近付き、
プライド様が離れの塔に移されて既に、ひと月が経過していた。
自室で謹慎を受けていたプライド様は、今度は配達人達を使い、酷く暴れさせた…いや、暴れたらしい。ステイル様が配達人を逃がし、配達人業務の停止を伝えたという。今は暇を与え、再開が決まり次第ステイル様の特殊能力で再び声を掛けることは可能らしいが……恐らく再び彼らを雇うことは難しいだろう。少なくともプライド様は居られる限りは。
ステイル様は、あれからアーサー殿にも一度すら会っておられないらしい。「会わす顔がない」と告げたまま、プライド様が元に戻られるか、もしくは改心されるまでは会うつもりがないのだろう。時折、私やヴェスト摂政と共にプライド様の元へも行かれているが、その度に顔色から血色を薄れさせていた。
離れの塔に移されてから、問題行動も減り……正確には被害を出さなくなったプライド様だが、中身はまったく変わらない。定期的に毎日私やヴェスト摂政、ステイル様、…さらには忙しい合間を無理に縫って王配のアルバートや女王のローザ様も頻繁に離れの塔へ訪問しているが全くあの御方の様子は変わらない。
「ね〜ぇ、ジルベール宰相。……私、いつまでここにいなくちゃならないのかしら……?」
馬車で離れの塔に向かい、更にはたった一つの入り口から最上階にあるプライド様のお部屋に伺う。いつものように部屋に入り、指導と勉学をと頭を下げれば寝衣姿のままベッドに転がったプライド様は仰向けの体勢で顔だけを私に向けられた。
「私も、皆がプライド様が再び王居に戻ってこられる日を心待ちにしております。」
「アッハハハ!嘘ばぁっかり。」
本当に嘘が上手ね!と笑うプライド様はゆっくりと身体を起こされる。
薄い布の格好のまま恥ずかしがる様子もなく私に向き直り「で?」と話を促した。
「では、御質問から致しましょうか。……プライド様、当時、配達人にあのような仕打ちをされたのは。」
「愉しかったから。」
「反省はしておりますか?」
「ええ?しないわよ。あれは私の当然の権利だもの。」
「……隷属の契約は、罪人を弄ぶものではありません。償わせ、人として再び……」
やはり、今日もどんな腕越しも返ってこない。
当時の犯されたこと、侍女や教師への扱い、今までの政策や制度、今後の方針。その日その日に何を聞いて振り返り、反省を促してもプライド様は何も変わられない。表向きにでも殊勝にすれば出られるかもと普通は考えるものだが、プライド様はそのつもりもないようだった。離れの塔から出たいという意思はあっても、取繕われない。アルバートやローザ様も疑問に思ってはいるが、……私にはただひたすら首を括ろうとされているようにしか見えなかった。
せめてあの御方の抜け殻となられた彼女が、少しでも王女として……いや、人として改善されるように尽くすしか今の私に残されていない。
私の憶測を他者に聞かせるのは、酷く残酷で無責任としか思えなかった。全てを語るわけにはいかず、さらには確証などもありはしない。私一人の思い過ごしだとも否定できない。ただもし口にすれば、誰もが嘆き悲しみ、私のように己が無力に苛まれることも目に見えていた。
願わくば、傷つくのは私だけで在って欲しい。
「ねぇ?……そんなことよりも私、アレに出たいのよねぇ……?」
突然プライド様は舐めるようなねっとりとした話し方をされた。
アレ、とは。と聞き返せばプライド様は更に笑みを引き上げられる。ほら、アレよアレ。と再び敢えて仄めかすように話される。一瞬、可能性が過ぎり、口を閉ざせば次にはまるで図ったかのように言葉となって吐き出された。
「来週の法案協議会。」
……やはり、か。
確かにプライド様は毎年第一王女として法案協議会にも参加しておられた。だが、それも不参加にされる予定だ。この状態のプライド様を他の上層部の目に晒すわけにはいかない。既に城を出入りしている上層部の目に入り、それなりに不穏と不信感も渦巻いているのだから。
