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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
傲慢王女と元凶

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481.義弟は残される。


「兄様っ!……なんでっ、またそんな顔をしているの……⁈」


母上達との会議からその後の打ち合わせ。更にアダムの部下達への尋問と行方不明者の捜索で、気がつけば就寝時間前となっていた。

自室に戻る前に約束通りティアラの元へ行けば、俺の顔を見るなり顔色を変えられた。俺の頬に両手を伸ばし、泣きそうに顔を歪める。


「昨晩より酷い顔っ……折角休んだのになんでまたっ……何かあったの……⁈」

「…………俺のせいだ。」

え……?と俺の言葉に声を漏らし聞き返す。

ティアラは何があったのかと尋ねてくれたが、……アーサーのことは言えない。また不安にさせるだけだ。

母上から俺の提案は許可された。だが、……だからといってアーサーの処分は取り消せない。俺の所為で、俺が都合良くあんな場面で助けを求めたせいだ。


「……ティアラ、……女王継承の件は考えてくれたか。」

話を変えようとすれば、やはりその話題しか出てこなかった。

その言葉に慌てたようにティアラが部屋の中に俺を招き入れて扉を閉めた。


「言ったでしょうっ?私は……」

やはり駄目か。……まぁ、わかっていたことだ。

もう書類は提出したのかと聞けば、今日は母上が忙しくて会えなかったという。「書類の場所は教えないから」とはっきり手を打たれてしまった。やはり俺の考えていることはお見通しらしい。


「……ティアラ。以前にも言ったが、姉君は一生あのままかもしれない。それでも、考えは変わらないか?」

「……。……変わらないわ。私は絶対お姉様の味方だもの。」

少し言い惑うような言葉とともに、ティアラが俺から目を逸らす。

昨日よりは頭が冷えた今、責めようとは思えない。俺と同じように、きっとティアラも本人なりの理由があってそれを決めている。……俺と、違えてしまっても仕方ない。



俺のことなど、誰に理解されるわけもない。



「そうか。……すまなかった、ティアラ。昨晩はきつい物言いをしてしまった。お前を責める権利など俺にはないというのに。」

ティアラはブンブンと頭を左右に振り、ウェーブがかった金色の髪を揺らした。……プライドと同じ、波立ったその髪を。

そう思っていると、ティアラは涙を溜めた目のまま小さな手を広げて俺を飛び込むようにして抱き締めてくれた。少し胸を締め付けていたものが人の温もりで緩まる。


「ねぇっ……、一体いま何が起きてるの……?兄様、何故……昨日も今日も、そんなにっ……そんなに痛くて苦しいの……⁈」

人の心に敏感なティアラは、やはり欺けない。だが、言ってしまえばまた傷付ける。

今ですら、プライドのことがある度に部屋に閉じこもるティアラに、……言えるわけがない。

すると何も言わなかったティアラが途中で泣きじゃくり始めた。涙で俺の胸元を濡らし、「お願い」と繰り返す。プライドのことか、それとも現状の把握か、それとも俺の身体を気遣っ





「アーサーにっ……相談して……‼︎」





思わず、息を飲む。

身が強張り、動けなくなる。すると再び「お願い」と繰り返しながらティアラは必死に懇願し始めた。


「っ……顔を合わせられないとかっ……関係ないでしょう……⁈……に、兄様っ、の、……大事な、大事な大事なお友達でしょう……⁈絶対、力になってくれる……‼︎だって……!」

しゃくり上げるように喉を鳴らし、嗚咽を漏らし、ティアラが俺を抱き締める手に力を込める。何とかガタつく腕でその小さな身体をそっと抱き締め返せば、更に言葉を続けてきた。




「ずぅっとお姉様を一緒に守ってきた仲じゃないっ……‼︎」




「ッッ……‼︎」

ああ、駄目だ。

また、込み上げかける。必死に喉の奥に抑え、歯を食い縛る。ティアラの言葉が怖いほどに胸の奥に浸透し、必死にそれに抗った。


「お願い、ちゃんと相談してっ……私じゃ、私じゃ頼りになれなくても、……っ……アーサーには、ちゃんと話してっ……!お姉様のことだけじゃないっ……〝兄様のことも〟ちゃんとっ……!」

