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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
傲慢王女と元凶

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468.宰相は整える。


「ステイル様。……休息は取られましたか?」


ジルベールの仕事部屋でもある執務室。

ジルベールは小さく振り向きながら、背後で資料に没頭しているステイルに目を向けた。今は王配業務の手解き中でも、宰相業務の手伝い中でもない。「資料を見せて欲しい」と告げたステイルは、ジルベールの仕事の邪魔にならないようにだけ気を払い、あとは遠慮なく彼の部屋の書物を読み漁っていた。


「今が休息時間だ。ヴェスト叔父様から長めの休息を頂いた。」

「………それは、その分身体を休めろという意味では?」

自分に言葉だけ返し、書類から目を離さないステイルにジルベールは眉を寄せる。

最近は意図的な無表情が増えたステイルだったが、それでも隠しきれないほど彼の姿は酷かった。単純に窶れた、というだけではない。目の下のクマははっきりと黒ずみ、漆黒の瞳も澱んでいる。身体は明らかに疲労を叫んでいるのに、意思だけで引き摺り動かしているのは彼の姿を目にする誰もに明らかな事実だった。


「今朝の法案協議会で、早朝からお疲れでしょう。少しは休まれた方が作業効率も良くなりますよ。」

「……別に、今年は大してやることもなかった。今はそれより優先したいことの方が多い。」

ステイルの言葉も嘘ではなかった。

今年は例年よりは法案協議会での仕事も少なかったという点に関しては。……いつも彼が補佐していた筈のプライドが不在だったのだから。

ただし、だからといってステイルの負担がなかったわけではない。次期摂政としてヴェストの手伝いと、第一王子としての参加。更に彼は不在中のプライドの仕事も自身が担える部分は自ら代理を請け負っていた。

プライドの不在は、当然ながらその理由も城の上層部もいくらか把握はしていた。突然、豹変……〝病になった〟第一王女の存在と、離れの塔への移動に関しては。ただし、プライドが塔の中で拘束されていることや自身に刃を突き立てたことは知られてはいない。だが、法案協議会にも不在であることからもプライドの状態に改善が見られていないことは明白だった。

進言こそしないものの、プライドの第一王位継承権が危ぶまれていることは明らかだった。更に、今回は法案協議会の欠席者は一人ではなかった為、余計に不穏は広がった。


「あまり御無理をされるとティアラ様が心配されますよ。」

「問題ない。ティアラとは順調に喧嘩中だ。」

ジルベールの言葉に、知っているだろうと言わんばかりにステイルが言葉を重ねた。同時に気を紛らわすように資料をまた一枚音を立てて捲った。

数日前からステイルと口論になった結果、ティアラは今日の法案協議会にすら出席を拒んでいた。更には部屋に今も殆どが篭ったままだ。ジルベール自身、当時ステイルを案じて共にティアラの部屋へ訪問したが「絶対に嫌っ‼︎」「そんなことを言っている場合じゃないんだ‼︎」という問答は、確実に部屋の外まで響いていただろうと思う。

思い出すように瞼を重くし口を閉ざすジルベールにステイルは「時間を掛けて説得すれば良い」とだけ返し、さらに資料をめくった。


「お前こそマリアとステラの調子はどうだ。ちゃんと定期的に屋敷には帰っているのだろうな?」

「ええ、勿論ですとも。」

目も向けずに投げ掛けてくるステイルに、ジルベールはさらりと言葉を返す。

プライドのことがあってから、城に泊まることも増えて毎日は難しくなったがそれでも二、三日に一度は屋敷に帰るようにしていた。プライドのことは話せないが、それでも妻と娘の様子を直接確認する為に。プライドのことを心配してから最近は体調を少し崩し気味のマリアを安心させる為に。病が治ってからは身体も決して弱くないマリアだが、それでも体調を崩すほどにプライドが倒れたことは衝撃的だったのだろうとジルベールは思う。だが、それをわざわざステイル達へ伝えて気を余計に重くさせてはならないと敢えて口を閉ざした。……ステイルに知られたらまた怒られるだろうと思いながら。


