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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
傲慢王女と元凶

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480.騎士は残す。


「ッ母上‼︎」


アーサーが去った後、扉が閉ざされた瞬間に再びステイルは堰を切ったように声を荒げた。

「ッ何故ですか⁈彼は結果として姉君を止めてくれました!彼が居なければアダム皇太子との接触か、騎士を」


「彼の意思をだからです、ステイル。」


昂る気持ちを剥き出しにするステイルに、ローザは遮るように告げる。

プライドに怪我を負わせたのはアーサー個人の意思。それはわかっている、とステイルは歯を食い縛った。だが、保留の筈が何故突然とまだローザへ問いたい言葉が喉まで溢れ出す。どれから放てば良いのかわからないように言葉に詰まるステイルに、今度はずっと黙していたアルバートが口を開いた。


「陛下。……もしや、何か予知を。」

少なからず確信を持ちながらそう問い掛けるアルバートに、ヴェストもじっとローザを見つめた。気持ちとしてはステイルと同意見だったジルベールも、息を飲んで答えを待った。

ローザは玉座の手摺に頬杖をつきながら、小さく口を噤む。それから頷くように静かに目を閉じ、……それ以上は何も言わなかった。

その沈黙こそが答えであることをステイルも察し、何も言えなくなる。女王が黙するということは、それ以上は追求を許さないという意味でもある。


「彼については、……後ほど私から騎士団長に報告させて頂きます。処分理由については、今は内密……という方向で宜しいでしょうか。」

情報流出や誤解が生じる恐れもありますから、と告げるジルベールの言葉にローザは再び頷いた。

「任せましょう」と一言の後に全員へ向けて「この話はここまでです」と終わりを命じた。一人歯を食い縛りながら、立ち去った友を今から追おうと扉を睨むステイルにヴェストが「ステイル」と声を掛けた。


「……それよりも今は、今後のプライドとラジヤ帝国をどうすべきかだ。」

ヴェストの言葉に、堪えるように拳を握る。

「はい……!」と絞り出しながら、改めて扉に背中を向けた。ローザへと向き直り、議題へと加わる。

今は右手を負傷したプライドの治療。アーサーが呼んだ特殊能力者の医者により、ローザに報告が届いた時には既に治療が行われていた。

一日安静にしていれば完治するということから、明日にはまた脱走を繰り返すことは間違いない。その間にプライドをどうするか。そしてアダムをどうするか。

ラジヤ帝国に関しても契約書の再発行まで下手なことは限られる。拷問も可能ではあるが、未だに容疑が不確かな彼らにリスクが高いことも事実だった。プライドの脱走に関しても残すは彼女かラジヤどちらかを投獄するか、もしくは騎士団の協力を仰ぐしか方法はない。

ローザは頬杖をついたまま目を閉じて現状確認を聞くと、小さく口を開


「ッ僕に……‼︎考えがあります……‼︎」


……く、前にステイルが声を上げた。

ローザの言葉を遮る前にと、前のめりに言葉が放たれる。己への不甲斐なさと怒りに顔を赤く染めながら、漆黒の瞳を光らせたステイルはその場から玉座に座るローザを見上げた。


「ッ……我が国の法には反しますが、……とても……理にかなった方法だとは思います。……少なくとも、可能性はッ……広がるかと……‼︎」

ステイルには珍しく、頭に火が付いた状態が続いていることにヴェストは眉を顰めた。

それを黙して見つめるジルベール自身、正直まだ動揺を隠しきれなかった。頭が熱してしまったステイルと違い、ローザに何か考えがあっての処分だろうとまでは理解できた。だが、それでもアーサーの騎士剥奪には胸が詰まった。プライドから始まり、ステイル、そしてとうとうアーサーまで。恩人が次々と窮地に立たされている現状に、爪が食い込むほどに拳を握り締めながら、ステイルの言葉を待った。