プライド様へ「もうそんな時期ですね」と言葉を返し、本を開く。勉学の続きをと促せば、意外にもすぐに机の前に座られた。では、と先日の復習を語り、机の上に本を開いて置けば、プライド様は隣に立つ私を下から覗かれた。
「私ね、……この塔に移されてからずっとず〜っと考えたの。」
くすくす、と怪しい笑みを浮かべながら語る。
今までもこうして私達の感情を揺さぶろうとされることは多かった。ローザ様、そして十年前まではプライド様と良い関係を築いていた筈のアルバートすらも疲弊するほどにこの方は口から猛毒を放たれる。
以前も、私を試すように「貴方の罪を告発しましょうか」「知ったら娘のステラはどう思うかしら」と語られた。……既にその罪に問われる覚悟も、軽蔑される覚悟もできではいるが「今のプライド様では信頼に足るかどうか」と軽く返せば、あの時はすぐにつまらなそうに顔を歪められた。
「考えていた、……と申しますと?」
本を開いたところにペンを置き、プライド様は私の方を向く。
突然声の抑揚を高くされ「あのね」とまるで夢を語る少女のような無邪気さを敢えて作り、語られる。
「〝特殊能力申請義務令〟……。……すごぉ〜く、素敵よねぇ?」
ニタァァァアア…と裂ける笑みが滲み出す。
ほんの一カ月ほど前までは想像すらできなかったあの御方の笑みに、思わず身体が強張った。
何故、彼女がいまその法令を。
いまこの場でその忌まわしき法案名を出されたことに驚き、口を噤めば……プライド様はその反応を愉快そうに言葉を返して続けられた。
「ジルベール宰相?……私が女王になったら楽しみにしていてちょうだい。貴方の昔の望み、この私が叶えてあげるから。」
椅子から身を乗り出し、手を伸ばして私の輪郭を指先で撫でる。
艶めかしいその動きは、目を閉じればきっと別物としか思えなかっただろう。
私の昔の望み?今は悪しき愚策だったとしか思えないアレを何故いまプライド様は。
「例えば。……例えばよ?私が女王になって、この法案を制定して、希少や優秀な特殊能力者みぃ〜んな、隷属の契約で縛ったら素敵だと思わない?」
なに、を……⁈
意図は置いても、想像するだけで怖気が走る。
隷属の契約……⁈それを、ただ希少な特殊能力というだけで交わされるというのか。全く罪もない民まで、あのヴァル達のように嬲るおつもりだというのか。
次第に見開かれていく己が目を自覚しながら、息を止めてしまえば、プライド様はまた「アッハ!」と怪しい笑いを零された。
「素敵よねぇ⁈そしたら私の権力も揺るがないじゃない?だぁって誰も私に逆らえないのだもの。そうね、ジルベール宰相、ステイル、アーサー、ヴェスト叔父様にケメト、あと騎士団長に…」
「本気で……言われておられるのですか…⁈」
思わず力がこもり、掠れかけた声で彼女に尋ねる。
わかっている、彼女が私達を不快にさせる為に敢えて言葉を選んでいることは。彼女の目的はそれなのだから。だが、だが何故よりにもよってそのような恐ろしいことを思いつかれたのか。
もし、プライド様がこのまま女王になればその妄想すら叶わないものではない。我が国の女王の権力はそれほどまでに絶対的なものとされている。だが、そのように制定をすれば一気に我が国は傾くだけでは済まなくなる。
「えぇ、本気よ?あ。……違った、たとえの話。だものねぇ?」
その笑みは恐ろしいほどの悦楽しかない。
恐らくご自身が女王となられた暁には本気でその法を制定されるおつもりなのだろう。
一体、当時のプライド様は……あの御方は、どれほどの恐ろしい未来を予知されていたというのか。御自身の破滅を望まれるほどの、どれほどの悪き未来をー……
『貴方が、自分より弱者を好んで傷つけるっ…何度も、何度も傷つけるっ…っ…‼︎何度も、その予知をっ…!』
ふと、二年前の記憶を思い出す。
ローザ様も仰られていた。プライド様の未来を、当時予知したのだと。弱者を何度も傷付ける、プライド様の御姿を。
