そして途切れる。
「テ……無力噛……えて踠………晒し………ん……け。」
……駄目だ。もう頭も耳も使い物になンねぇ。
ぼやけた視界に汚く笑う将軍と、醜く笑うアダムが時々写る。いてぇし、熱いし、寒いし、息もできねぇし、喉掠れるし最悪だ。
なのに動けない。もう、指先一本すら力が入らねぇ。
血が減って、身体中から温度が逃げていく。
激痛に何度も何度も声が出ても、何叫んでるかも誰の声かも何されてんのかも馬鹿になってわかんなくなる。落とすとか折るとか潰すとか言ってたけど、絶対にその前に死ぬ。
………畜生。
任せとけ、っつったのに。
ステイルに、あんだけ大見得切ったのに。
父上やクラークにも、カラム隊長達にも皆に迷惑かけて。こんな、こんな、醜態晒しちまうなんて。
守る、って決めたのに。
全部、全部プライド様以外の俺の大事なもの、全部かなぐり捨ててでも絶対に、ステイルもティアラも衛兵も侍女も騎士も国の奴ら全員を〝プライド様から〟守り抜くと決めたのに。
あの人と、あの人の大事なものを守る為に。
あの人に、道を踏み外させない為に。
あの人が、誰かに踏み違えさせられない為に。
あの人の気高い心を汚させない為に。
あの人の強さを挫かせない為に。
たとえ、あの人を殴ってでも……憎まれても嫌われても罪人になってでも絶対止め続けると決めたのに。
なのに、もう……遅かった。アダムの所為であの人はとっくに狂わされてた。
特殊能力で無理やり綺麗な道から蹴落とされて、気高い心に泥塗られて、その強い心すら捻じ曲げられて。
すみません、プライド様。
貴方を、絶対守ると誓ったのに。
貴方も、貴方の大事な人達も……守り、きれませんでした。
あんだけ俺に期待してくれて……あんだけ信じて、頼ってくれたのに。
こんだけ踠いて踠いて、必死に足掻いて。それでも、……………届かなかった。
『な〜にそんな必死こいてんの?そんなにプライド戻してぇの?なに⁇まさか惚れてるとか?それとも騎士お決まりの誇りってやつ?』
アダムの、言葉が頭に浮かぶ。こんな時に思い出したくもねぇ声が。
ンな一言で片付けられるわけがない。選べるわけがない。恩とか誓いとか願いとか誇りとか想いとか決意とか笑顔とか幸せとか
そんなんじゃない、俺はあの人に全てを捧げたんだ。
七年前、全てを。
何にもなかった俺を、救ってくれた十一歳のあの人に。
俺の、残りの人生全部あの人の為に使うって決めたんだ。騎士になって、絶対にあの人を守るって。
なのに、…………全然駄目だ。
七年経って、騎士隊長にまでなって、父上にも認められたのに……最後の最後は結局全部放り捨てて、プライド様が一番キツい時に力にもなれなかった。本当の本気で助けが必要なあの人には届かなかった。
どんだけ努力して歯ァ食い縛っても、結局七年前と変わらねぇ。守りたい人をまた嘆いて見てることしかできなくなる。
……ああ、クソ。やり直してぇ。あの人に今度こそちゃんと、ちゃんとあの人に気付いて、今度こそ守ってやれるようなそんな
『何度も、何度も何度もアーサーは私を守ってくれました。』
……?なんだ、これ。
……こんな、言葉……プライド様に言われたことなんて
『私の方がずっとアーサーに何度も救われています。』
……………手紙……。
ああ……そうだ、手紙だ。隊長になれた時、あの人がくれた手紙。……本当に、殺すかっつーくらい嬉しくて恥ずかしいことばっか書くんだもんな、あの人。
……………すげぇ、嬉しかった……。
『アーサーへ。毎日騎士や近衛騎士の任務、本当にお疲れ様。アーサーと毎日会える今が本当に夢のようです。アーサー達が居てくれるから、私も安心して毎日過ごすことができています。本当に本当にありがとう。』