やはりプライドと血を分けた妹だ。

いつから気づいていたのか、……最初からか。あまりにも限界に近いこの身を、ティアラが必死に救おうとしてくれる。


「約束してっ……一人で抱え込まないで……‼︎兄様には私だけじゃない……お姉様だけでもないっ……‼︎……アーサーも、ジルベール宰相も、ヴェスト叔父様もっ……騎士の人達も、レオン王子も、……っ……たくさん、たくさんいるからっ……!たくさんっ……っ」

違う、俺がその中で信頼できる人間なんてごく僅かだ。全てがプライドを裏切るかわからない、影でどう思って、なにを嘯いているかわからない。だから、だから俺は


「私達が大好きなお姉様はっ……こんな風に一人で兄様が傷つく姿……絶対、絶対悲しむわっ……!」

息が、できない。

ティアラの言葉は酷く浸透する。

抗えないほどに正しく、そして……幸福だった時間を思い出させるから。

手が震え、必死に堪え、歯が砕ける寸前の音を立てた。


『約束する…私は絶対これ以上貴方を傷つけない…‼︎』


ッ駄目だ……!ここであの人を思い出せば、大事な記憶を思い出せば歯止めが効かなくなる。

もう既に喉が込み上げ過ぎて熱を灯している。つっかかり、口から息をすることすら躊躇う。


「お姉様、が辛い状況でっ……!兄様が、一番……その中で信じてる人は誰……⁈頼りたい人は……⁈……ずっと、ずっと助けてくれた、……絶対に、助けてくれる人はっ……⁈」

そんなこと、初めからわかってる。だから俺は、………今日。


「……わかった。」

やっと、なんとか声が出る。

息と共にでた低い声だが、腕の中にいるティアラにはちゃんと届いた。涙に濡れた顔でゆっくり俺を見上げてくれる。…だが、俺の顔を見た途端、また辛そうに顔を歪めた。

抱き締め返した手をティアラの肩に添え、そっと引き離す。何とか笑んで見せればティアラは一歩引いて「本当……?」と小さく呟くように問いかけた。


「……ちゃんと、話すよ。ありがとうティアラ。………やっぱり、あの人の妹だな。」

波立った柔らかなその髪ごと頭を撫でれば、小さな拳を握り締めたティアラがひっく、とまたしゃくり上げた。ぼろぼろと大粒の涙を零し、目をこすりながらも頷いた。

お前もちゃんと休め、無理はするなと伝え、部屋を出る。扉を閉め終える瞬間まで、ティアラは俺を見つめ続けてくれた。最後に「約束よ」と上げた声に返事をする間も無く扉が閉ざされる。


しばらく扉の前に佇み、数秒深呼吸を繰り返してからやっと歩き出す。

自分の部屋に戻り、扉を閉めれば既に侍女達も出払わせた部屋は真っ暗だった。

小さな手のひら分の灯りだけを手に、寝室からそこにある机まで進む。灯りをそこに置き、ひと呼吸すれば自然と目がベッドへと向かった。




「……傷付けないと、……言ってくれたじゃないですか。」




まるで、彼女があの夜のようにそこにいる気がしてしまう。誰もいないベッドに笑いかければ、酷く滑稽で全身が脱力した。

人前でないと思えば、余計に制御が利かなくなり床にそのまま崩れるように座り込んでしまう。ガタン、と膝をついたら肩が椅子にぶつかって音を立てた。絨毯に手をつき、思考が酷く明滅する。


