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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
傲慢王女と元凶

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502.騎士隊長は眺む。


「カラム隊長、どうぞこちらの椅子をお使い下さい……。」


騎士の一人に気遣われ、アーサーのベッドの横に椅子を差し出される。

気がつけばその場に佇んだまま大分時間が経ってしまっていたらしい。窓の外を見れば既に夜が明けていた。

アーサーを救護棟に託してから私は騎士団長に報告、そしてアランは離れの塔に再び向かった。状況の把握もそうだが、まだ戻ってこないということは負傷したアーサーの代わりに非番のアイツが今日一日だけでも見張りをするつもりなのだろう。……プライド様の見張りを。

ステイル様から見張りの代替わりの依頼を受けた時から、アーサーが離れの塔への侵入者に対してではなく、プライド様を止める為にあの塔から離れようとしなかったことは知っていた。その意味を、間違いなく理解しながらそれでも誰もが口を噤み、そのまま飲み込んだ。


騎士が、我が国の王族に手を上げるなど許される事ではない。


過失で擦り傷一つでもつければそれだけで厳罰に値する。

アランも恐らくはプライド様が逃げ出しても足止めはできるだろうが、残すは説得くらいしかないだろう。剣一つ向けるだけでも罰を受ける可能性がある。元はと言えば、我々はただ〝偶然居合わせただけ〟の立場。プライド様を塔から出してはならない理由すら知らない我々がそれに関わること自体、越権行為なのだから。……それでも、恐らくアランなら力強くでもプライド様を止めるのだろうが。


『二十年後には会えるかもしれねぇから』


以前話していた、アイツの覚悟を思い出す。…きっと、アーサーも同じような覚悟でそれを決めたのだろう。

一人で担い、そして〝何か〟に立ち向かった。現状から考えれば逃亡したというラジヤ帝国の者……可能性が最も高いのは将軍か。アーサーをこんなにもすることができるということは、かなりの実力者ということになる。アランも万が一のことがなければ良いのだが。

それに、敵の目的が何かも不明のままだ。塔の中には全くの被害がなかった。仮にプライド様が誘拐でもされていれば、理由は明白だがそれすらない。

アーサーが緊急治療を受けた後、離れの塔から多くの衛兵と逃亡者の一人でもあった参謀長が各救護棟へと運ばれた。衛兵が一人、銃で撃たれていたが一命は取り留めた。だが、撃たれてからは地面に伏したまま叫び声も聞き取れなかったという。

そして残りの衛兵と参謀長は発狂したかのように意識混濁のまま目を覚まさない。参謀長は足に傷を負っており、傷口の大きさから考えても恐らくはアーサーの剣である可能性が高い。つまり、未だ逃亡を知らない筈のアーサーがそうまでして止めなねばならない理由があったということになる。

衛兵達は城内の別の救護棟に。そして元騎士であるアーサーと逃亡者である参謀長は我が騎士団演習場に隣接されたこの救護棟へと割り当てられた。

監視が必要な参謀長だけでなく、ステイル様からの許可でアーサーにも騎士が護衛としてつくことを許された。騎士団で二名の騎士を付けることになり、一人は傷の治療と具合確認を鑑みて七番隊の騎士、そしてもう一人を今は私が担っていた。

私自身、アーサーのことが気掛かりであることもそうだが、何故こうなったのかを説明する人間も必要だった。

既にアーサーの負傷が伝令されてから、休息時間になる度に何人もの騎士が彼の容態を知ろうと部屋の前に詰めかけていた。身体中に包帯を巻かれ、見るからに酷い状態のアーサーに誰もが息を飲み、説明を望んだ。プライド様や離れの塔のことを話すわけにもいかず、発見した場所は〝城内〟……私とアランは偶然、捜索隊が集っている場面に遭遇したということ。アーサーは逃亡者により傷を負わされた可能性が高いということしか伝えられなかったが。

