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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
傲慢王女と元凶

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631/2210

522.騎士隊長は掲げる。


「撃てーーー‼︎撃て撃てぇぇえッッ‼︎‼︎」


フリージア王国、国外。

ラジヤ帝国軍の叫びと砲撃音を間近にしながら、国門を守る衛兵は急ぎ門を閉じ、塀の上から国外を見下ろしていた。早朝から現れたラジヤ帝国軍は視界を塀の上から見下ろして尚、視界を埋め尽くすほどに広がっていた。

城よりアダムの迎えであるラジヤ帝国軍を招き入れよと報告はあったが、まだ早朝。更にはジルベールから秘密裏に王族の危機を知らされ、あからさまに大規模過ぎる大軍に衛兵も門をすぐに開けようとは考えられなかった。

門を閉ざし、城に報告と確認を取るまでは待たれよとラジヤ軍に伝え、衛兵の一人が馬を走らせた。……途端に、ラジヤ帝国軍は一変して門を開けよと攻撃の意思を露わにした。前方に構えていた兵達は大砲を積んだ荷車まで下がった。衛兵の制止の言葉も聞かず、彼らは持ち込んだ大砲に火を放ち、開けぬなら破壊するまでと躊躇いなく国門へと撃ち込んだ。ラジヤ帝国自慢の大砲はたった一発でフリージア王国の国門に大打撃を



……与えなかった。



正確には、砲撃自体が()()()()()()()

撃ち込まれた砲撃は門に当たる前に軌道が不自然に外れ、地面へと突き刺さり破裂した。ドガンッ‼︎と地雷のような音こそ響き、地を震わせたがフリージア王国の国門には何の損害も与えなかった。

何かの間違いかと、再び大砲に火を放てば今度は空中で砲弾が破裂した。さらに二度目も続きざまに打ち込もうとすれば、今度は火を放とうとする兵士の脳天に風穴が開けられた。狙撃手がいるのかと兵士達は顔を上げて国壁を見上げたが、いるのは銃を構えずこちらを見下ろす衛兵のみ。一体どこから撃ち込まれたのかすらもわからなかった。

ならば一度に大砲をと、次々と荷車の大砲の布が外されていく中、突如フリージア王国内から門を隔てたラジヤ帝国軍にも聞こえるほどの大音声が轟いた。


「伝令ーー‼︎‼︎副団長より伝令‼︎作戦決行!我が国は〝正式に〟ラジヤ帝国を迎え撃つ‼︎‼︎」


許可が降りたぞ‼︎と、今度は別の声が国の内側からいくつも放たれた。

伝令の声だけを拾えたラジヤ軍は〝作戦〟という言葉に不穏を感じながらも数十以上はある大砲に一斉に火をつける。先ずは門を破壊しなければ始まらないと、その全ての照準を国門へと向ける。大将が声を上げ、用意‼︎と導火線へ火をつけろと兵士に命じた。火の束を手に彼らが慣れた手付きで導火線へと近づけた瞬間


パァンパンパンバンパンパンパパパパパパハパパパッッッ‼︎‼︎


いくつもの乾いた音が重なるように放たれ、大砲の轟音に紛れるようにラジヤの兵士と砲弾を雨のように銃撃が襲った。

ぎゃあああああああああああッ⁈と逆にラジヤ軍の悲鳴が響き、同時に砲撃が再び地面に落ち、空中で爆発し、火を付けられる前に砲撃手を先に撃ち抜いた。数十ある大砲の中でやっと二発のみが国門に当たり、国壁ごと揺らしたが損害の差は明らかだった。正体不明の銃撃の雨に次々と兵士達が無力化されていく中、大砲に近付くものから淘汰された。更には反撃しようと銃を構えても、先程まで自分達を見下ろしていた衛兵は愚か、国門や壁の上には誰の姿もなかった。国壁に備え付けられた大砲すら、まだ動かされていない。狙撃手はどこにと顔を上げて見渡した兵士がまた頭を撃ち抜かれ倒れていく。

