457.傲慢王女は企む。
「はぁぁぁあ……。………つまんなぁい。」
ベッドに転がり、欠伸をしながら私は窓の外を眺めた。
離れの塔。私がここに移動させられてから一週間。……すっごく暇だ。
忠告を無視して楽しんだところ、ステイルに颯爽とヴァル達を助け出されてしまった。流石攻略対象者、今更ながらステイルの瞬間移動は本当に強敵だなと思う。本当はステイルがこっちに来るまでもう少し掛かると思っていたのだけれど甘かった。こうなるなら、さっさと「殺せ」の一言で始めてしまえば良かったと反省する。
その所為で結局ヴァル達はどこかに逃がされちゃったし、下手したら二度と会えそうにもない。命令権剥奪前に、私から離れられないようにと命じてどこに逃げても戻ってくるように手を打つべきだった。ステイルが逃したならアネモネ王国かハナズオ連合王国か…。どちらにしても、外出禁止中の私にはどうにもなりそうにない。攻略対象者でもない彼と会う必要も全くないし。
ステイルが邪魔しなければ今頃も楽しく遊べてたのにと思うと残念で仕方がない。
ステイルが容赦なく私のやらかしを母上達に報告してしまったので、事前の忠告通り私は離れの塔に移されてしまった。一応ヴァルに罪を被せれればと思って、窓を破らせたり鍵閉めたりしたけれど、あまりの楽しさにアリバイ工作よりもヴァルを嬲ることばっかりに集中してしまった私の失策だった。本当ならさっさと二人を殺させてからじわじわと苦しむ姿を眺め続けるつもりだったのだけれど
……あんまりにも、愉しくて。
ぞくぞくぞくっと、あの時の快感を思い出したら気持ちよく身体が震えた。
アハッ…と笑い声まで漏れてしまって、私はベッドに寝返りをうつ。もうこの一週間、思い出すのはヴァルのことと、私を離れの塔に移すと決めた時の母上達の苦痛顔、そしてステイルの怒りに燃えた顔ばかりだ。
ティアラが入る筈だった離れの塔に私が入れられるのはすごく不満だったけれど、やっぱりあの快感には変えられない。
「ああぁ〜……もう。……何か面白いことないかしら。」
早く、早く、早くまたあの快感を味わいたい。
離れの塔に入ってから、会いに来るのは身の回りをする為の侍女以外はステイル、母上と父上、ヴェスト叔父様やジルベール宰相だけ。
苦しめようにも相手がいない。ステイルはあれからは全く反応がつまらないし、ジルベール宰相は黙してばかり。いっそジルベール宰相の過去の秘密を暴露でもしようかしらと思ったけれど、……今の私は全く信用も権力もない。セドリックだって滞在延期にはできたけれど、全く誰も本気で彼を疑っている様子はなかった。むしろ私に何か言うべきことはないかと尋ねてくるぐらいだ。体裁としては私の方が被害者の筈なのに。
アーサーもレオンもセドリックも、再び私に会いに来ることもないからお陰でただただ暇だ。
「…今、ここから逃げたら今度はもっと厳重な場所にいれられちゃうわよね…。」
正直、逃げようとすればいつでも逃げられる。
でも、逃げたところで今は手の打ちようがない。たとえ城下に逃げても、……ステイルの手にかかれば一瞬で私は独房にだって入れられてしまう。そこで更に警備を厚くされれば、次逃げる時に苦労するだけだ。逃げるべき時まではあくまで大人しくしていないと。
「もう……早くしなさいよ……。」
額に腕を乗せ、思わずぼやいてしまう。
私の役目は国を傾けてエンディングで殺されること。その幸福な結末の為に飛びっきりの悲劇を……、……あれ、なんで私……?