残りを守秘義務と告げれば、誰もが深く聞こうとはしなかった。アーサーの突然の処分と重ね、推測しない騎士などいないだろう。……誰も。

それに、私の役割は説明だけではない。彼の容態を聞いた騎士が


バタンッッ‼︎


突然、また部屋の扉が勢い良く開かれた。

まさかノックもせずにとは。そう思いながら振り返れば……やはりとうとう来てしまった。その人物が扉を開けてから一拍置いて、部屋の中も外もざわめき出す。


「……来たか、ハリソン。」

アーサーと同じ八番隊の副隊長、ハリソン。

今の今までは任務にあたっていたのだろうが、恐らく休息時間になってすぐに駆け付けたのだろう。扉の外から「ハリソン副隊長か?」「何だ今のは」「敵か⁈」と騎士の騒めきが聞こえる。どうやら救護棟内まで高速の足で駆け回ったらしい。

確か八番隊は王居内を散開していた筈。……つまり、王居からここまで走ってきたということになる。流石に息を切らしてはいるが、それが走った疲労によるものかそれとも焦燥によるものかは私にも図れない。

左右の長い髪から覗かせた紫色の目は、既に限界まで見開かれ、扉から早足でこちらに歩み寄ってくるその身体もフラついていた。私も初めて見るハリソンの混乱した表情だ。

ハリソン、ともう一度呼んだが、私の声はまだ届いていないようだった。ベッドを覗き込み、包帯だらけで気を失ったままのアーサーを瞬きもせずに視線を落とす。伝令や、既にアーサーの容態を目にした騎士達から話だけは聞いていたのか、彼の視線は最後にその右腕に釘付けされた。医者と特殊能力者により縫合と接合は叶い、今は右腕と肩がついたまま包帯が巻かれて固定されている。ハリソンが震える指先で確かめるように触れようとし、七番隊の騎士……ジェイルが止めた。絶対安静の彼に今は触れることすら控えるべきだと、そう告げられたハリソンは触れる寸前で拳を握り




私の胸元を、掴み上げた。




ガタンッ、と突然掴み上げられ、立ち上がった拍子に椅子が倒れた。

ハリソン副隊長⁈とジェイルが叫んだが、それを上回る声でハリソンが声を荒げる。


「答えろカラム・ボルドー…‼︎‼︎アーサー・ベレスフォードはどうなっている⁈誰にやられた⁈」

低めた声が怒りで僅かに震え、その目は殺意に燃えていた。

歯を剥き出しにして怒鳴るハリソンは荒い息で二言以上の言葉を言い放つ。……彼が動揺することは、予想できていた。むしろ任務を放り出さずに耐え切ったことすら賞賛に値する。アーサーの容態を耳にしたのならば余計にだ。

ハリソンの手を掴み返し、私は彼を落ち着けるようにゆっくり言葉を返す。

「犯人は恐らく捜索中のラジヤの脱獄者だ。アーサーは腹部と肩に重傷を負ったが、傷は塞がった。何故か発見された時には既に止血は済まされたこともあり、一命は取り留めた。潰された喉も特殊能力を受けたから早期で完治するだろう。だが左腕は完全に折れ」


「ッ右腕はどうした‼︎‼︎」


最後まで待たずに再びハリソンが声を荒げる。歯の隙間から放たれた息が熱を帯び、彼の焦燥が手に取るように伝わってきた。…………右、腕……。


「……衛兵が駆け付けた時には切り落とされた後だった。今は縫合も接合も終えた。本人が起きるまで使い物になるかはわからない。……何より、まだアーサーは生死の境を彷徨っている。」

目を覚ますかもわからない、と。既に知っているであろう情報を私の口から改めて伝えれば、明らかにハリソンから動揺の色が露わになった。

私を掴む手の力が急激に抜けて震え出し、喉から不自然な音が出るのが私にまで聞こえた。瞬きを忘れた目が揺れ、もともと血色の良くない顔が更に蒼白へと変わっていく。

彼だけではない。

今までも既に何人かアーサーの容態に戸惑いを隠せない騎士は多かった。中にはその場で崩れ落ち掛けた騎士もいる。その度に彼らに言葉を掛け、今は任務と逃亡者を見つけることが先決だと私は諭し続けた。


「ハリソン、動揺する気持ちはわかる。だが、今はそれよりも」

ドン、と。言葉の途中でハリソンに手を離され、突き飛ばされる。軽くフラつき、言葉を止めればハリソンは虚ろな目で、眠るアーサーのベッドへと手をついた。ハリソン自ら彼の顔を間近で覗き込れば、バサリとハリソンの長い黒髪がアーサーの顔へ包帯越しに掛かった。