正体不明の攻撃に、ラジヤ軍は目を疑った。


「遠慮はいらない‼︎弾が尽きるまで撃ち放て‼︎‼︎」


また、国門の向こう側からとは思えない大音量の声がラジヤ軍の耳に届く。

ラジヤ帝国軍の数は無数。しかし、まだ門すら開けられていない。大砲に触れる者から撃ち殺される中、弾を詰め、火薬をいれ、火を点けられる者などいるわけもなかった。大将はその事実を理解しながら兵士達に大砲が無理ならば数で押せと、構わず前線へと一気に兵士を走らせた。銃では捌き切れないほどの数を門へとぶつけ、爆弾を持たせて間近で破裂させる方が遥かに効率的だと判断する。


「何千死のうと構うな‼︎‼︎ラジヤ帝国の為に門を開け放て‼︎‼︎」


多くの味方に守られた大将が、頭上に注意をしながら剣で門へと差し示す。

国門へと雪崩れ込むことすら手間取った今、急襲が意味を為さなくなったことに静かに背筋を冷たく湿らせながら。


……



「……お。また砲撃、誰か落としたな。」


気楽な様子で言うアランは、準備体操のように身体を伸ばしながら隣に並ぶエリックへと投げ掛けた。

「そうですね」と言葉を返しながらエリックもアランと同じように国門へと目を向ける。彼らの傍には二番隊の隊長、副隊長が同じように国門を守る四番隊、五番隊の健闘を見守っていた。

フリージア王国、城下前。

国門から少し離れたその位置では、特攻に特化したアラン達一番隊と二番隊が万全の体制で控えていた。彼らの背後には城下町が広がっている。


「最初、の砲撃を落としたのは、どいつだろうな?……っと。やりそうな奴はやっぱ五番隊のローガンさんかメイソンか…」

「あとはクレイグでしょうか。四番隊で唯一彼も〝狙撃〟の特殊能力者ですし。」

あ〜、アイツな。とアランが思い出すように笑う。入念に身体を伸ばしながら返すアランは、三人の騎士の顔を頭に浮かべながら次にエリックへ視線を投げた。


「お前もやろうとすればできるんじゃねぇか?エリック。撃たれた砲弾を撃ち落とすのもさ。」

いえいえいえ……と、エリックはアランの言葉に首を何度も横に振る。

苦笑いをしながら「流石にそれは……」と否定した。だが、その話を聞いていた一番隊や二番隊の中にはアランと同じように興味深そうにエリックへ視線を注ぐ騎士もいた。突くような視線に気づいたエリックは、彼らへ振り返り「できないぞ⁈」と軽く声を大きめに上げた。だが、それでも一部は未だに視線を注ぎ続けている。それに肩を落とすエリックは、彼らにも聞こえるようにはっきりとした声でアランに言葉を返した。


「ローガン隊長達みたいに自分は特殊能力がありませんから。自分の狙った的を確実に撃ち抜く〝狙撃〟の特殊能力が無ければ、飛んで来る砲弾に当てるなんてとても。」

砲撃手の頭を撃ち抜くなら未だしもと溜息混じりに語るエリックにアランは「そっかー」と軽く返す。エリックの狙撃の腕は誰もが認めるものだが、やはりそこまでの領域は別次元のものなのだと改めて理解する。


「にしても、やっぱ騎士団長の指示通りに透明化させてでも国門に四番隊と五番隊控えさせておいて大正解だったな。まだ全然朝だしさ。」

流石騎士団長。とあっさり話を変えるアランにエリックも流れるように頷いた。

国門から国壁。その上にはラジヤ帝国が訪れるはるか前から狙撃に特化した五番隊と、作戦指揮に特化した四番隊が透明化の特殊能力者の力を借り、その場に堂々と潜んでいた。あくまで騎士団長であるロデリックや宰相であるジルベールから作戦実行、または避難完了の報せが来るまでは最低限の防衛のみに徹していた彼らだが、今は違う。副団長であるクラークから許しを得た今、〝防衛〟から〝迎撃〟へと体制が変わっていた。


「取り敢えず、民の避難が完了するまで保てば良いなぁ。そうすりゃあ、いつ門が開いても()()()()()()。」

なっ?と、軽く同意を求めるアランにエリックは答えながら剣を握った。強い目で国門を睨みながら、武者震いを起こす彼からはじわりと静かな覇気が放たれた。

今こそ狙撃のみで四番隊と五番隊がラジヤ軍からの攻撃を防ぎ、国門を守ってはいるが、それだけで大国であるラジヤ帝国の猛攻を防げるとは騎士団の誰も思っていない。いくら国壁の上からラジヤ帝国軍を撃ち抜こうとも、銃口は一つ。壁の上に立てる人数にも限りはある。それに対しラジヤ帝国は大軍で押し寄せているのだから。

