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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
傲慢王女と元凶

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516.貿易王子は望む。


「ラジヤ帝国だぁ?それがどうした。」


アネモネ王国。

いつものように僕の部屋の床に転がりながらヴァルは面倒そうに言葉を返した。その左右には、セフェクとケメトが同じようにして床に座り、僕に向けて首を傾げていた。国王である父上に呼び出された僕は使者から受けた報告書を捲りながら、彼らに言葉を返す。


「正確には本国ではなくその属州だけどね。各地の使者から報告があって。どうやらこっちに軍団が向かっているらしいよ。」

しかもかなりの規模らしい。と続けながら僕は父上と共に聞いた使者からの報告を思い出す。

大国であるフリージア王国ほどではないけれど、我が国でも各地に使者はいる。そして今朝、多くの使者から同じ報告が入ってきていた。


ラジヤ帝国軍の侵攻。


「アネモネに攻め入ってくるってことか?」

「それもあり得なくはないけれど。……方角的にもフリージア王国への可能性が大きいかな。」

フリージア、という言葉にヴァルの肩がピクリと揺れた。鋭い眼が更に釣り上がり、気になるように口を噤む。

フリージア王国と海に挟まれた我がアネモネ王国。我が国に陸から近付いているということは、フリージア王国に近付いているのと同義だ。

ただ、ラジヤ帝国は一年前にフリージア王国と和平を結んでいる。更には我が国と多からずとも貿易を交わしている国だ。それなのに武装した軍団を送ってくるなんて。

おかしいな……と指を顎に当てながら思わず呟いてしまう。和平国に交易相手、どちらもラジヤ帝国が攻めてくる理由にはならない。すると突然ヴァルからうんざりするような低い呻き声が漏れてきた。


「……とっくに王女も避難済みだ。それにどうせフリージアのバケモン騎士団には敵わねぇだろ。」

今朝、ステイル王子から届いた手紙の内容を引き合いにだしながら語る彼の言葉に僕も肩を竦めてしまう。

まぁ彼からすれば、国同士の諍いなんてその程度のものなのだろう。我が国の使者が知れたということは、フリージア王国の使者も把握はしている筈だ。今朝、ステイル王子の手紙を届けてくれた騎士も、我が城に届けた後は足早に去ってしまったらしいし、やはりフリージアも既に対抗策に取り掛かっていると考えられる。ヴァルの言う通り、フリージア王国の騎士団ならラジヤ帝国にも勝てるだろう。だけど、……。


「……だけど、被害は出るよ。もし本当に侵攻だったら民にも勿論だろうし、騎士団にだって重傷死者が出るかもしれない。相手も大国だからね。」

「興味ねぇな。」

ケッ、と吐き捨てる彼はまるで紛らわせるように僕に背を向けて転がった。

我が城に保護することになってから一応僕の護衛を担ってくれている彼だけれど、僕が自室で書類仕事やさっきみたいに父上に呼び出された時はかなり暇にしていることが多い。本当なら城下を巡ってきてくれても良いのだけれど、万が一にもプライドが我が国に訪れて鉢合わせしてしまうかもしれない。この前なんて「テメェの国は平和過ぎる」と王族としては最高の褒め言葉を吐き捨てるように言われてしまった。

フリージア王国も近年ではかなり平和な筈だけれど、彼の今までの仕事を考えると退屈なのかもしれない。ケメトとセフェクは室内でも本を読んで過ごすことが増えたけれど、ヴァルは全く読まない。僕らと話すか寝るかだ。単に他に興味がないのもあるだろうけれど、……多分、それだけじゃない。


「……プライドも民が死んだら悲しむよ。」

再び彼の肩が揺れる。

さっきよりも大きく揺れた直後、鋭い眼光が僕に向けられてきた。プライド、という名前にセフェクとケメトもヴァルへと顔を向ける。舌打ちが数度聞こえ、寝転がったまま身体を捻るようにして僕に振り返る。元々人相の悪い彼が、更に凶悪さを増していた。


「主はトチ狂った。……何が言いてぇ?」

はっきりと断言する彼が、最後に僕へ怒りを投げた。

売られた喧嘩なら買うぞと言わんばかりに身体を起こし、僕に向きなうようにして座り直す。彼の逆鱗に敢えて触れたとわかりながら僕は再びその彼に笑いかける。

使者からの報告書から判断しても、単なる挨拶や交渉には見えない。しかも、ラジヤ帝国といえばティアラの誕生祭でも招かれた来賓にいた。つまりはプライドを襲った容疑者の一人でもある。