「起きろアーサー・ベレスフォード。お前に傷を負わせた者を今すぐ私に教えろ。何があった?誰に会った?何者がお前の腕を奪った⁇我が八番隊の隊長を、あの御方の近衛を誰が奪った?私がこの手で殺してやる。」

淡々と語るハリソンの言葉が、平坦であるにも関わらず酷く感情的に聞こえた。

何より戦闘中以外でこんなに語り続けるハリソンなど滅多にない。返事のないアーサーに言い終えてもまた同じような問い掛けを続けるハリソンにジェイルが声を掛ける。しかし無視をされ、更に私が肩に手を置いても振り向くことなく振り払われた。その間にもハリソンとは思えないほどひたすらアーサーへ向けて口を動かし続ける彼が、途中から「許すものか」と零し出す。更には言葉だけではなく、全身から殺気を溢れ出させ始めたところで私はハリソンへ声を荒げ


コンコン。


「そこまでにしておけ、ハリソン。」

……る、前にノックの音と共に開けたままにされた扉から言葉が放たれた。

今度は私達だけでなく、ハリソンも勢いよく振り返り、その姿勢を正した。


「副団長……。」

僅かに険しく眉を寄せたままこちらを見る副団長に、ハリソンが思い出したように呼吸を始めた。

副団長は後ろ手で扉を閉めると、ゆっくりこちらに歩み寄ってこられた。騎士団長とも一度治療中にこの部屋に訪れた副団長は、今も治療を終えたアーサーの姿を見て痛々しげに目を萎めた。「ロデリックの代わりに様子を見に来たんだ」と告げ、視線をアーサーからハリソンへと移す。そしてハリソンの肩に手を置くと、私とジェイルへ目を向けた。アーサーの経過と容態の報告を聞かれそれに答えれば「そうか」と一言答えた副団長は静かに笑んだ。


「……まだ生きてはいるんだな、良かった。」


心からのものであると同時に、胸を絞られるような感情の滲んだ笑みだった。

思わず私まで口の中を飲み込み、噛み締めれば「三番隊の指揮もあるのにすまないが、まだ付いていてやってくれ」と反対の手で私の肩を叩かれた。


「ここまでアーサーは私達の知らないところでも色々あったらしいからな。……今はゆっくり休ませてやれ。」

良いな?と手を置かれたまま再び肩を二度叩かれたハリソンは無言で頷き、顔を俯かせた。

その後、ジェイルのことも労われた副団長はハリソンを連れて部屋を出て行った。部屋を出る間際、一度だけこちらを振り返ったハリソンも、それ以上は何も言わなかった。

副団長が来て下さって、本当に良かったと思わざるを得ない。私達ではハリソンを抑えることは難しかっただろう。他の騎士と違い、彼は一部の人間にしか聞く耳を持たない。それに、ハリソンが激情に駆られるのも当然のことだった。


アーサーの右腕断裂……それは、騎士として生命線を切られたようなものなのだから。


利き腕の欠損。接合が上手くいっても、そこから動かせるようになるか迄はまた別の話だ。

たとえ神経が繋がり動いたとしても、最良で日常生活を労なく過ごせる程度。騎士として剣を振るうのは不可能だ。左腕を利き手に変えたとして、以前のような身のこなしや剣、銃、格闘ができるわけではない。そうなるまでには恐らく長いリハビリが必要となる。……いや、その前に右腕が日常生活域に達するまでに何年もの時間を要する場合がある。 つまり、アーサーがもし奇跡的に目を覚ましたとしても、もう騎士に戻ることは……、……。


…………あれ程に努力を重ね、ここまで上り詰めてきたというのに。


考えた途端、今度は私までもが激情に駆られそうになる。

奥歯を噛み締め、組んだ手の指に力を込めて必死に込み上げる感情を抑えつけた。

副団長が、何より父親でもある騎士団長が耐えられているというのに、私達が取り乱すわけにはいかない。ステイル様にも告げた通り、今はアーサーの命を案じるべきだ。

騎士団長にアーサーの負傷をお伝えした際、騎士団長も隣におられた副団長も説明より先に救護棟へと急がれた。報告に来た私の言葉に目を見開き、書類をひっくり返し、机や棚に身体をぶつけて騎士団長室を飛び出し……表情こそ抑えていたものの動揺を隠しきれていなかった。未だ治療中で包帯も巻かれていなかったアーサーの姿に、背中から見てもわかるほど騎士団長も副団長も茫然としていた。呼吸を忘れ、無機物のように身体を強張らせ、数秒は部屋に入る事すら躊躇われていた。微かに「アーサー」とその名を呼んだのは聞こえたが、医者自らが駆け寄るまでそれ以外の言葉すら出ないようだった。

