅を、と心の中で誰もが決めながら剣を振るい銃を放った。捕縛した奴隷達の保護に人員を割く中、勢いが弱まるどころか逆に増していく騎士達はまだ知らない。
一時間後、自分達がこの場に立っていないことを。