「どうするんですか……。……もう、……こんなに辛いのに。」

約束してくれた、彼女は。……もう俺を傷付けないと。

嘘つきだ。と、声にもならず口の動きだけで呟き、笑ってしまう。


ティアラに、あそこまで気づかれるとは。


……違う、ティアラだけじゃない。アーサーやヴェスト叔父様、……ジルベールにもきっと勘付かれていた。

必死に感情を殺し、思考を停止させ抗ってきて、……それでも、きっとそろそろ限界は近い。

そう思えば、不自然に震えてきた手が更にブルブルと激しく震え出した。怒りのままに腕ごと床に叩きつければ、痛みで思考が潰され、震えも少し収まった。


「…………アーサー……ティアラ……。」

……大事な人達に、顔が向けられないと口を閉ざし


「セドリック王子……レオン王子、ヴァル……」

二人を差し置いて、彼らにプライドのことを明かし続けた。

彼らを二人より信頼しているわけではない。俺が本当の本当に信じられる人間など限られている。今も昔もそれは変わらない。本当はどんな理由があろうとも、プライドのことを部外者に話すべきではなかった。もっと嘘を含み、隠して語ることだってできた。それでも、頭ではわかっていても、…………っどうしても……







吐き出さないと、耐えられなかった。







「ッッ……ぃやだ……っ。」

拳を握る。俺自身に、身体に、心臓に全てに言い聞かせるように口から意思が零れる。

……十年のプライドとの断裂。女王になれない未来、病でないにも関わらず、気が触れてしまったかのような豹変と、拘束。……もうとっくの昔に、一人で抱え込めきれる量を超えていた。

彼女の、射抜くような眼光が、今まで見たこともなかった醜い笑みが、舐められるようにかけられる声が。あの言動全てが、俺を酷く掻き乱す。

最初に離れの塔を脱走し、母上達の元へ連れて行けと口にしたプライドを拒んだ時。今日五度目にプライドを離れの塔に連れ戻した時。……彼女は、そのどちらでも俺に呪いを吐きかけた。


『あらぁ?私のお願いではなく母上達の言うことを聞くの。それって酷い〝裏切り〟じゃない?』

『ねぇ、ステイル?……もうこれ以上は私を〝裏切ったり〟しないわよね?』


〝裏切り〟


彼女は知っててそれを口にした。敢えて、俺が抗えないようにと……その為に。


「ッどう……すれば……⁉︎」

頭に両手で爪を立て、抱える。

血が滲んでも良いほどに力を込めても解決法は出てこない。彼女にかけられた呪いに抗う方法などないのだから。




〝従属の契約〟で、俺はプライドを裏切れない。




俺が、これを裏切りだと思ってしまえばもうそれを実行することはできなくなる。

それでも、今の彼女に抗う為にこれはプライドの為だと、俺が信じた彼女の望んだことだと己に言い聞かせればするほど。…〝あの呪い〟に身体が縛られ、征服される。


「ッ何故ですかっ……プライド……‼︎何故、俺に、この俺に‼︎‼︎……こんなっ……呪いを……っ。」


いるわけがない。答えてくれるわけがない。それでも床に向かい、血を吐くように叫んでしまう。

息がまた荒くなり、額がつくほどに床に蹲れば眼鏡が曇った。視界と共に頭もこのまま白にだけ染まってくれればどんなに楽だろう。

手だけでなく全身が細かく震え出すのを感じながら、嫌でも思い出したくなくても、……もう何千何万と頭に過った彼女の〝あの言葉〟が、再び俺の頭を侵す。



『────────────────────』



「……ッ裏切らせて……下さい……‼︎……お願いッ……ですからっ……‼︎」

再び恐怖に襲われ、絶望が底から俺の足を掴み出す。

呼吸が困難になり、何も考えずに大声を上げて喚きだしたい衝動を必死に堪える。込み上げてくるものを息と一緒に何度も何度も飲み込んだ。拳を床に突き立て、……痛みで思考を覆い隠す。





「……ッ……プライドっ……‼︎」





俺は、あの人を裏切れない。


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― 新着の感想 ―
[良い点] あー、相談すらも裏切りだと感じたらもうできないのかぁ……
[一言] 前提情報の共有をしないせいで状況を勝手に悪化させていく腹黒メンズ諸氏。 ジルベールもステイルも肝心なときに頼りにならない系な人臭が
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