495.騎士隊長は歯噛みする。
「ふわぁ……、……っ。……やっぱ見張りばっかだと身体が鈍るよなぁ……。」
正午が過ぎ、日が傾きかけた頃。
部下達に隠そうとする様子もなく、アランは大きく口を開けて欠伸をした。それに横に並ぶエリックが「気持ちはわかりますが……」と苦笑しながら言葉を返す。せめて欠伸を噛み殺すくらいはして欲しいと少し思うが、アランには言っても無駄だということも知っていた。
王居の警備。騎士団はいま、王族からの命令で王居、城門を中心に各隊で守りを固めていた。一番隊であるアラン達は王居内の王宮前を任されているが、他の隊も各箇所に分かれて警備を固めていた。
騎士団長であるロデリックから、ラジヤ帝国がフリージア王国に対し侵略の意思を宿していることの判明が騎士団全体に知らされた。速やかに王居で捕らえられたラジヤ帝国の幹部だが、その内の一名は逃亡中。更には他にも協力者の存在があり得ると。
その為、現段階では城門にも限られた者以外の出入りは禁じられた。更には侵入者を防ぐ為に関連した特殊能力を持つ騎士は衛兵と連携して城壁から城門を中心に監視体制を強化するまでに至った。今や大規模式典と同等、それ以上の防衛体制が敷かれていた。
しかし、今のところ全く怪しい者の出入りは無い。城門ならばそれなりに上層部も含めて出入りもあり、緊張状態も保たれるのだが、それ以外では異常は全くなく長時間佇むだけだった。
「昨晩に続いて大丈夫ですか?良ければ自分が代わりましょうか。」
声を潜めながらエリックがアランに問いかける。昨晩、離れの塔で見張りをしていたアランは、今晩もカラムと共に見張りへ向かう予定だった。エリックからの気遣いに「いや平気平気」と笑うアランは軽く顔の横で手を振った。
「アーサーから頼まれ事もあるし。夜は鍛錬しながらもできるから。明日の非番はその分寝るよ。」
「アラン隊長……、鍛錬ばかりでなく身も休めて下さい。」
エリックの溜息混じりの言葉にアランは「固いこと言うなよ」と悪びれもなく返した。
夜中は全くプライドは離れの塔から逃亡することもなく、人目も衛兵くらいしか無い。アランにとっては丁度良い鍛錬の時間でもあった。常に離れの塔へ意識を向けていれば、全く何をしていても問題はないのだから。
言っても聞いてくれないことは理解しているエリックは、もう一言だけ念押しすると一番隊の報告を終え、再び持ち場に戻
「伝令ーーッ‼︎伝令ーーッッ‼︎」
る、前に。突然の騎士の叫び声に彼らは同時に振り向いた。
見れば、王宮の建物内に警備を張っている三番隊の騎士だった。駆け込んでくる騎士にエリックと、思わずアランまで同時に「どうした‼︎」と叫び返せば、騎士は二人に急ぎ礼をし、息の切れた喉で報告に声を張り上げた。
「緊急の御報告です‼︎急ぎ全隊へと通達を‼︎城内に捕られていたラジヤ帝国のアダム皇太子並びに将軍、参謀長が脱獄し消息不明‼︎見張りをしていた衛兵は背後から襲われたらしく意識不明となっております‼︎」
厳戒体制を‼︎と殆ど一息で声を張る騎士の言葉に、アラン達だけでなく周りにいる騎士も目を見張る。
アダム達が捕らえられている独房は騎士達ではなく衛兵が厳重に警備を張っていた。アダム達から余計な話を騎士達に聞かれないようにする為の処置ではあったが、それ以前に脱獄不可能な牢獄よりも王居内と城門、城壁を騎士の守りで固めさせる為もあった。
エリックは急ぎ、近くの騎士に一番隊へ周知を命じる。同時にアランは報告の騎士から詳細を確認した後、周囲の部下達へ声を張った。鼠一匹許すな!何かあればすぐ報告しろ‼︎と命じ、最後にある一点を見上げた。
プライドのいる離れの塔。
騎士団では、あの塔にプライドがいることは公的に知らされていない。あそこを守っているのは多くの衛兵とアーサーだけだ。
ラジヤ帝国とプライドとの関連性までは、近衛騎士の彼らはステイルから知らされてはいなかった。
あくまで奴等の目的はフリージア王国。プライドは関係ない。離れの塔にいるなんて知らない筈だ、と。そう必死に自分へ言い聞かせながらも嫌な予感だけは切々と募っていく。
騎士が多く配備されている分、秘密裏に離れの塔にも衛兵が敷かれてはいるが現段階で王居や城門、城壁と比べて警備力の薄いそこに不安を覚えないわけがない。だが。
「……平気、だよな?」
アーサーなら。と、妙な胸騒ぎを深呼吸で収め、アランは一度目を瞑る。
皇太子や参謀長、将軍とはいえ殆ど丸腰。そんな状態の彼らにアーサーが負けるわけがないと。そう自分に言い聞かせながら、アランは改めて現状を振り返った。
厳戒体制。休息は回すが、隊長職である自分達は長時間離れられなくなる。今晩はアラン自身が明日非番の為、彼一人は今晩こそ見張りに代われるが明後日までに状況が変わらなければ、明日以降から見張り交代も難しくなる。恐らくハリソンやカラムも同じことを考えるだろうと、アランは自分やエリックの休息時間をなるべく夜に回すようにと考えた。
……取り敢えず、休息時間入ったら急いでアーサーのとこ向かうか。
彼は脱獄者が出たという現状も知らされていない。
そう思いながらアランは再び目を開け、周囲へと目を凝らした。一人でも怪しい動きの者がいれば、速攻で捕らえるその為に。
静かに沸き上がるラジヤ帝国への敵意を、内側に抑えながら。