「どうか、御許可を願います母上……‼︎もう、……っ……もうこれ以上、好き勝手させない……為にもっ……‼︎」


必死に内側の怒りを押さえつけながら目を焦がすステイルに、ローザは続きを促した。


……



「……⁈……ッどういう……ことだアーサー……⁈」


騎士団長室。

騎士団長である自分と副団長のクラーク、そしてアーサーしかいないその部屋で、ロデリックは驚愕を露わにした。

突然の演習中の離脱は、アーサーが去って間もなくロデリックの耳にもハリソンから伝わっていた。更に側にいた騎士達からステイルがアーサーを呼びに来たことも耳にしていた。

プライド様に何かあったのか、いやだがあの二人は友人だろ?だがステイル様のあんな姿初めて見たぞと様々な憶測と噂が騎士団内でも既に飛び交っていた。下手な噂話は自粛するようにとロデリックから騎士達にも窘めたが、気にかかるのは彼らと同じだった。

王居の方向から戻ってきたアーサーは、鎧姿のまま真っ直ぐロデリックの元まで報告に来た。「今すぐ御報告すべきことがあります」と。この場では話せないということで、クラークと共に騎士団長室に招いたアーサーから淡々と語られたのは


彼の騎士隊長並びに騎士の称号の一時剥奪と無期限の謹慎処分。


騎士として、相当な重罰を与えられたという報告だった。

しかも、驚く自分達をよそにアーサーはそれを他人事のように淡々と語っていた。「詳しくは王室から正式に勅命があると思います」と語った彼は「大変申し訳ありません」と今も深々と頭を下げたままだった。


「い……一体、何があったというんだアーサー……?」

「申し訳ありません、言えません。」

クラークの言葉にも、迷いなく断じるアーサーは頭をまだ上げようとはしなかった。

すぐに察しがついたように「プライド様か……?」と尋ねたが、アーサーの答えは同じだった。


「………。……御迷惑、お掛けします。」

再び謝罪の言葉を放たれた二人は、言葉が見つからなかった。

称号こそ〝一時〟剥奪とはいえ、謹慎は無期限。事実上、解雇といっても過言ではない。いつ謹慎が解けるかもわからない現状では、下手すれば永久というのもあり得るのだから。


「……質問だ、答えられるならば答えろアーサー。」

腕を組みながら、静かにかけられる低いロデリックの声にアーサーは下げきった頭を僅かに数センチだけ上げた。「はい……」と少し小さくなってしまった声で返せば長い溜息の後に言葉が投げ掛けられた。


「……お前は、この処分が正当なものだと思うか?己自身の行いから判断し、お前の意見を答えろ。」

もし、不正なものならば考えるべきことも構えも変わってくると思うロデリックの問いに、数拍の沈黙後、アーサーは再び頭を下げきった。


「思います。……それだけのことを、自分は犯しました。」

言い訳をする余地もなく、アーサーは落ち着いた声でそれに返した。

この場で父親かクラークに殴られることも覚悟した上での返答だった。アーサーの言葉に腕を組む指先に静かに力を込めるロデリックに、クラークも苦い顔をして二人を見比べた。