「だからねぇ?私が行けないのなら貴方から言っておいてちょうだい。私の望む素敵な素敵な女王の未来の夢絵図を。……母上にも、ちゃあんと。」
固まる私に構わずプライド様は語り続ける。
私の反応がつまらないように椅子から立ち上がり、この頬を今度は手のひらでなぞられた。
……未来は、変わっていなかったとでもいうのか。
「プライド様…。…貴方は、何故そうまでしてわざとご自分の立場を崩したいのか。御自覚はされておられるのですか。」
私の言葉にピタリと添わせた手が止まる。
見ればプライド様の顔が引き上げた笑みを浮かべたまま、不自然に固まっておられた。
心にそれを抱く程度ならばわかる。だが、それを口にし、更には私の口からローザ様達に伝えようなど。どう考えても不自然でしかない。自身の策を敵に明かし、成功することなどありはしない。やはり、この御方はご自身の立場を悪くさせることだけに心血を注いでいるように見える。
自覚か、無自覚か。それがわかるだけでも、……目の前の彼女の中に我々が愛したあの御方が残っておられる可能性がわかる。自覚されていれば、もうあの御方はやはり居られない。今の彼女の中に私にも及ばぬほどの考えが彼女の中に秘められているということになる。無自覚であれば、それはきっとあの御方が……‼︎
プライド様の手をそっと下ろさせ、私から見下ろし待つ。暫く固まっていらしたプライド様の唇から小さく「フフフッ……」と笑いが漏れ、……破裂した。
「アッハハハハハ‼︎さっすがジルベール宰相ねぇ⁈すごいわぁ!」
アッハハ‼︎ハハハハハハハッ‼︎と悍ましい笑いがまた響く。
まるで悪戯が成功した子どものように腹を抱え、悪魔のような笑顔で笑う彼女を眺めながら私は「それでは」と言葉を促した。
ひたすら笑い続けたプライド様は暫く後に、笑い声をプツリと止め、引き攣った笑いをまた私に向けられた。
「半分正解で半分ハズレ。……別に、私のこの立場を壊すだけが目的じゃなくってよ?」
軽々とご自身の身の振る舞いが故意にだと語られたプライド様は、部屋の中を見回された。
そして花が生けられた花瓶に手を伸ばされ払うようにし、床に落とされた。
パリィィンッと陶器独特の高音が響き、破片が散らばる。最初に目覚められた時も水差しをティアラ様に振りかぶられたと聞いたが、今度は花瓶かと。彼女なりの私への威嚇のつもりなのかと考えれば
「ッ⁉︎いけませんプライド様‼︎‼︎お手を触れてはっ」
「来ないで。」
止める私の言葉を遮り、つり上がった鋭い眼差しをプライド様は私に向ける。その手に、拾い上げた陶器の破片を握って。
来たらこれで死ぬわ、とまるで自身を人質のように語り出すプライド様はニヤニヤと信じられぬほどに気味の悪い笑みを私に向け、数歩下がり距離を置く。手を伸ばせば掴める距離から段々と彼女が部屋の端へと遠退いていく。
「私ねぇ?たくさんたくさん考えたの。……どうやれば、……もらえるか。」
ぼそり、と独り言のように呟かれたそれは微かに聞き取れきれなかった。
だが、それよりもどうすれば彼女を刺激せずにその凶器から手を離して頂けるのかばかりに思考を巡らす。
「ジルベール宰相。……あの時、私に言ってくれた言葉、覚えている?」
まるで、今から復讐でも始めるかのようにプライド様が口遊む。
一体どの時のことか、何を指していらっしゃるのか考えれば、プライド様は惑った私を楽しそうに眺め、言葉を紡いだ。
「嬉しかったわぁ……本当よ?すっごくあの時は反省したし、騎士団長にも言われたの。だから心にずぅっと残ってる。……あぁ?そうだ騎士団長にも見せたかったわぁ、アッハハハ!残念。」
手の凶器を弄びながら楽しそうに語られる。
この隙をついて一度プライド様の意識を奪うかと考えれば、私が注視する凶器を握ったその右手をゆっくりと左腕へと向けられた。この動き一つで私の心臓が止まりそうになる。プライド様はそのまま語りを止めずに口を動かし続け
「私のこと、大事って言ってくれたでしょう?」
