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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
傲慢王女と元凶

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624/2210

517.宰相は語り、


「……ジルベール宰相。そろそろ現状を聞いておいても宜しいでしょうか。」


深夜。昨晩と同じように騎士達の手を借りて救護棟に訪れたステイルは、建物内に入ってすぐジルベールへ投げかけた。自分達を迎えてくれた騎士団長のロデリックに連れられながら、救護棟の廊下を歩いていく。

ええ、勿論。と言葉を返したジルベールは、部屋を目指しながらも早口で現状の報告を始めた。昨晩から夜通しで衛兵の元に回り、〝説得〟が成立したこと。今朝には〝偶然にも〟参謀長が目覚めたところに居合わせ、契約による尋問に成功したこと。そして、ある程度の尋問後は騎士団に任せたということを順を追って説明した。

騎士達の手前、ステイルも知らない程で驚いた振りなどもしたが心の中では安堵が大きかった。アーサーの特殊能力により目を覚まし、そしてジルベールの話術で上手く騙し、契約書にサインを書かせる。そしてラジヤの機密事項を明らかにするまでが彼らの策だった。

結果として全てが順調に進み、自分達が王居で仕事をしている間にも騎士団が多くの情報を収集してくれている。ステイルがその事実に息をほっと吐きながら「それで、どのような事実を知れましたか」とジルベールに尋ねた時だった。


「………それは、……参謀長に御自身で確かめられた方が良いかと。」


もう、すぐですし。と妙に歯切れの悪いジルベールの言葉に、ステイルは怪訝に顔を顰めた。

見れば、冷ややかな眼差しが宙に放たれ、口端だけが愛想程度に笑んでいた。若干の怒りに似た感情が漏れ出し、ステイルは僅かに肩を強張らせた。しかも、それを聞いていたであろう自分達に付いている騎士達もまた同じように静かに感情を昂ぶらせていた。

ラジヤ帝国の最上層部である参謀長。その情報量もさることながら、アダムであればろくな考えはしていないことはステイルも理解はしている。それにしても妙に胃が重苦しくなり指先が痺れるように冷えていくのをステイルは感じた。


「ところで。……本当に宜しかったのですか?アネモネ王国の使者に〝異常無し〟と返してしまい。」

ふと、ステイルの強張りを紛れさせるようにジルベールが投げ掛ける。それにステイルは軽く片眉を上げると、一度息を吐いてから言葉を返した。


「当然だ。……レオン王子を、アネモネ王国をこれ以上は巻き込めない。これは、我が国で決着を付けるべき問題だ。」

全てが収束しプライドが戻ったその後に事情を話せば良い、と言い切るステイルからは強い意志があった。その為にステイルは急ぎ事前にレオンへ手紙を送らせたのだから。

ジルベールも使者を追い返した時は、ティペットの目がある為に何も言わなかった。だが、確かに最初からアネモネ王国へ助けを求める気であれば、昨晩の書状にその旨を綴っていただろうとも思う。ヴァル達が行方不明の今、恐らく身を隠しているのはと大体の察しもついていた。


「アネモネ王国は今や圧倒的武力を誇る国です。同盟国として助けを求めるのは恥ではありません。」

「だが、我が国が求めれば断れない。…それに今回は死者を一人も出すわけにはいかない。アネモネ王国の人間が一人でも犠牲になれば失敗だ。」

姉君が悲しむ、と最後に呟くステイルにジルベールは溜息を堪えた。無自覚ではあるだろうが、アネモネ王国は今や弱小ではない。それを犠牲が出る前提で話すのは、と思ったが、それだけステイルが全てを守り切りたいのだということは伝わってきた。自分はあくまで宰相。勝手に使者を出して協力を仰ぐわけにもいかない。


…まぁ、こちらの隠蔽と健闘次第といったところでしょうか。


フリージアの隣国であるアネモネ王国にならば、ラジヤ帝国からの侵撃が始まれば戦のことも知られるだろう。そして戦いが悪化し、フリージア王国が不利にでもなればアネモネ王国は同盟国の危機として大手を振って援軍に駆け付ける。……その、意志さえあれば。

ステイルがそれをわかっていない訳がない。昨晩の〝足止め〟の手紙から鑑みても、つまりはアネモネ王国が決断するより先に戦を収束させるつもりなのだとジルベールは理解する。ならば自分も宰相としてそうなるように全力を尽くすまで、とそう思い直した時


