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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
傲慢王女と元凶

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幕間 王弟は隠し通した。

5days ago


「聞いてもよろしいですかっ?」


慌しさがやっとひと息つき、甲板に出たティアラは声を上げた。

背後には専属侍女の二人も控え、潮風が彼女の柔らかな金髪を強く煽る。それをティアラは片手で押さえつけながら進行方向へ目を向けた。


「ああ、構わない。何か不安があるならば言ってくれ。」

ティアラからの投げ掛けに、はっきりと言葉を返したセドリックは海図を確認しながら彼女の横に並んだ。

太陽の位置と海図を見比べた後、真っ直ぐティアラへと向き直る。燃える瞳を向けられたティアラは、上目でじっとセドリックを睨むと、小さく眉間に皺を寄せた。もともと聞きたかった問いの前に「不安があるなら」と言われてしまえば、先に言いたいことが浮かんでしまう。


「……不安なら沢山ありますっ。まず、本当に無事アネモネ王国に辿り着けるのですか?」

貴方の航海で!と繋げるティアラは、自分達がいる甲板をぐるりと見回して見せた。


彼らは今、船の上にいた。


ハナズオ連合王国から船を出し、今は港も遠く離れて肉眼では捉えられなくなった。周りを見回しても海以外何も目に入らない。風が吹けば雲の形も動きも変わり、ティアラの目には完全に海の真ん中に取り残されたような感覚だった。

ティアラからの問いにコクリと頷いたセドリックは「ああ、大丈夫だ」と簡単に言葉を返す為、余計に不安になる。ティアラが少し怒ったように「航海なんてほとんどしたことありませんよね⁈」と声を上げれば、他の船員達が驚いたように彼らへ振り返った。


「問題ない。ハナズオからアネモネまでならば、航路も覚えた。以前、同乗させて頂いた時にレオン王子からアネモネまでの近道や航海術に関しても教わった。」

「同じ天気で同じ風で同じ波で同じ船でもないんですよっ?」

至極当然のことをティアラは少し青ざめた顔でセドリックに返した。

セドリックの絶対的な記憶能力を知らないティアラにとっては、恐ろしく不安しかない。一応、彼以外に航海士もいるから波に乗るまでは何も言わなかった。だが、陸が見えなくなっても変わらず船の主導権を握っているセドリックが危なっかしくて仕方がない。


「大丈夫だ。全て覚えている。太陽や星の位置はそう変わらん。この船足も遅くはない。ハナズオからアネモネまでならば間違いなく五日で辿り着ける。……それ以外には行けんがな。」

彼が行ったことのある海の経路はその片道だけ。いくらレオンに航海術を叩き込まれても目的地であるアネモネ以外へ航海するのはセドリックもそれなりに不安はあった。だが、一度航海した道行であれば、レオンからの細やかな解説や波の荒れ具合、何より最も安全で近道になる経路を教えられた彼には自信もあった。


「念の為、出発時刻も当時アネモネの船に乗せて貰った時刻に合わせた。少なくとも今はあの時と全く同じだ。」

航海士も問題ないと話していた。と言い切るセドリックにティアラは頬を膨らませた。

簡単に言っているようだが、常人から言わせれば同じ経路だからといってその通りに船を動かすなど不可能だ。しかし、航海士からのお墨付きを与えられているならばとティアラも何とかそれには頷いた。「わかりました……」と呟いてから再び口を開く。


「……あと。……何故、急にあんなことを言って下さったのですか。」

勢いが急激に和らいだティアラは、最初の疑問を今度こそ投げ掛けた。〝あんなこと〟と含みを持たせた言葉にセドリックは首を捻る。腕を組み、一番当てはまりそうな自分の言動の場面を思い出す。


「……それは、客間から俺が飛び出す前に言った言葉か?」

こくん、とティアラは言葉に出さずに頷いた。

つい数時間前、ステイルによって強制的にハナズオ連合王国に避難させられたティアラは、本来ならばそのまま保護を受ける筈だった。だが、一度国王二人を客間から連れ出した後、再び部屋へと戻りティアラへと詰め寄ってきたセドリックは堂々と彼女に言い放った。


『俺と共に逃げてくれ……‼︎』


完全なる逃亡宣言だった。

こっそり秘密裏に進めるでもなく、国王二人の目の前でそう望んだのだ。保護対象である自分と共に逃げると。

しかも「逃がしてやる」ではなく「逃げてくれ」という言葉にも余計に違和感を感じた。セドリックにとっては嫌いな自分と共に行動することをティアラに強要することになるからこその言葉だったが、ティアラからすれば帰りたいと言っているのは自分だというのに何故頼まれるのか訳がわからない。

