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〈重版出来・感謝話〉傍若王女は招待し、

この度、6月5日に出版して頂いた書籍が重版して頂けることとなりました……!

感謝を込め、特別話を急ぎ書き下ろさせて頂きました。少しでも楽しんで頂いて感謝の気持ちが伝われば幸いです。

本編に関係は一応無い為、最新話まで読んでおられない方にもお気軽にお読み頂ければと思います。


IFストーリー。

〝もし、フリージア王国に打ち上げ花火文化があったら〟


時間軸は〝疎まれ王女と誕生祭〟と〝無関心王女と知らない話〟の間です。



「そのような催しがあるのか⁈」


ぜひ!と目の焔を輝かせながら声を上げるセドリックに、プライドは思わず笑った。

まるで少年のようなと思えば、同年齢のセドリックの喜ぶ姿がいっそ微笑ましく見えてしまう。セドリックが「兄貴と兄さんも構わないだろう⁈」と興奮した息のまま、隣に並ぶ国王二人へ振り返ればランスとヨアン仕方ないといった様子で肩を竦ませ、笑った。まぁ一晩くらいならば良いだろう、明日は早朝に出ないとね、とそれぞれ言葉を返すランスとヨアンも、言葉に反し顔を綻ばせていた。


「それでは、今夜の花火で陛下方の分も席をお取りしておきます。今夜はアネモネ王国からレオン王子も招待される予定なので、どうぞ宜しくお願い致します。」

母上と父上には僕から報告を、とにこやかな笑顔で返すステイルは一礼をすると、早速報告と摂政業務へ戻るべくその場を去った。また後ほど、とプライドとティアラに声を掛ければ二人も手を振った。


フリージア王国の年に一度の大花火。

その日にちょうど訪問に来ていたハナズオ連合王国の彼らは、プライドからの誘いを受けて日帰りの予定を一晩延長させることを決めた。彼らの国にはない文化である花火は、セドリックすら異国の文献の中でしか知らなかった。それをフリージア王国で打ち上げると聞けば、見たくないわけがない。

朝から大花火に向けて祭り騒ぎの城下は、日が暮れるに連れてその盛り上がりも期待値もただただ上昇するばかりだった。

朝から今日は騒ぐぞと誰かが声を上げ、日が暮れればそろそろだと誰かが囁き、そして時間が近づけばこれからが本番だと唸りを上げる。

フリージア王国の花火は、当然ながらその一番の見所である席は城内にある王宮の一角だった。普段ならば城下を一望できるそこに、今夜は王族が寛ぐための椅子が置かれ、衛兵による万全の護衛もつけられてた。

王族とそして彼らの従者や護衛のみが入ることを許される空間に、今夜はフリージア王国の王族のみでなくアネモネ王国、そしてハナズオ連合王国も出席する。その為、衛兵のみならず騎士団も数人派遣させることとなった。


「そろそろ始まりますねっ!」

ただの移動時間にもかかわらず、ティアラがうきうきと王宮へと向かう足を跳ねさせた。

そうね、と返しながらプライドと並んで歩きながら笑顔を返した。

毎年花火が上がる度、声を上げて喜ぶティアラの姿はプライドにとって花火の醍醐味の一つだった。衛兵からの知らせを聞いたプライドは、早速今し方到着したという来客を迎えるべく、少し予定より早めの移動を始めていた。自身の宮殿から回廊につながられた王宮に向かえば、予想通りの人物が既に見晴台でもあるそこで彼女を待ち構えていた。


「レオン!」

声を上げ、早歩きで駆け寄ればレオンは滑らかな笑みで彼女を迎えた。

ティアラ、そして近衛騎士であるアーサーとエリックも背後に続き、挨拶を告げる。レオンもそれに一言ずつで返すと自身からもお招きありがとうと、彼女らに笑いかけた。

アネモネ王国からの来賓として訪れた彼は今日、自国にも花火の催しを取り入れるべくフリージア王国の花火へ視察に訪れていた。プライドに続き、ティアラにも挨拶を済ませれば、レオンは今から待ちきれないといった様子で視線を空へと上げた。


「楽しみだなぁ。アネモネでも花火の取引はしているけれど、文化はなくって。フリージア王国の花火は毎年磨きが掛かっていると聞いているからすごく楽しみだよ。」

花火の打ち上げはフリージア王国でも年に一回のみ。

民や上級層、王族にも強い支持があるにも関わらず、他のどんな式典でも打ち上げられることはなかった。フリージア王国独特の花火は花火玉の製作や打ち上げの準備に時間が掛かることもあるが、花火は夏に上げるもの、という強い職人のこだわりも起因している。

楽しみにしていてね、と自信満々に笑いかけたプライドは、ふと思い出したように周囲を見回した。そういえば……とレオンが来ているなら彼らも一緒じゃないのかと思えば、自分が訪ねるよりも先にレオンがその声を潜ませた。


「ヴァル達なら途中まで一緒だったよ。城内までは一緒だったんだけど、王居に入った途端に何処かに行っちゃって。」

一緒に見れれば良かったんだけれど、と残念そうに首を傾けて見せるレオンにプライドは苦笑う。やっぱり今年も来たんだなと思いながら、一度ティアラと顔を見合わせた。それから再びレオンへ向けて口を開く。


「ヴァル達なら多分ー…………。…やっぱり。」

あそこよ、と。プライドが見晴台からそう離れていない塔を指し示した。

城内にあるいくつもの塔の内、王宮に近い塔の一つ。城内の見張りや監視の為に使われているその塔の壁面に、いつもはある筈がないものができあがっていた。

ヴァルの特殊能力で塔の壁面を操作して作った今夜だけの見晴らし席だ。屋上で見張りをしている衛兵にも、その入り口や周囲で監視している衛兵にも関わらないで済む位置であるその場所こそが毎年こヴァル達の特等席だった。

元々は城からの花火が絶景だと話してから、見たいと願うセフェクとケメトの為にプライドが女王であるローザに許可をとったことだ。

王族専用の見晴台に同席することは認められないが、城内の何処かで見る分にはと許可も降りた。それから花火を見たいと望むセフェクとケメトと共になるべく人目のつかない一角でヴァルも花火見物をすることになった。本人としては国一番の大花火は城下でも充分見えるのに、何故わざわざ王族と騎士の密集地に行かなければならないのかと不満しかなかったが。

見晴台から彼らを見つけ、レオンがティアラと一緒に手を振ってみる。手どころか顔すら向けようとしないで不機嫌をそのままするヴァルに代わり、腕ごと使って左右に振って返すセフェクとケメトはしっかりとティアラ達を見た。

プライドも続くように手を振り始めれば、レオンは「場所は違うけれど」と殆ど独り言のように口を開いた。


「彼らとも一緒に見れて嬉しいよ。それにプライド、君と見れるのもね。」

滑らかに笑んだその眼差しが自身の隣に並ぶプライドへと注がれる。

僅かに妖艶も差した眼差しに、軽くプライドとティアラの肩が震えた。同時に放たれる凄まじい色気に思わず息まで止める。二人の反応も気にしないように笑むレオンはそのまま「確かハナズオ連合王国も来るんだよね」と投げ掛けた。プライドがそれに三度頷けば、レオンは緩やかな動作で彼女へに一度席にかけようとかと促した。


フリージア王国の最上層部と、そしてハナズオ連合王国が訪れる時間まで。


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