「明日には対策会議も始まるが……ラジヤ帝国が再び我が国に訪れるまで、残り三週間もない。それまでになるべく情報を集めておきたい。」

気付かず淡々と語るステイルの言葉に「そうですね…」とジルベールは静かに息を吐いた。

ラジヤ帝国。その支配領域こそ広大ではあるが、本国に関しての情報はかなり少ない。王族の馬車で十日掛かるハナズオ連合王国の時は、まだ使者からの報告や便りもあった。だが、ラジヤ帝国は王族の馬車でもひと月。当然、新しい情報など殆ど手に入る訳がなかった。更にはラジヤ帝国本国の周辺国から情報を集めたくとも、その周辺国は全てラジヤに支配された後の属州か植民地。フリージア王国自体、同盟を結んだのも一年ほど前ばかり。摂政であるヴェストも、ラジヤ帝国の関連がセドリックによって証明されてからは情報を集めたが、それでも少な過ぎた。数少ないラジヤ帝国に関する情報は、いつに何処の国を支配下に収めたか。その規模や、支配領域くらいのものだった。残すはフリージア王国の歴史からラジヤ帝国との関わりを洗い直すか、これまでのラジヤ帝国から届いた書状を確認し直すくらいのものだった。

今のステイルが必死に手繰り寄せているのも、結局はラジヤ帝国という単語が一文字でも乗っている書籍を読み込んでいるだけだった。調べられる分はもう全て摂政であるヴェストと調べ尽くした。

プライドが倒れた誕生祭で、毒を仕込むような怪しい人物や会場を出入りした容疑者になり得る者も見つからなかった今、唯一の可能性はセドリックの証言があるラジヤ帝国のみだった。それすら無ければ、もう残す可能性は城の厳重な警備を突破した特殊能力者による攻撃か、プライドが突然の発作で気が触れてしまったの二つしかなかった。つまりは



完全なる、手詰まり。



調べられることを既に調べ尽くし、更に法案協議会が終わった後。そして、明日になればラジヤ帝国の訪問に向けての対策会議が連日行われることになる。だからこそ、ヴェストが今日ステイルに身体を休めるように休息を与えたことは明白だった。そしてステイルもそれを理解しているからこそ、ヴェストの目に届かないジルベールの執務室で資料に没頭をしていた。


「……っ、……?……」

ふと、ふらりとステイルの軸が揺れた。

自分でも不思議なように頭を片手で抱え、目を凝らす。度の入っていない眼鏡の黒縁を押さえつけ、位置を直すようにしながら眉間に皺を寄せた。片手を机に付き、首を左右に振って意識的に大きく呼吸した。

それに気付いたジルベールは目だけを向けながら、眉を再びひそめて一度手の中の書類を閉じた。


「……ステイル様。以前、体調管理も仕事のうちであると私に仰って下さったのを覚えておられますか?」

「別に風邪ではない。少し目眩がしただけだ。……じき、治る。」

突き放すような声で言い放つステイルに、ジルベールは息を吐く。書類を机に起き、ゆっくりと足を動かした。


「……用事を思い出しました。私は一度部屋を出ますが、ステイル様はどうなさいますか?」

「まだここに居る。……閉めた方が良いなら出て行くが。」

資料に食い入るように目を離さないステイルは、自分の背後を通り過ぎようとするジルベールに声だけで返した。

書物に没頭というよりも、ただひたすら目の前の情報にしがみついているようにしか見えない姿のステイルにジルベールは胸を痛めた。


「いえいえ、どうぞごゆっくりしていらして下さい。」

穏やかに言葉を返し、ステイルの肩越しに彼の読む書類に目を向ける。

既に百年以上前まで遡っている記録。ジルベールの目から見ても、それがどのように役立つかは理解出来ない。そして恐らく、ステイル自身もわからずに読み耽っているであろうことも理解していた。もうできることが現段階では何もない。ヴェスト、ステイル、ジルベールがフリージア王国の総力を挙げて調べ上げ、その結果の手詰まり。今更、それ以外を読み込み調べても、二度手間か不要な情報でしかない。それでも、ただ手を止めずにはいられないステイルは









