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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
傲慢王女と元凶

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491.王弟は苛まれる。


「ハナズオ連合王国が王弟、セドリック・シルバ・ローウェルと申します。……ステイル王子より、話が通っているかと存じます。」


侍女達の手により荷造りが終わった後。セドリックは回廊を通り、荷物を運ぶ衛兵や従者達と共に謁見の間まで足を運んでいた。

すぐに通されると思ったが、既に取り込み中だった為に扉の前で一度待たされる。衛兵の一人が急ぎセドリックの到着と伺いを女王であるローザへたてに行く間、やはりフリージア王国は今もまだ慌しいらしいとだけセドリックは考える。必要なら自分が来たことだけを伝えてもらい、一度部屋に引き返すかとも考えた時だった。

急ぎ戻ってきた衛兵は「大変失礼致しました」とセドリックへ深々と頭を下げ、彼と後に続く従者達を謁見の間へと通した。扉が大きく開かれ、その途端に聞き違いようがない女性の声が飛び込んできた。


「ッお待ちください母上っ……!それでも私、は……‼︎」


何かを必死で訴えるその声の主は、扉が開かれた音に振り返った時にはその金色の目を強く潤ませていた。

水晶のような大きな瞳と目が合い「ティアラっ……第二王女、殿下」と零すセドリックに彼女は強く眉を寄せる。そしてすぐにまた金色の髪を大きく揺らし、再び先ほどと同じ正面へと向き直った。

ティアラが向いた先には女王であるローザ、王配であるアルバート、摂政のヴェスト、ジルベール、そしてステイルがいつもの布陣で並んでいた。ティアラが再び言葉を放とうとした瞬間、それよりも先にローザが「お待ちしておりました、セドリック第二王子殿下」と彼を呼ぶ。

女王の発言を遮ることができず、ティアラは小さく口を結び、泣きそうな目のまま耐えた。


「この度は申し訳ありません。不要な疑いも含め、最後まで無茶な願いや無礼ばかりを致しました。」

「!いえ、私こそ今日までの長期滞在を認めて頂き感謝しております。…これくらいしかお力になれず、申し訳ありません。」

自分の言葉に返すセドリックに、ローザは静かに首を振る。とんでもありません、こちらこそ感謝をと言葉を紡ぎながら優雅に笑んだ。


「ステイルの依頼も受けて下さり、感謝致します。……どうか、宜しくお願い致します。」

そう言って、今度はローザだけでなく彼女と共に並ぶ上層部の誰もが頭を下げた。

あまりにも重鎮である彼らの頭にセドリックは一度息を飲む。特に女王の頭など滅多に下げられるようなものではない。フリージア王国に多くの不敬を犯した自分に下げられてはならない頭の数々に、おやめ下さいと叫びたい気持ちを必死に堪えた。これがフリージア王国の誠意というならば受け取らない方が無礼になる。

頭を上げたローザは、それでも威厳は霞ませず「国際郵便機関に関しても必ずや再開してみせます」とはっきり明言した。その発言にセドリックは心の底で安堵しながらも「感謝致します…‼︎」とその場で膝を折った。せめてそれだけでも兄達に良い報告ができると思いながら。

横槍を許さないかのように流れるようなローザとセドリックの会話と挨拶が続き、最後にとうとう帰国へと話が移った。

セドリックの合図により、彼の荷物が纏めて一箇所に置かれた。ステイルがそれに合わせて前に出ればセドリックへと手を差し出した。


「本当にありがとうございました。セドリック第二王子殿下。……我が国が落ち着き次第、すぐに御報告をお約束致しますので。」

「ありがとうございます。……プライド第一王女殿下の幸福を、願っております。」

それしかセドリックには言えなかった。

彼女が元には戻らないという事実とラジヤ帝国がいつ牙を剥くかもわからない上、詮索も許されない彼にとってそれが精一杯だった。「それでは荷物は追って移動致します」と伝えたステイルはセドリックを瞬間移動する前に握手のままその口を動かした。


「僕は今回ハナズオ連合王国に〝共にお送りすることはできません。〟なので、ランス国への元へ直接セドリック王子の口で説明して頂くことになります。お任せして宜しいでしょうか?」

「無論です、お任せ下さい。全て、詳細に説明させて頂きます。」

力強く瞳の焔を燃やして見せるセドリックにステイルは礼を言うと、最後にもう一度挨拶を交わした。そこてふと、視線に気が付いたようにセドリックが顔を向けるとティアラと目が合った。彼女何か言おうと口を動かし、……た瞬間。

ステイルと握手を交わしたまま彼は



姿を、消した。



……



「ッセドリック⁈……帰ったのか‼︎」


視界が切り替わった瞬間。

セドリックが周りを見回すより先に、兄であるランスの声が上がった。

二ヶ月ぶりとなる再会に、快活な笑みで迎えたランスと共に、王室内にいた摂政のファーガスや衛兵、従者達も「セドリック様‼︎」と名を呼び喜んだ。既にステイルの特殊能力を知っている彼らは、フリージア王国からの送迎だと理解する。セドリックを追うように瞬間移動されてくる彼の荷物を今度はあまり驚く様子もなく回収していった。


「兄貴!帰ってきて早々すまないが、いくつか伝えることがある。」

ランスとそしてファーガスと抱き合い、再会の喜びを分かち合った後、セドリックは少し急ぐように服の中から書状を取り出した。フリージア王国の紋章が印されたその封筒にランスは両眉を上げる。そして「詳しく話せ」と、セドリックから書状を受け取









