510.騎士は面会され、
「ッアーサー‼︎‼︎」
……聞き慣れた複数の叫び声と一緒に、敵襲かと思うほどの足音に目が覚めた。
反射的に飛び起きようとしたら、腹の傷が痛んで呻く。気がついたら大分眠っちまっていたらしい。声の代わりに掠れた息だけが口から出たら、七番隊の騎士のホレスが無理はしないようにと声を掛けてくれた。
扉の前ですっげぇ知った声がいくつも聞こえて、九番隊の騎士のガイさんが扉の前から要件を確認して俺へ目を向ける。何でも、俺が目を覚ましたと聞いて騎士達が見舞いに来てくれたらしい。
ホレスにまた身体を起こして貰って、それから扉を開けてもらう。髪ボッサボサだし、この状態で会うのもまずいとは思ったけど、既に扉の前が騒がし過ぎて断る方が悪い気がした。「アラン隊長!まだ待たないと駄目ですよ⁈」「いやでもハリソンが来る前に」「ハリソンならば副団長が呼び出していたからまだ大丈夫だろう」「近衛騎士の方は自重して下さい我々八番隊が優先さ」「ダン副隊長‼︎九番隊は宜しいので……」「一目確認したら戻る!」「!アラン隊長、アーサー隊長は」と、さっきからすげぇ叫び声が聞こえる。…言葉がごちゃ混ぜになって殆ど聞き取れねぇけど。
ガイさんが扉を開けてくれた途端、一番最初にアラン隊長が飛び出して、その後すぐ他の騎士も雪崩れ込んできてかなり驚く。思わず声が出ないままに「どわっ⁈」と息が出た。部屋に入りきンのかと思うほどの騎士の数に、背筋だけでも伸ばす。騎士の先輩達が口々に俺を呼ぶからどこから答えりゃあ良いかわかんなくなる。
アラン隊長やカラム隊長、エリック副隊長も居て、すげぇ色々言ってくれる。すげぇ心配したんだぞ⁈目が覚めて良かった、気分はどうだ?とか言われて「ありがとうございます、今はもう大丈夫です」と掠れた声で返したけど、小さ過ぎて絶対聞こえてない。普通の声でも打ち消されるぐらい騒ついてンから余計に。
俺が口をパクパクしてるようにしか見えない状況に、カラム隊長が「どうした?」と聞き返してくれた。すかさずホレスが、まだ小声しか出ないことを説明してくれれば一気に部屋が静まった。……こんだけ人数が居て静かってンのもそれはそれで緊張する。
「すみません、御心配お掛けしました……。もう、大丈夫です。」
ありがとうございます、とそのまま頭を下げたらどこからともなく息を吐く音が聞こえた。
カラム隊長が「話したいことがある者は手を挙げるように」と言ってくれて、結構な人数が手を挙げた。……っつーか、八番隊の騎士以外全員だ。
数が多過ぎるから、先に俺の方は聞きたいことか話したいことはあるかと言われて一瞬悩む。でも、取り敢えず一番聞きてぇのは……
「その、……いま騎士団はどうなっていますか……?」
父上やステイル達が退室して、さっき目が覚めたばっかで何もわからない。どこまで騎士団に知らされたのか、それとも知らされてないのか。全部引括めて知りたかった。
すると、エリック副隊長が手を挙げて「ここは自分が説明を」と名乗り出てくれる。話を聞くと、さっき俺が父上達に話した内容は全て騎士団にも共有されたらしい。二日後に向けて作戦会議や既に各隊や騎士が動いているところもある。カラム隊長達ももう少ししたら隊長会議が開かれるのに、その合間に俺に会いにわざわざ来てくれたらしい。ステイルも騎士団の前ですげぇ演説を披露したらしく、相変わらずすげぇなと感心する。
ひと通り聞いた後に、エリック副隊長が騎士達の総意で問うように、俺が話した内容について真偽を確認してくれた。頷いて「アダム皇太子から直接聞きました」と断言したら一気に騎士達の緊張感も跳ね上がる。同時に闘志や殺気みてぇのも感じて総毛立つ。プライド様がンな目に遭って、しかもフリージア王国まで狙ってやがンだから当然だ。
俺から「すみません、自分がちゃんとあの時ラジヤの連中を止められたら」と詫びようとしたら途中で「それ以上言うなよ、頼むから」とアラン隊長にでかめの声で上塗りされた。
思わず口を絞って黙ると、カラム隊長が「こちらからも良いか?」と話を変えるように言ってくれた。俺から頷けば、手を挙げた騎士から順々に色々聞かれたり言葉をかけられた。