そうか、と短く平坦な声を返すロデリックは「ならば」と再び問いを続けた。


「お前は、それを後悔しているか?もしくは、間違っていたと認めるか。……騎士として恥じる行いか。」

更に感情を殺すような声と共に鋭い眼差しがアーサーへの下げきった頭へと投げられる。するとアーサーはゆっくりと頭を上げて、直立させた背でロデリックを見つめ返した。


「後悔はしていません。あの時はそれが最善でした。……自分が騎士としてできることを決めた、その結果です。」

隠すこともなく告げたアーサーの返答に、ロデリックは何も言わずにその目を見続けた。

迷いも、曇りもない自分と同じ深い蒼色の瞳を数十秒間、瞬きもせずに覗き続け、最後に息を吐いた。


「……騎士達には正式に処分が届いてから報告する。既に処分が言い渡されたのならば、お前をもう演習に参加させるわけにはいかない。……下がれ。」

はい。と、ロデリックの言葉に再び頭を下げたアーサーは、扉へ向けて背中を向けた。早歩きで扉に歩み、手を掛けて開ける直前



「父上。…………ごめん。」



背中を向けたまま小さく呟いたアーサーは、一気に扉を開けた。「失礼します!」と声を上げ、今度は二人に目も合わせずに頭を下げて扉を閉じた。

タッ、タッ、とその場を去る足音を確認し、遠くなってからロデリックは片手で頭を抱え、項垂れた。


「…………ロデリック……。」

地につきそうなほど重々しい声色で、クラークが今度は腕を組む。背中を閉ざされた扉に向けたまま、彼もまた息を吐いた。

もし、許されないことを犯したならばアーサーは間違いなく後悔したと認めるだろう。にも関わらず、それに関しては翳りの一つもなかった。一体どのようなことを犯したら、そういう答えが出るのかと頭を悩ませた。だが、頭の隅でステイルが絡んでいることとプライドに関しての確かな情報を掛け合わせると、うっすらと輪郭が浮かんだ気もし、クラークは意識的に口を結んだ。こんなことを言えば確実にロデリックが両手で頭を抱えるだろうと確信を持ちながら。


「ああ。……だが、……今は落ち込んでいる場合ではない。……恐らく、王居の状況は悪化しているのだろう。」

本来ならば一番嘆きたい気持ちを内側の奥深くに押さえ、ロデリックは低い声でそれを自分にも言い聞かせた。「そうだな」とクラークに肯定されたことに自分で頷き、頭を抱えたままの右肘を側の机に付いた。


「それに、……アーサーの謹慎は騎士達にも影響が大きい……。」

私達がしっかりしなくては。とやはり自分に言い聞かせるように言葉にしたロデリックにクラークも一言を返す。

二人の贔屓目無しに、アーサーは優秀な騎士だ。

更には異例の出世とプライドの近衛騎士、実力至上主義の八番隊の隊長と重なり、騎士経験の長い者にはこの上なく可愛がられ、更にはアーサーに憧れや尊敬を抱く騎士も増える一方だった。新兵の中には既にアーサーのような騎士をと目指している者も少なくない。

そんな憧れの的になっているアーサーの、重罰ともいえる処分。少なからず動揺が騎士団に広がることは間違いなかった。騎士団全体の憧れでもあるプライドの状態が不明であることにもやっと騎士達が落ち着きを取り戻してきた。そこでこの事態だ。プライドとの関係も薄くないアーサーの不在に、その関連性を何とも思わない騎士はいないだろうと考える。


「頼むぞ、クラーク……。私では贔屓に見られかねん……。」

父親であるロデリックがもしアーサーについての不穏な噂などを耳にしても指摘をすれば更に不穏が広がりかねない。騎士団にそんなことを嘯く者もいないとは思うが、万が一にもとクラークに託した。「その心配はないと思うが……」と呟きながら、クラークも頷いた。

「まぁ、だが」と。ロデリックを気遣うように敢えて明るめの口調で思いついたように言葉を続ける。


「私もハリソンには目を光らせておこう。……アイツもきっと寂しがる。」

数ヶ月前から、アーサーと共に食事までとるようになったハリソンが、アーサーの処分に動揺しないわけがないと。そう思いながら言えば今度はロデリックが頷いた。


「しかし……。」

ふと、ロデリックは自分達にアーサーが演習から離脱したことを報告に来たハリソンの姿を思い出す。腕を固く組みながら、眉間に皺を寄せた。


「……恐らく、ハリソンも勘付いてはいるだろう。アーサーに団服を預けられた時から。」

「……………。」

ロデリックの低い声に今度は沈黙でクラークは答えた。

実際、報告に来たハリソンが抱えていたアーサーの団服を見た時から、ロデリック達も若干の不穏は感じていた。

騎士団の演習中、基本的に必ず着るか持ち歩いている団服を何故わざわざ預けたのか。まるで、騎士としてそこに赴くことを自ら避けたかのようだった。


そして、今回の重罰処分。


「……また妻に隠し事ができた…。」

気を紛らすように頭をガリガリと掻きながら俯くロデリックに、クラークは無言で肩を叩いた。

処分を受け入れたアーサーの目が死んでいない以上、自分達は彼を信じ、今は毅然と構えるしかないと何度も自分自身へ言い聞かせた。



父としてより、王国騎士団を束ねる者として。…………今は。


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