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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
傲慢王女と元凶

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496.騎士は遭遇する。


「………ふ、ぁっ……、……。あれから全然でてこなかったな……プライド様。」


塔を見上げ、警備の衛兵達から少し離れた木に寄りかかりながらアーサーは一人呟いた。

欠伸を途中で嚙み殺し、フード付きの黒い上着を風に靡かせながら昨晩アランに手渡された荷袋から干し肉を出す。噛り付き、見上げながら俄かに首を捻った。

昼間までは確かにいつも通りのペースで逃亡が続いていた。というのに、八回目を最後にプライドは離れの塔から出てこなくなった。突然の沈黙に、プライドの意識を奪う時に強く当て過ぎたか、それとも自分が気付かない内に逃げてしまったかのではないかとも心配したが、アーサーの顔色に気づいた衛兵は身振り手振りで「問題なし」と伝え続けていた。そして実際、プライドは目を覚ました後も大人しく拘束一つ外さずにベッドに縛り付けられたまま黙していた。

諦めたのか、それとも度重なる戦闘と疲労で動けないのか。衛兵や侍女の言葉かけにも応じない彼女は、時折うるさそうに目を閉じると自由な首で顔を逸らすばかりだった。正午過ぎには衛兵へとある伝令が回され、警備が増員されたが、ベッドに縫い止められた状態の彼女が離れの塔周りの警備が増えたことに気付いたとも思えない。

アーサーも伝令や警備の数が増えた理由は気になったが、叛逆者である自分が気安く聞けるわけもない。さらに言えば衛兵も、アーサーに対して守秘義務を破るわけにはいかなかった。


「このまま大人しくしてくれてりゃァ良いんだけど……。」

そうすれば、もう問題は無い。

ステイルがどうするつもりか、ラジヤ帝国をどこまで追い詰めているかはわからないが、全てが収拾するまでの間に自分はプライドへ手を振るうことも、衛兵が傷付けられることも、ステイル達が苦しむこともなくなるのだから。

干し肉の最後の一切れを飲み込んだアーサーは、後ろ足を片方木の根に掛けて腕を組む。急激に身体を動かさなくなった所為でどうにも落ち着かない。無意味にその場を離れるわけにも、座り込む気にもなれずに足だけが無駄に遊んだ。

離れの塔の最上階からそのまま空を見る。もう暗がり、星も見えてきていた。先ほどには催眠の特殊能力者も出ていった。プライドが眠りについたのかと思えば余計に少し気も緩む。まだだれも来ないが、もう少ししたら今夜も近衛騎士が来てくれるだろうかと思ったその時。




「ッァ…⁈ぁあっ…あ…ああああああアアアアアアアアアアアアアッッ‼︎⁈」

「あ⁈あァアァッ…ああああああアアアアアアアアアアアアアアァ‼︎‼︎」




「ッ⁈」

突然の、断末魔ともいえる絶叫が沈黙の中に放たれた。

あまりに凄まじい叫び声と、何処か覚えのあるようなそれにアーサーは息も忘れて振り向いた。

見れば、塔を守っていた衛兵のうち、揃って並んでいた二人が同時に槍を手放して叫び出し、頭を押さえて苦しみ出していた。更には「どうした⁈」「おい‼︎」と驚き、声を上げ駆け寄ろうとする衛兵までもが、まるで震源地のように倒れた衛兵達を中心に次々と頭を押さえて叫び、苦しみながら崩れ落ちていく。

バタバタと急激に衛兵が崩れ、倒れていく光景に目を疑いながら、アーサーは「大丈夫ですか⁈」と彼らに駆け寄





「来るなよ?」





突然の、脅すような声が放たれた。

倒れていく衛兵達の方から聞こえたが、誰が言ったのかはわからない。思わず足を止め、剣を構えて警戒するアーサーだがその間にも次々と衛兵が倒れ、騒ぎを聞きつけては集まり、また倒れていく。「来ないで下さい‼︎」と危険を伝えたが、仲間が大勢苦しみ倒れていく異常事態に足を止める者はいなかった。途中、通信兵が王居に繋ごうとしたが、その前に頭を抱え、やはり簡単に崩れ落ちてしまう。


「ッおい‼︎何処にいやがる⁈」

姿の見えない存在。

更には絶叫し、頭を抱えて崩れ落ちていく姿は、アーサーが嫌でも忘れられない光景に酷似していた。

剣を構え、神経を研ぎ澄ます。今度こそ震源地へと足を踏み込めば、再び「来〜るなって言ってんじゃん。コイツら殺すぞ?良いの?」と再び知らない声がアーサーを脅し、とどめた。

崩れていく衛兵は、誰もが頭を抱え、痙攣こそしているものの息はある。同時に酷く無防備である状態に、正体不明のそれがいつ、誰の息の根を止めようともおかしくはなかった。

足を踏み止め、少しでも気配が近付けば斬りかかろうとアーサーは静かに警戒を強めた。あれほど山のようにいた衛兵が、まるで感染病にでも掛かっていくかのように苦しみ、踠いて倒れ込み、あっという間にアーサー一人だけがその場に残された。