首へ、手刀を叩き込まれた。









トン、という軽い音にも関わらず、的確に入ったそれにステイルは「ぁっ……」と小さな呻きを上げたまま意識を手放した。

衝撃のまま前のめりに倒れ込もうとする彼を、ジルベールは片腕を回し、支え受け止めた。


「……申し訳ありません、ステイル様。」

小声で意識のないステイルへ告げながら、ジルベールはそっと丁重に両腕でステイルを抱え上げた。身体が出来上がったとはいえ、細身の彼はその背丈に反して持ち上げればジルベールの予想以上に軽かった。

執務室の隅にあるソファーに、そっとステイルを横たえるようにして寝かせた。気を失っていることを抜いても、その姿はぐったりと力なく見えた。


「宰相として、貴方様まで失うわけにはいきませんので。」

既にステイルが体力的にも限界が近いことは明らかだった。

そして、精神的に憔悴しているのはどの王族も同様だった。人前では気丈に振る舞ってはいるが、プライドの立場も含めた絶望的状況に誰もが頭を抱え、精神もそして中には多かれ少なかれ体調に支障をきたす者もいた。特に、女王であるローザは多忙な中の合間を縫って頻繁にプライドの元へ訪問し、その度に憔悴は酷かった。妻を支えるアルバートもまたジルベールの前では気落ちを露わにすることも増えていた。だからこそ彼らは自身の生活管理も意識し、休息を取るようにも心掛けてはいる。だが、王族の中でステイル一人だけが全くそれをしようとしなかった。まるで自身の身体に敢えて負荷を課しているのではないかと思えるほどに。

部屋の扉を開け、衛兵の一人に催眠の特殊能力を持つ医者を呼ぶようにと、ヴェストにステイルの休息時間の延長の申請を言付けた。

再び部屋の扉を閉めたジルベールは、足音を立てないようにそっとソファーの歩み寄る。ぐったりと倒れた彼の上着を皺がつかないように丁寧に脱がせ、胸元のボタンを数個だけ緩めた。それから備え付けの毛布を掛け、寝たせた拍子にずれてしまった彼の眼鏡をそっと外した。ジルベールも滅多に見ないステイルの素顔は、普段よりもずっと年相応の青年だった。


「……私には、貴方様の御心まで軽くすることは叶いませんから。」

それができるのは恐らく彼の姉妹か親友くらいのものだろうと思いながら、ジルベールはそっと眼鏡を傍のテーブルに置く。ステイルにとって、恐らく永遠に信頼に足りないであろう自分はその内側に入り込めないことは理解していた。無理に入り込もうとすれば、単にステイルを傷つけ余計に悪化させるだけであろうことも。


「せめて、体調管理だけでも。……私が背後に回っても警戒されない時点で、疲労は明らかですから。」

そう呟きながら、ジルベールは医者が来るまではと再び仕事に戻った。

医者に気を失ったステイルを今度こそ眠らせ、衛兵に彼を護衛を任せたら、自分も王配であるアルバートに纏めた書類を提出に行かなければならない。今日の法案協議会で可決された法案と、その実施、準備期間などについての全てを。


『〝特殊能力申請義務令〟……。……すごぉ〜く、素敵よねぇ?』


「っっ……‼︎」

頭の中でプライドの言葉を思い出し、ジルベールは思わず歯を食い縛る。

自身にとって忌まわしい、過失と罪の象徴でもあるその法令の名が、今年の法案協議会でも出なかったことだけが彼にとって唯一の救いだった。今のプライドが出席を許されていたら確実にその名を出し、間違いなく立場を更に危ぶませていただろうと思う。

