そして明かす。
「……三年ほど前に、人身売買の拠点へ殲滅戦が行われたこと。……覚えておいででしょうか。」
「あ゛ッ⁈」
あまりに予想外の記憶にアーサーが声を上げ、喉が悲鳴を上げた。
無理な音量で叫んだ為、直後に喉を酷く咳き込んだ。その様子にジルベールは「御察し致します」と返しながらその背を騎士達と共に摩った。
三年前の殲滅戦。当然ながらジルベールもステイルもアーサーにとっても記憶に濃いものの一つだった。プライドの望みの元、囚われた自国の民とセフェクやケメトを助けに行ったのだから。
「当時、騎士団へ正体不明の投爆が何度かあったと私も騎士団からの〝報告で聞き及んでおります〟が。……あれも、ラジヤ帝国からの攻撃だったと見て間違い無いかと。」
新たに市場を開こうとしていた人身売買組織。その噂を聞き付けて、市場が開かれる前にフリージア王国の商品を全て奪おうとしたが、既に騎士団に介入され、終えた後だったと。
「……そうして二度も図らずして彼らの陰謀は失敗に終わったのですが。その年から更にラジヤ帝国にとっては不都合なことが続きました。」
フリージア王国は同盟共同政策で同盟国との結び付きを強め、それを知った他国もまたフリージア王国のその輪に入りたいと同盟を望み出した。
更には翌年にプライドとレオンが婚約と解消。レオンが第一王位継承者となってからアネモネ王国は奴隷制度撤廃に向けても動き出した。
事実、近年ではアネモネ王国はラジヤ帝国と交易は続けているが奴隷の買取は打ち切っている。単純にアネモネ王国の貿易品を金でやり取りするだけの間柄となり、更にはレオンの手腕により裏取引に関しても取り締まりが強化された。
そして、ハナズオ連合王国への侵略と防衛。
「参謀長の供述によると、やはり最初からサーシス、チャイネンシス両国を支配下にするつもりだったと。コペランディ王国にも奴隷や策の提供やティペット嬢の貸し出しなど色々手を貸していたそうです。」
そこまで聞いてアーサーはステイルに驚愕の表情のまま目を向けた。言わずともアーサーの疑問を察したステイルは頷かずに目線だけで返すと「ちなみに」とその口を動かした。
「ランス国王の急病。…それも、皇太子の仕業だったと証言が取れました。」
ガッ、とアーサーがベッドの背もたれに倒れこむようにして頭をぶつけた。
強く打ってはいないが、あんぐり開けたその口が「マジか……」と声には出さずに紡がれた。ステイルの言葉に脱力し、手が使えれば額に手を置いて項垂れていた。
「とまぁ、…ここまでのことがあり、ラジヤ帝国にとっては商売敵と逆怨み相手でもあるフリージア王国からの和平打診は、またとない機会だったそうです。」
それにより大規模な式典であるティアラの誕生祭で招待を受け、ティペットの透明化で姿を消し、アダムがプライドに特殊能力を施した。
事前にティペットを広間内で何度か能力を使わせ、護衛の衛兵達が誰も気付いてないことを確認してからの実行だったという。
そしてプライドは意識不明。アダムの計画通りになった。
「……本来ならば、プライド様が目覚めるのは計算外だったそうです。当初の目的は、発狂したプライド様を利用してフリージア王国を奴隷産業に引き摺り込むことでしたから。」
プライドの治療方法が欲しければ、ティアラとアダムの婚約を。もしくは奴隷産業に加われと。ティアラと婚約できれば、後でプライドを暗殺すれば良い。ティアラを次なる女王として返還を望まれれば、今度こそ奴隷産業を引き換えにできる。もしくは、女王となったティアラを利用してフリージア王国を裏から思うままに操ることができる。
どちらにせよ、アダムの目的は第一王位継承者であるプライドを人質にしてフリージア王国を奴隷生産国に堕とすことだった。
そこまで話してから、ジルベールは妙な冷たさを感じて話を止める。見れば、アーサーの蒼い瞳が怒りで真っ赤に燃えていた。呼応するようにステイルからも思い出すように黒い覇気が放たれた。更にはアーサーと一緒に話を聞いていた騎士達からも同じだった。彼らの覇気を身に浴びながら、ジルベールは最初にこれを騎士団と共に聞いた時に自分だけでなくロデリックを含むその場の騎士達全員が怒りを露わにしたことを思い出した。当然、自分も話しながら怒りが再熱しかかってはいるが、今は説明を優先すべきと思い、話を続ける。
