472.傲慢王女は嗤い、
「ッそ……それはどういうことでしょうか……⁈」
「陛下!どうかお考え直しを‼︎」
あ〜あ……うるっさい。
「あらぁ?この場で私に意見することができる者がいるのかしら。」
うるさい彼らをせせら嗤う。
私の言葉に誰もが押し黙り、恐怖に顔を染め上げる。
……これはゲーム後半の……。あー……そうよ、本当ならこうする筈だったのに……。
私の為だけの椅子に座り、顔色の悪い上層部を眺める。
見れば傍にはステイル、それに老いたジルベール宰相も掛けていた。彼らと同様に何も知らなかったジルベール宰相が、驚愕で目を見開いている。私の言う通りに協力していたステイルが、無表情のまま死んだ目で眼鏡の黒縁を押さえている。
……法案協議会。
今年の、ゲーム開始時の法案協議会。プライドの、……私の政策。これがきっかけに城下に逃げたティアラと、攻略対象者はー……。
沈黙した空間で、私は再び彼らに声を張る。
「もう一度言うわ」と軽く投げ掛け、愚かな彼らをぐるりと見回す。ああぁあああぁ……皆が恐怖と絶望に染まってる。愛しい愛しいその顔をもっともっとたくさん見たかった。今年法案協議会に出たらちゃあんと見れたのに。
私が、口を開く。嗤いながら彼らの表情を見逃さないように目を見開き彼らの表情を目に焼き付ける。
「我が国は奴隷制を制定。フリージア王国を奴隷生産国にするわ。……私に文句を言う者から、出荷してあげる。」
そう言って彼らに笑いかければ、誰もが私から目を逸らした。
私は目を見開き、口端を引き上げる。「決まりね」と続け、そのまま扉の方へ指を振って合図を送る。合わせて扉が開かれ、そこから現れた人物に、全員が惑うように眉を寄せた。タン、タンと私の横まで歩み寄ってくる彼の紹介をするように指で私はステイルに命じる。
「……女王陛下の新政策に伴い、新たに同盟を結ぶことになりました。御紹介致します。」
形式だけは恭しく頭を下げるステイルが言葉を切る。
平坦な声で彼を見つめ、迷いなく言い放つ。
「ラジヤ帝国、皇太子。アダム・ボルネオ・ネペンテス皇太子殿下です。これから暫く我が国に滞在し、奴隷制度と産出の協力をして頂きます。」
城にもラジヤ帝国の兵士や商品が護衛の為に滞留する予定です。とステイルが続ければ、私の隣でアダムが優雅に礼をした。
ああぁ……私の可愛い可愛い愚かな捨て駒。
奴隷産出が進むと思ってあんなに喜んでいる。狐のような細い目をさらに緩めてニヤニヤ笑ってる。
─ どうせ、どのルートでも叶いはしないのに。
「ッお、待ち下さい……‼︎女王陛下っ……‼︎」
突然、声が放たれる。
せっかくの紹介に水を差すなんてと軽く睨むように目を向ければ、勢いよく一人が席から立ち上がった。喉を張り、急に動いただけ息を荒くする彼は
─ ……ジルベール宰相。
黙って続きを促せば、ジルベールは嗄れた声で私に「御言葉ですが……!」と意見する。あぁあ……生意気。でも、そういう見苦しく踠いて無様に醜く生き長らえる彼を見るのはすごくすごく楽しかった。
またどんな足掻きを見せてくれるのか内心わくわくしながら彼の言葉を待つ。
「陛下の御言葉には従います……!ですが、奴隷制度は我が国の根本から変えてしまうもの!これまでになく大掛かりなものとなります……!」
「それが?貴方ならできるでしょう、ジルベール。特殊能力申請義務令だって、一日で制定した貴方の手腕なら。」
民なんてどうせ命じれば動くんだから。そう続けながら笑いかければ、ジルベールの顔がわかりやすく顔色を変えた。あぁあ……素敵に醜い顔。
一週間や一ヶ月もかけるなんて面倒だもの。今から奴隷制度と言えば、あとは勝手にこっちで適当に民を売り飛ばせば良い。先ずは罪人か下級層から一掃すれば
「ッ大掛かりともなればそれだけ人の手を割かねばなりません……‼︎ですが、いま……我々は最優先すべきことがあるのではないでしょうか……?」
最優先?と眉を潜めてみる。
私が決めた規則以外、優先すべきものなんてあるわけがないのに。
言葉によっては彼も奴隷の一人にしてやろうかしらと考える。宰相でも私に抗えば奴隷にされると知らしめればちょうど良い。
ジルベールは一度躊躇うように喉を鳴らす。それからはっきりと重々しくその口を開いた。
「行方不明となられている、ティアラ様の捜索です……‼︎」
あぁ……。
私の愚妹。出来損ないの、ただただ母上に似ただけの役立たずな妹。