「こちらになります。」


厳重に騎士達により警備をされた部屋の前でロデリックが立ち止まった。

ジルベールも意識を目の前に向け、思考を止める。合図により騎士達の手で扉が開かれ、ロデリックと共にステイル達も中に入った。部屋の中には手足を拘束された参謀長がベッドに腰掛けるような体勢のまま座らされていた。朝から質問責めにされた為、大分疲弊しきっていた彼は新たな人の気配に僅かに顔を上げた。ジトリと湿った眼差しのまま扉から入ってくるロデリック達を睨み、そしてジルベールの姿を確認した途端「ひっ⁈」と電気を浴びたように短い悲鳴を上げて仰け反った。


「……随分と、容赦がなかったようですね。ジルベール宰相。」

「いえいえ、騎士団長の威厳を浴びてのことでしょう。」

いや、違う。とロデリックは自分になすり付けられたことに眉を寄せながらも口を閉じた。

参謀長への尋問には自分や副団長のクラーク、他の騎士隊長も数人加わったが、ここまで参謀長が怯える相手はジルベール相手のみだった。既に問えば何でも自白する状態だった参謀長を痛め付ける者など騎士には一人もいなかったのだから。


「尋ねた内容に関しては全てこちらに記録しております。」

参謀長を見張っていた騎士の一人が分厚い紙の束をロデリックに手渡した。

今日一日、質問責めにした成果だ。ロデリックもある程度は知っているが、騎士団長として騎士達の指揮に努めていた為に全ては把握していない。紙の束をバラバラと捲り、先にステイルとジルベールへ確認するかと尋ねたが二人は「今は」と断った。


「直接確認させて頂いた後、拝見させて頂きます。」

重なった問いでも構わない。参謀長である彼のその口から聞かないとどうしてもステイルは納得できなかった。

騎士達に用意された椅子に二人は順に掛け、参謀長と距離を置いて向き合った。恨みがましく睨んでくる参謀長へ、その倍の憎しみと怒りを宿してステイルは睨み返す。


「……まず、プライド第一王女をティアラの誕生祭でどのようにして襲ったのか。……そこから説明を。」


静まりきった水面のように語られるステイルの言葉が、部屋中の空気を小さく震わせた。

待ち望んだ真実を前にステイルは次々と問いを重ね続け、数度はその場で参謀長に掴みかかりかけた。ジルベールに押さえられ、また数度質問を繰り返しては歯を食い縛る。そして耐え抜き、全てステイルが聞き終えた後、最後はジルベールが一つの問いを参謀長へと投げ込んだ。



「皇太子の特殊能力についてですが……」



……




「……あの、……どうしたンすか……?」


ベッドから上半身を起こした状態のアーサーは、恐る恐る尋ねた。

騎士の特殊能力と医者の甲斐もあり、昨晩よりも治療が進んだ彼は、掠れてはいるものの耳を澄ませなくても良い程度の声量だった。

アーサーの視線の先には、つい先程部屋に入ってきたばかりのジルベールとステイルが佇んでいた。昨日目を覚ましてから状態が安定している筈の彼は、二人の尋常でない覇気に顔を青くした。明らかに殺気が混じったその感情に、アーサーだけでなく七番隊、九番隊の騎士まで冷や汗を滴らせる。


「………今朝、ラジヤ帝国の参謀長が目を覚ましたことはご存知でしょうか。」

ぽつり、とステイルが最初に呟いた。

護衛の騎士達を前に整えられたその言葉に、アーサーは一言答えると同時に大きく頷いた。当然、同じ救護棟にいるアーサーにも騒ぎが届いていた。自身を重傷に追いやったラジヤの幹部だが、目を覚まして今は情報を集めているということは騎士団長であるロデリックが騎士に許可を与えたことで、本人の耳にも知らされた。


「そこで、……色々と興味深いことが発覚致しまして。もし、差し支えなければ私の口からアーサー殿にもお話したいと思いまして。……如何でしょうか?」

お願いします。とアーサーは間髪いれずジルベールに返した。その返答に深々と頭を下げたジルベールは最初に重大なことから伝え始めた。


「ラジヤ帝国が攻めてくるのは明日の正午。もともと、我が国に訪れてから十日後に侵略を行うことは二ヶ月ほど前から決まっていたことだそうです。……〝プライド様の引き込み〟を成功するか否かに関わらず。」