蟻の大軍へ何度象が足で踏み付けようとも、必ず足の隙間から蟻は雪崩れ込む。更には国門まで到達されればやりようはいくらでもある。

エリックが冷静にそう状況を整理している間にも、門の方がらドン、ドドンッ、と鈍い音が響いてきた。恐らく、何人かの敵兵が爆弾でも使って押し寄せているのだろうと考える。

今回の騎士団に命じられた命の一つは〝誰一人として犠牲にならない〟こと。

命懸けで止めようとすれば、四番隊と五番隊だけでなく国門前で他の隊も並びラジヤ帝国軍と正面衝突する方法もある。ただし、同時に確実に誰かは死ぬことになる。だからこそ、その前に破られることは想定内。

地の利がある国内に、特攻、先攻に特化した一番隊と二番隊が置かれ、更に城前には作戦指揮に特化した三番隊と狙撃の六番隊もいる。王居内には王族救出の為に騎士団長と副団長率いる九番隊。そして攻撃が許された今、城内には八番隊も侵入し、城の外周から城内へと配置されている。門、城下、城前、城内、王居の各所には班ごとに救護特化の七番隊も配置された。城下に降りているジルベールの身には十番隊が付き、民の避難誘導を今も行っている。

万が一、その前に国門を破られかけた時は、完全に破壊される前に開放することになっている。そうしなければ、国内でラジヤ帝国を掃討した後に敵国から閉ざす門が無くなってしまうのだから。


「まだジルベール宰相からの報告は来てないか?」

民の避難完了さえあれば、国門を開ける。そうすれば今、彼らだけでラジヤを抑えている四番隊、五番隊の負担も減る。

そう思い、エリックは部下に問いかけるがやはりまだ無い。ジルベールの身に何かあったのではないかと憂いながらアランは城の方へと振り返った。こうしている今も、王族の奪還が進んでいる。しかしプライドはアダム達と共に行方不明。そして


「……アーサー。大人しくしてたら良いけどな。」


ぼそり、と独り言のようなアランの呟きにエリックは小さく俯いた。

今、アーサーは騎士団演習場に併設された救護棟で七番隊の騎士に護られている。近衛騎士達は配置へ着く前にアーサーとも挨拶を交わしたが「宜しくお願いします」と語るアーサーの目がどうにもずっと大人しく護られていることを良しと考えているようには思えなかった。


「マートが付いていますから。………アーサーはもう、充分過ぎるほど貢献してくれました。後は、自分達がそれを繋ぐべきだと考えています。」

ザクッ、と剣を地面に刺しながらエリックが返す。

騎士の名を奪われてもプライドの為に戦い続け、取り返しのつかない傷と引き換えに逃亡中の参謀長と多くの情報を得て来たアーサーを騎士の誰もが敬意を示す。そして今、戦場に立てないことを誰よりも苦しんでいるのは他でもない彼だということも騎士団全員が理解している。

エリックの言葉に一言同意したアランは静かに笑う。本当に文字通り、今のアーサーに自分達ができるのは良くも悪くも


『意味、あるもんにして下さい』


それだけなのだから。

ハリソンに詰め寄られた彼が、望んだ願いを必ず叶えたいとアランは思う。この奪還戦後、彼がどのような選択をしても、騎士として戦った彼が誇り高い功績を残したと誰もが語り継げるぐらいにはと。

そこまで考えたアランは、一度強く首を振った。湿った思考は自分にはそぐわない。それよりも、今この場でもっと士気を上げられるような事を考えるべきだと思い直す。「なぁ、エリック!」とわざと明るく声を上げる彼に、隣に並ぶエリックは肩を上下させながら返す。アランはチラッとエリックに目を向けた後、今度は他の騎士達に聞こえるように声を張り上げた。


