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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
傲慢王女と元凶

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508.叛逆者は真実に近付き、


「……ンで、そこからは俺も記憶はありません。……多分、そのまま」


もう良いアーサー。と、そこでやっとロデリックは彼の言葉を遮った。

既に、アーサーが語り始めてから一時間が経過していた。無理なく話せる範囲の潜ませるような小声で語り続けるアーサーは、誰か一人でも声を漏らしたり呟くだけでも打ち消されてしまいそうな声量だった。更には思い出したとはいえ、記憶を遡れば順序が時々前後して話してしまうアーサーも時々口を閉ざして考え込んだ。話しやすいように今は騎士達の手を借り、上半身を起こして話すアーサーは、ロデリックに遮られて口を噤む。頭を重そうに手で押さえて俯くロデリックは、アーサーの目から見ても何やら必死に感情を抑えているように見えた。隣に並ぶクラークも、最後のアーサーの話に思わず深く背中ごと下へ俯いた。ジルベールやステイルも、アーサーの恐ろしく有用な情報量もさることながら、最後は思わず顔を顰め溢れていた殺気が更に増した。護衛の騎士達すらそれを聞いて表情に出さないのは難しい。当然だ、当事者であるアーサー一人が平然とはしているが、最後の話が本当だとすればアーサーは戦いの最中に腕をやられたのではなく、動けなくなってから敢えて腕と喉を将軍の手で潰されたのだから。

生かして出来る限り長く苦しめる為、そして口止めの為に腕と喉を潰した。アーサーが知ってしまったことを考えれば、生かすにしても徹底的に情報を遮断させた方法は正しい。可能ならばアーサーが目覚めても何も伝えられず、目の前で国が潰される様子を見せつけたかったのだろうとステイルは考える。特殊能力者の治療が無ければ、アーサーは小声ですら話すことは絶対に不可能だった。少なくともラジヤ帝国が来襲するまでは絶対に。この上なく残酷な方法だ。真実を知り伝えたくともそれを伝える手段を奪われて生かされるのだからと誰もが思う。

全員が口を噤む中、アーサー一人が沈黙に耐えきれず「何か説明に足りないことでも……」と尋ね出した。違う、とステイルが低い声色で切ったが、それ以上は言えない。何故そんな平然としていられるんだ、などと言ったらそれはそのままアーサーの傷口を抉ることになるのだから。アーサーにセドリックのような記憶力がなくて良かったとステイルは心から思う。もしそうであれば鮮明に情報を聞くことはできたが、同時にその時の状況が今より鮮明に頭に浮かんで全員が耳を塞ぎたくなっただろうと。

少なくとも表面上は平然を装うアーサーの真意を訪ねることもできないまま再び沈黙になる空間で、アーサーはそれでもと再び言葉を発す。


「……ただ、やっぱり自分だけではまだ不明な部分も多いです。なので、そこに関しては……。」

自分で口にしてみても、その時のアダムの言葉の裏側や事実を察して推測や推理までには及ばない。とにかく見聞きした事実だけを思い出せる限り語ったアーサーは、それ以上の推測はないかと四人へ順々に視線を向けた。この場で左右にいる四人は全員、自分より遥かに頭が回る人間ばかりなのだから。

畏まりました……と、次に口を開いたのはジルベールだった。顔色がまだ悪いが、アーサー達の手前、落ち着いた笑みを作り指を組んだ。それから姿勢を伸ばし、アーサーへと改めて向き直る。「貴重な情報をありがとうございます」と感謝を伝えてから、話を切り出した。


「先ず、ラジヤ帝国が今から二日後に攻めてくるというのは間違いないかと。」

ジルベールの言葉に全員が顔を上げる。

二日後。近過ぎるその期限に騎士は誰もが喉を鳴らした。片道一ヶ月も掛かるラジヤ帝国から軍隊が来るとは考えにくい。ならばラジヤの支配下国のどれかか。だが、どの国から来るかはラジヤ支配下の範囲も国の数も広大過ぎて予測もつかない。しかし


「皇太子は、八日前の我が国に訪れた際に〝十日間の滞在〟を当時求めておりました。……あまりにも辻褄が合いすぎると。」

恐らく本来ならば十日間の滞在で、内側と外側から同時にフリージア王国を潰すつもりだったのだろうと考える。透明の特殊能力者も〝城内〟からであれば襲うことも可能だ。騒動に紛れて女王達を襲うことも容易だったのだろうとジルベールは考える。