「ですが、皇太子の言うところの〝素質〟があった為プライド様は目を覚まされました。……廃人ではなく〝狂人〟として。」
素質というのが具体的に何なのか。それについては参謀長もアダムから説明されたことはなかった。
ただ、狂人化された者の変化は人によって異なり、そしてプライドの豹変はアダムにとっては嬉しい誤算だった。
「そして皇太子の目的はフリージア王国とプライド様に変わりました。彼はフリージア王国を出てすぐ我が国を侵略することを決め、準備を促した後に我が国へ戻ってきました。」
そしてプライドの治療方法と引き換えに、プライドとの婚約を。もしくはラジヤ帝国が侵撃に来る十日後までのプライドとの密の交流を望んだ。
プライドと婚約が決まれば、今度はティアラを暗殺すれば良い。王位継承者の代わりはいなくなり、プライドと共にフリージア王国を属国として支配する。
そして、婚約が許されるずとも十日間フリージア王国の第一王女であるプライドと協力して反乱の手筈を整えれば、確実に侵略は成功する。
「元はプライド様が王居に戻られたら最上層部を暗殺するつもりだったと。ですが、アーサー殿の御活躍によりそれも叶わず、陛下方を人質とする為に発狂させられました。私は、……まぁ運が良かったですね。」
王族でないからでしょうかね、とジルベールは遠い目で薄く笑み、軽く自分の腕を摩った。一度はアダムを返り討ちにしたのは自分だが、それ以外の理由も見当はついている。ステイルも何も言わずに溜息を吐く中、情報量の波に息継ぎも困難になりながら泳ぐアーサーが「ですが」と口を開いた。
「いくら発狂させられたからとはいえっ……プライド様がアダムに協力する保証はどこにも」
「あったようです。」
敢えて途中で重ねるように語るジルベールの言葉に、アーサーは絶句した。
ステイルが思い出すように眉間に皺を深く刻み、歯を食い縛る。ギリッ…と強く食い縛り過ぎたせいで鈍く音が全員の耳にまで届く。アーサーはそれを聞きながら、瞼がなくなった蒼い瞳をジルベールに向けた。
「皇太子はプライド様が狂人と化した時点で、自身の味方になることは確信していたようです。参謀長も彼の特殊能力に関して全ては明かされていなかったようですが……。」
ジルベール自身、それを最後に確認した。
『皇太子の特殊能力についてですが、狂人と化した者を文字通り操ることは可能なのでしょうか』と。
答えは「わからない」だった。
過去に参謀長が知る者だけでも、操り人形のようになった者もいれば、殆ど何の変哲もなくアダムの思い通りにはなっても直接的な命令を拒む者も、数日で発狂し死に至る者もいた。狂人と化した者が全員同じように狂うわけではない。
「もともと、皇太子の企みが露見した時からプライド様が彼の協力者であることは予想できていました。」
その言葉にステイルも頷く。
最上層部の誰もがそうでなければと願い、結果としては最悪の形で的中してしまった。だからこそ女王であるローザを含んだ最上層部も残酷な決断へと追い込まれていたのだから。
そこまで説明したジルベールは「これは私の推測ですが」と言葉を切った。アーサーと、そしてステイルにも順々に目を合わせ、それから静かな声色で口を開く。
「……皇太子は、その者が狂う〝方向性〟のようなものも操れるのではないかと。」
方向性?と、言葉の出ないアーサーより先にステイルが聞き返した。それにジルベールは頷くと、更に言葉を続ける。
「勿論、常軌を逸した行動は狂気にやるものでしょう。しかし、皇太子はもともとプライド様を廃人にするつもりでした。その目的は我が国を奴隷生産国、もしくはラジヤ帝国の支配下に堕とす為です。……もし、皇太子の望みがそのままプライド様へ施された狂気に反映されていたとしたら。」
ぞわ、と気味の悪いものが二人の背中をなぞった。
息を引き、肩が強張り口の中が急激に乾いた。ジルベールの薄水色の瞳が僅かに怒りを秘めているのが二人の目にもはっきりとわかった。ステイルの頭にはプライドが最上層部を襲った時の言葉がいくつも浮かび上がる。
『決まっているじゃない。私が女王になる為よ?』
『ただ、ラジヤ帝国ともっともっと仲良くなるだけ。国の富も今以上になって良いこと尽くしだもの』