……駄目だ、もう刺激がなさ過ぎて頭まで馬鹿になっている。よくティアラはこんなところに何年も閉じ込められて平然としていられたものだと思う。
「……ちゃんと……殺してくれるわよね……?」
不安になる。
今まで私が余計なことばかりやってしまった所為で、今の状況はゲームとかなり違うから。
ステイルは隷属の契約にはかかっていないし、今の文武両道な彼を騙して契約させられるとは思えない。……まぁ、代わりに彼がティアラや他の人の所にも直接瞬間移動できるのを知っているのだけれど。ゲームでは一度も私はステイルに瞬間移動でティアラを連れもどさせなかった。つまりステイルはきっとそれを隠し続けていたということだ。私の目を盗んで毎日ティアラの元へ通っていたことを知られない為に。
そしてアーサーは騎士団長になっていない。……ただし凄く強い。その上、騎士団長を始めとするゲームには登場しないにも関わらず凄く強い騎士が何故かたくさんいる。
ジルベール宰相は自身の特殊能力と地位もさることながら、今はそのままの年齢で奥さんと娘さんもいて幸せいっぱい家族だ。ジルの姿で過ごす理由すらない。
レオンは心を壊してもいない。最強の完璧王子様で、しかもアネモネ王国にいる。
セドリックはランス国王も健在だけど、ゲーム通りティアラの婚約者の一人で今もフリージア王国にいる。ただし、ゲームと違って私の言いなりになる理由がない。
……本当に。十年間無駄で余計なことばかりしてしまったものだ。これじゃあ折角の幸福な結末が全く映えない。
「ここで私が死んでも。……きっと全く何も変わらないわね。」
単に最悪の王女様が死んでめでたしめでたしだ。別に何の感動も情緒もない。
私の役目はこの〝ゲーム〟を幸福な結末に彩ること。だからその為にちゃんと国を陥れてちゃんと殺されないといけない。そうに決まっている。
私個人が今の彼らに殺される気はあっても、殺して貰えるかはまだわからない。もともと善人の彼らが、知り合いでもある私を簡単に殺してくれるとは思えない。大体、私はいまは女王ではなく第一王女。更には母上も存命だ。……つまり、私を殺さなくてもこのままティアラに王位継承させることはできてしまう。これからティアラが予知能力を覚醒して、早々に自覚してしまえばあっという間だ。
ゲームが始まってから攻略対象者と共に女王である私に立ち向かう主人公。その過程でもチラチラと片鱗は見せつつ、クライマックスの対峙シーンでは予知能力を覚醒させる。最後に「私には視えます……‼︎プライド・ロイヤル・アイビー……もう貴方の未来はありません‼︎」とプライドへ告げ、見せつけるシーンなんて鳥肌ものだった。流石の女王であるプライドもそれには取り乱し、それが攻略対象者との最終局面への皮切りになったり、勝敗を左右する瞬間にもなった。
「早く……。ティアラの予知能力が判明しない内に、……この、……国を……。」
この国を、我が物に。
私を倒して国中の人間が手を上げ喜ぶ、そんな幸福な結末の為に。
もう下準備は済ませた。ゲームと同じ最終対決の日にティアラが予知能力を自覚するとしたら、期限はティアラの誕生祭から三ヶ月もない。その間に私は
たくさんたくさん傷つけなくちゃ?
「アッハ!……嗚呼、楽しみ。」
最後に見たヴァルの顔が頭に過ぎる。
目が覚めてからも皆の素敵な表情はいくつも見たけれど、やっぱり眺めるならあれぐらいの絶望が一番だ。
もう攻略対象者は全部ティアラと顔見知りだ。なら、後はティアラが優しく優しく癒せるように、私が生々しい傷をつけてあげれば良い。きっとそこから彼らは恋に落ちるだろう。
ラスボスのプライドが自業自得でやったことを、私はちゃんと計画してやらないといけない。自分でも間抜けな図だなと思って笑ってしまう。……でも仕方ない、それが〝私の役目なのだから〟
この国を破滅へ陥れようとし、幸福な結末の為に殺される。
その為に私は生まれてきた。私はそうしなきゃいけない、そうしたいのだから。
「ちゃんと働いてちょうだい……?可愛い可愛い攻略対象者達。」
誰でも構わない。
ティアラと共に私に立ち向かう、この世界の英雄。
五人の中、一人が残ればそれで良い。残りの四人はモブでもバッドエンドでも構わない。運良く生き残れば、ティアラと結ばれずとも幸せにはなれるだろう。
それまではたくさんたくさん彼らを傷つけよう。ちゃんとティアラに癒してもらう為、私に憎んで貰う為、見切りをつけて貰う為、殺して貰うその為に。
愛しい彼らの傷付く姿をこの目に焼き付けよう。
この身を断罪されるその瞬間まで。
「どうやれば…心優しい貴方達は傷付いてくれるかしら…?」
大事な人を奪ってみる?その手足を捥いでみる?愛しい国を更地にしちゃう?それとも、それともそれともそれともそれとも心優しい貴方達が一番傷付いてくれるのは‼︎
「フッ……ハハッ……アハハハハハハハハハハハッ!」
楽しい、楽しい、考えるだけで楽しくなっちゃう。身体中が火照るように熱くなる。
ラジヤ帝国が来るまで二ヶ月は掛かる。なら、その間に私もたくさんたくさん考えなくちゃ。彼らをどうやって上手く利用するか。エンディングまでの道行きを。
ラスボスプライドより与えられた時間は少ない。だけど私は前世のゲームを知っている。それに何より、……攻略対象者達のこともよ〜く知っている。
ひたすら思考に没頭し続けて一ヶ月。
とうとう私は動き出す。
悲劇で映えた、幸福な結末を迎えるその為に。