浮き立つような明るい声と共に、躊躇いなくその凶器が彼女の左腕へと振り落とされた。
お止め下さい‼︎と悲鳴が喉から発せられると同時にその細い左腕から鮮血が散った。私の悲鳴を聞いた衛兵が部屋の扉の外から中に飛び込んでくる。部屋で左腕を赤く染められるプライド様に駆け寄ろうとしたが「来ないで」と今度はその凶器を己が首に突きつけられた。
「アッハ!……やっぱり痛いものね。ねぇ?見て、こんなに血が出てる。」
「ッ早く止血をしましょう……!プライド様、その破片をお捨て下さい。」
痛みに顔を僅かに歪めながらプライド様の笑みは広がるばかりだった。傷を一瞥した後には、滴り落とす腕ではなく私を眺め続けられた。
「あぁぁ……素敵な顔。ジルベール宰相?もっとこっちを見てちょうだい。」
そう言いながら、プライド様は線を引くかのように服から空いた胸元に凶器の先端を当て、傷口を作っていく。その姿に息が止まり、私自身の血の気が引いていく。指先が震え、感覚がなくなるほど冷え、額の汗が滴り落ちた。プライド様、と口にはしたが、既にもう嫌だというほどわかりきっている。
いまの彼女に、言葉は届かない。
何故ここまで変わり果ててしまわれたのか。
あの御方に、何が起こったのか。
十年間、本当に神が降りられていたのとでもいうのか。
血がじわじわとプライド様の衣服を赤く染めていく。それでもあの方は自身の身体を傷つけることを止めようとしない。痛みに苛まれ、夥しい汗を流しながら嬉々として傷をつけ、我々が寄ろうとすればまた首へと突きつける。本気で自害するつもりはなくとも、今の彼女ならば勢い余って己が首を裂きかねない。胸元に傷を作った彼女は、今度はどこにと悩み、そして今度はその足に
もう、限界だ。
ピィィィイイイイイイイイイイイイッ‼︎‼︎と。
一息で鳴らした指笛に、プライド様が目を丸くさせる。私が鳴らしたことを確認され、少し興醒めたように目を冷たくされた。
「ッ姉君‼︎今度は一体なッ、……‼︎‼︎」
瞬間移動で現れたステイル様は声を荒げ、赤く染まるプライド様のお姿に目を見開き、硬直された。
私が「プライド様から凶器を‼︎」と叫んだ途端、ステイル様は一瞬でプライド様の傍に移動し、凶器を瞬間移動で奪われた。プライド様が何か言おうと笑みをステイル様に向けられた瞬間、今度は二人同時に消えた。別の方向からボスッという曇った音と「何をされているのですか⁈」と怒声が響く。
振り返ればステイル様がプライド様のベッドに彼女を押し倒し、傷をこれ以上付けぬようにと両手を押さえていらっしゃった。
「ジルベール‼︎早く止血しろ‼︎」
衛兵は医者と怪我治療の特殊能力者を呼べ‼︎と叫ばれたステイル様へ急ぎ駆け寄る。
てっきり直接医者の元まで瞬間移動されるのではないかと危惧したが、思い止まって下さったらしい。いま、プライド様を塔から出すのは危険すぎる。
ステイル様に押さえつけられるプライド様に駆け寄り、左腕から布で傷口を押さえ縛り上げる。離してちょうだい、とプライド様が少し抵抗をされたが、ステイル様の力には敵わず、ただ肩を揺らすようにしてもがくだけだった。
左腕の止血を済ませ、今度は胸元の切り傷も押さえつければ、プライド様がその場から再びあの笑い声を上げられた。「アハハハハハッ‼︎」と笑われ、私とステイル様の顔を眺めては恍惚と表情を輝かせられた。「何がおかしいのです⁈」とステイル様が叫ばれれば、プライド様は再び吊り上げたように口端を歪められた。
「ねぇ……?右手の見て。血だらけ。」
うっとりと笑われながらの言葉に私とステイル様は同時に目を向ける。
凶器…持ち手もなにもない陶器の破片を強く握っていたその手の平は言葉通り血塗れだった。指先もいくらか切れ、無残なものだった。ジルベール‼︎と叫ばれ、ステイル様に胸元の傷を代わりに押さえて頂くように声を掛け、私は右手側へ移る。ステイル様が押さえつけている右手を止血し始めると、不意に「姉っ……君……⁈」とステイル様の声が漏れた。