全て、既にアダムの望み色に狂気で染められていたとすれば。
意味不明と思えたプライドの言動が一つ解消された。
二人が腑に落ちたように喉を鳴らせば同時にジルベールは更に言葉を続ける。「そして」と声を低め、はっきりと張るその声はここからが本題だと言わんばかりに二人の心臓を拍動させた。
「プライド様は、抗っております。恐らく無意識下ではあるでしょう。皇太子の望みを叶えぬ為に、あの御方は常に自己の破滅を望まれております。……そうでなければ矛盾の過ぎる行動が多過ぎます。」
『もし…私がっ…最低な女王に…ったら、…ちゃんとっ……私を殺してね…』
『私がこの国の民の敵と判断した時は、真っ先にこの首を切りなさい』
ステイルとアーサーの頭には、今まで何度も思い巡らした言葉が蘇った。
プライドが、自身の破滅を何年も前から望んできたのを二人はよく知っている。そして、プライドがそういう人間であるということも嫌というほど理解していた。
息も忘れるほど放心する二人にジルベールはいくつもの疑問を並び立てるべく口を開く。単にアダムの望み通りの狂気に染まっただけでは納得のいかない、プライドの今までの言動を。
「あの御方は己が破滅願望のみは御自覚されております。」
時には己に刃を突き立てただけではない、何度も不興を買う振る舞いを重ねた。女王であるローザや王配であるアルバートの前ですらそれを晒した。無意味にしか見えない自分の立場を悪くする為だけのような言動、それをする意味は〝自分の敵を作ること〟〝自分を処罰させること〟だとすれば。
「以前、離れの塔で御自身の立場を危ぶませる行動を取ることを指摘した私に……プライド様は仰りました。」
『半分正解で半分ハズレ。……別に、私のこの立場を壊すだけが目的じゃなくってよ?』
「そして皇太子との反乱直後に再びそこを突けば、やはりプライド様は仰られました。」
続けて語るジルベールの言葉にステイルは先日のことを鮮明に思い出す。ジルベールがプライドとアダムに膝を折った時、彼らのやり取りを。
『プライド様の〝御望み〟を叶える為には、私を懐に入れて置いた方が宜しいかと』
『そうよねぇ、貴方は……ちゃあんと私のことをわかってくれているものね……?』
あの時ジルベールが言っていた〝御望み〟がどういうものなのか、ステイルは今やっと理解した。
「何故それを早く言わなかった」と問い詰めたくもなったが、その前に飲み込んだ。当時、プライドを救う手立てもなく頼る場所も失い従属の契約に苛まれていた自分が、ジルベールからまでそんなことを言われればどうなってしまっていたか。それは容易に想像ができてしまった。
ジルベールの話にアーサーの顔から血の気が引いていく。恐ろしいほど再び、七年前のプライドの言葉が頭の中に何度も繰り返される。
「プライド様は優秀な御方です。王女としての資質も能力もご存知のことでしょう。ですが、……狂気に取り憑かれてからのプライド様は行動も反乱計画にも穴があり過ぎます。」
その言葉に次はステイルの顔から血の気が引いていく。
言われてみればその通りだった。今まで従属の契約に苛まれて思考の余裕もなかったが、正常な頭で思い返せば今の反乱はあまりに杜撰過ぎる。もし本当に反乱因子を抹消したいならばステイルやジルベールも特殊能力を防ぐのではなく最上層部と同じようにするか殺せば良い。騎士団を無意味な任務で適当に国外に追い出せば良い。ラジヤ帝国に国を売るつもりならば、兵など待たずに契約を結んでしまえば良い。しかしプライドは全く何もしない。公務もしなければ、そういった対抗策もしない。更にアーサーからすれば、ステイルとジルベールという頭脳を放っておくことも二人の優秀さを知っているプライドにしては妙だと思う。
更には、自分達の計画をあまりにも仄めかし過ぎている。自分達の優位を示すどころか手の内を明かし過ぎている。最初から自分の悪意を秘める事なく全員に曝け出し、力押しで進める上に雑過ぎるその行動はまるで〝負けて良い〟と言っているかの
……違う。プライドは〝負けたい〟と思っているんだ……‼︎
そう考えれば、納得いくと。