昨日、私がアダムと会合している間に姿を消した王族の面汚し。セドリックが思惑に勘付かれて逃げられたと話していたけれど、正直どうでも良い。敢えて言うなら、捕まえたら今度こそセドリックの手で首を刎ねさせたいくらい。
一応、形式通りに城下にも捜索隊は出させたけれど未だに見つかっていない。このまま居なくなったら居なくなったで別に良いのだけれど。
どうでも良いわ、と言おうとする私の前にジルベールは嗄れた声で続ける。
「第二王女……〝第一王位継承者〟であらせられる陛下の妹君、ティアラ様の行方不明は今や城下に知れ渡っております!既に今朝には〝逃亡〟ではないかとの噂も!このような事態で奴隷制度などを制定すれば、民からティアラ様を台頭させ革命を起こす者共が生じる恐れもあるかと……‼︎」
『女王陛下‼︎第二王女、ティアラ・ロイヤル・アイビーの名の下に進言致します!お願いします、私の……私達の話を聞いて下さいっ……‼︎』
……ふと、十年前の記憶が頭に過ぎる。
私が産まれて初めて特殊能力を覚醒させた時の予知。女王となった私に歯向かう、顔も知らなかった第二王女。
『確かに審議の余地はあるかと!何せ、ティアラ様は』
『既に二月十四日を以て成人しております……‼︎』
『陛下とも御年齢は二つしか変わりません。これは、やはりっ……‼︎』
その予知の映像で、上層部の……民の支持を受けていたのは明らかに私ではなくティアラだった。
今までも私の反勢力や歯向かう奴はいたけれど、全員粛正できた。優秀な特殊能力者の奴隷もたくさん作ったし、騎士団も衛兵も私の言いなりだ。選ばれし予知能力者の私に敵う奴なんているわけがない。なのに
革命、ですって?
私ではなくあのティアラを民如きが女王として認める⁇
……あの子が、初めて私の前に現れた時もそうだった。
『麗しい』『女王陛下にそっくりではないか』と。
たかが母上似というだけでもてはやされて、少し良い子の振りが上手いだけで誰もがあの子を天使のように褒めちぎった。母上まで憔悴して死ぬ間際、目の前にいる第一王位継承者の私ではなく、その隣に居たティアラの手を取った。
『お願いっ……民を……この国を守って。』
どうして次期女王の私の手を取らなかった?
どうして目の前の私の手を取らなかった?
どうしてあの子の手を取った⁇
まるでティアラこそが女王に相応しいと認めるかのような。まるでティアラを娘として一番に愛しているかのような。
私、ではなく。
「ですから、奴隷制度にとりかかるのはせめてティアラ様を保護してからにすることこそ得策と存じます……‼︎先ずはティアラ様の捜索を優先し、それから改めて奴隷制度の見直しを……」
あああぁぁぁあぁああああああああああうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい……‼︎
ジルベールの言葉が耳障りで仕方がない。
苛々と不快な記憶ばかり思い出し、机を蹴り飛ばす。ダンッ‼︎とジルベールの嗄れた声を上塗りする音を響かせる。
ジルベールが黙り、他の上層部も私に注視するのを確認してから私は口を開く。
「良いわぁ……。つまり、逃げ出したティアラが私に反旗を翻そうとしている。……そういうことね?」
適当にまとめて言い切れば、ジルベールが少し慌てたように「いえ……!そういうことでは」と言い出した。敢えてそれを上塗りして私はこの場の全員へと命じる。
「今すぐティアラ・ロイヤル・アイビーを指名手配しなさい。……協力者がいるのなら、その者も同罪よ。」
全員処刑するわ、と告げ、席を立つ。
女王の私が立ち上がったことで慌てて上層部もその場を立ち上がり、見送りの姿勢を取った。
「ティアラを見つけ次第、奴隷制度を制定。すぐにでも奴隷を搬出するわ。……せいぜい、下準備だけはぬからないようになさい?」
最後にジルベールに向けて笑いかければ、老人の身体を強張らせながら彼もまた深々と私に礼をした。
追っ手は誰が良いかしら?ステイル……は、私の元以外に瞬間移動なんてできるわけがない。どうせティアラとは接点すらないのだから。
後は騎士団か、レオンを返せと煩いあの弟二人でも良い。いっそ裏稼業の一団でもいくらか雇おうかしら。セドリックは使えないし、ジルベールが本気でティアラを探そうとするとは思えない。
そんなことを考えながら、私は自分の部屋までのんびり歩く。私の背後をステイルに並ぶアダムが「話が違いますねぇ……?」とニヤけた声を吐くけれど無視をする。今はこんな男どうでも良い。