……ああ、良いな。この言葉で死ねるなら。
アラン隊長に頼んだけど、ちゃんと回収してくれたかな。中身読まれてなきゃあ良いンだけど。
『アーサーに会えた日のことは、今でもはっきり覚えています。まだ騎士じゃなかったアーサーが今はこんなに立派な騎士で、副隊長にまでなっちゃうなんて。本当に、本当にすごいし素敵なことだと思います。きっとたくさんの騎士や新兵が今はアーサーに憧れていると思います。
私もすごくアーサーに憧れます。毎日一歩一歩前に進んでいるアーサーを見ると、私も負けていられないなと思うくらい。こんな素敵な騎士が私の最初の近衛騎士だなんて、贅沢過ぎるなと今でも思います。』
贅沢なのは、こっちだ。
遠目に眺めるだけで終わってた筈の俺が、あんなにプライド様の近くにいられたんだから。
一緒の空気吸って、一緒の景色見て、……一緒に笑って、たくさんの言葉をくれた。
貴方に会えてからの人生は、信じられないくらいに幸福で。
『たった十一歳の子どもだった私に、誓ってくれてありがとう。守ると、そう言ってくれてありがとう。アーサーは私の最初の近衛騎士だけれど、私の最初の騎士でもあります。六年前のあの時からずっと、貴方は私の騎士です。
四年前、帰ってきてくれてありがとう。叙任式で言ってくれたアーサーの言葉が本当に嬉しくて、今でも思い出すと泣きそうになります。』
俺だって、思い出す度に泣きそうになる。
おかえりなさい、ってそんな風に返してもらえるだなんて夢にも思わなかったから。
……新兵になる前から俺はあの人の騎士だったと。それを読んだ途端、嬉しくて嬉しくて一人で舞い上がった。
『だから私からも、誓います。六年前にアーサーが一生私を守ると誓ってくれたから、私からもこれを誓います。』
…………誓い。
なんだったっけ。
確か、読んだ時はすげぇ嬉しくて恥ずかしくて本当に死ぬと思ったぐらいで、何度も何度も読み返したのに。霧がかかったみてぇに上手く思い出せな
『アーサーが帰ってきてくれるのを、私は何度でも待ち続けます。』
………。
『ずっと、ずっと待っています。アーサーが任務で何処に行こうと、何度でも私はアーサーが帰ってきてくれるのを待ち続けます。』
……騎士になるまで、二年。
あの人はずっと笑って待ち続けてくれた。俺が騎士になるのを、ずっと。
なのに、もっと……何度でもまた俺を待つとそう誓ってくれた。
あの人の騎士として、これ以上の言葉なんて無い。
『アーサーは騎士で、私達よりずっと危険なことが多いとわかっています。きっと、私はただ待つことしかできない時もあると思う。
実は今までもアーサーが任務で遠征中は心配だったり、不安な時もありました。一日居ないだけでも凄く心配で、アーサーのことを信じているつもりなのにやっぱり気になって、一日中アーサーのことばかり考えていたこともありました。
ごめんなさい、アーサーが凄く強いことは本当にちゃんとわかっています。』
寧ろ、この手紙で死ぬと思った。
そんなに俺のことを考えてくれてたのかとか、一日中俺のことを考えてくれた時があったのかとか。考えれば考えるほどに顔から火が出るかと思ったぐらいで。
『だから、待つことしかできない私だから。ここでアーサーに誓います。ずっと何度でも待ち続けると。
だから、絶対にどうか帰ってきて下さい。怪我にだけは気をつけて。アーサーは私にとって一番の、強くて格好良い頼れる騎士だから。』
…………………待つ。
あの人は、今も俺のことを待っていてくれているんだろうか。
こんな、こんなところで死んじまうような情けねぇ俺を、今も。
アダムに心を汚され、歪められ、それでもどこかで俺を待っていてくれているんだろうか。
『アーサー。騎士隊長昇進おめでとう!