自身の思考を修正し、ステイルは喉を震わしながら薄く息を吸い上げた。ステイルの表情の変化にジルベールは頷くと代弁するように「あの御方は反乱を失敗させる為に動いております」と言い切った。
自身の敗北と破滅。アダムの望み通りに国を堕とす為に動きながら自身が敗北し、そして破滅するまでがプライドの計画なのだと。それをジルベールが言葉にすればアーサーの視界が暗んだ。今、まさにプライドの計画通りに騎士団が水面下で動き、来たるラジヤを迎え撃つべく動いている。もし、アダムや参謀長から真実を聞き出せなかったら、そのまま最後はプライドを倒すことになっていた。そして、それこそがプライドの望みであり狙いなのだと。
止められるわけがない。騎士団も、そしてプライド本人もそれを望むなら辿り着く結果はただ一つなのだから。
真実を知る、それまでは。
「プライド様を救う為には重々注意が必要です。あの御方は恐らく〝死ぬつもり〟でしょうから。」
無意識下で願ったそれを納得できるように理由付け、意識下で断行しようとしている。
プライドは今〝フリージア王国を堕とすこと〟と〝殺される〟ことのみが行動理由になっている。それをジルベールが断言すれば、その場にいる者全員が喉を鳴らした。
「反乱を起こしてから今の今までティアラ様のことだけ尋ねられないのもおかしいかと。まるで関わり自体を拒まれております。」
勿論、尋ねられた時の言い訳は考えておりましたがと。
ジルベールの言葉を聞きながらアーサーも「確かに……」と考えを巡らせた。ティアラが国外に避難していることは聞いたが、プライドがティアラを探しているとは聞いていない。もし、プライドが本当にフリージア王国を堕とすことを狙っているのだとすれば第二王位継承者のティアラを消さない理由がない。それどころか、居場所すらステイルやジルベールに尋ねないのは違和感しかない。
ステイルも思い出すように顔を一人顰めて俯く。もし、プライドが無意識下でも自分が死んだ〝その後〟を考えていたとすれば。
ジルベールは「勿論、あくまで私の疑問と推測です」と断ったが、ティアラを可愛がっていたプライドが今、ティアラを断じているのか、無意識下で守ろうとしているのか。それとも別の理由か、現段階で確証はない。
「この推測は、後ほど全て騎士団長にもお伝えするつもりです。……とにかく今は皇太子を捕らえることだけが、プライド様を取り戻す為の必須事項です。」
唯一プライドを取り戻す手段である、アダム。彼を捕らえない限りはどうしようもない。
騎士団にも通達された命令はアダムとプライドの生け捕り。そして一人も味方に死者を出さないこと。だが、今のジルベールの話ではプライドは一人ですら死ぬ可能性が大きい。
「皇太子の狂気と、ティペット嬢の透明化は面倒ですが騎士団の手によれば捕らえられない相手でもありません。そしてローザ様達も救出することは可能な筈です。」
「明日、民の避難が完了次第、僕と騎士団長率いる騎士隊と共に姉君達の捕縛を試みます。九番隊の透明化と温度感知の特殊能力者さえいれば僕と共に王宮も侵入できます。」
ステイルがプライドと話しながら注意を逸らし、アダム達が気が付いた時には全員を捕縛できていれば残す問題は侵攻するラジヤ帝国だけになる。
そう説明しながら、二人はそろそろ戻らねばと椅子から腰を上げる。特にステイルは明け方までに部屋に戻らなければならないのだから。明日は最上層部の救出だ、とそのままステイルが言葉をつなげた時だった。
「……あの、……あと一つ良いっすか…?」
ふと思い出したようにアーサーが掠れた声を上げる。
何なりと、と言葉を返すジルベールと同時にステイルもアーサーへと目を向けた。まさかここまで来て明日の隠滅戦に参戦したいなどと言うまいなと少しだけ不安に思いながら、彼の言葉を待った。
「……結局、何故フリージア王国の人間であるアダムが皇太子に……?参謀長ならそういうことも知ってる筈じゃあ……。」
アーサーのその問いにジルベールとステイルは互いに目を合わせた。
現時点で、必要以上の人間に敢えて教えるべきものかもわからない。ただ、戦場に出ることが叶わないアーサーになら話しても問題はないだろうとも考え、最終的にはステイルが頷いたことでジルベールも口を開いた。背後に控える騎士を含め、事前にアーサーへ口止めをした後、潜ませる声で彼の問いに答える。