一年前にはハナズオ連合王国への侵略をフリージア王国に阻まれて国土拡大も損ねている。何より、ラジヤ帝国がフリージア王国を奴隷産業に引き摺り込みたがっていることは有名だ。


「父上が決められた。いま、フリージア王国にも使者を送った。万が一単なる来訪や別の理由だったら大変だからね。でも、もしラジヤ帝国がフリージア王国に侵撃の意思を見せたその時は」

バサン、と報告書の束を閉じる。

そのまま僕を睨む彼の目を真っ直ぐに見つめ返せば、鋭くされた目が俄かに開かれた。





「我がアネモネ王国もフリージア王国を援護するとね。」




援護、つまりは参戦だ。

同盟国であるフリージア王国に侵略の手が伸びているとしたら、アネモネ王国も黙ってはいられない。ラジヤ帝国からの侵略の可能性、もしくは侵撃が確認されたら僕らアネモネ王国はフリージア王国に援軍として向かう。

国王としてその決断を下した父上に、僕は自ら騎士団を率いる許可も得た。本当は僕自らすぐにでも直接確認に行きたかったけれど、ステイル王子から「使者以外は受け入れられない」と断りを入れられてしまった後だった。……正直、手紙でのその言葉で既にフリージア王国の不穏が感じてならない。第二王女であるティアラを国外に避難させる程の事態、つまりはそう上層部が判断したということになるのだから。

だからこそ我が国も急ぎ使者を走らせた。フリージア王国から返答が返ってき次第、フリージアから許可さえあればすぐにフリージア王国へ援軍を出せるように戦の準備も命じた。

そこまで話し、改めてヴァルを見つめ返せば彼は不快そうに顔を歪めていた。彼にとってはフリージアやプライドの話題自体が禁句なのは僕もわかっている。…それでも、やはりこれは彼に確認しておかなければならないと思った。セフェクが難しそうに眉間に皺を寄せる中、先にケメトが口を開いた。


「それは、主を助けに行くということですか……?レオンが行くということは、ヴァルも護衛で一緒に行くんですか?」

ヴァルが行くなら僕も行きます、と続ける彼は不安げにヴァルの裾を掴んだ。

セフェクもそれに応じるように「私も!」と声を上げる中、ヴァルだけが不快を露わにしたままだった。彼の言いたいことも、そしてこの場で言えないことも理解している。だからこそ僕は言葉を選んでケメトの問いに答えた。


「少なくとも僕は行くよ、フリージア王国から承認さえ受ければ絶対にね。だけど君達は留守にしていた方が良い。……プライドのいる国だ。何が起こるかはわからないからね。」

びくっ、と僕の言葉にケメトとセフェクの身体が軽く跳ねた。

今もプライドを慕ってはくれている様子の彼らだけれど、当時の豹変した姿はまだ焼き付いているらしい。二人の様子に舌打ちをしたヴァルは「興味ねぇ」と一蹴した。


「どうせ王族はバケモン騎士団が死んでも守るだろ。今のトチ狂った主なら民が何千死のうが笑ってる。」

「でも、過去のプライドは泣くよ?」


ア゛ァ⁈と獣のような唸り声が返ってくる。

苛々と体を揺すり、舌打ちが何度も鳴らされた。久々に見る苛立った彼の姿にケメトとセフェクが僕らを見比べる。

確かにヴァルの言うことも一理ある。ラジヤ帝国との全面戦争となれば被害は大きくなるだろうけれど、王族は無事で済むだろう。それほどまでにフリージア王国の騎士団は凄まじい強さなのだから。

それに、僕が止めずともヴァルはステイル王子の命令でフリージア王国やプライドには近付けられない。僕ともなるべく離れないように命じられてはいるけれど、優先が強いのはフリージアとプライドからの逃亡だ。


「……フリージア王国に行かない。それが君の本当の答えで良いのかい?」

「行かねぇ、興味もねぇ。……()()()()()()。……テメェもよくわかってる筈だぜ。」

一番最後の一言こそが彼の本音な気がしてならない。

彼は命令で動けない。そしてケメトとセフェクの安全の為にもプライドには近付けられない。


「……。……もし、〝抜け道があったとして〟…君はそれでもケメトとセフェクの為に耐え続けるつもりかい?」

彼に視線をなるべく合わせてその場に腰を落とし、片膝をついてヴァルに問い掛ければ彼は強く目を見開いた。

言葉の意味をわからないように言葉に詰まり、口が僅かに開いたままだった。僕が真っ直ぐその目を覗き続ければ、暫くしてからヴァルの口からは「どういう意味だ」とその一言が返された。てっきり首元でも掴まれて話せと脅されるかと思ったけれど、それもなかった。……つまり、それだけ彼にとっては葛藤の大きな問題ということだ。