「お掃除完了ー!あ〜、久々に働いたら疲れたしさぁ?ていうかなんでこんな遠いんだよ?お陰で無駄に歩かされたじゃんか。」

呑気な、声だけでも何処か不快な何かがそこにいる。

姿が見えず、声しか聞こえない。だが、五感を研ぎ澄ませれば確かに三つの気配がそこに居るのを確かに感じた。そして、姿の見えない〝それ〟はフリージア王国にとっては決して珍しいものではない。

声のする方へ剣を向け、再び「誰だ」と問えば、返事の代わりにガリガリガリガリと何かを引っ掻くような音が聞こえてきた。更には忍ばせようともせず気配が足音と共に近づいてくる。ジャキ、と剣を掲げ、アーサーは剣先を気配の方へ向けて牽制した。歩み寄ってきた気配の足音が止まり、こちらの様子を窺うように黙したままそこに佇んだ。


「特殊能力者だろ。……どういうつもりだ。」

「さっすがバケモン騎士。意外と理解が早いじゃん。」

試しに一度斬り込むか、それとも姿を現わすまで待つか。

頭の中でいくらか考えながら、向こうの出方を待ち続ける。一体どうやって城内に潜り込んだのか。まさか城内の誰かで裏切り者でも居たのかと。

声だけ聞いても全くアーサーには覚えがない人物だった。少なくとも騎士団の誰かや自分の知り合いではないと判断したところで、……ふと嫌な予感が頭を過る。

カチャッ、と。そこで嫌な金具の音が小さく鳴った。何の音かはすぐにわかり、息を飲む間も無く今度はパァンッ‼︎と乾いた音が鳴り響く。至近距離から突然姿を表したその銃弾に、アーサーは身を反らして避けた。再び剣を構え、次は銃口が見えずとも叩き落とすつもりで覇気を貯めれば、放たれたのは二発目の弾丸ではなく、気の無い拍手だった。


「う、わーすげ〜じゃん。見えなくても避けれるとかさぁ、やっぱフリージアはバケモンばっかだ。」

テメェらも一人は特殊能力者だろォが、とその一言を飲み込み、アーサーは剥き出しに食い縛った歯で薄く息を吐く。

目だけで殺せそうな眼光を放ちながら、アーサーはひたすらに気配を捉えた。騎士団でも姿を見えない敵への対処演習などは当然ある。フリージア王国は〝そういう〟国なのだから。気配と、そして聴覚に意識を研ぎ澄ませれば問題はない。全員が姿を消す関連の特殊能力者ならば面倒だが、三人もの気配が動けば大きな的だ。このまま姿を消そうが絶対に逃がしはしないとアーサーは



「こ〜んばんわっ。」



突然、だった。

アーサーが剣先を向けていたその先に、男達が突然三人同時に姿を現した。

何故姿を、と目を見張るアーサーは、口を閉ざしたまま身構えた。姿を現したことには驚いたが、自分の知人でないことを確認し、気を取り直す。だが同時にどうしても目の前に現れたその姿に、後から戸惑いがじわじわと不安となって滲んできた。

両端の男達は服の隙間から明らかに癒えきっていない生傷がいくつも見えるが、騎士でも衛兵でも、ましてや裏稼業の人間の風貌ですらない。薄汚れ、ボロついてはいるがその格好はどう見ても上流階級の人間のもの。特に深紫の髪をボサつかせた男の格好は、アーサーでも一目でわかるほどに上等なものだった。まさか上層部に扮して忍び込んだのかとも考えたが、それ以上に先程過ぎった嫌な予感が頭から離れない。


……いや、ねぇだろそれは。……だって、そうだとしたらコイツらは。


アーサーの無言の反応に、男は少し以外そうに狐のような目を細めたまま両眉を上げた。

「なに?反応それだけ⁇わかってたとか?」とつまらなそうに呟き、アーサーに向かって何度もグリグリと左右に首を傾け身体を揺らす。「誰だ」とアーサーが一言威嚇をすれば、男は自分を知らなかったことに軽く驚いた後


みるみるうちに顔を不快な笑顔へと歪ませた。


ニッタァァアア…と裂くような、涎の垂れるような笑みにぞっと背筋が冷たくなる。

男の背後にいる二人もニヤリニタリと馬鹿にするようにアーサーを眺め、男の一人は手の中でまだ煙の吐かれたままの銃を遊んだ。


「そっか〜?知らないか。知らねぇなら仕方ねぇよなぁ?たぶん俺もお前知らねぇし。……あ、白いの着てねぇってことはもしかして新兵とか⁇じゃあ〜会ったことねぇよなぁ?お互い初対面じゃあ仕方が」

「ッッ良いからさっさと名乗りやがれッ‼︎‼︎」

火を吐くように声を張り、アーサーが殺気を色濃く放てば男の顔が愉快に歪み、浅い息が放たれた。

男はニタニタと舐めるように眺めながら、自分一人武器を持たない両手を広げて見せる。胸突き出し、顎を突き上げ、楽しそうにハハッと笑い声を上げながら、ゆっくりと勿体ぶるように舌を躍らせ言い放つ。




「ラジヤ帝国皇太子。アダム・ボルネオ・ネペンテス。……わかります?」




悪意のみを宿し、その名を名乗る。

明らかに顔色が変わっていくアーサーの表情に、堪らなく悦びを噛み締めながら。


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