「アダム・ボルネオ・ネペンテスは……養子です。」
こくり、とアーサーは頷く。
それくらいは自分でもわかる。特殊能力を持っているということは、確実にアダムはフリージア王国の血を引き、更にはこの国で産まれたということになるのだから。だが、次の言葉はアーサーにも予想はできていなかった。
「十三年前、現皇帝であるアルフ皇帝が〝買った〟元奴隷。……つまりは、人身売買の被害者です。」
は……⁈と。
アーサーは叫びたい衝動より先に絶句して声が出なかった。
喉を痛めずには済んだが、代わりに耳を疑った。続けるようにジルベールが「そしてティペット嬢も後に皇太子が〝買った〟奴隷の一人です。側室というのも我が国に侵入する為の偽称でした」と語ればいよいよ理解が追い付かなくなる。
元奴隷。そんな立場の人間が何故養子にされたのか。何より、自身が人身売買の被害者でありながら何故ラジヤ帝国に汲みし、フリージアを狙うのか。
そう思考だけが錯綜する中、ステイルが口を開く。「つまり」と一言に事実を纏め、漆黒の瞳を真っ直ぐにアーサーへ向ける。
「我が国が救えなかった民。それが、倒すべき敵の正体です。」
気味の悪いものがアーサーを、騎士の身体を這い回る。
吐き気に近く、これから相対するアダムが〝人ではない何か〟に感じられて仕方がない。
まるで現象そのもののようにフリージア王国とラジヤ帝国、双方の闇そのものが襲い掛かってきているのだと。
爪を研ぎ、憎しみと狂気を携えて。
「だからこそ、我が国で終止符を打たねばならない。」
ステイルの芯の通った声が、誰に取り繕うことなく放たれた。
プライドと国と最上層部。それだけではない、フリージア王国として避けられない戦いが幕を開けるのだと。
ステイルの言葉にジルベールも、そしてアーサーも強く頷いた。
「先ずは民が避難を完了させる。それまで姉君達に気取られずに済めば、王宮も騎士団で制圧できる。運が良ければティペット、姉君やアダム達の捕縛と母上達の救出が同時に叶うかもしれない。」
おっしゃる通りです、と相槌を打つジルベールに騎士二人も頷いた。彼らも作戦指示だけは既に各隊ごとに指示を受けている。
「もしティペットに逃げられても、第一優先事項として母上達の救出さえ済めば良い。それに騎士団の力を借りれば、少なくともアダム達や姉君を捕えることは可能な筈だ。」
透明の特殊能力者や温度感知の特殊能力者がいる九番隊が動くのだから、と続けられればアーサーも安堵した。それならば例えティペットがプライド達の姿を消して全員で逃げようとしても問題ない。温度感知の特殊能力者にかかれば、姿が見えないなど何の障害にもならないのだから。残すは迫り来るラジヤ帝国軍のみ。人質も取り返し、アダムとティペットさえ捕らえれば何も恐れはない。
「私もこれから騎士達と城下に降ります。お任せ下さい、必ずや民全員の避難を完了させてみせますから。」
完了次第、通信兵で御連絡致します。とジルベールが手を胸に当てて笑めばステイルもアーサーも肩から力を抜けた。
ジルベールの「お任せ下さい」にはそれだけの説得力が確かにあった。そして最後、ステイルはアーサーの蒼い瞳を真っ直ぐに覗き、宣言する。彼の右腕を代償に相応した確かな見返りを得てみせると誓うその為に。
「明日、俺達は全てを取り返す。」
守るべき者の真実を知り、騎士団の協力を得た今。彼らには恐るものなど何もない。
ステイルの言葉に、アーサーは小さく笑んだ。今は未だ手を叩き合うことも叶わない両腕だが、その笑みだけでステイルにもジルベールにも全てが伝わった。
今度こそ、彼らは椅子から立ち上がる。ジルベールは騎士団と共に城下に、そしてステイルはプライド達に気付かれる前に部屋に戻り、いつも通りに振る舞わらなければならない。「頼みます」と最後のアーサーの言葉に、二人は迷いなく頷いた。だが
彼らはまだ、本当の意味で理解していなかった。
立ち向かおうとしている敵の正体を。
必死に救い出そうとしている第一王女が何者であるかを。
本当に恐るべき敵はラジヤ帝国ではないということを。
プライド・ロイヤル・アイビーという名のラスボスの
その、真価を。
172.393
440-3
421
503