「─がい待って!私はっ……、……!⁈……兄、様っ……。」








突然現れ、鈴の音のような声が上がった。

誰もがそれに振り返れば、ぺたんと崩れ落ちるように座り込んでしまった女性がそこにいた。王弟の帰還よりも遥かに驚愕に値するその人物に、誰もが目を疑う。流石のランスも「なっ…⁈」と声を漏らし、目を剥いて彼女を凝視した。


「ティアラ……。」

振り返り、彼女の名を呼ぶとランスに手紙を預けてたセドリックはゆっくりティアラに歩み寄った。


「セドリック王子殿下……⁈ランス国王、陛下……!」

弱々しく言葉を紡ぎながらも、ティアラ自身が信じられないといった表情でセドリックを見返した。

床に座り込んだまま「ここは……まさか……?」と呟けば、今度は彼女の荷物とそして二人の侍女が瞬間移動で姿を現した。振り返り、その二人に「カーラー!チェルシー‼︎」とティアラは声を上げた。セドリックも知る、ティアラの専属侍女だった。

申し訳なさそうな表情でティアラを迎える二人は、座りこんだまま動けないティアラへ「黙っていて申し訳ありませんでした……‼︎」と同時に頭を下げた。

「なんでこんないきなり……⁈……兄様っ、……ここはっ…⁈」



「ここはハナズオ連合王国、サーシスの城だ。ティアラ。」



混乱している彼女へ答えるようにセドリックが言葉を告げる。

部屋に響くような強い口調で放たれ、再びティアラは彼へと振り返った。ティアラの方へ真っ直ぐと歩み寄ってくるセドリックは、眉間に皺を寄せながら険しい表情で彼女を見返した。


「フリージア王国より正式に同盟国である我が国がお前を〝匿う〟ことになった。………既に、承知済みではなかったのか……?」

堂々とした物言いに反し、最後は懐疑を混じらせた声でティアラに問い掛ける。

座り込む彼女の前へ片膝をつき覗き込めば、既に潤みきった瞳からは涙が溢れていた。セドリックから告げられた事実と、それを証拠づけるような専属侍女と自分の荷物の存在に、ティアラは現実を拒み切れず喉がヒクつかせる。

「していませんっ……‼︎」と首を横に振れば、大粒の涙が散った。えぐ、えぐと喉が鳴らし、縋るようにティアラは国王であるランスへ「船はっ……!アネモネ王国への船はいつですかっ……⁈」と挨拶より前に尋ねてしまう。既に涙声になってしまったそれに、ランスは少し戸惑いながら摂政であるファーガスに返答を促した。


「あ……アネモネ王国からの船は、先日見えたばかりなので次はまた一ヶ月後になるかと。他にも貿易船は来ておりますが、アネモネやフリージア王国方面のものは暫く……」

そこで、ファーガスの言葉が切られた。

言い切る前にティアラが息を詰まらせたような声で泣き出した。専属侍女達が慌てて寄り添い、肩に触れて背中をさすったが、ティアラは顔を両手で塞いだまま俯いてしまった。泣き声を漏らしながら「だめっ……だめ……‼︎お姉、……お姉様がっ……‼︎」と何度も何度も紡ぎ、涙する彼女は誰がどう見ても合意の上での来国ではなかった。


「まさか……っ。」

泣き出すティアラを前に、片膝を折ったまま固まるセドリックは今朝の記憶を鮮明に思い出す。

間違いない、自分は確かにステイルから依頼を受け、ティアラの保護を請け負ったのだと。そして最後に、これだけはとステイルに確認をした筈だった。


〝ティアラ第二王女殿下はそれに納得済みなのでしょうか〟と。


間違いなく、聞いた。

絶対的記憶能力を持つ彼は、確信を持ってそう言える。むしろ聞かないわけがなかった。たとえステイル、そしてフリージア王国の願いであろうともそうでなければ容易に首を縦には振らなかった。そして、問いに対してのステイルは



『………………勿論です』



「………ステイル……王子、殿下……。」

やられた。と、セドリックはすぐに理解した。

自分がティアラに好意があることを知るステイルが、合意無しに彼女を自国へ無理矢理連れて行くことなどできないと読まれていたのだろう、と。


……ッそれ以前の、問題なのだがっ……‼︎


侍女達へと泣き崩れるティアラを前に、不用意に触れることもできないままセドリックは片手で頭を抱え出す。

今だけは、大恩あるステイルへ詰め寄りたい思いでいっぱいになりながら眉を強く寄せた。

最後に部屋を出る前、ステイルから告げられた言葉がまるで今目の前にいるかのように鮮明に彼の頭に浮かび出す。


『信じています。貴方はきっと約束を果たして下さる御方だと』


「……ッッ……、……しかし、これはッ……‼︎」

とうとう両手で頭から顔を鷲掴み、指に力を込める。

思考を回すように深く息を吸い込み、そしてゆっくり、ゆっくりと吐き出した。眉を寄せ、しまいには頭痛にまで襲われる。





……俺に選択肢などッ……一つしかないというのに‼︎





目の前で泣くティアラと、ステイルの最後の言葉が同時に彼を苛み、セドリックは顎が痛むほどに歯を食い縛った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど、これならバレないなあ
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