いつ目を覚ましたのか、左腕はいつ頃治るのか、腹や肩の傷は痛まないか、生きてて良かった、隊長も心配していたと。俺からも受け答えしまくった。中には最初の処分の理由や騎士団を去った後に何をしてたのかとかも聞かれたけれど、言って良いかわからずにそれだけは「まだ言えません」と返す。隠し事すンのは悪い気がしたけど、この戦が終わったら言えると思いますと続けたら納得はしてくれた。ただみんな右腕のことに関しては何も言わないし聞いてこなかった。……笑いながら取り繕う、俺の苦手な顔だ。
多分、俺が知っているのかわかんねぇのも含めて気を遣ってくれてンだなと思う。いっそ俺から言おうかと、大体の返答を終わって俺から口を開こうとした時。
「アーサー・ベレスフォード……‼︎‼︎」
ぞわっ、と今度は吹雪みてぇな殺気が飛び込んできた。
声と殆ど同時に感じたそれに息が止まる。……すっっっげぇ怖い人が来た。
俺と同じように他の騎士達も声のした方向に振り返って、何人かは顔を青くする。ハリソン副隊長、と誰かが呼んだけど騎士達の最後列にいただろうハリソンさんは「どけ」「道を開けろ」と言いながら騎士達を強引に押し退けてベッドの傍まで来た。
「ハリソンさん……。」
カラム隊長とアラン隊長が左右から「落ち着けハリソン!」「アーサーまだ病み上がりなんだからな⁈」と声を上げながら押さえてくれるけど、全く聞いてないようだった。
顔を俯けているせいで、長い黒髪が切り揃えられた前髪ごと顔を隠した。ギロリと紫色の目だけが見下ろすように睨んでいるのが見えて、勝手に肩に力が入る。同時に肩の傷が痛むけど、目の前のことの方が深刻でそれどころじゃない。
アラン隊長達に押さえられながら、数秒間は俺を睨んで無言だったハリソンさんは、一瞬だけ力が抜けたように息を吐く。そして直後には更にやべぇくらいの殺気を膨らませた。……まさかこの場で斬りかかられンじゃねぇのかと本気で思って身構える。流石に今の状態で殺しにかかられたら、手加減されても絶対死ぬ。
自分でも血の気が引いていくのを感じながら喉を鳴らして見返せば、暫くの沈黙の後にハリソンさんが口を開いた。
「…………れに、……れた……?」
はい……?と、あまりにも小さな声に俺も掠れた声で聞き返す。
俺みたいに喉が潰されたわけでもねぇ筈なのに、至近距離からも聞こえねぇぐらいの小ささだ。目を丸くして見返せば、突然掴まれた右腕を振り払おうと暴れ出した。いきなりアラン隊長に至近距離から蹴りを飛ばして片腕で防御された途端、隙を突いて掴まれていた右腕を振り払った。ッやべぇマジで怒ってる‼︎‼︎
「アラン隊長⁈」と、他の騎士達と同じく俺も声を上げたけど、殆ど声に出なかった。それどころかまた喉を酷使したせいで酷く噎せ返る。
俺が離れの塔でハリソンさん達を巻き込ンどいて返り討ちに遭ったからか、〝元〟とはいえ八番隊の騎士隊長があんなのに負けたからか。まさかの止めてくれたアラン隊長を蹴り飛ばしてでも俺を殴りてぇらしい。ゲホゲホ咳き込みながらそんなことを思っていると、案の定ハリソンさんに頭を鷲掴まれた。駄目だ、本気で殺される。
多分胸ぐら掴みたくても俺が包帯だらけだったからだろう。右手で髪ごと頭を掴まれて、ハリソンさんの方に向かせられる。加減はされてるみてぇでアダムにやられた時みてぇに痛くはねぇけど、刃物みてぇな殺気が既に何度も刺さってる。カラム隊長が左腕を押さえながら声を上げ、アラン隊長が腕を下ろさせようと手を伸ばす。
他の騎士達もハリソンさんを押さえようとする中、今度こそハリソンさんがはっきりと荒げた声で俺に怒鳴った。
「ッッその右腕は誰に斬り落とされた⁈答えろアーサー・ベレスフォード‼︎‼︎」
……すっげぇ、声だった。
戦闘中でもこんなでかい声で怒鳴ることなんて見たことない。
初めて聞くハリソンさんの怒鳴り声に唖然として、口が開いたまま動かない。他の騎士達も騒然として、アラン隊長達まで身を強張らせた。怒鳴ったハリソンさんより俺に向けて目を配る様子に、多分また気を遣ってくれてンだなと茫然とした頭で思う。
珍しく声を荒げたせいか、それとも怒って暴れたせいか顔を真っ赤にして息を荒げるハリソンさんは、……どうやら俺に怒ってたンじゃねぇらしい。
少しだけ俺の頭を鷲掴む指に力が込められて、沈黙した部屋で「答えろ……‼︎‼︎」と歯を食い縛ったままのハリソンさんが二度目の言葉を放った。
騎士から気まずそうな空気が漂う中、俺は少し考えてから口を開く。
「……ハリソンさん。」