「そして、アーサー殿が仰っていた〝ティペット〟と呼ばれた透明の特殊能力者ですが。……恐らく、皆様も同じご意見ではないかと。」

ジルベールの問い掛けにステイル達は同時に頷いた。

自身が倒れてからの経過しか説明されていないアーサーと違い、ステイルもロデリック達も既に上層部で秘匿されていた内容も含めて彼が眠っていた間に共有していたのだから。

説明を求めるように瞬きをするアーサーに、今度はステイルが口を開く。


「ティペット・セトス。ラジヤ帝国を拘留した際に行方不明になったラジヤ帝国皇太子、アダムの側室だ。」


「そッ……しっ……⁈」

ハァ⁈とアーサーが思わず言葉を濁らす。

驚愕に目を見開き、声を思わず張りすぎて途中から再び咳き込んだ。ゴホッ、ゴホッ‼︎とまた喉を痛めて苦しみ出す。七番隊の騎士が背中を摩り、あまり喉を酷使しないようにと再び注意した。

咳込みながらも掠れる声で「なン……」「女……⁈」と声を漏らすが、殆ど言葉にならない。


「正面から入った、というのも言葉のままの意味だろう。ティアラの誕生祭でも、アダムの〝同行者〟として参列していた。まだ正室がいないアダムにとってティペットは〝公妾〟の立場が強かった。」

なんだそれ⁈と叫ぼうとしてまたアーサーの喉が悲鳴を上げた。

フリージア王国や近隣周辺国には馴染みが無いが、ラジヤ帝国は大陸の中では珍しく公式に側室が許された国。だからこそ、ティペットはフリージア王国ではアダムの〝妻〟としての立場で扱われていた。

既に騎士達の前で言葉を乱してしまったステイルは、もう取り繕う気が削げたようにいつもの口調のまま語り出した。


「来賓名簿にはラジヤ帝国の公爵令嬢と記されていたが、……我が国の民であることから考えても恐らく偽証だろう。側室という立場にしたのも、侵入の為とアダムが常に自分の傍に置いておく為だったと考えれば納得もいく。」

ティアラの誕生祭にも参列が許され、更には妻の立場であればアダムと部屋の同室も、常に自分の傍に置くことも疑問に思われない。片道一ヶ月もかかるラジヤ帝国について、その側室の素性まではフリージア王国も把握しきれていなかった。

ステイルの言葉にジルベールが頷き、更に言葉を紡ぐ。


「皇太子が狂気の特殊能力者であり、ティペットの透明の特殊能力と掛け合わせたのであれば全てに納得がいきます。セドリック王子が姿を見なかったのも当然でしょう。」

ティアラの誕生祭では、アダムと共に姿を消してプライドへ狂気の特殊能力を施した。

フリージア王国に捕らえられた後も透明の特殊能力を使えば、直接部屋への訪問が無い深夜や早朝であれば窓から抜け出すこともできる。離れの塔でプライドと合流することも、更には医者の元に運ばれた後に衛兵から逃げ出すことも、離れの塔でプライドの拘束を外し逃すことも、投獄されたアダム達を衛兵に気付かれず逃がすこともできた。そう考えれば、ステイル達の中で辻褄もタイミングも全てが完全に合致する。アダムがティペットを怪我させたのも彼女一人に単独行動をさせる為だったのだと。


「姉君にも彼女の正体が明かされなかったのも頷ける。……アダムは姉君に対してはかなりのご執心だった。姉君を妻に迎えられるのならば側室を切るとまで宣ったあの男ならば、隠したがるのも当然だろう。」

ステイルの言葉にアーサーがまた咳込む。叫ぼうとしたらその前に喉が悲鳴を上げた。

七番隊の騎士が背を摩りながら、いい加減にしないとまた声が出なくなりますよと強めに声を掛けた。だが、アーサーは酸素不足とは別の理由で顔が赤くなったまま口をパクパクと開けていた。そういえばアーサーにはこれも言っていなかったなと思いながら、ステイルは腕を組む。掠れる小声で「プライド様を妻、って……あのッ」とポツポツ呟くのが聞こえた。ステイルは冷静に「お前にも姉君をものにすると話していたのだろう」と諭したが、そこで落ち着けるわけがない。だが、次のジルベールの言葉でその怒りも一度忘れる。