医者からアーサーの容態を聞かされ、右腕の話を聞いた時には息を飲む音が二人分はっきり聞こえた。騎士団長が一瞬だけ目眩のようによろめき、副団長もそれに気付く間もないほどに硬直していた。「今は任務を優先すべきだ」「脱獄者の捜索ではなく、あくまで警備と防衛に徹する」とその後は騎士の手前、毅然と振る舞ってはおられたが……。……絶望は私達の比ではないだろう。

本来ならば騎士団長が誰よりも打ち拉がれ、息子であるアーサーの傍についていたかったに違いないというのに。

今の騎士団長の心境を考えれば、それだけで胸が酷く痛む。恐らくご自身ではなく、副団長に様子見を託したのもこれ以上心を乱さない為だろう。


「……せめて、……お前が目覚めてくれれば良いのだが。」


それだけでも、多くが救われる。

同時に残酷な現実をアーサーに伝えなければならなくなるが、それでも。……やはり私は、私達はアーサーには生きていて欲しいと願って止まない。

傍に座り、擦り傷塗れの彼の顔を覗く。頭に支障がなかったことだけは不幸中の幸いとも言えるだろう。瞼を閉ざし、微かに呼吸するだけで精一杯であろう彼が、目を覚まし絶望に打ち拉がれようとも、生きていてくれさえすれば私もアランも、エリックもハリソンも騎士団長や副団長、多くの騎士が彼を支えられる。それに、アーサーの友人である……


「……アーサーは、まだ目を覚ましませんか。カラム隊長。」


突然、扉の音もなく隣から声を掛けられる。

騎士でも医者でもないその方に、私は椅子から立ち上がり、姿勢を正す。


「ステイル様……!」

礼をすれば、ジェイルも跪き、医者も深々と頭を下げた。

ステイル様は表情ひとつ変えないまま私にも視線を向けず、ベッドで眠るアーサーを見つめた。ステイル様からの問い掛けに、私からアーサーの容態を伝えれば、小さく一言だけ言葉を返されたステイル様は更に表情を沈めた。私から、見張りの任を受けていたにも関わらずアーサーを守れなかったことを謝罪しようともしたが、……他の騎士や医者の手前「申し訳ありませんでした」と頭を下げることしか伝えきれなかった。

ステイル様は首を横に振り、医者から椅子を差し出されれば無言のままそこに腰を下ろした。「ちょうど、ヴェスト摂政から長めの休息時間を頂いたので」と呟かれたステイル様の声には全く力がない。更に言えば、この時間帯であれば休息といっても仮眠時間だろう。夜から寝ずに捜索や離れの塔の状況整理をしていたに違いないステイル様の身体が心配にもなったが、……それ以上にその表情が椅子に座った途端、みるみる内に暗ずんでいった。

医者がアーサーの容態を尋ねられ説明をしたが、やはり当然ながらステイル様の表情は晴れない。

どう言葉を掛けるべきか惑う私に、ステイル様はゆっくりと初めて顔を向けて下さった。


「……先程は、ありがとうございました。お陰で恙無く母上にも報告ができました。ラジヤが未だ我が城内にいることも確信ができましたから。」

いま衛兵が捜索を再開しているところです。と平坦な声で語り、力なく笑んで下さった姿は無表情よりも遥かに胸に刺さった。

それ以上は人形のように何も語られないステイル様は、無言でアーサーの横顔を見つめ続けていた。膝の上の拳だけが震えるほど強く握られ、爪が食い込み血が滲んでいた。

本来ならば、仮眠などを取る為に与えられたのであろう半日近い休息時間。ステイル様は一睡もせずに死人のような眼差しでアーサーを見つめ続けた。


その間、王宮で何が起こっているかも知らず。


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