しかも普通ならばその場で国王や衛兵に止められても仕方がない場面だったが、何故か誰も自分達を止めようとはしなかった。それどころか、動きやすい服に着替えられるようにと部屋まで用意され、彼女の専属侍女達が念の為にと持ち込んでくれた戦闘用の団服にも着替えることができた。その後もきっかり時間通りに城へ戻ってきたセドリックに馬車へ乗せられ、港へ向かい船に乗り込むまでトントン拍子で逃亡が許された。


「仕方がなかった。本来ならば正式にハナズオから船を出したかったが、保護を任された王女をすぐに野に放つなど許されない。兄達は俺からフリージア王国からの手紙は受け取っていないことにして貰った。」

依頼を受けたセドリックが〝独断〟で書状を握り潰し、国王は何も知らされないまま第二王子がティアラを連れて船でフリージア王国へ戻ってしまった。そういうことにしてもらった、と説明するセドリックにティアラは目を丸くした。


「そんなっ……!そんな言い訳が通用するわけがありませんっ!貴方が罪を全て背負いきるなんて不可能っ……」

「だろうな。大丈夫だ、兄貴も兄さんも〝ハナズオが責任を問われることも承知の上で〟頷いてくれた。」

予想を遥かに上回る言葉を軽々と口にされ、ティアラはとうとう口を両手で覆った。

ティアラ自身、もしハナズオ連合王国が責められたら自分の責任だと女王であるローザに進言するつもりは当然あった。だが、ハナズオ連合王国に迷惑がかかることも同時に理解していた。同盟国の王女を保護できなかったなど、同盟解消やそれ以上のことがあってもおかしくない国際問題だ。それでも、国王二人はあの場でそれを覚悟してくれたということが信じられない。

一体あの数分の間、セドリックと国王二人の間でどのようなやり取りがあったのか。ティアラがそう考えている間にセドリックが言葉を続ける。


「兄貴達に話したことについては、……聞かないで欲しい。船の上でお前との喧嘩は避けたい。」

つまりはそれだけ無礼な話をしたということなのかと。一瞬ティアラはまたセドリックが妙に恥ずかしい台詞でも兄達に語ったのかと思い睨んだが、少なくとも自分を侮辱するような言葉ではないだろうとだけは思えた。

自分としても、折角フリージア王国まで送ってくれている相手に対して無礼な態度を取りたくなく、仕方なく頷いた。それに、王子と王女である自分が喧嘩などしたら、折角協力してくれている船員にも不安や不快な思いをさせてしまう。


「……この船と船員の方は、どうしたのですか?」

ぽつり、と次の疑問を投げかける。

今も船の操縦に尽力してくれている船員達は全員初めて見る顔触ればかりだった。更には船も、船足も早く立派なものではあるが王族用の船にしては年季も入り、装飾も少ない。どこからどう見ても純然たる貿易船だった。


「買い取った。彼らの主人に代金を払い、積荷ごと船と彼らへの報酬も前払いして貰っている。フリージア王国の同盟国でもあるヤブラン王国の貿易商だ。アネモネ王国に着いたら、船も積荷も彼らに譲る。」

だからそれまでは彼らも尽力してくれる、と言い切られティアラは空いた口が塞がらない。ぽかんと開けたまま改めて船員を見れば、すでに出航して暫く経つというのに誰もが活力を未だに漲らせている。アネモネ王国にさえ辿りつけば、前払いの報酬のみならず船を売った金と積荷まで貰えるのだから当然だ。

王族とはいえ、そんな大金をいつポンと払ったのかと聞こうとすれば今度は先に答えが返ってきた。


「不要な髪飾りがあったんでな。四年も前に俺が作らせた年季物だが、ハナズオ連合王国の黄金と宝石を使った職人の最上級品だ。それを引き換えに出せば、大喜びで取引に応じてくれた。」

髪飾り一つに対し、船丸ごとと乗組員。普通に考えれば釣り合いの取れない物々交換だが、ハナズオ連合王国の黄金も宝石も非常に他国にとっては貴重で価値が高い上、更には市場に出すようになってからは人気もこの上なく高い。ティアラ自身もそれは理解していた。しかも王弟の品と言えば、髪飾りを手に入れた貿易商の利益は船を手放しても計り知れない。

「お前の侍女達に関しては、アネモネで保護して貰うと良い」と言葉を続けるセドリックにティアラは頷きながらも言葉は返せなかった。

国王を説得し、船を買い付け、更には折角同盟を結び国際郵便制度にまで携わろうとしていたフリージア王国の不興を買う覚悟で船を出した。たった数時間の間にここまでを成し遂げたセドリックに、当然ティアラは疑問を抱く。