「そして、……プライド様が操られているという件ですが。」


アーサーだけでなく誰もが息を飲む。

ジルベールに注視する中、不明部分が大きいその議題はラジヤからの侵攻より疑問点も多かった。

ジルベールは、続きの言葉を紡ごうとしたところで視線を七番隊と九番隊の騎士にちらりと向けた。安全が確保されたとはいえ、万が一の為にも彼を今は退室させるわけにはいかない。そこまで考えたジルベールは細心の注意を払いながら言葉を選ぶ。


「アーサー殿の話から考えても、彼が特殊能力で衛兵や陛下方を意識不明にしたことは間違いありません。その〝素質〟というものが詳しくはわかりませんが。」

言葉を切り、何かを飲み込む。

アダムが語る〝素質〟……その言葉や、これまでの言動から考えてもプライドが衛兵達のようには意識不明のままにはならず豹変したのは想定外だったと考えられる。そして何よりもプライドがアーサーの手によっても意識不明から目を覚まさなかったのは。

そこまで考えたジルベールはアーサーへと一度視線を注ぎ、言葉を続けた。


「……恐らくは特殊能力による〝狂気〟は、本来ならばその精神を蝕むものなのではないかと。そして〝素質があれば〟人格を狂わし歪めるほどの凶悪な能力。しかし皇太子個人の特殊能力が強力過ぎる為か、精神的負荷が強く〝素質〟の無い多くは精神崩壊……()()()()()()()()()()()()()()になるのだと考えられます。」

ある程度、この場では含みを持たせて語るジルベールにステイル達は頷く。毒や病、薬であればフリージア王国で把握していないものもあり得る。だが、特殊能力であればフリージア王国の領分だ。


「皇太子が語っていた〝廃人〟や〝狂人〟もそのことでしょう。つまり、衛兵達や陛下方は〝廃人〟、プライド様は〝狂人〟と化されたと。」

落ち着いて口にしながらも、ジルベールの内心はこの場にいる者同様に穏やかではない。

国の中枢達がそのような状態にされたのだから。しかし今は現状把握が優先と、誰もが感情を抑えた。


「……ですが、目の前で皇太子が衛兵を正気に戻したということから判断しても、己が意思で解除できる者だと。その為にも彼をまず拘束する必要があると思われます。……死しても、解けない特殊能力も存在しますから。」

特殊能力が死んでも効果を発揮するかどうかは、その者が死んでからでなければわからない。むしろ、殺して済むならそれが最も楽だと思いながら、ジルベールは言葉を詰める。


「よって最優先事項はラジヤ帝国の侵攻への対抗策と陛下方の保護、そして皇太子の捕縛だと。」

そう言ってジルベールが言葉を締めくくった時、今まで口を噤んでいた七番隊の騎士が恐る恐る手を挙げ、発言を求めた。

視線に入ったロデリックとクラークが顔を上げ、尋ねてみれば「一つ、……宜しいでしょうか……?」と言葉を紡いだ。ジルベールとステイルも振り返り、それを許せば彼はアーサーに視線を注ぎながら口を開いた。


「何故、アーサー隊長は……アダム皇太子に特殊能力を受けても御無事だったのでしょうか。今の推測では、アーサー隊長も廃人か狂人になるのではと。」

申し訳ありません、と騎士団長や王族という面々を前に発言すること自体が烏滸がましいと理解しながらも尋ねる彼に、傍にいる九番隊の騎士も同意するように頷いた。むしろ、ジルベール達が疑問視しないことが不思議なようでもあった。それに対しアーサーは



滝のような汗を滴らせながら、彼らから顔だけを逸らした。



「………………〜っ。」

せめて動揺を悟られまいと首だけ動かして顔を隠すが、本音はかなり戸惑いが大きかった。

ロデリックとクラークも言葉を選ぶように、考え込むような動作に似せて俯き、頭を抱える。数拍の沈黙の間ジルベールとステイルは互いに目配せし合う。そしてとうとう、ジルベールが「そうですねぇ……」と最初に笑顔で口を開いた。