僕は一度彼から目をそらすように目を瞑り、開いた。それでも、鋭かった彼の眼差しは変わらない。

僕はその場から再び立ち上がると、セフェクとケメトに目を向けた。セフェクは首を傾げ、ケメトはヴァルと同じように目を丸くして僕を見上げていた。最初に客人としてヴァルと訪れた頃は僕と目も合わせてくれなかった二人は、いまは真っ直ぐに僕と目を合わせたり話しかけてくれることも多くなった。……彼が二人を守り抜きたいと思う気持ちもよくわかる。きっとここで彼にアレを話せば、酷く悩ませることになるだろう。

やはり、言うべきではないなと考え直し、僕ははっきりと首を振った。


「……いや、たとえの話さ。()()()()()()()()()()()どうしようもない話だからね。」

ごめん、と一言謝り報告書を机に置く。

それからまだ朝食を食べていないことを思い出し、食堂に向かうと声を掛ける。すると、まだ納得はいっていない様子ではあったけれど、面倒そうに立ち上がってくれた。僕の護衛を請け負ってくれている彼、…実質的には〝彼ら〟は殆どの僕の行く先には付き合ってくれている。一緒に食事を誘ったこともあるけれど、それははっきりと断られた。僕が彼らを保護し、彼らが僕の護衛でいる間は月に数度の楽しみだった晩酌も拒まれた。長い期間、僕のところに滞在するようになってから客人用の宮殿部屋を提供しようとしたけれど「落ち着かねぇ」という理由で結局は従者達用の部屋を一つ貸すことになった。三人で寝泊まりには狭い筈だし、三つ用意させたけれど結局三人とも纏めて一つの部屋に泊まっているらしい。

食堂に向かって歩き、彼らを背後に従えながら僕は一人考える。


ヴァルに、ステイル王子の命令から逃れる方法があることは言えない。


不可能ではない。ステイル王子と同じ王族である僕が彼に〝命令〟すれば良い。確かプライドが当時彼に与えた許可は不敬、嘘や隠し事、更には王族としての命令権全てを僕限定で無効化にする許可だ。……あくまで〝許可〟。つまりは彼は自分の意思で〝従う〟こともできるのだから。

プライドに命じられるのが心配なら、ケメトとセフェクを我が国に置いて彼一人がフリージア王国に行くという選択肢もある。そうすれば、プライドにもし命じられても距離さえあれば簡単には彼らを殺せない。……ただ


もしプライドに命じられたら最後、彼はもう二度と二人には会えなくなる。


二人を、殺さない為に。

どんな形であれ彼は二人の前に姿を現わすことはなくなるだろう。己が生死に関わらず。

そして恐らく彼はそれを望まない。単純に二人との断絶が嫌なわけではない。僕の買い被りかもしれないけれど、きっと彼はまだ子どもである二人を手離せないだろう。

どうせ結論が決まっているなら、一応これを彼に提示するのも一つだ。その上で彼がフリージア王国に行かないと選ぶならば問題はないのだから。

だけど、もし彼が僕と同じように心の底では過去のプライドの為に動きたいと思っているならば。もし、心の隅にほんの僅かでもいつかプライドが戻ってくるという願いが捨て切れなかったら。……僕が彼であれば、間違いなく行くだろう。たとえその結果、二人に二度と会えなくなろうとも、己が死が待っていようとも。

彼の特殊能力はそれだけ存在も大きい。戦況とは言わずとも、生存率は格段に上がる。それでもやっぱり


「……言えないなぁ……。」


思わず口の中で言葉がこぼれた。運良く背後にいる彼らには聞こえなかったみたいだけれど、急いで口を手で押さえる。

……僕もまた、彼らが断絶する結果は避けたい。

もしヴァルが戦争の中で偶然にでも今のプライドに遭遇し、命令された場合もう誰にもどうすることもできない。

今のプライドでは最悪の場合、自国に不利になることも気にせず面白半分でフリージアの民までヴァルに傷つけさせるかもしれない。その時、もし僕らに彼へできることがあるといえばそれは〝止める〟か〝殺す〟ことだけだ。

僕ら〝王族〟は所詮ひと括り。契約の〝主〟であるプライド以上に彼へ強い権限を持つ人間など、どこにも居はしない。


……フリージア王国へ送った使者から、ステイル王子の名で援護打診が拒まれたことを報告されるのは陽が暮れた頃の事だった。


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