当時の自分の愚かさと、そして変わり果てたプライドの口から放たれた言葉を思い巡らし、ジルベールは自身の腕を強く掴み上げ、指が食い込むほどに力を込めて堪えた。


「っ……、……どうぞ、今はゆっくりお休みになって下さい。ステイル様。…………せめて」


己を落ち着かせるように、そして意識のないステイルに語り掛けるようにジルベールは唱える。

宰相として、冷静に今の状況を判断しながら書類を広げ直す。すぐに来るであろう医者を迎える為に椅子には座らず、佇んだままで提出する書類を見返した。


「悪しき元凶の可能性が、我が国に足を踏み入れるその時までは……‼︎」


ギラリ、と一人眼を鋭く光らせながらジルベールはまだ見ぬラジヤ帝国の皇太子を思い出す。

自身の守るべき、尽くすべき王族を憔悴させ、民の安全も脅かしかねない憎き大国の第一皇子。もし、暴力で全てが解決するのならば自らその首を絞め上げて拷問してやりたいと思うくらいにはジルベールの胸には殺意が溢れていた。


……プライド様は、戻られない。

唯一の可能性は、プライド様が倒れた原因として一番濃厚なラジヤ帝国。毒か、もしくは……。


「それまでにまた、城内の警備を確認しましょうか。万が一にも、間者が入り込んでいては面倒ですから。」

途中で思考を振り払い、ジルベールは声に出してわざと考えたことを上塗りする。

既にラジヤ帝国への対応は、上層部で結論が出ていた。残すは彼らを待ちつつ、見落としも鼠も許さないように見回ること。そこまで考えてから、ジルベールは重要なことに気づき「あぁ……」と言葉を漏らした。


「……旅行の方も、そろそろ仕上げ時ですね。」

ラジヤの来訪前には、と呟いたところで扉からノックの音が飛び込んできた。

コンコンっ、という音に落ち着かせた声で返し、扉に歩み寄る。扉を開き、医者を隅のソファーへと手で指し示したところで今度はヴェストへ言付けを届け終えた衛兵も戻ってきた。「延長ではなく、今日残り一日は休むように命じる」と衛兵からヴェストの返答を受けたジルベールはやっと満足げに頷いた。丸一日ならば、催眠をかけて貰った後はベッドに運ばせようと思いながら、ジルベールは医者とステイルの様子を見守った。

医者に触れられ、気を失った状態から睡眠に入っていくステイルの寝息を確認し、ほっと肩から力が抜ける。強制的に眠るのは数時間。そこから先は本人の睡眠によると、聞き慣れた説明に深々と頷いた。更に医者の口から過労も含んでいると診断も告げられた。「そうでしょうね……」と重々しく呟いたジルベールは医者が引いた後に再びステイルの顔を覗き込んだ。

ここから今のうちにステイルを衛兵に部屋まで運ばせるのは簡単だ。が、それでは人の目につき、今度は第一王子が倒れたと噂を立てられかねない。ジルベールは少し考えた後、衛兵に自分の執務室から一番近いベッドのある部屋にステイルを運ばせた。普段は殆ど使わない、宰相であるジルベールの仮眠室だ。

衛兵に寝かされたステイルを確認した後、専属侍女達も呼ぶように命じ、彼を寝やすい服へ着替えさせるようにと言付けた。その間に仮眠室を念の為にも改めて清掃し直すように命じ、部屋の外に護衛を置く。そしてジルベールは部屋を出る間際にもう一度だけ振り返り、頭を下げた。


「………おやすみなさいませ、ステイル様。」

パタン、と。扉が閉ざされる。

そのまま足早にジルベールは王配の執務室へと歩を進ませた。


……ステイルが目覚めたのは、翌日の早朝だった。


目が覚め、部屋の外で護衛をしていた衛兵から話を聞き、丸一日を〝無駄〟にしてしまったと一人項垂れた。記憶を辿り、ジルベールに気を失わされたのだと確信した彼は歯嚙みしながら



それでも、言及しようとは思わなかった。


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