「こうして話してみる限り、アーサー殿が正気であることは間違いないでしょう。……仮定ですが、既に重傷を負わされ、更には皇太子の企みを聞いて酷く動揺されていたことが関係あるのかもしれません。」

「僕もそう思います。〝精神崩壊〟の類でしたら、やはり本人の精神状態が左右するのでしょう。素質が何かはわかりませんが、アダムも既に一度常軌を逸したことのある者には効果がないと話していたことですし。」


ジルベールの言葉に、ステイルも言葉を整えて続く。

なるほど、と頷き納得する騎士達に二人で笑顔を返すと、改めてアーサーの方に向き直った。未だに繕えないように顔を逸らし続けるアーサーにステイルが目線だけで「首の皮一枚繋がったぞ感謝しろ」と語りかける。ステイル達の方から顔を背けたままのアーサーは、気配だけで恐らく彼がそういう目をされているのだろうと察した。

ロデリックとクラークも表情に出さないようにしながら、心の中で胸を撫で下ろす。当然、二人もアーサーが無事だった本当の理由も理解している。

アダムの特殊能力である〝狂気〟は、本来ならばそれによって触れた相手の精神を蝕むものだと考えられた。ただしアダム個人の特殊能力が強力過ぎる為か、〝素質〟の無い殆どの者は〝狂気〟に耐え切れず精神に異常を来し、〝精神疾患〟を引き起こす。


……恐らくは、アーサーも狂気自体には耐えられなかった。


今も顔を逸らし続けるアーサーを眺めながら、ステイルは思う。

アーサーに素質があったらプライドと同じように人格を歪まされていただろう。本来ならばアーサーも衛兵達同様に狂気に耐え切れぬまま、精神〝疾患〟を引き起こす筈だった。


万物の病を癒す特殊能力。


改めてアーサーの特殊能力は凄まじいものだとジルベールとステイルは思い知る。

まだアーサーの特殊能力を実際に目の当たりにしてはいないロデリックやクラークも、それに関しては表情に出さないようにするので精一杯だった。気を抜けばロデリックは眉間に深い皺を、クラークも引き攣った笑いを零してしまいそうになる。


「……………ぶねぇ……。」

ボソリ、と意思を含めて潜められたその声は、たとえ喉を潰されていなくてもその声量になっていた。

自分が病を癒す特殊能力者であることを隠しているアーサーにとって、その事実は容易に知られてはならないことなのだから。だが、この特殊能力がなければ知り得た情報は確実にステイル達へ知らせられなかったと思えば、本当に自分の特殊能力がこれであって良かったと思う。

ジルベールとステイルに誤魔化され、ひと息吐くアーサーにロデリックもクラークも安堵を隠す。そのまま自分達の方に顔を背けたままのアーサーに、ジルベールもアーサーの特殊能力を知っているのかと視線を配って尋ねた。それにアーサーが無言で一度だけ小さく頷くと、ロデリックは長い溜息を吐き、クラークは曖昧な苦笑いを零した。

ジルベールも二人の反応に気付き、肩を竦める動作だけで答えた。まさかアーサーの特殊能力が判明した際の相手が、自分の今の妻だったなどと言えるわけもない。


「……とにかく、皇太子の特殊能力に関しては触れた相手を狂人か廃人にさせるものだと周知できれば充分かと。」

詳細な分析まで語る必要はない。大事なのはアダムの特殊能力によって、多くの人間が危機に瀕しているということの方なのだから。

ジルベールが話を纏めたことでやっとアーサーも背けた顔を元に戻した。それから少し考えた後、ふとある事を思い出し眉を上げる。「ステイル、様」と掠れた声で呼び、今度は自分から耳を近付ける彼に、ぼそぼそと耳打ちをした。それを聞いたステイルは


「…………それに関しては後で話そう。」


何やら意味深なステイルの言葉に、アーサーは顔の筋肉に力を入れた。何の話かと、ロデリックやクラークも無言で見つめたが、ジルベールだけは察したかのように一人言葉を飲みこんだ。


439、497-2、

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― 新着の感想 ―
心を削られながらやっとここまで読み進めました。やっと光明が差した気がして読み進める気力が復活しました。
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