「プライド様がさ!……本当に元に戻すことができたらどうしたい?」


軽い茶飲み話くらいの感覚で投げたアランに「へ⁈」とエリックは声を漏らす。

どう……とは?と意図を掴みかねるように返すエリックと同じように、他の騎士達も目を丸くした。


「いや〜、だってさ。プライド様だぞ⁇絶対また騎士達全員を労ってくれるだろ?それこそまた、祝勝会に来てくれるかもしれねぇし。」

ざわ、とアランの言葉に今度は騎士達が僅かに騒ついた。

確かに、と。今までもプライドは自身が関わった祝勝会には必ず姿を現して彼らを労っていた。しかも今回はプライドの奪還戦。近衛騎士のアラン達はさておき、他の騎士にとっては久々にプライドの姿を見れるの貴重な機会でもある。

見返りを期待して行動することは騎士道に反するが、それでも一度頭に過れば考えてしまう。ざわざわと騎士達が沸き立つのを肌で感じながら、エリックが苦笑う。「アラン隊長そういう話は……」と、戦死前の伏線みたいだからやめましょう?と続けようとするエリックに、アランがその声すら打ち消すように更に声を張る。


「俺はー‼︎……っし。俺はプライド様をダンスに誘うっ‼︎な?エリックお前もだよな⁈」

自分もですか⁈と、アランからのあまりの暴投にエリックの声が裏返る。

そのまま肩に腕を回され「それしかねぇだろ?」と言われれば、みるみるうちにエリックの顔が赤くなった。


「ティアラ様の誕生祭では俺達は踊れなかったし!……次は俺達と踊って下さいって頼んでも怒られはしねぇだろ?」

アランの隠そうとしない言動に、周りの騎士達が「誕生祭⁇」「ダンス⁇」と言葉を漏らす。当日に事件があったこともあり、ダンスパーティーの話題は騎士団でも知る者は当事者達しかいなかった。その様子にエリックは騎士達からの身の危険を感じながら「いえっ……自分は!そんな、畏れ多いのでっ……‼︎」と声を上げる。プライドと同じダンスフロアに立ち、ティアラと踊れただけでも幸福だったのに、まさか一緒にダンスをと望むなどエリックにはハードルが高過ぎた。


「なら、お前はないのかよ?いつものプライド様だぞ⁇またあの人に会えんだぞ⁇何かねぇの?」

「じ……自分はっ、……そのっ、ただ………‼︎」

なぁなぁ?とアランに問われ、エリックは顔の赤みを押さえないままに考えを巡らせる。

プライドに、自分の知るあの人を取り戻せるならば。それを考えようとすればエリックに浮かぶ願いはたった一つだけだった。羞恥から唇が震え、せっかく奮い立たせていた緊張感までもが散ってしまう。本当にこの人は、と少しだけアランに困りながらもエリックはとうとう願いを口にする。


「自分はっ……、……〜っ……また、プライド様のあの笑顔を間近で見られたらと……。」


口端が緩んでしまいながら言ってしまうエリックに、背後で多くの騎士が頷いた。

彼らにとってもそれは大きな願いだ。話でしか聞かされていないプライドの豹変を聞けば尚のこと、自分達の記憶にあるプライドの笑顔を見たいとそう願う。エリックの答えにアランは満足そうに「そっか」と優しく返すと、腕から解放して背中を叩いた。「なら絶対負けられねぇな!」と声を上げ、一番隊二番隊を見回した。



「プライド様は誰か一人でも欠けたら、絶対泣いちまうような人だからさ。」



その言葉だけは、どこかアランにしては重く物哀しいものだと騎士の誰もが感じられた。

ステイルもまた、彼らへ士気を高める時に語っていた言葉だが近衛騎士のアランからもそう発せられれば余計に重みは強まった。一年前、プライドを守り切れずに責任を感じていたアランとカラムが、どうして思い留まり騎士として残ってくれたのか。その真実を知る騎士は本人達以外誰もいない。

ニカッ、と明るく彼らへ笑うアランは示すように剣を抜き、高々と掲げて見せた。


「あの人の笑顔っ!俺らで勝ち取ってやろうぜ‼︎‼︎」

強く、覇気のあるその声に騎士の誰もが意思を持って応えた。武器を掲げ、声を上げ、勝つ条件と戦う理由を確かめる。

血を踏みしめ、胸を張り、アランの動作を真似るように笑い、掲げ、決意する。必ず誰一人欠けさせることなくプライドも国も全てを守り抜くのだと。

直後、通信兵から連絡が入る。

その連絡に再び彼らは湧き上がり、その士気を最大まで高めて勇んだ。


必ず全てを守り、取り戻すその為に。


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