また何かと顔を向ければ、右手でプライド様の胸元の傷、左手でプライド様の右手を押さえているステイル様へプライド様が自由となった左手をそっと伸ばされていた。
布で止血され、まだ血が染み、更には滴り落ちた後で指先まで赤に染まったその腕と手で、柔らかく目の前のステイル様の頬を撫でられた。危害を加えるような手ではない、慈しむような動きだった。血塗れた手で触れ、乾ききってない赤がステイル様の頬につく。
恍惚とした笑みを浮かべたままのプライド様が、目を輝かせるままにその口を動かされる。
「強くなったわねぇ……?」
フフッ……アハハハッと笑いながら、艶やかな声で撫でられる。
止血をしながらステイル様へ目を向ければ、見開いた目がそのまま震え、瞼を痙攣され、苦痛に顔を歪められていた。
「言ったでしょう?私より強くなるって。……ステイルは男の子だもの。」
その残酷な笑みと裏腹に、聞くだけのその声は酷く優しい。
言葉ですら撫でるように放たれ、ステイル様の押さえる手が酷く震えられた。恍惚と輝くプライド様の笑顔に反し、ステイル様の顔は苦痛に歪みを強めていく。言葉を、そして何かを堪えるように歯をギリギリと食い縛られた。
「覚えておいてね……?ちゃんと私は力で貴方に敵わないことを。」
優しく語られる言葉は、まるで我々が慕うあの御方のようだった。
顔を見れば醜く悦に歪んでいたが、その言葉だけはあの御方のものだ。プライド様の手を拒むように顔を背けられるステイル様の顎が食い縛り過ぎて震え出す。だが、プライド様はそのステイル様の輪郭を追うように再び血だらけの手を伸ばされた。既に血の跡がついた頬をなぞるようにまた優しく触れられる。
「ほら、ちゃんと顔を向けてくれなきゃ駄目じゃない。……私を見て?」
再び放たれる艶やかな声に、ステイル様が掠れるような声で「やめろ……」と呟かれた。だが、プライド様は変わらず「ステイル」とその名を呼ぶ。嬉々としたその笑みは、……どうみても優しさからのものではなかった。
右手の止血を終え、私が代わりにプライド様の右手を押さえれば瞬時にステイル様はプライド様の伸ばされる左手を弾かれた。パシンッ、と軽い音がし、ステイル様が再び「やめろ……‼︎」とはっきりした声で告げ
「ッッ俺のプライドを‼︎これ以上穢すな‼︎‼︎」
部屋中に響く声で、言い放たれた。
ステイル様の声に驚いたように目を丸くされたプライド様は、一瞬だけ不気味な笑みを無にされた。だが、プライド様へ俯き、荒く息を吐き肩まで上下されるステイル様の顔を覗き込んだ瞬間にまた、悦へと笑まれた。
「何言っているの?私は私よ?」
「違う、お前はプライドじゃない。」
「酷いこと言うわぁ……もう私のこと忘れちゃった?」
「忘れるものか、俺があの人を忘れることなど一生ありはしない。」
「じゃあ私は誰だというの?」
「黙れ、あの人に似た口でそれ以上を喋るな。」
撫でるようなプライド様の声を、無にも等しい冷たい声で切り返す。
淡々とした声が、…酷く痛々しく響かれた。プライド様の傷を、左腕を押さえつけながら、彼女へ落とされるように俯く表情は私からはもう見えない。だが、それを眺めながら笑みを広げ、口端を吊り上げられるプライド様を見れば。
どのような表情をされているのかは胸が痛むほどに想像がついた。
医者が塔を登ってくるまで、ひたすらプライド様の言葉を断じ続けるステイル様は、完全なる拒絶を露わにしておられた。
医者が上がった息で部屋に辿り着き、治療と怪我治療の特殊能力を使い始めてすぐ、ステイル様は私と衛兵にプライド様の押さえを託してローザ様達へ報告に向かわれた。
「また来てね?ステイル。」
笑いながら放たれたプライド様の声掛けにも反応を示さない。そして、階段を使うことなくその場から消えられた。去り際、プライド様を衛兵に託すために上げられたその顔は
まるで、心を病まれたかのようだった。