……ティアラなんかに渡してなるものか。
この国も、世界も、全ては神に選ばれし私の玩具。
誰にも渡さない、全ては予知能力を与えられた私の思うがままに運ぶと決まっている。特殊能力者ですらないあんな女に私が負けるわけがない。城に連れ戻したら絶対に最高の方法であのヘラヘラした顔をぐちゃぐちゃに歪めてやれば良い。……目も当てられないくらい、ぐっちゃぐちゃに。
「……アッハ。」
あのへらへら緩みきった顔が、私への憎悪と恐怖に歪む瞬間を想像してやっと気分が良くなってくる。
泣いて、喚いて、命乞いをして、自分の無力さと愚かさを恨んで私を憎んで死んでいけば良い。その時だけは、……私も愛しくあの子を撫でてあげよう。汚く塗れた王族の面汚しのその頭を。
ティアラを処刑し、奴隷制を制定。サーシス王国も奴隷搬出。あああああぁあぁあぁ……そうすればきっとまたセドリックの綺麗に歪んだ顔が見れる……‼︎
想像するだけで興奮して身体が芯まで火照り出す。
いっそアネモネ王国もついでに支配してしまおうかしら。そのまま奴隷産出国にでもしてしまえば、奴隷にされたアネモネ王国の民をまた毎日レオンの前で嬲り殺してあげられるもの。
「あぁぁ……楽しみだわぁ……。」
─ ……映像が、……暗くなる。
あぁ……これで場面が終わるんだ。……場面?………そうだ、ゲームの……、……いえ……私は〝あの時確かに〟そう思っ……。
ゲーム……?……私……⁇
これは、ゲームの映像で……私は実際に体験しては……あれ?でもいまのはプライドじゃなく、私で……私が、…………………あ。
ああああぁぁあああぁあぁああああああああぁァァアアあアあああアアアアアアァ……⁇
駄目だ、混ざりそう。
ゲームのプライドと、私が。私と、プライドが。私と私がプライドとプライドがぐちゃぐちゃに混ざって絡まり溶けて消えてしまう。駄目、全部は、全部はお願い、私……死……
私は、…………………私……は。……。
……
…
「嗚呼…なんとお労しい姿でしょうか。プライド・ロイヤル・アイビー第一王女。」
……だれ?
「第一王女とあらせられる貴方が、このような場所に拘束され、縛り付けられるなど。」
……この、声は。
「誰も貴方を理解しない。……私であれば、貴方の望みを叶えられるというのに。」
聞くだけでわかる、不快で軽薄な声。
演技がかった語り口で、見なくても口が笑っているのが想像ついた。舐めるような話し方で、月明かりを背に私のベッドの横へその男は立っていた。
手足を拘束されたまま、自由な頭を横に傾け、目を擦ることもできないまま萎めて彼を見る。目覚めたばかりの視界がだんだんと鮮明になっていく。
「こんばんわ、プライド王女殿下。……お迎えに上がりました。」
格好つけな台詞で笑う男は、手を胸に当てて私をゆっくりと覗き込む。……アダム。
涎が私まで垂れてきそうなほど口端が引き上げられる。それを黙って眺めていると、反応がないのがつまらないようにアダムは覗き込んだ体勢から身を引き、掛けられた布の上から私の身体の輪郭を確かめるように手のひらで撫でた。
「魅力的な御姿ですね。……唆られる。」
ゴクリ、と自分で言いながら彼は喉を大きく鳴らした。
今なら自分の思うがままだぞと言わんばかりの表情で、薄く開かれた目の奥がギラギラと光っていた。いま、彼に首を絞められようと何をされようとも私は抵抗などできる筈も無い。今の彼にとっては格好の餌食とも言える状況で私は
「……遅いじゃない。」
─ やっと、来た。
待ちくたびれたと、その意思を込めて言い放つ。
勝手に引き上がる口端のままに彼へ笑んで見せれば、逆に彼の方が驚いたようにニヤけていた表情が引き締まった。
アダム・ボルネオ・ネペンテス。
彼なら絶対に私の元に来ると、この場所すらも嗅ぎつけてくると思った。
ゲームでは〝私と〟秘密裏に契約を交わしていたラジヤ帝国の皇太子。まだ女王でなくても第一王位継承者である私を彼が利用したくない筈がない。奴隷を優先的に流してもらう為だけにゲームでも彼は〝私へ〟媚びへつらい、協力し続けていたのだから。
今の私の、最大手。
「待ちくたびれちゃったわ?」
驚くアダムを前に嘲笑う。拘束なんて関係ない。私が支配者、彼は駒。私の都合の良い最高の捨て駒。彼が私に従わないわけがない。だってここは
所詮、ゲームの世界なのだから。
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