本当に本当に嬉しい。今回も帰ってきてくれてありがとう。無事にアーサーが帰ってきてくれて、たくさんの騎士を無事に帰してくれてありがとう。防衛戦、すごい活躍だったとエリック副隊長から聞きました。』
約束、したのに。
プライド様の為なら何度でも帰るって。
手紙でもこんなにプライド様が願ってくれたのに。待っているって他ならないあの人がせっかく俺に誓って……、…………誓……。
……いや、関係ねぇだろ。
『やっぱりアーサーはすごい。本当に本当に格好良い。今までだって、何度も私を助けてくれたもの。』
プライド様からの誓いなんて関係ない。
他の誰でもない〝この俺が〟あの人の元に帰りてぇンだから……‼︎
『何度も、何度も何度もアーサーは私を守ってくれました。六年前、私が騎士団長を助けたことでアーサーは誓いを立ててくれたけど、でも今は私の方がずっとアーサーに何度も救われています。』
義務でも責任でも使命でも何でもねぇ。俺という人間がずっと、ずっとあの人を求めてる。
あの人を守りたい、あの人を助けたい、あの人を救いたい、あの人の力になりたい。
それに、俺の全てを懸けてきた。
『最後に、アーサーの好きなところを書かせて下さい。』
………………プライド、様。
やっと、見つけました。
遅くなってすみません。でも今度こそ見つけましたから。嘘偽りのない
本当の、貴方を。
『優しいアーサーが大好きです。
仲間想いで、ステイルにとっては最高の友達で相棒で。時々お兄ちゃんみたいなアーサーが好きです。
強くて格好良い私の自慢の騎士です。
家族想いで、騎士団長や騎士に憧れていて、沢山の騎士に愛されているアーサーが好きです。
六年前、私の手を握って、守ってくれると誓ってくれたアーサーが大好きです。
毎日鍛錬を欠かさないアーサーが好きです。少し照れ屋で恥ずかしがり屋なアーサーが好きです。優しい言葉をたくさんくれて、他人想いで、自分以外の誰かの為にいつも一生懸命なアーサーが好き。
いつも騎士団のことを嬉しそうに語ってくれるアーサーが好きです。時々乱暴口調になるアーサーも褒められてすぐ照れちゃうアーサーも大好きです。』
助けます、今度こそ。
救います、今度こそ。
みんな、みんな本当の貴方に会えるのを待っています。
もう貴方が帰ってこないと諦めた後も、それでもずっと貴方を求め続けていました。
『手合わせを終わった後、生き生きとした顔を見せてくれるアーサーが好きです。額の汗を拭って「次は勝ちます」と笑うアーサーが好きです。嘘が少し苦手で、その分ずっと真っ直ぐなアーサーが好きです。これからもずっとアーサーと一緒にいたいです。』
ちゃんと、伝えますから。
生きて、どんなに無様でも生き伸びて、本当の貴方を伝えます。
絶対にみんな喜びます。大丈夫です、貴方の助け方さえわかれば、絶対に皆それを選んでくれます。
みんな、貴方の味方です。
『騎士であるアーサーに怪我しないで、なんて無茶な話だとはわかっているけれど。それでもやっぱり望んでしまいます。だからせめてこれだけはどうかお願いします。何があっても絶対に』
誓います、今度はまた俺から貴方に。
優しくて、他人に甘過ぎるくらい甘くって、凛としていて格好良くって綺麗で可愛くて、……時々変なところで弱腰で。俺の全部を救って変えてくれた。たくさんの幸せを与えてくれた。俺の大事な人達にとっても間違いなく大事な貴方を
『帰ってきて。』
迎えに行きます、絶対に。
『アーサーは私にとって一番の、強くて格好良い頼れる騎士で、ずっとずっと世界一の英雄だから。』
いま、いま帰りますから。他ならない、本当の貴方の元に。
絶対に迎えに行きます。
貴方が一人で帰ってこれねぇ場所に落ちたなら、俺がこの足で迎えに行きます。
貴方が何処にいても、絶対貴方の元に帰ります。
貴方を救えることが、わかりました。
だから、絶対救いに行きます。救える、ってわかったンだから絶対に。
いま、帰ります。
いま、届かせます。
いま、迎えに行きます。
たとえそこが、地の底であろうと
……絶対に。
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