「……何故そこまで……?貴方は、兄様と母上に頼まれたのでしょう?」


ティアラの言葉にセドリックは小さく俯いた。

セドリックが自分に何故か好意を向けていることはティアラもわかっている。だが、母親であるローザに不興を買えば当然ティアラとの婚約は破談となる。更にはやっと信頼を向けてくれたステイルのことすら裏切ることになるのだ。セドリックがそれを全く気にしないわけがないことも理解しているからこその疑問だった。


「……ステイル王子とローザ女王、そしてアルバート王配、ヴェスト摂政、ジルベール宰相にも申し訳ないとは思っている。だが、俺の選択肢など一つしかない。」

ぽつぼつと低い声で語るセドリックは赤い瞳を更に燃やした。

真っ直ぐティアラの目を見つめ、険しい表情で拳を握る。そして惑いのない言葉をティアラへ放った。


「お前の望みは知っている。それを叶えるためならば俺は何でもしよう。」


息を、飲む。

ティアラは反射的に胸を押さえ、唇を強く結んだ。瞼を極限まで開けば大きな金色の瞳が落ちそうなほど丸くなった。指先が震え、強張り出す肩が次第に上がっていった。潮風に長い金色の髪が流され、同時にセドリックの金髪も同じ方向へと揺らめいた。視界が金色に揺らめく中、セドリックの燃える瞳だけが熱を放つように真っ直ぐティアラを捉え続けた。


「……。……貴方は、……本当に意地悪ですっ。」

顔を力一杯顰めながらそう呟けば、セドリックからは「すまない」と一言だけが返ってきた。

その言葉に少しだけ力が抜け、やっとセドリックから目を逸らせたティアラは一度目を閉じる。それから首をふるふると横に振ると「わかりました」と落ち着いたいつもの鈴の音のような声で言葉を返した。


「……ありがとうございます、セドリック王子殿下。全てが終わったら改めてランス国王とヨアン国王にもお礼とお詫びに伺います。」

ぺこっ、と長い団服の裾をスカートのように軽く摘み上げて礼をするティアラに、セドリックは「とんでもない」と言葉を返した。


「俺の方こそ説明が遅くなってすまなかった。五日とはいえ、長旅だ。どうか船内で休んでいてくれ。」

そう言って改めて手の中の海図を確認しながら進行方向に目を凝らし始めるセドリックは、身体を船首へ向けた。太陽の位置を確認しながら、潮風に煽られる髪を搔きあげ、背後へ流す。


「……。」

その姿をじっ、と眺め続けるティアラは、一歩も動かなかった。

手を背後に組んで軽く屈むように彼の顔を覗き込む。突然視界にティアラが入ったことにビクッと肩を上下させたセドリックは、海図と方位磁石を手から落としかけた。

話は終わった筈、しかも嫌いな自分となど用事が無ければ並びたくもない筈だというのに何故⁈と、今度はセドリックの方が惑うように目をぱちくりさせた。「な……なんだ……⁈」と動揺を露わにティアラを見返せば、ティアラは覗いた眼差しのまま「もう一つだけ聞いても良いですか?」と小さく尋ねた。

先程のような惑いや怒りなどの感情はなく、純粋に尋ねたいといったティアラの表情はセドリックにとっては珍しいものだった。他の人間には見慣れていても、自分にはかなり貴重なティアラの柔らかい表情に、今更ながら自身の鼓動が速くなる。思わず背を反らし、半歩引きながら頷けば、ティアラは鈴の音のような声と棘もなく可愛らしい抑揚でセドリックに疑問を投げかけた。




「四年も前に、どうして髪飾りなんて作らせたのですか?」




ボンッ!と。

ティアラからの言葉に、過去の黒歴史を鮮明に思い出したセドリックの顔が急激に赤くなる。

ぐしゃりと握り過ぎた海図が皺を作り、握る手に力が入り方位磁石を壊しかけた。急いでティアラから顔を反らし、皺がついた海図で顔を覆いながら「それもっ……聞かないで、くれっ……‼︎」と絞り出すセドリックは耳まで赤かった。

まさかティアラに向かって「自分に似合うと思って作らせた」などと言えるわけもない。

ティアラはその答えにまた不思議そうに首を捻ると、一言返して今度こそ船内に戻って行った。


また一つ過去の愚かな自分を片想いの相手に知られずに済んだことに、セドリックは静かに胸を撫で下ろした。


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