引き込み……?とアーサーは早速首をひねった。

それを予想していたかのようにジルベールは一度頷き「最初から御説明致します」と言葉を切る。

ステイルもジルベールに同意するように頷き、腕を組みながらジルベールに説明を任せた。


「ラジヤ帝国は以前より我が国……正確には我が国の〝民〟を狙っておりました。それはアーサー殿もよくご存知のことと存じます。」

今度は真っ直ぐにアーサーは頷いた。

世界で唯一特殊能力者が産まれる国。その為フリージア王国の民は、特殊能力の有無関係なく人身売買では高価な値段で取引される。判明していないだけで、特殊能力を抱いていないという可能性が無いわけではない。そして更に特殊能力を持っている民、特に優秀か貴重性の高い特殊能力はより高額で取引される。だからこそ人身売買の大元でもあるラジヤ帝国にとってフリージア王国は宝の山だった。


「そして同時にラジヤ帝国にとって我が国は、彼らの商売の邪魔でもありました。……それこそ、早々に消し去りたいほどの。」

侵略と奴隷産業で富を得るラジヤ帝国。対し、絶対的不可侵を可能とし更には同盟を広げ、奴隷制度を拒み続けるフリージア王国。相容れないどころの話ではなかった。


「最初に、彼らにとって不都合だったのは七年前にあった我が国と隣国であるアネモネ王国との同盟でした。……奴隷制度のあるアネモネ王国はラジヤ帝国にとっても、大きな顧客でしたから。」

七年前、という言葉にアーサーは思わず喉を鳴らす。アダムから聞いた話を思い出し、拳を握れない代わりに歯を食い縛る。

当時から貿易国として手を広げていたアネモネ王国。

奴隷の取り扱いは禁じられていようとも、所持が認められたアネモネ王国では貿易の労働力としてラジヤから奴隷を買い取ることも少なくなかった。ラジヤにとっても奴隷と引き換えに金や各国の必要物資を取り寄せるアネモネ王国は良い客だった。更にはアネモネ王国に訪れる度に、奴隷へ使うような薬物も裏でやり取りして大いに収益を上げていた。

だが、七年前にラジヤ帝国が最も厄介な事態が起こった。それこそがアネモネ王国とフリージア王国との同盟だった。


「当時……奴隷制度を持つアネモネ王国と、フリージア王国との同盟に反対派の者が国内外にいくらか存在したこともご存知でしょう。古くからフリージア王国とアネモネ王国は親交こそ深くありましたが、それまで敢えて同盟は避け続けておりましたから。」


そしてラジヤ帝国もまた、その一つだった。

気が付いた時には同盟を結んだと公表されたフリージア王国とアネモネ王国。国力差は明らかにフリージア王国が優っていた二国が、どちらに準じていくかは誰もが想像できた。アネモネ王国がもし同盟国であるフリージアに倣い、奴隷制度を更に遠のかせればラジヤ帝国にとっても大きな損失だった。


「アーサー殿が皇太子から聞いた通り、当時の騎士団奇襲事件もラジヤ帝国が依頼者です。ですが、結果としては死者も出ず、我が国とアネモネ王国との関係はより強固となりました。」

その言葉にアーサーは荒くなりかけた息を一気に吐く。

自身を必死に落ち着けるべく熱を発散させる。その様子にステイルやジルベールも共感するように黙して落ち着くのを待った。結果としてラジヤ帝国の陰謀は失敗に終わった。そして死者もでなかった。その事実だけが救いだった。既に知っていたこととはいえ、アーサーにとっては一生忘れられない事件なのだから。


「そして、更に。……俄かには信じられない因縁なのですが……。」

アーサーの感情が落ち着いた後、今度は少し言いにくそうにジルベールは言葉を濁した。

ステイルもその言葉に息を吐くと、一度目を瞑った。溜息にも似たその様子に、アーサーは瞬きを繰り返してジルベールに返す。すると


「……三年ほど前に、人身売買の拠点へ殲滅戦が行われたこと。……覚えておいででしょうか。」

「あ゛ッ⁈」


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